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Dead End ユ キ・サクラ (85)
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さぁ…始めよう。体が動くうちに、やらないと…
大型の魔石がセットされている数多くの台座に繋がっている配線を外していく。
外した配線を中央の陣に向けて付け替えていく。
これで、大型の魔石が私達の街を維持するために使っていた魔力が中央の陣に流れる様になる。
中央の陣が薄っすらと光を放っている…接続が出来た証拠だ…
念のために、こういう日が来るのではないかと、危惧して、念のために作った、この陣を使う時が来るとは思っていなかった。
大型魔石に囲まれるように中央にある大きな陣…思い出したくない記憶が溢れ出てくる…
人の理から外れ、倫理から遠ざかり、人の域から離れた儀式用魔法陣
これは魔術じゃない、魔法…
ある人物は、その目的を見て人が考える内容じゃないと否定した。
ある人物は、そこまでして叶えたい願いが人が望む結果に繋がるとは思えれないと否定した。
だが、その二人の意見を聞いても…私は、否定することができなかった
この陣そのものに罪はない、編み出した存在がどんな悪しきもので在れ、使い道を間違えなければ悪ではない。
そう
これは、ある時空では、私達が想像もつかない何かを召喚するために魔力を搔き集める為に使用された陣…
とある儀式で用いられた下法。
この陣だけをみれば、何かを召喚するための陣ではない。
純粋に魔力をこの陣に向けて収束させるだけの魔力を集めるだけの陣。
とある儀式では、その魔力を集める器として、王家の血を引く…色濃く残す始祖様の血が集結された御子を触媒にした。
今回は、私がその触媒とする、っていっても、集めた魔力は、全て過去に情報を送るために使うんだけどね。
何かを召喚するっていうか、指定できるのなら。始祖様を真っ先に召喚するよ。召喚するための術は私は知らない、残されたのは、この陣だけだもの…
蓋をしていた記憶から推測されるのが、きっと、触媒になっていたお母さん、ううん、叔母様の魂にその術式が刻まれているのだろう…
さて、蓋をしていた記憶は置いといて、先へと進もう…
この膨大な魔力を用いればできるはずだ…
私は…私だけの…未来を勝ち取る為、未来を選択するために…犠牲になる…儀式を行う。
私の全てを、1年…2年…3年…ううん、もっともっと先、今まで一度も…そこまで遠い過去に向けて情報を飛ばしたことが無い。
出来るのかどうか、定かではない、でも、やるしかない…やり遂げて見せる!!私の臓器全てを捧げても成し遂げて見せる!!
何度か深呼吸をしながら淡い光を放つ陣を眺め、集中力を高めていく。
命尽き果てようと、この一秒ですら、私の針が止まってしまいそうな…そんな状態で制御できるのか、自信は無い。
無いが、やるしかない。するしかない。頬を叩く、痛みを感じることは無かった。
出来るのなら、私と同等の術者か、それに近しい人に補佐してもらいたいけれど、ないモノをねだっても仕方がない。
腹は括ってある、この陣をここに刻んだときに、もしかしたら、そういう時が来るだろうと、感じながらも陣を刻んだのだから、その時に覚悟はできている。
…出来ていても…ってやつだね…集中を高めよう。
中央の陣に向かう前に、身に着けている全ての服を脱ぐ。
最後を迎えるのに…綺麗な服を…ううん、最後の私を看取ってもらうのに、血まみれってのはちょっと…汚したくないから…
中央の陣に到着すると、祈りを捧げる為に膝をつく、そして…発動する…
【封印術式解除】
皮膚に刻み込んだ封印術式が鮮血となって飛び出る…
すぐに、大昔に感じていた感覚が戻ってくる。自然と、勝手に、力を込めていないのに、魔力が体から抜け出るように…溢れ出ようとしてくる感覚。
鮮血に宿されたお母さんの魔力と、私の魔力が混じった触媒が陣をより一層輝かせ、陣を完全に起動させる。
それに呼応するように大型魔石が大きく振動し聞いたことのない唸るような音を出し始める。
よかった、正直、最初の陣を起動させるというきっかけに必要な魔力を持ち合わせていなかったから、これでどうにかならなかったら臓器を一つ贄に捧げないといけなかった。
この陣を起動させるのに、多くの人が死んでいる光景を見ていたから、相当な魔力が必要じゃないかっていう危惧があった。
流石…この私を何年も生かし続けたお母さんの濃い魔力、何度も何度も継ぎ足す様に魔力を血に込めて封印術式に注ぎ続けてくれただけは、あるってことだね。
陣が完全に起動し、魔石に込められ続けてきた魔力を吸い上げていき、唐突に、中央にいる私に向かって魔力が流れ込んでくる。
その刹那、魔力に溶け込んだ祈りが私の中に流れ込んでくる…
『人々の心が平穏でありますように』『日々、生きれることに感謝を』『子供が健やかに育ち感謝しております』『お腹空いたなぁ』『貴族がなんだ、あれらはゴミだ』『祈りを捧げて何になる?』『誰か恵んでくんねぇかな?』『あー人っころしってぇ、昔みてぇに楽して稼ぎてぇ』『祈りを捧げていても息子は死の大地で死んだ、祈りは?聖女とはなんだ?』『神に祈っても何も得られぬ、ここにくるのも施しがもらえるからだ』『…滅びはまだか?』
この雑念が祈りに作用しないように濾過する!碌でもねぇ感情なんていらない!
ほんっと…人は救う価値があるのだろうか?…
違う!価値を求めるな!私が望む未来を得るために闘っているんだ!人の為じゃない!自分の為だ!!惑わされるな!敵の策に堕ちるな!!
臓器を幾ばくか溶かす様に昇華し、フィルターの作用をさせ、純粋な力だけが流れ込んでくるように術式を組み上げる!!
純粋な力が集まっていく、力が集まってくると制御が難しくなってくる!出口を求めるように暴れ始める!衝撃で骨からなのか、全身から聞いたことのない音が溢れ出てくる。
薬の作用で痛みを感じないのが救い!こんな衝撃…薬を投与していなかったら発狂していただろう!!
出口としての魔力の使い道、魔力を消費していく為に…寵愛の加護に向けて祈りを捧げる!!
指を組み、親指を眉間に当て、思考を加速させ、祈りを捧げる!!
願うは狭間
乞う願いはただ一つ
時空への干渉
時への介入、過去に私の思念を飛ばす、時空干渉術式をここに発動する
始祖様…寵愛の巫女が願い奉ります
遠き遠き過去へ…幼き頃の…世界に嫌気を指す前の…純粋な…自身の湧き上がる知的好奇心を満たしたいだけの純粋無垢な私へ届けて欲しい!
届けてください!!未来を、明日を諦めないために研究を重ねてきた、この記憶を!!!
お母さんと共に、生きる為に必死に研究をしている私の姿が見えた。
一つの大型魔石から光が消える
覚えている限りの、魔女の記述を魔力へと溶かし流し込む
一つの大型魔石から光が消える
幾度となく繰り返し失敗してきた研究の記録を魔力へと溶かし流し込む
一つの大型魔石から光が消える
未来を勝ち取るために、編み出してきた術式の数々や、魔道具の記録情報を魔力へと溶かし流し込む
一つの大型魔石から光が消える
何度も何度も繰り返し戦い続けてきた敵の情報を魔力へと溶かし流し込む
一つの大賀魔石から光が消える
陣から光が消える…
周囲を見渡す、大型魔石からは光が消えている、僅かな光だけ残されているのでその全てを吸収するために、過去の自分が行った周囲の魔力を搔き集める術式を起動させる。
零れ行く、小さな小さな祈りを…我が身に宿していく…
『お母さんを助けたい』『友達が泣いているのどうしたらいいの?』『明日はお祭りなんだ』『お父さんが怪我しちゃった、治して』『クッキー楽しみ!』『…お父さんを殺したやつを許すことができない』『敬愛するお兄様が獣共に殺された』『愛する夫が獣に殺された…』
その気持ちに願いにこたえてあげる…だから、私に力を頂戴。
祈りを捧げる…一年前の自分…もう少し前、かな…勇気くんに会う私に伝える
『勇気くん…柳と言う人物に魂の同調をしてもらい、その後に、彼にこの言葉を伝え欲しい』
”白き黄金の太陽に成れ”
祈りを終え、周囲を見渡す
灯りの魔力すら無くなりかけていて徐々に暗くなっていく地下室…ゆっくりと、立ち上がって服を着る。
魔力が体から漏れ出ていくような感覚が無い。恐らく完全に私の体から魔力が尽きたのだろう。
なのに、まだ、動くことが出来る、きっと、始祖様が最後の別れをするために力を貸してくれているのだろう。
光を失った魔石たちと別れを告げて、部屋を出ていく。
研究所には、もう残されたであろう僅かな魔力ですら…魔力が流れていない為、灯りが消えている。
真っ暗なのに、不思議と部屋の中…全てが明るく見えるように、細部に迄、見通すことが出来る。
一年も籠っていれば、何処に何があるのか覚えているからだろうか?
人生で一度も感じたことがない程に、不思議な感覚が体を包み込んでくれている。
痛みも、辛さも、苦悩も…何もかも感じない。
もう、死ぬからだろうか?もう、何もすることが出来ないからだろか?もう、責務から…運命から解放されたからだろうか?
全てに解放された、何もしなくても良いっという心構えでこんなにも…変わるのだろうか?
わからない、そんなこと、経験したことが無いから。
地上へあがる為の階段に到着するのだが、忘れていた。鉄板があって、通れない。
試しに力を込めて動かそうとするが、非力な私では不可能だった…
その瞬間、胸が張り裂けそうになる。
悔いが残る…お母さんに謝っていない…
枯れ果てた涙が溢れ出てくる。あいたい。あいたい。あいたい。あいたい…お母さんにあいたいよぉ…
『さくら!すまない!対処に集中していた!終わったのだな!』
勇気くんが声を掛けてくれる
お母さんにあいたい!あいたいよ!助けて!!
藁にも縋るように実体のない勇気くんに願いを託すと
『わかった…さくら、俺の魂を魔力へ変換する、その力を使え』
此方が返答する間もなく、体内に小さな魔力が宿るのを感じ、その刹那、勇気くんが最後の最後に必死にお母さんを守るように動いていたのがわかった。
そっか、実体が無いのなら、体が無いのなら、奪えばいいっか…誰かの体を乗っ取って先導して、場を混乱させたんだね。
最後の魔力…小さな小さな、魔力を力へと変換する。念動力を産み出し、力の力場を作り、私独りでは動かせない鉄の板を元の位置へと押し戻す。
手を離すとまた、自然と閉まる構造になっているので、力を込めたまま、階段がある場所へ移動すると
小さな魔力が尽き…ガゴンっと扉が閉まる。
ありがとう勇気くん、お母さんを守ってくれて
『・・・・』
返事が返ってくることはもうない、勇気くんを感じることが出来ない。
先に行ってしまったのだろう、月の裏側へ
階段を登っていく。
地上へ通じる扉を開ける。
外には誰もいなかった。
子供達の姿もみえない。
お母さんも何処かに行ってしまったのだろうか?
その可能性を忘れていた…だって、敵が攻めてきているのなら医療班団長であるお母さんが前に出ないわけがない…
最後くらい、お母さんに抱きしめてもらって死にたかったな…
世界が真っ暗に染まっていく、全てを諦めて時計の針を止めようとした
真っ暗に染まっていく世界で誰かが私の手を握る、そして、引っ張られる?
誰だろう?
引っ張られた視界にうつったのは、見たことが無い子供だった。
黒くて、少し青みがかった髪の色。
髪の毛に隠れて見えにくい目の色は、黒く、されど、少し青みのかかった色…
何処となく始祖様に似ている…
その子が何度も何度も唇を動かしている。ごめんね、お姉ちゃん、音が聞こえていないのかも、君が何を言っているのかわからない。
でも、読唇術で何とか、読み取ってみるから、もう一度、唇を動かして
お…お?かな?
か…か…っぽいかな?
あ、…おかあ?さん?…
がいる…おかあさんがいる?…お母さんがいる!?
ぐいぐいっと引っ張られる力弱い…子供の力…だというのに、どうしてか、力強く感じてしまう…何かを感じてしまう。
案内される方へ共に駆け出す
柱の近くに、大きな大柄の男性がいる?何処か、どこかで…見覚えがあるような?黒髪…この大陸では珍しい真っ黒な髪。
私達の街に、戦士が数多くいるから、その一人がそこにいるのだろうか?でも、おかしい、黒髪の戦士は、誰もいない…
なのに…私は彼を知っている?どうしてだろうか?会ったことが無いのに…何故か、彼を見ると心が落ち着く、彼が「 」の傍に居ることに安心する
彼が傍に居るのがお母さんだとわかるから。彼が傍に居るからこそ、そこにお母さんが居るのだと分かるから。
柱の陰から、女性の手が見える…お母さんの手だ。
案内してくれた子供の手が離れる、後ろを振り返ると笑顔で手を振ってくれている
ありがとう!名も知らない おとうと よ!お姉ちゃんを導いてくれてありがとう!
「おかあさん!!」
柱にもたれ掛かる様に座り込んでいるお母さんに声を掛ける…
全てを理解した…私がどうして無傷でいれたのか
「・・ひ、め・・・ちゃん?」
唇が僅かに動く、まだ息がある!たすけ…
お母さんに刺さった矢を抜こうかと思った、でも…傷口の色を見て諦める。
毒が、塗られていたのだと…
毒のスペシャリストであるお母さんが、途中で抵抗を諦めた…助からないと判断したのだろう…必死に毒に抗おうとした痕跡がある。
「っふ、ふ、まぼろし・・・かな?・・・あいする・・・むすめが・・・みえる」
震える腕があがり、私に向かって伸ばされていく
「いるよ!おかあさん!わたし、お母さん!いるよ!!」
「嗚呼、ああ、ありが、とう、しそ、さま・・・むすめを・・・みちびいて・・くれたの・・・ね・・・」
伸ばされた手を握りしめる
「お母さん!わた、たしね、おかあさんに」
「いいのよ・・・ししゅんき・・・はんこ、うき・・・いいのよ・・・おかあさんも・・・あったから・・・わかってる」
伸ばされた手が私の頭へと伸びようとするが、それ以上、持ちあがらないのだろう。
持ち上がらないのであれば、私からいく!
お母さんに抱き着く様に体を寄せると
「・・・あたたかい・・幻じゃないのね…姫ちゃん。ううん、愛しのサクラ…愛してる。何時までも、これからも、ずっとずっと。どんなことがあっても貴女は私の愛する娘よ」
力強く抱きしめられる、優しく頭を撫でられる
「おかあさん、ごめんなさい、ごめんなさい。ひどいこと・・かなしいことを・・・」
「ふふ、あの程度、私の幼い頃に比べたら可愛いもの…よ…ああ、嗚呼、しそ、さま・・・かんしゃ・・・します・・・せいじょ・・・さま・・・むすめに・・・みらいを・・・だーりん・・・それにだーりんの、こども・・・かな?・・・姪っ子を・・・よろしくね・・・」
お母さんと、叔母様の力が抜ける…
わたしも…ちからが・・・ぬけていく・・・
おおがらな、だんせいが みまもって くれる・・・
わたしは ひとり じゃ ない
さよう・・な・・ら・・・
こうして、私の人生は終わりを告げた…
次の…私も…
大型の魔石がセットされている数多くの台座に繋がっている配線を外していく。
外した配線を中央の陣に向けて付け替えていく。
これで、大型の魔石が私達の街を維持するために使っていた魔力が中央の陣に流れる様になる。
中央の陣が薄っすらと光を放っている…接続が出来た証拠だ…
念のために、こういう日が来るのではないかと、危惧して、念のために作った、この陣を使う時が来るとは思っていなかった。
大型魔石に囲まれるように中央にある大きな陣…思い出したくない記憶が溢れ出てくる…
人の理から外れ、倫理から遠ざかり、人の域から離れた儀式用魔法陣
これは魔術じゃない、魔法…
ある人物は、その目的を見て人が考える内容じゃないと否定した。
ある人物は、そこまでして叶えたい願いが人が望む結果に繋がるとは思えれないと否定した。
だが、その二人の意見を聞いても…私は、否定することができなかった
この陣そのものに罪はない、編み出した存在がどんな悪しきもので在れ、使い道を間違えなければ悪ではない。
そう
これは、ある時空では、私達が想像もつかない何かを召喚するために魔力を搔き集める為に使用された陣…
とある儀式で用いられた下法。
この陣だけをみれば、何かを召喚するための陣ではない。
純粋に魔力をこの陣に向けて収束させるだけの魔力を集めるだけの陣。
とある儀式では、その魔力を集める器として、王家の血を引く…色濃く残す始祖様の血が集結された御子を触媒にした。
今回は、私がその触媒とする、っていっても、集めた魔力は、全て過去に情報を送るために使うんだけどね。
何かを召喚するっていうか、指定できるのなら。始祖様を真っ先に召喚するよ。召喚するための術は私は知らない、残されたのは、この陣だけだもの…
蓋をしていた記憶から推測されるのが、きっと、触媒になっていたお母さん、ううん、叔母様の魂にその術式が刻まれているのだろう…
さて、蓋をしていた記憶は置いといて、先へと進もう…
この膨大な魔力を用いればできるはずだ…
私は…私だけの…未来を勝ち取る為、未来を選択するために…犠牲になる…儀式を行う。
私の全てを、1年…2年…3年…ううん、もっともっと先、今まで一度も…そこまで遠い過去に向けて情報を飛ばしたことが無い。
出来るのかどうか、定かではない、でも、やるしかない…やり遂げて見せる!!私の臓器全てを捧げても成し遂げて見せる!!
何度か深呼吸をしながら淡い光を放つ陣を眺め、集中力を高めていく。
命尽き果てようと、この一秒ですら、私の針が止まってしまいそうな…そんな状態で制御できるのか、自信は無い。
無いが、やるしかない。するしかない。頬を叩く、痛みを感じることは無かった。
出来るのなら、私と同等の術者か、それに近しい人に補佐してもらいたいけれど、ないモノをねだっても仕方がない。
腹は括ってある、この陣をここに刻んだときに、もしかしたら、そういう時が来るだろうと、感じながらも陣を刻んだのだから、その時に覚悟はできている。
…出来ていても…ってやつだね…集中を高めよう。
中央の陣に向かう前に、身に着けている全ての服を脱ぐ。
最後を迎えるのに…綺麗な服を…ううん、最後の私を看取ってもらうのに、血まみれってのはちょっと…汚したくないから…
中央の陣に到着すると、祈りを捧げる為に膝をつく、そして…発動する…
【封印術式解除】
皮膚に刻み込んだ封印術式が鮮血となって飛び出る…
すぐに、大昔に感じていた感覚が戻ってくる。自然と、勝手に、力を込めていないのに、魔力が体から抜け出るように…溢れ出ようとしてくる感覚。
鮮血に宿されたお母さんの魔力と、私の魔力が混じった触媒が陣をより一層輝かせ、陣を完全に起動させる。
それに呼応するように大型魔石が大きく振動し聞いたことのない唸るような音を出し始める。
よかった、正直、最初の陣を起動させるというきっかけに必要な魔力を持ち合わせていなかったから、これでどうにかならなかったら臓器を一つ贄に捧げないといけなかった。
この陣を起動させるのに、多くの人が死んでいる光景を見ていたから、相当な魔力が必要じゃないかっていう危惧があった。
流石…この私を何年も生かし続けたお母さんの濃い魔力、何度も何度も継ぎ足す様に魔力を血に込めて封印術式に注ぎ続けてくれただけは、あるってことだね。
陣が完全に起動し、魔石に込められ続けてきた魔力を吸い上げていき、唐突に、中央にいる私に向かって魔力が流れ込んでくる。
その刹那、魔力に溶け込んだ祈りが私の中に流れ込んでくる…
『人々の心が平穏でありますように』『日々、生きれることに感謝を』『子供が健やかに育ち感謝しております』『お腹空いたなぁ』『貴族がなんだ、あれらはゴミだ』『祈りを捧げて何になる?』『誰か恵んでくんねぇかな?』『あー人っころしってぇ、昔みてぇに楽して稼ぎてぇ』『祈りを捧げていても息子は死の大地で死んだ、祈りは?聖女とはなんだ?』『神に祈っても何も得られぬ、ここにくるのも施しがもらえるからだ』『…滅びはまだか?』
この雑念が祈りに作用しないように濾過する!碌でもねぇ感情なんていらない!
ほんっと…人は救う価値があるのだろうか?…
違う!価値を求めるな!私が望む未来を得るために闘っているんだ!人の為じゃない!自分の為だ!!惑わされるな!敵の策に堕ちるな!!
臓器を幾ばくか溶かす様に昇華し、フィルターの作用をさせ、純粋な力だけが流れ込んでくるように術式を組み上げる!!
純粋な力が集まっていく、力が集まってくると制御が難しくなってくる!出口を求めるように暴れ始める!衝撃で骨からなのか、全身から聞いたことのない音が溢れ出てくる。
薬の作用で痛みを感じないのが救い!こんな衝撃…薬を投与していなかったら発狂していただろう!!
出口としての魔力の使い道、魔力を消費していく為に…寵愛の加護に向けて祈りを捧げる!!
指を組み、親指を眉間に当て、思考を加速させ、祈りを捧げる!!
願うは狭間
乞う願いはただ一つ
時空への干渉
時への介入、過去に私の思念を飛ばす、時空干渉術式をここに発動する
始祖様…寵愛の巫女が願い奉ります
遠き遠き過去へ…幼き頃の…世界に嫌気を指す前の…純粋な…自身の湧き上がる知的好奇心を満たしたいだけの純粋無垢な私へ届けて欲しい!
届けてください!!未来を、明日を諦めないために研究を重ねてきた、この記憶を!!!
お母さんと共に、生きる為に必死に研究をしている私の姿が見えた。
一つの大型魔石から光が消える
覚えている限りの、魔女の記述を魔力へと溶かし流し込む
一つの大型魔石から光が消える
幾度となく繰り返し失敗してきた研究の記録を魔力へと溶かし流し込む
一つの大型魔石から光が消える
未来を勝ち取るために、編み出してきた術式の数々や、魔道具の記録情報を魔力へと溶かし流し込む
一つの大型魔石から光が消える
何度も何度も繰り返し戦い続けてきた敵の情報を魔力へと溶かし流し込む
一つの大賀魔石から光が消える
陣から光が消える…
周囲を見渡す、大型魔石からは光が消えている、僅かな光だけ残されているのでその全てを吸収するために、過去の自分が行った周囲の魔力を搔き集める術式を起動させる。
零れ行く、小さな小さな祈りを…我が身に宿していく…
『お母さんを助けたい』『友達が泣いているのどうしたらいいの?』『明日はお祭りなんだ』『お父さんが怪我しちゃった、治して』『クッキー楽しみ!』『…お父さんを殺したやつを許すことができない』『敬愛するお兄様が獣共に殺された』『愛する夫が獣に殺された…』
その気持ちに願いにこたえてあげる…だから、私に力を頂戴。
祈りを捧げる…一年前の自分…もう少し前、かな…勇気くんに会う私に伝える
『勇気くん…柳と言う人物に魂の同調をしてもらい、その後に、彼にこの言葉を伝え欲しい』
”白き黄金の太陽に成れ”
祈りを終え、周囲を見渡す
灯りの魔力すら無くなりかけていて徐々に暗くなっていく地下室…ゆっくりと、立ち上がって服を着る。
魔力が体から漏れ出ていくような感覚が無い。恐らく完全に私の体から魔力が尽きたのだろう。
なのに、まだ、動くことが出来る、きっと、始祖様が最後の別れをするために力を貸してくれているのだろう。
光を失った魔石たちと別れを告げて、部屋を出ていく。
研究所には、もう残されたであろう僅かな魔力ですら…魔力が流れていない為、灯りが消えている。
真っ暗なのに、不思議と部屋の中…全てが明るく見えるように、細部に迄、見通すことが出来る。
一年も籠っていれば、何処に何があるのか覚えているからだろうか?
人生で一度も感じたことがない程に、不思議な感覚が体を包み込んでくれている。
痛みも、辛さも、苦悩も…何もかも感じない。
もう、死ぬからだろうか?もう、何もすることが出来ないからだろか?もう、責務から…運命から解放されたからだろうか?
全てに解放された、何もしなくても良いっという心構えでこんなにも…変わるのだろうか?
わからない、そんなこと、経験したことが無いから。
地上へあがる為の階段に到着するのだが、忘れていた。鉄板があって、通れない。
試しに力を込めて動かそうとするが、非力な私では不可能だった…
その瞬間、胸が張り裂けそうになる。
悔いが残る…お母さんに謝っていない…
枯れ果てた涙が溢れ出てくる。あいたい。あいたい。あいたい。あいたい…お母さんにあいたいよぉ…
『さくら!すまない!対処に集中していた!終わったのだな!』
勇気くんが声を掛けてくれる
お母さんにあいたい!あいたいよ!助けて!!
藁にも縋るように実体のない勇気くんに願いを託すと
『わかった…さくら、俺の魂を魔力へ変換する、その力を使え』
此方が返答する間もなく、体内に小さな魔力が宿るのを感じ、その刹那、勇気くんが最後の最後に必死にお母さんを守るように動いていたのがわかった。
そっか、実体が無いのなら、体が無いのなら、奪えばいいっか…誰かの体を乗っ取って先導して、場を混乱させたんだね。
最後の魔力…小さな小さな、魔力を力へと変換する。念動力を産み出し、力の力場を作り、私独りでは動かせない鉄の板を元の位置へと押し戻す。
手を離すとまた、自然と閉まる構造になっているので、力を込めたまま、階段がある場所へ移動すると
小さな魔力が尽き…ガゴンっと扉が閉まる。
ありがとう勇気くん、お母さんを守ってくれて
『・・・・』
返事が返ってくることはもうない、勇気くんを感じることが出来ない。
先に行ってしまったのだろう、月の裏側へ
階段を登っていく。
地上へ通じる扉を開ける。
外には誰もいなかった。
子供達の姿もみえない。
お母さんも何処かに行ってしまったのだろうか?
その可能性を忘れていた…だって、敵が攻めてきているのなら医療班団長であるお母さんが前に出ないわけがない…
最後くらい、お母さんに抱きしめてもらって死にたかったな…
世界が真っ暗に染まっていく、全てを諦めて時計の針を止めようとした
真っ暗に染まっていく世界で誰かが私の手を握る、そして、引っ張られる?
誰だろう?
引っ張られた視界にうつったのは、見たことが無い子供だった。
黒くて、少し青みがかった髪の色。
髪の毛に隠れて見えにくい目の色は、黒く、されど、少し青みのかかった色…
何処となく始祖様に似ている…
その子が何度も何度も唇を動かしている。ごめんね、お姉ちゃん、音が聞こえていないのかも、君が何を言っているのかわからない。
でも、読唇術で何とか、読み取ってみるから、もう一度、唇を動かして
お…お?かな?
か…か…っぽいかな?
あ、…おかあ?さん?…
がいる…おかあさんがいる?…お母さんがいる!?
ぐいぐいっと引っ張られる力弱い…子供の力…だというのに、どうしてか、力強く感じてしまう…何かを感じてしまう。
案内される方へ共に駆け出す
柱の近くに、大きな大柄の男性がいる?何処か、どこかで…見覚えがあるような?黒髪…この大陸では珍しい真っ黒な髪。
私達の街に、戦士が数多くいるから、その一人がそこにいるのだろうか?でも、おかしい、黒髪の戦士は、誰もいない…
なのに…私は彼を知っている?どうしてだろうか?会ったことが無いのに…何故か、彼を見ると心が落ち着く、彼が「 」の傍に居ることに安心する
彼が傍に居るのがお母さんだとわかるから。彼が傍に居るからこそ、そこにお母さんが居るのだと分かるから。
柱の陰から、女性の手が見える…お母さんの手だ。
案内してくれた子供の手が離れる、後ろを振り返ると笑顔で手を振ってくれている
ありがとう!名も知らない おとうと よ!お姉ちゃんを導いてくれてありがとう!
「おかあさん!!」
柱にもたれ掛かる様に座り込んでいるお母さんに声を掛ける…
全てを理解した…私がどうして無傷でいれたのか
「・・ひ、め・・・ちゃん?」
唇が僅かに動く、まだ息がある!たすけ…
お母さんに刺さった矢を抜こうかと思った、でも…傷口の色を見て諦める。
毒が、塗られていたのだと…
毒のスペシャリストであるお母さんが、途中で抵抗を諦めた…助からないと判断したのだろう…必死に毒に抗おうとした痕跡がある。
「っふ、ふ、まぼろし・・・かな?・・・あいする・・・むすめが・・・みえる」
震える腕があがり、私に向かって伸ばされていく
「いるよ!おかあさん!わたし、お母さん!いるよ!!」
「嗚呼、ああ、ありが、とう、しそ、さま・・・むすめを・・・みちびいて・・くれたの・・・ね・・・」
伸ばされた手を握りしめる
「お母さん!わた、たしね、おかあさんに」
「いいのよ・・・ししゅんき・・・はんこ、うき・・・いいのよ・・・おかあさんも・・・あったから・・・わかってる」
伸ばされた手が私の頭へと伸びようとするが、それ以上、持ちあがらないのだろう。
持ち上がらないのであれば、私からいく!
お母さんに抱き着く様に体を寄せると
「・・・あたたかい・・幻じゃないのね…姫ちゃん。ううん、愛しのサクラ…愛してる。何時までも、これからも、ずっとずっと。どんなことがあっても貴女は私の愛する娘よ」
力強く抱きしめられる、優しく頭を撫でられる
「おかあさん、ごめんなさい、ごめんなさい。ひどいこと・・かなしいことを・・・」
「ふふ、あの程度、私の幼い頃に比べたら可愛いもの…よ…ああ、嗚呼、しそ、さま・・・かんしゃ・・・します・・・せいじょ・・・さま・・・むすめに・・・みらいを・・・だーりん・・・それにだーりんの、こども・・・かな?・・・姪っ子を・・・よろしくね・・・」
お母さんと、叔母様の力が抜ける…
わたしも…ちからが・・・ぬけていく・・・
おおがらな、だんせいが みまもって くれる・・・
わたしは ひとり じゃ ない
さよう・・な・・ら・・・
こうして、私の人生は終わりを告げた…
次の…私も…
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お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
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愚父→ぐふ
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