『第一村人』殺人事件

二廻歩

文字の大きさ
上 下
13 / 109

二日目 三貴

しおりを挟む
北の館。三女の三貴が昨夜から儀式の為滞在。

「お前ら何をやっている? 直ちに立ち去れ。ここはよそ者の来るところじゃない」

ここでも門番が立ち塞がる。

彼も最初の男同様いかつい体をした人相の悪い輩。近づきたくもない。

この村の若い男は弱々しいイケメンかこのいかつい輩しかいないのかとさえ思える

ぐらいでその中間を見かけることは今のところない。


助手は弱々しいイケメンの方になるだろう。

コウ君も筋肉はあるがやはりこちらに分類されるだろう。

私はと言うと…… 力も強くなく筋肉質でもない。もちろん人相だって悪くない。

やはりこちらに入れてもらおうかな……


「おい。お前ら近づくんじゃない。今は神聖な儀式の真っ最中だ」

当然と言えば当然だが中に入れてくれる気配はない。シッシと追い払われてしまう。

私は子犬ではないのだが。

門番の威嚇に怖気づく子犬のような助手に代わりに立ち向かう。

「我々は観光で参りました。ぜひぜひ中の儀式の様子を見せて頂けませんか」

丁寧にお願いする。彼も人間。下手に出れば心を開くはず。

「ダメだ。ダメだ。今は儀式の最中。誰一人入れてはならぬときつく言われている。

良いから立ち去れ。この村から出て行くんだ。

まったく村の者でもないのに見学など何と図々しい。とっとと出て行け」

そう言うと棒を振り上げ突進してくる。ここは無理をせず一度退散。

作戦を立て直す。


「早く行っちまえ」

男はなかなか警戒を解かない。しつこくて困ってしまう。

こっちだって好きでやっている訳ではない。

第一村人の犯行予告が無ければあえてこんな辺鄙な村に行きはしなかった。

奴が何かしでかす前に我々で食い止めるしかない。


「申し訳ない。ここは三女の三貴さんが籠られていると聞きました」

男との距離を充分とって話しかける。

「知るか。お前たちに教えることなど一つもない。これ以上邪魔をすると痛い目に遭うぞ。とっとと失せろ」

「それでいつから? 情報では昨日から籠られると聞きました。

そうすると出て来られるのは明後日となりますが間違えありませんか。

三貴さんに変わった様子など見られませんか」

いくら邪険に扱われようと決して諦めない。

男もそのしつこさと熱意に負け態度を軟化させる。


「良く知ってるなお前ら。誰に聞いた? まあいい。これまでのことは水に流そう。

どうせ俺も暇だから話してやるがその前にお前らは一体何者だ? 

ただの観光客ではないだろう」

粘り強く交渉した甲斐があった。後はこの男を説得できればいいのだが。

「これはこれは失礼しました。私は東の方で探偵をやっております。本日は招待を受け参った訳ですが中はどうでしょう。変わった様子はありませんか? 」

迷った挙句正体を明かす。

「もう、先生ったら…… 誰彼構わずに告白するんだから」

助手は不満を爆発させる。


「探偵か。何かヤバそうだな。まあいい約束だ。中は特に変わった様子はないよ。

今のところ問題なしだ。だから暇とも言えるがな。

何かあったって言えば本部の方で動きがあったらしい。今本部は慌ただしい。

まあこれも仲間のホラかもしれないがね。何なら本部に行ってみるか? 

近くはないけれどまあここから歩いて大体二キロだったかな。

この村はそんなに複雑じゃねえし本部があるところは村の中心。

だからその辺に人はいるはずだから聞けばわかるだろう。俺はお役に戻る」

それだけ言って黙ってしまった。これ以上は話しかけても無駄のようだ。


どうする…… せっかくの好意だし本部に行ってみるか……

「あのいかつい大男は意外にも良い人そうでしたね先生」

大人しくしていた助手が軽口をたたく。また聞こえたら厄介なことになりかねない。

「ああ。でも人を見た目で判断してはダメだ。それに失礼な発言は控えるように言ったはずだが。まったく君と言う奴は。いいかい。彼は人のいい悪人顔さ」

「先生だって充分失礼ですよ」

呆れて物が言えないとこちらを見る。


山湖村を東から北へ中央へ。あっと言う間に陽は傾く。

                 続く
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

密室島の輪舞曲

葉羽
ミステリー
夏休み、天才高校生の神藤葉羽は幼なじみの望月彩由美とともに、離島にある古い洋館「月影館」を訪れる。その洋館で連続して起きる不可解な密室殺人事件。被害者たちは、内側から完全に施錠された部屋で首吊り死体として発見される。しかし、葉羽は死体の状況に違和感を覚えていた。 洋館には、著名な実業家や学者たち12名が宿泊しており、彼らは謎めいた「月影会」というグループに所属していた。彼らの間で次々と起こる密室殺人。不可解な現象と怪奇的な出来事が重なり、洋館は恐怖の渦に包まれていく。

後宮の棘

香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。 ☆完結しました☆ スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。 第13回ファンタジー大賞特別賞受賞! ありがとうございました!!

日本列島壊滅の日

安藤 菊次郎
ミステリー
【物理学に詳しい方必見】 主人公、石井は探偵社職員だが、元は警視庁の辣腕刑事。とはいえ、今の仕事の大半は浮気調査。ある日、石井はホテルから足早に立ち去る女を目撃する。それが初恋の人とそっくりで、後日、ホテルで起きた殺人事件の容疑者として浮かび上がる。彼女と接触し自首を勧めるが、彼女の答えは11月20日まで、待って欲しいというもの。実はその日付は彼女の不倫相手・新興宗教教祖の恐怖の予言、日本列島壊滅の日であった。教祖一味と探偵石井の熾烈な戦いが始まる。 この小説は、探偵が主人公のミステリーなのですが、世の不思議の解明にも力を注いでいます。しまいには神の正体まで言及するほどの意欲作ですので、主人公が見出した神の正体を、あなた自身でお確かめください。 物理学を学んだ方のご意見をお待ちしております。

幼馴染、幼馴染、そんなに彼女のことが大切ですか。――いいでしょう、ならば、婚約破棄をしましょう。~病弱な幼馴染の彼女は、実は……~

銀灰
恋愛
テリシアの婚約者セシルは、病弱だという幼馴染にばかりかまけていた。 自身で稼ぐこともせず、幼馴染を庇護するため、テシリアに金を無心する毎日を送るセシル。 そんな関係に限界を感じ、テリシアはセシルに婚約破棄を突き付けた。 テリシアに見捨てられたセシルは、てっきりその幼馴染と添い遂げると思われたが――。 その幼馴染は、道化のようなとんでもない秘密を抱えていた!? はたして、物語の結末は――?

完結 王室スキャンダル 巻き込まれた伯爵令嬢は推理するし恋もする!

音爽(ネソウ)
ミステリー
王家主催の夜会にて宴もたけなわとなった頃、一騒動が起きた。「ボニート王女が倒られた」と大騒ぎになった。控室は騒ぎを聞きつけた貴族達が群がり、騎士達と犇めきあう。現場を荒らされた騎士隊長は激怒する。 ところが肝心の姫がいないことに気が付く…… 一体王女は何処へ消えたのか。

僕たちは星空の夢をみる

美汐
キャラ文芸
沙耶は夢を見た。――この夢のことを理解してくれるのは、きっと彼らしかいない。 予知夢、霊視能力など、特殊な力を持つ学生が集められた『秋庭学園』。そこに通う生徒たちの織りなす学園青春ミステリー。

処理中です...