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Dead End ユ キ・サクラ (82)

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最悪の予想は…予感は…悪寒は…的中する。敵は…本腰を入れて私達を滅ぼすつもりだ
私達の傷は癒える間も無く、次の戦いが始まりを告げた…

私達が怪我をしてからも、敵の攻撃は続いている。

外は皆に任せて、私は私にしか出来ないことに集中した…
研究に集中できたのが経ったの三か月、それだけでも重畳だと良かったと思おう。

怪我をして、幹部達に専念すると宣言してから経ったの三か月…
体感、三か月以上も研究をしていたように感じるほどに、内容の濃い三か月だった。

結果としては、幸いにして、培養液の殆どがある程度、目処がついたというか…生末…研究のゴール地点、先が見えた。

だが、この先へとたどり着くには、単純に計算しても、時間が5年程、必要…今の私にはそんな時間は…圧倒的に足らない…
っであれば…次に情報を過去の私に託すときは…遠くとおく…固定概念すらない、もしかしたら、研究者として最も全盛期かもしれない
研究が楽しくて、術式の未来を、可能性を探求していたあの頃に託すしかないだろう…

お母さんと一緒に明日を歩む為にお互いの手を取り合って、支えあっていた…あの時代…
懐かしくもあり、苦しくあり、色んな感情が込み上げて混ざり合って混沌としていた…でも、ただ一人、私と共に歩んでくれた傍に居てくれた。
振り返ってみても、最も、幸せだったと感じる、あの時代…目を瞑ればいつでも思い出せる、大好きな人と一緒に過ごした日々

大好きな人の困った笑顔
大好きな人の悲しそうな笑顔
大好きな人の怒った笑顔
大好きな人の柔らかい笑顔


…そういえば、お母さんと最後に会話したのっていつだっけ?


「姫様ー?準備できましたよー!」
地下室にメイドちゃんの甲高い声が響き渡るので、机から立ち上がる。
立つときにどうしても右膝が痛い…痛みに耐えながら、曲げれないってわけじゃないけれど、曲げにくい右足を引きずりながら歩いていく。
肋骨の痛みは殆どなくなった、右腕は動かせることは動かせれるけれど…指をぎゅっぱぎゅっぱと開いたり閉じたりしようとするが、引っかかっている様な感じがするし、指先の痺れがとれない。

立ち上がったときに眩暈がした、暫く、世界がぐるぐると回る、心臓の音が聞こえない。
机にしがみつく様に呼吸を整えていると、世界がぐるぐると回るような感覚から抜け出る、心臓の音が聞こえる。
己の弱さに溜息を出して泣きそうになるが…回復の遅い私でも、ここ迄、回復したのなら重畳重畳…そう思わないとやってられない。

一段一段、ゆっくりと階段を登っているとメイドちゃんが急いで駆けつけてくれる。
メイドちゃんの肩を借りながら、何日ぶりだろうか?地下の外に出る。

どんな時でも太陽は私を照らしてくれる…月ほど優しくない厳しい光が、現実を叩きつけてくるように感じた。

太陽の光を浴び、迷惑をかけてばっかりのメイドちゃんにお礼を言い、用意された車に乗せてもらう。
車の後部座席に座るだけで、意識が飛びそうになる…心臓の音が聞こえない。

こんな状態でも行かないといけない場所がある…目的地は決まっている。こうなったときに助けを求める予定だった…
お爺ちゃんと、ルの一族を守る為の騎士…っていっても、今じゃ名ばかりだけどね…宰相たちに…この世界の未来を託そう。

私の命はもう…

車に乗り込むと、疲れの影響か直ぐに眠りについてしまう…ううん、疲れじゃない…私の時計の針が止まろうとしている…
研究の為に、魔力を使い過ぎたからだってわかっている…少しでも、すこしでもはやく、はやく…結果をだすために…

使い続けているから…思考超加速を…

次の未来の為に、新しい策も講じてある、それを、伝える迄は…しね、ない…
目を閉じると、誰かが私を抱きしめてくれている様な感覚が伝わってくる…



おむかえは…まだ…はやいよ?…もう、すこし、じかんを…ちょうだい…



「…め…さま…ごめ…なさい!!」
微かに音が聞こえたと思った瞬間、バグんっと心臓の鼓動が強く響く…それはまるで、全身を貫く様に激しい衝撃が突き抜けていく…

その衝撃で目を開けることができる。霞む視界に映るメイドちゃんは青ざめていて、瞳が潤んでいる、ううん、涙がこぼれている。
「ぁあ、よかった、大丈夫ですか?本当に、この薬つかってもよかったんですか!?どう見ても、危険な薬ですよねこれ!?」
「いい、んだよ…起きない時は、つかって…あり、がとう」
視線を左腕に向けると、注射器で薬が投与されたのがわかる。
薬の影響で強制的に心臓を鼓動させる。心臓さえ動けばまだ生きていけるでしょ?

私に未来はもうない、なら、出来ることをする。ん、だけど、あれ?

辺りを見回すと、どう見ても、王都じゃなく、私達の街の入り口?
…あれ?会議は?

「では、私は車を車庫に入れてきますけど、本当にここで良かったんですか?」
状況がよめない?メイドちゃんに何があったのか確認すると…どうやら、いつの間にか宰相とお爺ちゃんの話し合いは終わって帰ってきたみたい。
記憶にないんだけど?書類を確かめるとちゃんと、二人のサインが書かれている…?どうやら、限界ギリギリで動いていたから記憶が混濁しているのだろう。
今は劇薬のおかげで動けているだけ、だから、薬が切れたら動けなくなる。

無意識の私が、何か、考えてここで良いって言ったのだろうか?
取り合えず、車から降りて、薬が入った箱を受け取り、街に向かって歩いていく。
薬の影響だろうか?痛みが完全に無いし、曲がりにくい右膝も問題なく歩ける。

もしかしたら、薬を投与されるのを見越して、動けるうちに、最後に…私が築いてきた歴史を…街の景色を見ようという、そんな気持ちだったのかもしれない。

途中で動けなくなるわけにはいかないので、箱から薬を取り出して劇薬である…水薬を飲む。
次に、瓶の中にある粉が入った容器を取り出して、鼻に噴出する道具にセットして、プシュっと打ち出し、鼻から劇薬の粉を吸い込む。
液体が入った瓶から透明の液体を注射器で吸い出し左腕に刺して投与する。

痛みを感じない…

メイドちゃんが打ち込んでくれた薬の影響なのか、劇薬を投与したにもかかわらず、体に変化はない。
音が遅れてくる事も無い、視界がちらつくこともない、吐き気も無い…むしろ、羽が生えてのかのように体が軽い!痛みも苦しみも!何も感じない!

ひかり の りゅうし すら みえて しまい そうだ

後ろを振り返る、目に力を込めると、王城の門番が見える。
はは、世界がこわれてら

望遠鏡ですら、そこまで拡大することなんてさ、出来ないのに…生身でやってのけるなんてね…
使えば命が無い劇薬なだけあるぜ…お母さんに無理を言って用意してもらったかいがあるぜ。

前をむきなおし一歩前へ、二歩前へ、歩く
世界がゆっくりとうごく、世界がゆっくりとはやい、世界がはやいゆっくりだ。

街の奥へと、私の地下、それ、よりも手前に、辿り着く頃には薬が馴染んできたのか、変なふわついた感覚も落ち着くんだけど、おかしい、幻覚かな?


いるはずの ないもの が みえる
わたし たちの まちに どうして どうして?


幻覚としか思えれない人達に出迎えられる


「あ!お姉ちゃん!お帰り!」「お姉ちゃんだ!遊ぼ!あそぼー!!やっと会えた!!」
どうして、私達の街に子供が居るの?

どう見ても、5歳とか、7歳くらいの子共が手を振ってこっちに駆け寄ってくる…

ありえない、ありえるわけがない、この街は…この街に潜む狂気は…染みついた死の匂いは、子供には耐えられない…
本能的に、危険な場所を拒む、幼い魂では、耐えられない、泣き出し、逃げようとする…なのに…

こんなにも笑顔で、こんなにも楽しそうに、こんなにも…

私を暖かく迎えてくれるわけがない…

5歳くらいの男の子が手を伸ばしてくる、本能からなのか、私が求めているのか…釣られるように手を伸ばそうとすると
『さくら!!手を取るな!持って行かれるぞ!!!』
突如、脳内に響き渡った声にビクっと反応してしまい、手を引っ込めると、男の子が頬を含まらせ
「むー!お父さん邪魔すんなよー!…いいよーだ!またね!お姉ちゃん!!」
手を振って、何処か遠くへ駆け出したと思ったら忽然と視界から消える…見失うわけがない、真っすぐ、広場がある方向へと、曲がり角も無い、真っすぐの道をてとてとっと歩幅の小さな足取りで真っすぐにかけて行ったのに…真っすぐなのに、見失うわけがない。

なら、目の前で忽然と消えたってことになる?

状況が呑み込めない…気が付くと、私の左手は、子宮がある下腹を撫でていた…

消えてしまった子供を追いかけるように、最初は歩いていたのに、徐々に徐々に、歩く足は速くなり、最後は走っていた…
広場に到着すると…

「な、に…これ?」

数多くの子供達が、戦士や騎士、医療班の人や、研究の人と楽しそうに追いかけっこをしたり、手を繋いで歩いていたり、肩車をしてあげてたりしている…
此処だけを見れば、ここは、なんて、理想郷なのだろう…私が夢見ていた世界そのものだ…
誰しもが笑顔で、笑っていて、誰しもが戦いを忘れ、誰しもが、明日を笑って迎えて…

涙が止まらなくなる

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