74 / 109
晴れぬ疑惑 まさかの容疑者
しおりを挟む
自分の推理は正しいのか? 恐る恐る反応を見る。
「ええ。私も同意見です。目撃者がいない以上推測になりますが岩男氏殺害が一連の事件の幕開けと見ていいかと。どうやら警察も判断に迷っているようですがね」
あーよかった。的外れなこと言って睨まれては敵わない。
自信が無いわけではないが笑顔が消え真剣な表情になるとどうも……
自由な意見が言えない雰囲気を醸し出すので困る。怒ってるのやら睨んでるのやら。
「うん。そこそこ。岩男氏殺害が連続殺人の始まりだと断定できれば少なくとも……
第二消失の時儀式を中止する判断もできたはずだ。
その結果、第三の消失を生んだと言っても過言ではない。
もちろん警察であって我々ではないが。だが止められなかった事実は変わらない」
頭を抱える私の肩をポンポンと叩き慰めてくれる大家さん。
観光客もいない。村の者も外出禁止令を守り家の中。
そばを喰いに来る客などいない。
今この店は貸し切り状態。
店の者としては早く帰ってもらいたいだろうな。
またはたくさん注文して少しでも売り上げに貢献するのが人情と言うものだろう。
そもそも酒さえ頼んでいない。
ただの優雅な昼の一時でしかない。
長話をされてはやはり迷惑? 視線が気になる。
「先生。先生。店の人に悪いんで場所を変えましょう」
大家さんが気を利かせる。
「ああそうだな。でもどこへ? 」
「今から東の館へ行くつもりなんです。どうです先生も一緒に行きませんか」
大家の誘いに乗る。随分自信があるようだがもしかして解決の糸口でも見つかった?
「ああそうしよう…… 」
力なく返事する。
「先生が悪いんじゃないですよ。警察だってどうすることもできなかったんです」
励ましてくれるのは嬉しいがもう大丈夫。いつまでも引きずる訳にはいかない。
でもどうしても愚痴りたくなる。
「いや彼ら警察だって一日や二日。村長の要請を受け来たのだから限界がある。
それに引き換え我々は十分準備する時間があった。
それなのに大した対策も取らずにのこのこ村にやって来て、ただ巻き込まれただけ。
挙句の果てに地下牢に閉じ込められてしまうんだから笑えるよ」
完全に第一村人の勝利。
我々では相手にならなかった。
やはり手紙が届いた段階で警察に届けるべきだった。
そうすれば少しは警察と連携も取れただろう。
もちろん地下牢に入れられることもなかった。
「そんなに自分を卑下しないでください。儀式の前では探偵であろうと警察であろうと無力です。
確たる証拠を示さない限り村長や村民の意思は変えられません」
大家さんはやはり優しい。こんな私を励ましてくれる。
それだけでなく人生の先輩として的確なアドバイスをくれる。
いつもいつも私は彼女に助けられている。
さあ後悔していても仕方がない。切り替えよう。
「ねえ先生」
そば屋を離れ第一の消失があった東の館に向かう。
「先生は違いますよね」
何か引っかかる言い方。違うとはどういうことだろう?
「さあ…… 」
何について聞いているか分からない以上適当には答えられない。
「気になることでも? 」
「いえ…… 今度の一連の事件の犯人は先生ではありませんよね」
直球の質問。もう剛速球。並ではない。
ノーコンメジャーリーガーのすっぽ抜けを喰らったような衝撃。
感情のコントロールができない。
大家さんはバツが悪そうに下を向く。
「あの…… ちょっと待って…… まさか疑ってるんですか? 」
「滅相もない。ただの確認です」
これはアリバイを関係者に聞いて回る刑事と同じ。
もし疑っていないならそんな発想にはならないはずだ。
「すみません先生。でも分かってください。誰もが犯人になりうるんです」
「私は第一村人の挑戦状があったから…… 何でそうなるの? 」
「分かってます。ただ先生の口からはっきりと聞きたかったんです」
「私は関係ない。ただ招待されただけだ」
「先生。信じていいんですね」
「もちろん」
疑うなんて心外だな。これは私の問題ではなく大家さんの気持ちの問題。
自分ではどうすることもできない。
「分かりました。先生を信じます」
どうやら疑うことを止めたらしい。
これで二人は互いに信じあうことができる。
しかし自分が自分を信じられるかと言ったらまた別だ。
無意識のうちに犯行を繰り返している恐れもある。
続く
「ええ。私も同意見です。目撃者がいない以上推測になりますが岩男氏殺害が一連の事件の幕開けと見ていいかと。どうやら警察も判断に迷っているようですがね」
あーよかった。的外れなこと言って睨まれては敵わない。
自信が無いわけではないが笑顔が消え真剣な表情になるとどうも……
自由な意見が言えない雰囲気を醸し出すので困る。怒ってるのやら睨んでるのやら。
「うん。そこそこ。岩男氏殺害が連続殺人の始まりだと断定できれば少なくとも……
第二消失の時儀式を中止する判断もできたはずだ。
その結果、第三の消失を生んだと言っても過言ではない。
もちろん警察であって我々ではないが。だが止められなかった事実は変わらない」
頭を抱える私の肩をポンポンと叩き慰めてくれる大家さん。
観光客もいない。村の者も外出禁止令を守り家の中。
そばを喰いに来る客などいない。
今この店は貸し切り状態。
店の者としては早く帰ってもらいたいだろうな。
またはたくさん注文して少しでも売り上げに貢献するのが人情と言うものだろう。
そもそも酒さえ頼んでいない。
ただの優雅な昼の一時でしかない。
長話をされてはやはり迷惑? 視線が気になる。
「先生。先生。店の人に悪いんで場所を変えましょう」
大家さんが気を利かせる。
「ああそうだな。でもどこへ? 」
「今から東の館へ行くつもりなんです。どうです先生も一緒に行きませんか」
大家の誘いに乗る。随分自信があるようだがもしかして解決の糸口でも見つかった?
「ああそうしよう…… 」
力なく返事する。
「先生が悪いんじゃないですよ。警察だってどうすることもできなかったんです」
励ましてくれるのは嬉しいがもう大丈夫。いつまでも引きずる訳にはいかない。
でもどうしても愚痴りたくなる。
「いや彼ら警察だって一日や二日。村長の要請を受け来たのだから限界がある。
それに引き換え我々は十分準備する時間があった。
それなのに大した対策も取らずにのこのこ村にやって来て、ただ巻き込まれただけ。
挙句の果てに地下牢に閉じ込められてしまうんだから笑えるよ」
完全に第一村人の勝利。
我々では相手にならなかった。
やはり手紙が届いた段階で警察に届けるべきだった。
そうすれば少しは警察と連携も取れただろう。
もちろん地下牢に入れられることもなかった。
「そんなに自分を卑下しないでください。儀式の前では探偵であろうと警察であろうと無力です。
確たる証拠を示さない限り村長や村民の意思は変えられません」
大家さんはやはり優しい。こんな私を励ましてくれる。
それだけでなく人生の先輩として的確なアドバイスをくれる。
いつもいつも私は彼女に助けられている。
さあ後悔していても仕方がない。切り替えよう。
「ねえ先生」
そば屋を離れ第一の消失があった東の館に向かう。
「先生は違いますよね」
何か引っかかる言い方。違うとはどういうことだろう?
「さあ…… 」
何について聞いているか分からない以上適当には答えられない。
「気になることでも? 」
「いえ…… 今度の一連の事件の犯人は先生ではありませんよね」
直球の質問。もう剛速球。並ではない。
ノーコンメジャーリーガーのすっぽ抜けを喰らったような衝撃。
感情のコントロールができない。
大家さんはバツが悪そうに下を向く。
「あの…… ちょっと待って…… まさか疑ってるんですか? 」
「滅相もない。ただの確認です」
これはアリバイを関係者に聞いて回る刑事と同じ。
もし疑っていないならそんな発想にはならないはずだ。
「すみません先生。でも分かってください。誰もが犯人になりうるんです」
「私は第一村人の挑戦状があったから…… 何でそうなるの? 」
「分かってます。ただ先生の口からはっきりと聞きたかったんです」
「私は関係ない。ただ招待されただけだ」
「先生。信じていいんですね」
「もちろん」
疑うなんて心外だな。これは私の問題ではなく大家さんの気持ちの問題。
自分ではどうすることもできない。
「分かりました。先生を信じます」
どうやら疑うことを止めたらしい。
これで二人は互いに信じあうことができる。
しかし自分が自分を信じられるかと言ったらまた別だ。
無意識のうちに犯行を繰り返している恐れもある。
続く
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
密室島の輪舞曲
葉羽
ミステリー
夏休み、天才高校生の神藤葉羽は幼なじみの望月彩由美とともに、離島にある古い洋館「月影館」を訪れる。その洋館で連続して起きる不可解な密室殺人事件。被害者たちは、内側から完全に施錠された部屋で首吊り死体として発見される。しかし、葉羽は死体の状況に違和感を覚えていた。
洋館には、著名な実業家や学者たち12名が宿泊しており、彼らは謎めいた「月影会」というグループに所属していた。彼らの間で次々と起こる密室殺人。不可解な現象と怪奇的な出来事が重なり、洋館は恐怖の渦に包まれていく。
シニカルな話はいかが
小木田十(おぎたみつる)
現代文学
皮肉の効いた、ブラックな笑いのショートショート集を、お楽しみあれ。 /小木田十(おぎたみつる) フリーライター。映画ノベライズ『ALWAIS 続・三丁目の夕日 完全ノベライズ版』『小説 土竜の唄』『小説 土竜の唄 チャイニーズマフィア編』『闇金ウシジマくん』などを担当。2023年、掌編『限界集落の引きこもり』で第4回引きこもり文学大賞 三席入選。2024年、掌編『鳥もつ煮』で山梨日日新聞新春文芸 一席入選(元旦紙面に掲載)。
殺意転貸
崎田毅駿
ミステリー
船旅の朝、目覚めた川尻は、昨日着ていた服のポケットに覚えのないメモ書きを見付ける。そこには自分の名前と、自分の恋人の名前、さらにはこれまた覚えのない人名二つが日時と共に記されていた。前夜、船のバーでしこたま飲んで酔ったため、記憶が飛んでいる。必死になって思い出そうと努め、ようやく断片的に記憶が蘇り始めた。バーで知り合った男と、交換殺人の約束を交わしたのだ。
【R18】鬼上司は今日も私に甘くない
白波瀬 綾音
恋愛
見た目も中身も怖くて、仕事にストイックなハイスペ上司、高濱暁人(35)の右腕として働く私、鈴木梨沙(28)。接待で終電を逃した日から秘密の関係が始まる───。
逆ハーレムのチームで刺激的な日々を過ごすオフィスラブストーリー
法人営業部メンバー
鈴木梨沙:28歳
高濱暁人:35歳、法人営業部部長
相良くん:25歳、唯一の年下くん
久野さん:29歳、一個上の優しい先輩
藍沢さん:31歳、チーフ
武田さん:36歳、課長
加藤さん:30歳、法人営業部事務
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる