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第一の世界

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言葉の暴力に明け暮れるワイルドな毎日。
「ではそろそろ急ぎましょうか。自転車乗れる? 」
旧世代の遺物で時代遅れだそうだが今急速にレトロブームが起きてるそう。
妖精は空を飛べるが体力が続かない。だから楽をしたがる。
「田舎者だと思って馬鹿にするな! 」
つい興奮してしまう。
「はいはい。だったら漕いで見て」

まずサドルを調整してブレーキの確認。空気の残量も見る。
さあ出発だ! あれ動かないぞ?

「スタート」
「はあ? スタート? 」
自転車は速度を上げ一直線。
「これは電動自転車。言葉に反応する最新作よ」
「わあああ! それでどうやって止まればいい? 」
「ストップ! それしかないでしょう。後は好きなように。
曲がりたかったら右に左に。ライトにレフトに」

自転車に乗り辺境の地を離れる。
これからが本当の冒険であり旅だ。

「ねえ。うるさいからそろそろ補助輪を取ったら? 」
危なくないように自転車の訓練は辺境の地で。
たっぷり転び練習を重ねた訳だからもう大丈夫。
「では補助輪を取り公道に出るのよ」

こうしてエクセルによる最新式電動自転車講座を修了。
電動自転車十級を所得。

「これってどういうこと? 」
「十級は未就学児の標準。あなたは確かこれで…… 」
「いい訳ないだろ! 俺もう結婚出来るんだぜ」
「何だ小学生か」
「違うだろ! 十六だよ」
「あらあら前世代の方は困ってしまうわね。
少子高齢化で小学生まで引き下げられたの知らないの? 
ごめんなさい。田舎では知るはずないわよね」
嫌味で返す妖精。鎖国してる間にまったく別の世界になったようだ。
もはやついて行けない。

「いいから早く第一世界の扉を開きなさい! 」
「ここが第一の世界? 第一の世界って何だ? 」
「呆れた。そんなことも知らないの? 別に差がある訳ではないの。
世界を六つに分けた方が何かと支配しやすいと考えたから」
どうもよく分からない。三年でそこまで劇的に代わるもの?

ガガガ……
扉を開くとそこは雪国でした。

「寒いよ。風邪引くよ」
言の葉村はどちらかと言えば温暖な村で冬に雪が降ることは珍しい。
あっても年に一回か二回。寒くはない。
それなのにいきなり真冬。しかも寒くて寒くて凍えてしまいそう。
ついでに寂しくて寂しくて死んでしまいそう。
駄目だ涙が溢れてくる。

村を出たのは今日が初めて。三年前だって村から出るのは特別な時だけだった。
村の者と一緒だったから怖くはなかった。寂しくなかった。
アンが一緒だったから楽しかったし心が躍った。
あの時が懐かしい。ああどうしたんだろう俺?
どうもよく分からない。ホームシックにでもかかったのか?

「無理をしないで。今なら村に戻してあげる。寂しいんでしょう?
辛いんでしょう? 無理は絶対にしないで! 」
妖精の割にはよく気が利くエクセル。
「ははは…… 大丈夫。俺は村を飛び出す訳じゃない。
アンを捕まえて仲間を連れ戻したら一緒に村でひっそり暮らす。
それが俺のささやかな夢。派手ではないが本来皆が持ってるもの」

「ふふふ…… 」
エクセルが場違いに笑う。俺を馬鹿にしてるのか?
「どうやらあなた洗礼を受けたようね」

「何を言ってやがる? まだ何も…… 」
「ほらその泡を見て。これは何だと思う? 」
エクセルが何を言ってるのか分からない。
俺を困らせたいのか? それとも何かあるのか?
「これはシャボン玉だ。どっかの子供が飛ばしてるんだろ」

常識で考えれば分かること。
だがエクセルは周りをよく見るようにと言うだけ。
周り? と言っても誰一人いない…… うん?

「誰もいないじゃないか! 」
「そういうこと。このシャボン玉は子供のオモチャではない。
もちろん大人のオモチャでもない。
あらかじめ言うのはあなたの下品な質問を答えるつもりがないから。分かった? 」

俺を何だと思ってやがる? 一応まだ子供なんですけど。
確かに結婚は出来るよ。でも親の許しと村長のお墨付きが必要。
だからまだ厳密には子供。もしアンと結婚すれば大人とみなす。
結婚したその時俺は晴れて大人扱いされる訳だ。
それに今はくだらないことを気にかけてる時じゃない。

             続く
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