『第一村人』殺人事件

二廻歩

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アリサさん伝説の真実

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東の館に異変アリ。

館の守護神サライちゃん動く。

突如現れた秘密の抜け穴。


「そろそろ儂の出番かな」

大人しく聞き役に徹していた元村長が口を開く。

元村長によるアリサ伝説の始まり始まり。


「ふん。玉子さん役に立ったかい。皆に申す。教えたのは何を隠そうこの儂じゃ。

感謝せい。知っているとは思うがアリサ事件はこの儂が村長だったころに起きた。

当時やはり絶大な権力を持っていた当主の岩男は村の娘に手を出しておった。

それだけでは飽き足らずに隣村やよそ者にも手を出した。

とんでもない女好きの悪党でもはや病気。

周りの者は注意するも強くは言えない。岩男の女癖の悪さががますます悪化。

そしてついには異国の者にまで手を出してしまう。


その名をアリサと言った。

アリサは岩男との間に子を儲ける。

だが決して自分の子とは認めようとしない岩男に嫌気がさしたアリサ。

急速に二人の仲は冷めて行く。元々愛などあったかは定かではない。

邪魔になったアリサと赤子は追い出される形に。

それもこれも岩男の自分勝手が招いたものでアリサには何の落ち度もない。

村中でそのことが噂になり岩男に反発するようになった。

もちろん表向きは逆らえないので陰でこっそりとじゃがな。

村人の手前もあり儀式用に管理していた東の館をアリサ親子に宛がった。

アリサは村人から人気があり村での生活も気に入っていた。

親子二人でひっそり暮らすことに。


これで一件落着とならないのが岩男のだらしないところ。

アリサの件が片付くと再び女遊びが始まる。

ある日岩男に見初められた村娘たちが邸に招待される。

岩男氏の女癖の悪さを知る親たちは頭を抱える。

もちろんこの時も表立って反対はしなかった。

村の者は誰も当てにならないと踏んだ親たちはアリサに相談を持ち掛ける。

ここが悲劇の始まり。分岐点。

アリサは言われるまま脱出計画を授ける。

しかしそのことを事前に察知した岩男らに連れ戻らされてしまう。

計画が漏れたのであろう。

この件で娘たちどころかその親までもが危うい立場となってしまった。

特にアリサは首謀者。岩男氏は怒り狂う。

アリサは責任を取り村を出て行くことを決意。

その報告を受けようやく矛を収めた岩男。

これによりすべての罪はアリサが引き受け親たちは許される。

こうして村のいざこざは収まったかのように見えた。


しかし出発前夜に事件が起きる。

東の館から火の手が。

逃げ惑う村人。

報せを聞きつけた儂も岩男と共に現場へ急行。

火は建物の周りを燃やしたもののすぐ消火した為被害は最小限に食い止められた。

翌日岩男が目をつけた少女たちが行方をくらます集団失踪が起きる。

まさか火事に巻き込まれたのではと大騒ぎ。

しかし彼女たちはアリサと共に山湖村を脱出したとの報告が入る。

そう…… 岩男の魔の手から逃れたのだ。

その脱出経路こそがこの穴という訳じゃ。

玉子さんには話したと思うが皆には伏せていた。

これは秘密にしておくべき事柄。村の恥部じゃからな。

さすがの岩男も今回の事件には沈黙する。

奴めたぶん恥を掻かされたと思ったのだろう。

それ以降岩男も懲りたのか大人しくなった」


老人は当時の様子を振り返る。

「アリサさん伝説はこれをもとに少し脚色して伝えた話。

フィクションじゃな。以上」

老人は役目を終え下がる。

「以上が元村長様の有難いお話でした」

うわああ

館内は歓声と拍手に包まれた。


「これで長女一葉さんの消失の謎が解けましたね。

彼女は三日三晩この館で代替わりの儀の為に籠っていました。

彼女はこう思ったのでしょう。

儀式など私には関係ない。好きな物を好きなだけ食べる。誰が断食などするものか。

我がままで気分屋の長女。男癖も良くない。悪い噂も立っている。


その噂の上を行く愚行。

さすがに館から逃げ出すのは不可能。であるならば他に方法は……

事前に下僕を穴の向こうからサポートするよう待機させる。

その下僕こそ今回の一連の事件の真犯人。第一村人なのです。

もう誰だかお判りですよね。では順番に答えてください」

館内に緊張が走る。


「穴の向こう? 確かあそこに住んでいたのは…… まさか…… 」

助手がこちらを見る。

「落ち着くんだ。最後まで話を聞け」

探偵さんが宥める。

「そんなまさか…… 」

もはや目を逸らすことしかできない。

そうかお前も気づいちまったか。

探偵さんとお前だけには知られたくなかった。

探偵さんは前から分かっていたようだがな。

お前や探偵さんの為に自分は最後まで戦う。

もちろん三貴の為にも。

自分にはまだ言い逃れるだけの強力なカードがある。

今こそ最後のカードを切る時だ。

                 続く
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