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契約 妖精と口づけを

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アンのことを考えていたばかりに前を見ていなかった。
「ぶっ殺すぞ! 」
興奮した輩が絡んでくる。
「ぶっ殺すぞ! 」
使用禁止用語を使うとは何て頭の悪い奴なのか? しかも何度も繰り返す。
もはや天然記念物級の生物。
どうやら言葉は通じるようだ。
無視をする。
もう! ふざけるな……
心に秘めた不快感を露わさずに処理するのが大変。

うぎゃああ!
ただの輩と無視していたら襲ってきやがった。
だが剣はおろか何も持っていない。このままやられるだけ。
「ぶっ殺す! ぶっ殺す! 」
下品な言葉で罵る。
どうする? どうする? 正義の味方でも呼ぶか?

「何をやってるの! ワードホルダーを使って! 」
どこからともなくか声がする。天の声?
「誰? 今は取り込み中。後にしてくれ! 」
「もう本当に困った子なんだから」
呆れてため息を一つ吐く謎の物体。
「まさか…… 」

言われるままワードホルダーを取り出しカードを一枚。
【ふざけるな! 】
怒りの言葉を発しモンスターを消滅させる。

トラブルを引き起こす放送禁止用語の【ぶっ殺すぞ! 】を手に入れた。
レアワードではなくどこの輩も使う一般的な言葉。
ただお子様がいる前では控えるべきとされているワード。

どこだ? 誰だ?
見回してみても姿が見えない。
まさか幻聴? 
この辺りには人の姿など見えはしないし……
「ちょっとあんた私の話を聞いてるの? 」
小さな羽根の生えた妖精さんが姿を見せる。

「君は? 」
「私はエクセル。あなたのお世話係です」
エクセルは閃きと計算能力に長けた妖精だそう。
孤独な旅のお供には丁度いい。

「あなたお名前は? 」
「俺は言右衛門。世界に散らばった村人捜索と幼馴染アンに告白する為に旅立った」
「言右衛門って長いからゲンでいいでしょう? 」
妖精が続ける。
「いい? よく聞いてゲン。あなたは村を出た。だったらもうこの世界の住民。
この世界はあなたが平和に暮らしていた三年前とは違う。まったく違うの!
私はあなたが困らないように世話係を任された。
それと同時にこの世界を乱す者を事前に把握し注意を与える役割があります。
あなたは今モンスターを一匹倒しましたね? 」
「ああよく分からなかったけどな」

ワードフォルダーから一枚取り出しそれを投げつける。
これが攻撃? 随分いい加減な気がするのは俺だけか?
どうも俺の頭ではすべてを理解するのは無理らしい。
とにかく協力を得たい。
このイカレタ妖精さんを利用してアンのもとへ。
ああこれも放送禁止用語だった。

「今あなたの手元にあるそれは何? 」
そう言えばこれは何だ?
「モンスターが落としていった戦利品だ。文句あるか! 」
まさかこの妖精、俺のものを取り上げるつもりか?

「あんた馬鹿ね。田舎者はこれだから…… 」
そう言って馬鹿にする妖精。
「誰が田舎者だ! 」
「田舎者でしょう? 違うの? 」

三年近く村から出れずに世界は変わっていった。
認める認めないの問題じゃない。
事実そうなのだから認めるしかない。

「ああ、そうだよ。俺は田舎者さ! 」
「ふふふ…… 分かればいいのよ。私に逆らっても後悔するだけよ」
そうだ。ここで言い争いをしても始まらない。
序盤の序盤に何をしてるんだ俺は?

「いいよく聞いて。この世界はさっきも言った通り想像を遥かに超えた世界な訳。
歩けば棒に当たるのは三年前まで。今はモンスターに当たる。
ここは人間とモンスターが共存してる。
と言ってもどちらかと言えばモンスターが人間を支配してるんだけどね。
これは秘密だから誰にも言ってはダメ。
私から聞いたと言ってももちろんダメ」

「ああ、分かったよ。でもなぜお前がそんなことを知ってるんだ? 」
たかが妖精なのに。
「私の仕事は異人を取り締まること。速やかに排除するか世界に馴染ませるか。
それが私の主な任務。ここで言うところの異人はもちろんあなたのこと。
知らない外の世界から来た生物ですからね。
私としてはあなたを消滅させたりや排除させたくない。
この世界に馴染ませ適応させようと考えてるの。私はあなたの可能性を信じてる。
だからお願い! 私の指示に従って。これは一種の契約よ」

契約と来やがったか。
ぐんと怪しくなる。俺を嵌める為に何かしようって魂胆じゃないだろうな?
疑わしい。見た目も妖精だしな。
「契約したらなぜ私がこれほど詳しいのかを教えてあげる。
謎めく美少女も悪くないでしょうけど信頼関係も大事」

「分かったよエクセル。契約してやる」
「だったらちょっと目を瞑ってね」
「ああ良いけど。うわ何をしやがる! 」
無防備な唇に口づけしやがった。

「はい契約成立」
「ちょっと待て…… 俺にはアンが…… 」
「うるさいわね。これくらい何でもないでしょう? 」
「まあ確かに…… それでお前、年はいくつだ? 」
「それはその…… ああ人が近づいてきた。今度はしっかりやってね」

                 続く
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