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雨宿り

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どうにか五枚目の警告を受けずに済んだ。
奇跡だ。奇跡に違いない。
俺の日頃の行いが良いお陰で日頃の行いの悪いハックまでも恩恵に与る。
自分で言うのも何だけど神懸ってるかな。

「ハック! 」
「ゲン! 」
抱き合って喜びを分かち合う。
どうにか刑務所に入らずに済んだ。
これで俺自身の手でアンを見つけ出せる。あと少しだ。もう絶対にへまはしないぞ。
どんなに煽られようが冷静さを保ち続けるのだ。

「あそこに家が。ほら二人とも早く来て! 」
雨に濡れては大変と近くの家に駆けこむエクセル。
傘でもあればいい気もするが冒険者が持ってるイメージがない。
ドンテで売ってたのに見向きもしなかった。
それだけ旅を甘く見ていた証拠。もう二度とこんな過ちを犯すものか。
そう心に誓うが手遅れなのは否めない。

実際雨に降られれば身動きが取れずに見知らぬ土地で雨宿りすることに。
悪天候と焦りから一気に不安が押し寄せてくる。
「これからどうするエクセル? 」
もうすぐそこにアンだと言うのに足止めを喰らう。
「あなたたちの好きにしたらいい。私の案内はここまででいいでしょう? 」
案内役のエクセルを失えば頼れる者がいなくなる。
エンゼルカードも魅力的だし。もう少し三人で旅をしたいしな……
だがなぜかエクセルは投げやり。当然か。もうここで目的が叶えば用済み。
ただそんなことを恐れる妖精さんじゃないはず。
いつもイラついてるが目的地に近づくにつれてひどくなっている。
どうしたんだろう。難しい年頃? だが二百歳は行ってるしな……
エクセルの変化は気になるが本人に直接聞くのも違うしな。 
取り敢えず雨が止むまで中に入れてもらおう。考えるのはそれからだ。

ドンドン
ドンドン
聞こえないといけないので力の限り思いっ切り叩くハック。
近所迷惑だろうと構わずに続ける。
我々の存在を知らしめるのにはちょうどいい。
この村の人には酷い目に遭わされた。
これくらいやって当然と二人は躊躇わない。
俺は後ろで大人しく見守っている。

「疲れたから交代だ! 」
ハックが音をあげる。
そもそも妖精さんの力では伝わらない。
拡声器でもあれば別だが叩き続けるしかない。
ドンテで買っておけばよかったかな……
だがどう考えても想定外。
買っても笛ぐらいなものだろう。

ドンドン
ドンドン
「誰かいんかね? オラだ。父ちゃんだ。帰ってきたど」
ただ叩いてるのもつまらないので久しぶりに家に帰って来た父親を演じることに。
心当たりがあれば駆けつけるだろう。そうでなければ……
「はい? お家を間違えてますよ」
「良かった。ようやく反応してくれたわね。お願い…… 雨宿りさせて! 」
妖精さんは図々しい。もう妖精と言うよりもただの図々しいおばちゃん。
本人を目の前に言うのは気が引けるが強引で頼りになる。

「それは大変でしたね。分かりましたどうぞお入りください」
どこかで見た気もする。だが覚えてない。
とりあえず小枝さんに用があるとだけ伝える。
「ああ、あんたたちも小枝さんのお世話に? 大変だったね」
「あははは…… 知り合いなんですよ」
適当に嘘を吐いて話を引き出そうとする罪悪感のカケラもないエクセル。
堕天使に違いない。いや堕妖精か。

「ゲンちょっと…… 」
ハックが耳打ちする。
「この人どこかで見たことあるんだよな」
「俺もどこかで…… 懐かしい記憶が…… 何でだろう? 」
「それは知らねえ。でもどこかで会ったんだろうさ」
なぜだ? なぜか思い出せない。まさか…… 
思い出そうとしてもどうしても出てこない。
益々混乱するばかり。
そもそもハックと同じ症状のはずないんだ。
奴と知り合って浅い。奴と同じ感覚になるのはなぜ?

「せっかくだから皆に紹介しようね」
「ありがとうございます」
面倒臭いのを隠し対応するエクセルは立派だ。
妖精の鑑と言っていい。
「やっぱり…… その涙は何だ? 」
ハックは思い出せずに苦しんでいる。
「涙? 何だよハック。それ? 」
「だから流してるじゃないか。その涙は何だと? 」
ハックが指摘して初めて両頬が濡れていることに気づく。
俺どうしちまったんだ? 疲れて目が霞んだか?
「皆おいで! お客さんだよ! 」
手を叩き手厚い歓迎を受ける。
その一人一人に覚えがある。
彼らのほとんどが故郷・言の葉村の者だった。


               続く
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