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エピローグ 後編
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「先生。もうこれ以上は止めてください。
仮にコウの出自がどうであろうと関係ないしコウは知る由もない」
助手が真面目な顔で懇願。これでは引き下がるしかない。
勝手に話を切ろうとする助手。
「コウ君はコウ君かい? 」
「そうですよ。コウはコウ。何も変わらない」
力強く肯定する。
「まったく君には負けたよ。よし今度面会に行こう」
「また行くの? 遠いんだよな…… あそこ」
まさか行きたくないのか? 我がままが過ぎる。
自分勝手な言に呆れるが何を隠そう私も同意見だ。
よしよしと慰めてやる。
翌日。
ジリジリ
ジリジリ
電話が鳴る。
相手はあのゴリラのような刑事さん。
「お久しぶりです刑事さん。何か分かりましたか? 」
動きがあったら逐一報告が入ることになっている。
事件を見事解決した感謝の気持ちからか随分と協力的な刑事さん。
事件の詳細とその後をできる範囲で教えてもらう約束をしていた。
「大変な事態になった。とにかく早くテレビを」
慌てた様子の刑事。テレビが一体どうしたと言うのだろう。
ざわざわ
ざわざわ
《お伝えしていますように通称第一村人殺人事件ですが急展開を迎えました。
何と被害者の一人とされた二女の二姫さんが姿を現し奇跡の生還を果たしました。
これは一体全体何が起きたと言うのでしょう?
お伝えしましたように昨夜の映像です。二姫さんが生還した時のものです。
ではもう一度振り返ってみましょう。これは一体? 》
アナウンサーが現場から中継で伝えている。
現場は騒然とした様子。
テレビを消す。
「どど…… どう言うことですか刑事さん。
二姫さんが生きていた? 信じられません」
「俺だって信じられないよ。しかし現実にそうだったんだから仕方がない。
それよりも彼女には嫌疑がかけられている。
当主の岩男氏殺害の件で殺人教唆に問われている。
何と容疑者は二姫の新しい恋人。驚いたろ?
ただそれだけじゃない。狂言誘拐。いや正確には消失だがそれも自作自演。
もしかすると一連の事件の首謀者ではとも言われている」
興奮して大声で喚くものだから耳が痛い。
「それはすごい。いや失礼…… 不謹慎でしたね。
ただ…… 謎の多い事件でしたからその可能性も十分にあり得るかと。
とにかくコウ君の罪が少しでも軽くなるなら協力しますよ」
少々コウ君に肩入れし過ぎたかな。
探偵としてあるまじき行い。反省しなくては。
「もう十分だ。気持ちだけ受け取っておく。
おっと…… もう一つ報告があったんだ。
三女の三貴が意識を取り戻したぞ。
念のため精密検査を受けるが二、三日もすれば退院だ。
その後聴取を受けることになってる。
もしかすると新しい情報が出てくるかもしれないな」
これは本当にめでたいこと。喜ばしいニュース。
「意識を取り戻したんですか。あれ…… 確か亡くなったと言ってませんでした」
「まあそれに近いと言ったな。ちゃんと後で説明したじゃないか。
いつまで根に持つんだ。あれは婆さんの発案だろ。知らされてなかったのか?
これもコウの告白を引き出すための作戦だったじゃねいか」
刑事は開き直る。
追及の手を緩めない。
「事前にしっかり教えてくれればややっこしい事態には…… 」
「しつこいぞ。婆さんに言え。これ以上蒸し返すんじゃない。
これでも少しは反省しているんだからな。それよりも三貴の件だ」
「はぐらかすんですか? これも三貴の件ですけどね」
「いいから聞け。三貴は助かった。もう間もなく退院だ。後は精神面だが…… 」
「やはり…… 姉たちの件で悩んでいましたか? 」
「それもあると思うがコウの迎えが来なかったせいで焦った三貴が毒を飲んだ。
彼女としてはどうしようもなくなってパニックになり毒を飲んだはずだ。
断定はできないが大体そんなところだろう」
「それは本当に気の毒ですね。おおっと言い方がまずかったですね。
何にせよ三貴さんが助かったんですからコウ君も一安心でしょう」
「ああ、意識を取り戻したことは奴にも知らせるつもりだ…… 」
刑事が押し黙った。
何か迷っているようだ。
「なあ探偵さんよ。毒は致死量に達しなかった。
これはすぐに吐きださせ応急処置をしたからだ。
でもな元々毒は致死量には達していなかったんだ。
仮に三貴がいくら自殺を図ろうとも死にきれない。
致死量の一歩手前。それでも放っておけば亡くなっていただろう」
「刑事さんは何が言いたいんですか? それではまるで…… まさか…… 」
刑事の言わんとしてることは想像がつく。
だがそんなはずある訳がない。
「そのまさかかもしれないんだ。だがそれは直接本人に聞くしかない。
彼女は否定するだろうがな」
三貴への疑惑。
騙していたのは一体誰?
騙されていたのは一体誰?
「ちょっと待ってください。それはいくら何でも無茶が過ぎます。
彼女は分からなかった。知り得なかった。どうしようもなかった」
「俺だって本気で思っている訳じゃない。
ただの可能性。一つの可能性としてだな……
今度のことで三貴が罪に問われることはないだろう。
彼女がやったことと言えばコウに頼まれて二姫の代わりに電話を掛けたこと。
自殺を図ったこと。それだけだ。
どれも立件するには弱い。
その点二姫はもう間もなく逮捕される。この違いは何だろうな? 」
「ちょっと待ってください。電話は二姫本人が掛けたはずです」
「ああそうか。コウの計画では二姫の代わりに三貴が掛ける予定になっていたから。
そうか二姫が生きていれば本人がやれば済むのか。
ははは…… では三貴はただの被害者でいい訳だ」
「そうですよ刑事さん。三貴さんまで巻き込んではいけません。
それよりも相続はどうなるんですか? 」
刑事の彼が知る由もないが念のために聞いてみる。
「さあな。岩男氏が亡くなった今莫大な遺産の多くを相続するのは二姫だろう。
次期当主だって二姫に違いない。
しかし彼女が殺人に関わっていた場合は当然資格を失うことになる。それが法律だ」
「そうすると財産も次期当主も三貴さんのものですね」
「まあそれが妥当だろう。本当に何もなければな。
俺には誰が本当の首謀者なのか分からん。この事件は闇が深いってことだな。
犯人はやっぱり彼女か…… じゃあな探偵さん。婆さんによろしく」
犯人は彼女? 二姫のことか? まさか三貴? それとも他に?
電話が切れる。
『犯人は彼女』
意味深な言葉を残して刑事退場。
「何ですって刑事さんは? 」
「二姫が疑われているそうだ。それから三貴さんが意識を取り戻したとさ」
「やった」
助手は嬉しさの余り飛び跳ねる。
続く
仮にコウの出自がどうであろうと関係ないしコウは知る由もない」
助手が真面目な顔で懇願。これでは引き下がるしかない。
勝手に話を切ろうとする助手。
「コウ君はコウ君かい? 」
「そうですよ。コウはコウ。何も変わらない」
力強く肯定する。
「まったく君には負けたよ。よし今度面会に行こう」
「また行くの? 遠いんだよな…… あそこ」
まさか行きたくないのか? 我がままが過ぎる。
自分勝手な言に呆れるが何を隠そう私も同意見だ。
よしよしと慰めてやる。
翌日。
ジリジリ
ジリジリ
電話が鳴る。
相手はあのゴリラのような刑事さん。
「お久しぶりです刑事さん。何か分かりましたか? 」
動きがあったら逐一報告が入ることになっている。
事件を見事解決した感謝の気持ちからか随分と協力的な刑事さん。
事件の詳細とその後をできる範囲で教えてもらう約束をしていた。
「大変な事態になった。とにかく早くテレビを」
慌てた様子の刑事。テレビが一体どうしたと言うのだろう。
ざわざわ
ざわざわ
《お伝えしていますように通称第一村人殺人事件ですが急展開を迎えました。
何と被害者の一人とされた二女の二姫さんが姿を現し奇跡の生還を果たしました。
これは一体全体何が起きたと言うのでしょう?
お伝えしましたように昨夜の映像です。二姫さんが生還した時のものです。
ではもう一度振り返ってみましょう。これは一体? 》
アナウンサーが現場から中継で伝えている。
現場は騒然とした様子。
テレビを消す。
「どど…… どう言うことですか刑事さん。
二姫さんが生きていた? 信じられません」
「俺だって信じられないよ。しかし現実にそうだったんだから仕方がない。
それよりも彼女には嫌疑がかけられている。
当主の岩男氏殺害の件で殺人教唆に問われている。
何と容疑者は二姫の新しい恋人。驚いたろ?
ただそれだけじゃない。狂言誘拐。いや正確には消失だがそれも自作自演。
もしかすると一連の事件の首謀者ではとも言われている」
興奮して大声で喚くものだから耳が痛い。
「それはすごい。いや失礼…… 不謹慎でしたね。
ただ…… 謎の多い事件でしたからその可能性も十分にあり得るかと。
とにかくコウ君の罪が少しでも軽くなるなら協力しますよ」
少々コウ君に肩入れし過ぎたかな。
探偵としてあるまじき行い。反省しなくては。
「もう十分だ。気持ちだけ受け取っておく。
おっと…… もう一つ報告があったんだ。
三女の三貴が意識を取り戻したぞ。
念のため精密検査を受けるが二、三日もすれば退院だ。
その後聴取を受けることになってる。
もしかすると新しい情報が出てくるかもしれないな」
これは本当にめでたいこと。喜ばしいニュース。
「意識を取り戻したんですか。あれ…… 確か亡くなったと言ってませんでした」
「まあそれに近いと言ったな。ちゃんと後で説明したじゃないか。
いつまで根に持つんだ。あれは婆さんの発案だろ。知らされてなかったのか?
これもコウの告白を引き出すための作戦だったじゃねいか」
刑事は開き直る。
追及の手を緩めない。
「事前にしっかり教えてくれればややっこしい事態には…… 」
「しつこいぞ。婆さんに言え。これ以上蒸し返すんじゃない。
これでも少しは反省しているんだからな。それよりも三貴の件だ」
「はぐらかすんですか? これも三貴の件ですけどね」
「いいから聞け。三貴は助かった。もう間もなく退院だ。後は精神面だが…… 」
「やはり…… 姉たちの件で悩んでいましたか? 」
「それもあると思うがコウの迎えが来なかったせいで焦った三貴が毒を飲んだ。
彼女としてはどうしようもなくなってパニックになり毒を飲んだはずだ。
断定はできないが大体そんなところだろう」
「それは本当に気の毒ですね。おおっと言い方がまずかったですね。
何にせよ三貴さんが助かったんですからコウ君も一安心でしょう」
「ああ、意識を取り戻したことは奴にも知らせるつもりだ…… 」
刑事が押し黙った。
何か迷っているようだ。
「なあ探偵さんよ。毒は致死量に達しなかった。
これはすぐに吐きださせ応急処置をしたからだ。
でもな元々毒は致死量には達していなかったんだ。
仮に三貴がいくら自殺を図ろうとも死にきれない。
致死量の一歩手前。それでも放っておけば亡くなっていただろう」
「刑事さんは何が言いたいんですか? それではまるで…… まさか…… 」
刑事の言わんとしてることは想像がつく。
だがそんなはずある訳がない。
「そのまさかかもしれないんだ。だがそれは直接本人に聞くしかない。
彼女は否定するだろうがな」
三貴への疑惑。
騙していたのは一体誰?
騙されていたのは一体誰?
「ちょっと待ってください。それはいくら何でも無茶が過ぎます。
彼女は分からなかった。知り得なかった。どうしようもなかった」
「俺だって本気で思っている訳じゃない。
ただの可能性。一つの可能性としてだな……
今度のことで三貴が罪に問われることはないだろう。
彼女がやったことと言えばコウに頼まれて二姫の代わりに電話を掛けたこと。
自殺を図ったこと。それだけだ。
どれも立件するには弱い。
その点二姫はもう間もなく逮捕される。この違いは何だろうな? 」
「ちょっと待ってください。電話は二姫本人が掛けたはずです」
「ああそうか。コウの計画では二姫の代わりに三貴が掛ける予定になっていたから。
そうか二姫が生きていれば本人がやれば済むのか。
ははは…… では三貴はただの被害者でいい訳だ」
「そうですよ刑事さん。三貴さんまで巻き込んではいけません。
それよりも相続はどうなるんですか? 」
刑事の彼が知る由もないが念のために聞いてみる。
「さあな。岩男氏が亡くなった今莫大な遺産の多くを相続するのは二姫だろう。
次期当主だって二姫に違いない。
しかし彼女が殺人に関わっていた場合は当然資格を失うことになる。それが法律だ」
「そうすると財産も次期当主も三貴さんのものですね」
「まあそれが妥当だろう。本当に何もなければな。
俺には誰が本当の首謀者なのか分からん。この事件は闇が深いってことだな。
犯人はやっぱり彼女か…… じゃあな探偵さん。婆さんによろしく」
犯人は彼女? 二姫のことか? まさか三貴? それとも他に?
電話が切れる。
『犯人は彼女』
意味深な言葉を残して刑事退場。
「何ですって刑事さんは? 」
「二姫が疑われているそうだ。それから三貴さんが意識を取り戻したとさ」
「やった」
助手は嬉しさの余り飛び跳ねる。
続く
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