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コウの記憶
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新章。
記憶の断片。
真実の裏側。
コウ?
いいわね?
分かった?
絶体に誰にも言わないこと。
村の者にもよそ者にも。
警察にも三貴にも。
とにかく他言無用。
分かった?
返事は?
よしそれでいいのよ。
もし言い付けが守れなかったら……
三貴にも害が及ぶ。
三貴よ。三貴。ちゃんと心に止めておきなさい。
誰がご主人様なの?
よろしい。
あとは好きにしたらいいわ。
三貴とここを脱出する気ね。
だったら絶体に捕まってはダメ。
もちろん私の名前を出すのもいけない。
ほらもう一度。大事なことなんだから。
何度でも。口にするの。
繰り返してほら。
姉さんは……
クックック
あいつは……
うん。よししっかり。
自分を信じな。
送りの儀が始まっていた。
隣の女の様子を確認。
うん問題ない。今のところ大丈夫。
「あの…… 」
緊張が止らず震えてしまう。
なるべく顔を見ないように。
心を鬼にしなければ決して成功しない。
折角ここまで来たのだ。
絶好のチャンス。
この儀式の間に何としてもこの憎き女たちを抹殺する。
大丈夫。計画は順調そのもの。
もはや成功は約束されたも同然。
とりあえず落ち着け。落ち着くんだ。
自分の為にも三貴の為にも。村の為にも。
自分は正しい。自分は正しい。
間違ってなどいない。
この村の為に誰かが立ち上がらねばならないのだ。
その役割が自分に回ってきたに過ぎない。
とにかく震えを止める。
気付かれては面倒。
ただそれ以上に憎しみを隠すべきかもしれない。
彼女に悟られては元も子もない。
さあ冷静に冷静に。
ふう。
深呼吸。
「ふふふ…… 緊張してるの? まったく情けないんだから」
二姫の機嫌を損ねてはいけない、
普段なら当然の判断。しかしもはや二姫は私の手の中。
我慢して奉仕することもない。
その時が来たら躊躇なく手にかかる。
「うるさい黙れ」
強く出る。
「あらあら困ったコウ」
「静かにしていろ」
「どうしたの焦っちゃって? 」
まずい。やはり察知されたか。
もう間もなく二姫は西の館。通称湖の館につく。
ここまではうまくいってる。
多少緊張を気取られても儀式によるものと都合よく捉えてくれるだろう。
まあそうでなければもうここですぐに襲うこともためらわない。
何といっても証拠を残さず消し去るのに館までわざわざ付き合う必要も無い。
まあその場合は色々と大変になるだろうが。
辺りを闇が支配する。
手には小さな明かりだけ。
実に心細い。
助けに来る者などもちろんいない。
二人っきり。
まさか殺人鬼と一緒なんて思いもしないだろうな。
どうせ自分のことしか考えていない我がままで自分勝手な奴らなんだから。
悲しむ者だっていない。
村人からは親子共々嫌われている。
これは自分の為ではない。
村の為。村人の幸福の為。
誰かがやらなければいけないこと。
その役割が自分に回ってきたに過ぎない。
何度も何度も自分に言い聞かす。自己暗示にかけるように。
こうでもしないと自分が保てない。
不意に押し寄せてくる罪悪感から逃れることが出来ない。
それは今日までだけでなく未来永劫だ。
そんな負の感情や罪悪感に苛まれては精神が持たない。
もう間もなく湖に館につく。
時間は予定通り何事もなく過ぎていく。
今のところ二姫は大人しく前を向く。
ぼそっと一言。
ここで機嫌を悪くされては敵わない。
絶望し恐怖する顔を拝むのは予定通り館についてからでいい。
演技ぐらいできる。
怒りを笑顔に包み隠し従順な下僕を演じるのだ。
「どうしました二姫様」
「人殺しは初めて? 経験はあるの? 」
暗くて顔は分からないが笑みを浮かべている。
言ってることは危険極まりない。
自分がただの渡しであれば震えているだろう。
「ははは…… 何を突然おっしゃるのですか二姫様? おかしいですよ」
まだ三月だと言うのに汗が噴き出て暑くてたまらない。
緊張と二姫の追及から汗が止らない。
ハンカチもじっとり濡れている。
汗と共に咳も止まらなくなった。
体に異変が起きている?
所詮はただのガキで岩男氏の使用人でしかない。
自覚はしてるつもりだがいざ本番となると震えと汗が止らない。
「いいから私の話を聞きなさい」
水門近くで常駐している男二人の視線が刺さる。
まだ何もしていない。まさか挙動がおかしいとでも思われているとか?
ジロジロと何度も二人を見てくる。
まったく冗談じゃない。なぜそこまでする。
まさか計画は筒抜けなのか?
自分を嵌めるつもりか?
いい度胸だ。この際何人消失しようが亡くなろうが関係ない。
発覚した頃には遠い国にいるのだからな。
「よし行け」
危ない危ない。中身を確認されていたら面倒なことになっていた。
第一関門突破。
船は湖の館に向け動き出した。
続く
記憶の断片。
真実の裏側。
コウ?
いいわね?
分かった?
絶体に誰にも言わないこと。
村の者にもよそ者にも。
警察にも三貴にも。
とにかく他言無用。
分かった?
返事は?
よしそれでいいのよ。
もし言い付けが守れなかったら……
三貴にも害が及ぶ。
三貴よ。三貴。ちゃんと心に止めておきなさい。
誰がご主人様なの?
よろしい。
あとは好きにしたらいいわ。
三貴とここを脱出する気ね。
だったら絶体に捕まってはダメ。
もちろん私の名前を出すのもいけない。
ほらもう一度。大事なことなんだから。
何度でも。口にするの。
繰り返してほら。
姉さんは……
クックック
あいつは……
うん。よししっかり。
自分を信じな。
送りの儀が始まっていた。
隣の女の様子を確認。
うん問題ない。今のところ大丈夫。
「あの…… 」
緊張が止らず震えてしまう。
なるべく顔を見ないように。
心を鬼にしなければ決して成功しない。
折角ここまで来たのだ。
絶好のチャンス。
この儀式の間に何としてもこの憎き女たちを抹殺する。
大丈夫。計画は順調そのもの。
もはや成功は約束されたも同然。
とりあえず落ち着け。落ち着くんだ。
自分の為にも三貴の為にも。村の為にも。
自分は正しい。自分は正しい。
間違ってなどいない。
この村の為に誰かが立ち上がらねばならないのだ。
その役割が自分に回ってきたに過ぎない。
とにかく震えを止める。
気付かれては面倒。
ただそれ以上に憎しみを隠すべきかもしれない。
彼女に悟られては元も子もない。
さあ冷静に冷静に。
ふう。
深呼吸。
「ふふふ…… 緊張してるの? まったく情けないんだから」
二姫の機嫌を損ねてはいけない、
普段なら当然の判断。しかしもはや二姫は私の手の中。
我慢して奉仕することもない。
その時が来たら躊躇なく手にかかる。
「うるさい黙れ」
強く出る。
「あらあら困ったコウ」
「静かにしていろ」
「どうしたの焦っちゃって? 」
まずい。やはり察知されたか。
もう間もなく二姫は西の館。通称湖の館につく。
ここまではうまくいってる。
多少緊張を気取られても儀式によるものと都合よく捉えてくれるだろう。
まあそうでなければもうここですぐに襲うこともためらわない。
何といっても証拠を残さず消し去るのに館までわざわざ付き合う必要も無い。
まあその場合は色々と大変になるだろうが。
辺りを闇が支配する。
手には小さな明かりだけ。
実に心細い。
助けに来る者などもちろんいない。
二人っきり。
まさか殺人鬼と一緒なんて思いもしないだろうな。
どうせ自分のことしか考えていない我がままで自分勝手な奴らなんだから。
悲しむ者だっていない。
村人からは親子共々嫌われている。
これは自分の為ではない。
村の為。村人の幸福の為。
誰かがやらなければいけないこと。
その役割が自分に回ってきたに過ぎない。
何度も何度も自分に言い聞かす。自己暗示にかけるように。
こうでもしないと自分が保てない。
不意に押し寄せてくる罪悪感から逃れることが出来ない。
それは今日までだけでなく未来永劫だ。
そんな負の感情や罪悪感に苛まれては精神が持たない。
もう間もなく湖に館につく。
時間は予定通り何事もなく過ぎていく。
今のところ二姫は大人しく前を向く。
ぼそっと一言。
ここで機嫌を悪くされては敵わない。
絶望し恐怖する顔を拝むのは予定通り館についてからでいい。
演技ぐらいできる。
怒りを笑顔に包み隠し従順な下僕を演じるのだ。
「どうしました二姫様」
「人殺しは初めて? 経験はあるの? 」
暗くて顔は分からないが笑みを浮かべている。
言ってることは危険極まりない。
自分がただの渡しであれば震えているだろう。
「ははは…… 何を突然おっしゃるのですか二姫様? おかしいですよ」
まだ三月だと言うのに汗が噴き出て暑くてたまらない。
緊張と二姫の追及から汗が止らない。
ハンカチもじっとり濡れている。
汗と共に咳も止まらなくなった。
体に異変が起きている?
所詮はただのガキで岩男氏の使用人でしかない。
自覚はしてるつもりだがいざ本番となると震えと汗が止らない。
「いいから私の話を聞きなさい」
水門近くで常駐している男二人の視線が刺さる。
まだ何もしていない。まさか挙動がおかしいとでも思われているとか?
ジロジロと何度も二人を見てくる。
まったく冗談じゃない。なぜそこまでする。
まさか計画は筒抜けなのか?
自分を嵌めるつもりか?
いい度胸だ。この際何人消失しようが亡くなろうが関係ない。
発覚した頃には遠い国にいるのだからな。
「よし行け」
危ない危ない。中身を確認されていたら面倒なことになっていた。
第一関門突破。
船は湖の館に向け動き出した。
続く
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