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Dead End ユ キ・サクラ (18)
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「味付けは、好みがわかれるかな~。海が近いって言うのもあってな、各々どうやって食べるのか、好みが分かれていたよ。普通に焼いて食べる人もいれば、焼く前に海水を少量エッセンスとして表面に塗ってから焼いて食べたりする人もいたな、まぁ、基本的に主食は魚だよ、木の実はしっかりと下処理をしないとえぐい味わいで食べれた物じゃないから、念入りに加工しないといけないから、どうしても時間が必要になってくる。まぁ、逆に言えば、時間がある時に仕込んで、食べるっという流れが主だったかな。目を閉じれば今でも思出せる色褪せない思いで、懐かしい日々さ…」
遠い遠い目をしている…西の方でそういった食文化があるなんて、聞いたことが無い。
単純に伝わっていないだけだろうか?それに、西の海って漁に適していないと思うんだけど?
浜辺なんて殆ど無いし、海に面している箇所の殆どが、断崖絶壁となっているし、漁をしようにも海は荒れている、大きな船を停留させる場所がない…
小さな浜辺があることはあるから、そこで、投網とかで地引網に近い形で漁をすれば出来ない事も無い?…うーん、どうなんだろう?
「畑作もしていたぞ?主に日持ちする加工が出来る作物がメインでな、暖かい時期に収穫しては干したり、潰して粉にしたりしていたよ。そうやってマメに働いて働いて…来る寒い時期に向けて皆で手を取り合って、子供も大人も頑張って寒くなる時期に備えて、保存食を作って倉庫に備蓄もしていた。そうしないとな、寒い時期は海なんて入れたものじゃないから漁獲量が大きく減ってしまうんだよ」
海に入るっとうことは、素潜り漁ってことだろうか?あの大荒れの海を?
大荒れの海の中に飛び込み海中を泳いで漁をする人達を想像してみるが、溺れて死ぬイメージしか湧いてこない。
…どうやってだろうか?卓越した泳ぎの技術があるのだろうか?それとも、私が知らない波が穏やかな場所があるのかもしれない。
「寒い時期は寒い時期で仕事が山積みだったりするんだよ、そうだな、例えば、俺の国から少し…そうだな、此方側だな、北側に移動すると寒い時期は雪がたくさん積もるんだ。その雪を蓄えないといけないんだよ、暖かい時期に備えてな。雪が積もる場所に雪を保存する為に掘った大きな洞窟?地下?なんて表現したらいいのだろうか?とにかく、俺たちの手で掘った穴、氷室に雪を詰め込んで暖かい季節に向かて雪や氷を備えたりするために寒い時期は寒い時期で大忙し、いつだって仕事は山積み…だったなぁ、あの作業は、指先が痛くて辛かったのを覚えているよ」
手をすりすりと擦り合わせた後、じっと手を見つめている…
悲しいのか、当時を懐かしんでいるのか、不思議な表情をしながらじっと、自身の手を眺めるように傍観するような感じで見つめている…
「この手は、本当に、綺麗だ…当時と大違いだ。俺の手はな、力仕事が主だったし、国を守るために暇があれば剣を振っていたから…ゴツゴツと岩のように硬くて、手のひらはマメだらけだった…それなのに、この手はとても、ツルツルとしていてすべすべとしていて、綺麗だ、女性でもこんなに綺麗な手はいなかった…そういうモノとは縁が遠いっということになる、良い時代になったものだ…」
王様なのに、力仕事ばっかりしていたの?当時は、人の数が少なかったとか?
「そうだぞ、王様っていってもな、俺の村には150人しかいなかったからな…人手が常に足らなかったさ、王って言ってもな、他所の国、今の時代からすれば集落って呼ばれても差しさわりのない規模の村だな…でな、当時は一つ所に人が集まり、合計で100人を越えたらその人たちを統べる人ってのが自然と生まれるんだよ、統べるという事は国が生まれたってことになる。そして、その村に名前が生まれるって流れさ、そんな小さな集落が山ほどあったんだよ、当時はな」
私の知らない歴史の話、考古学とか、歴史学に興味が薄かったから知らないだけかもしれない…
王都に保管されている書物にはもっと詳しく書かれているかもしれない、それを期待するとしよう。誰に期待するのかって?宰相に一応、頼んでいるんだよね。
頼んでいることは、いるんだけど、未だに宰相からは調べてみますからの返事は無いんだよね、本当に調べているのかな?
それにね、私だって王都から見て西の街には取引で出向くことって、あるから、その周囲をある程度は知ってるんだけど、どうしても、彼が語るイメージと私が抱く西の街々が繋がらない…時の流れで変化したってことだよね…考えられるのが死の50年と言われる時代のせいかも。
「俺のような特に何かに秀でた才能があるわけでもないのに王と言う立場になったのも世襲制だからで特に他の意味は無いんだよ、何度も考えたことがあったよ、俺が王様にならずに、近隣諸国に統合されて王の座を明け渡していればってね、俺の祖先が開拓した場所ってだけで、病で亡くなった父上から王の椅子を受け継いだ、受け継いだときは、何も変わらない日々の仕事に追われて平和に何事も無く次の世代へと繋げていくのだと思っていたのに…運悪く、戦争が始まってしまってな…」
戦争?…確か、初代聖女様が王たちと共に戦争を止めて、人類をまとめ上げこの大陸の中央に王都を築いたっていうのが私の知ってる歴史だけど…
もしかして、王たちっていうのは、各地の小さな国々の王ってことだったの?私はてっきり、今の王都を築いた王族の一族たちが武力をもって各地を制圧して、大陸の中央に現王都を建国したのかと思っていたんだけど、史実は、違うっぽい?歴史に興味が無いからうろ覚えなんだよなぁ…
そんな事を考えていると、彼の目にはうっすらと涙が滲み出ていた…
「…やめよう、当時の戦争の話は思い出すのは辛い…違う質問はないのか、姫様」
今にも、声に出して泣きだしそうな程、張り詰めた表情で此方を見つめられる、瞳から涙が零れ落ちそう…
涙が零れ落ちそうな、その瞳から様々な感情が伝わってきて、私も悲しい気持ちになってしまう。
私も、数多くの絶望を…愛する人々が蹂躙されていく世界を見てきたから…彼の悲しみが嫌と言う程に理解、できてしまう…
…私と同じ苦しみを…彼も…背負っているのだという部分が、より強く共感を生み、似た者同士という部分が彼に親近感を抱き、更に、彼に惹かれていくのを、うっすらと感じてはいるが、見ないようにして、次の質問を思い出そうとする。
「どうして、ユキの体を扱えれるのかって?…うーん、これまた、説明が難しいな…扱えれているっていう部分も引っかかるな…」
次の質問として、②どうして、ユキさんの体を操作できるのかっ、それをダイレクトに質問してみたけれど、普通に考えれば如何様にも誤魔化しが聞いてしまう質問ではないかと今更になって気が付いてしまう。
この質問に対して彼は、言葉を選んでいるのか、時折、口を開けるが、声は出ず、顎を触ったり、額をトントンっと親指で叩いて考えを巡らせている
コロコロと表情が変わるっと言う部分ではユキさんと同じ、雰囲気も似ていると言われたら似ているのかもしれない。彼の話を全て鵜呑みにすれば、血筋が同じだからだろうか?ユキの遠い先祖だからだろうか?
「そう、だな、うん、そう、しないと良くない、な。うん、この質問に対してこれを言わない限り、進まないっか…前提としてまず間違っている気がするが、それはさておき」
悩み悩んだ結果、答えというか、結論がでたのか、迷いが消えたような表情で此方を真っすぐに瞳を向けてくるので、目と目が合った瞬間、ちょっと眩暈がしたような気がした。
「姫様、質問に対して質問を返すのは良くないのは重々承知だ、だけど、こればっかりは、先に質問をさせてくれ」
質問を質問で返すのは確かに良くないけれど、何か意図があるのだというのが伝わってくるので、こくりと頷く。恐らく、彼なりにわかりやすくするために、私を気遣ってのことだと思われるから、断る理由が無いよね。
「こういった質問がくるっということは、姫様が何を俺に聞きたいのかってことだよな?俺の考えた正しければ、恐らく、質問の順番を間違えていないか?」
質問の順番?…じゅんばん?どういう意味だろうか?
「先に、俺が一体何をしにこの場に現れたのかっという質問を聞くべきじゃないのか?それとも、俺がこの場にいるという部分は聞かなくてもよい部分なのか?」
鋭い指摘だと、思う、っていうか、うん、痛い部分を突かれた、気がする。
そうだよね、まずは、どうしてこの場に居るのかという疑問を解消する、つまりは目的を知ってから手段を知るべきじゃないかな?
確かに順番を間違えている気がする。私は、先に手段を聞いて、目的を後回しにしてしまった。確かに質問する流れとしては正しくない。
ユキさんの体を操って何をしているのか。
それを知ってからの方が答えに辿り着きやすいって事、だよね。そこに全てが内包されているってことか。
「納得してくれた感じみたいだな、質問内容がまさか、一足飛びの質問が出てくるとは思ってもいなかったよ。君は賢過ぎるから答えを先に求めてしまったのかな?っというか、目的なんかよりも、手段の方が好奇心が勝ってしまったのかな?自身が求める不可思議に対して、一刻も早く答えが知りたい!待ち遠しい!という感じで、己の欲求が勝るってことだ、良い事ではあるのだがな、そういう人が世界を開拓していくものだ、素晴らしい才能だよ」
優しく微笑みながら頭を撫でてくる、何時もの様に、ぽんぽんっと叩く様に撫でるのではなく、子供を指導する親や先生の様に、褒めながら撫でてくれる。
「では、まずは、前提として、俺がどうして新月の夜にこの様な、他からの干渉を防ぐための空間を作り出しているのか…その目的を教えよう」
撫でられた腕が離れ、自身の胸に向かって親指を当て
「ユキを守るためだ」
…自分自身を守る為?…違う、この人は柳、ユキっていうのは昼間にいる人格のことを指している?ややこしい…
「ユキはな、特殊な魂なんだ、その魂を守るために俺は新月の夜にありとあらゆる干渉を防ぎ、ユキの魂に平穏を与えているんだよ…特にこの街に来てから干渉が強くなってしまってね、この経緯を考えれば致し方ないさ…ユキの魂はここから遠い遠い場所に居る、この大陸を我が物にしようと企んでいる存在が用意した魂なのだからな」
…これを真だと捉えるべきなのか、偽だと捉えるべきなのか…私は柳という人格が敵が用意した魂だと思っていた。
だけど、真実は違うということ?柳が言うにはユキさんの魂が敵が用意した魂だと言っている…
どちらを信じるべきなのだろうか?判断材料が少なすぎる。
私の勘は間違っている可能性も勿論ある。柳という人物が正しい事を言っている可能性もあるのだけれど・・・
だめだ、今の私は何処か遠い世界にいるような感じで、ぼんやりとしている?ふわふわとしている?心と考えが一致しない・・・
唐突に自分が考えていた前提が崩れてしまったことに、突如知ってしまった新事実、嘘か真か…想定外の内容にどう向き合えばいいのか、瞬時に答えを見つけ出せずにいると
「…む、すまない、どうやらここ迄のようだ、ユキの魂が目を覚まそうとしている。続きは、また新月の夜に頼むよ」
すっと、立ち上がると微笑みながら私の頭を撫でてから、ゆっくりと広場から離れていく…
離れていく後姿から視線を外すことが出来ず、固唾を見守る様に、ただただ、彼の後姿を眺め続けてしまった。
彼が去った後も、思考が定まらず、ぼんやりとベンチに座ってしまう。
理性的な私が、また風邪をひくから早く部屋に戻って布団の中で呆けろっと言ってくる。
情熱的な私が、撫でられた頭の感触を反芻するかのように何度も何度も、思い出しては照れて笑っている。
冷静的な私が、彼の言葉を何度も何度も矛盾が無かったのか粗が無いのか探りだす。
乙女的な私が、次の新月の夜にまた会おうと約束を取り付けてくれたことに大喜びでジャンプし転げ回っている。
冷酷的な私が、彼がいう西の大地に赴いて現地の人に歴史を聞くのはどうだろうかと提案してくる。嘘で在れば処せと…
初心的な私が、お尻に敷かれているハンカチがまた増えてしまった、彼にはどうやってこの礼儀を返すべきなのだろうかと、頬を染めている。
…様々な湧き上がる感情をどうやって統一すればいいのか、判断が出来ない。こんなことは初めてだったから。
取り合えず、現時点でわかっていることは一つ、身の安全を考えるべき。
冷静で理性的な私が言うように、まだベンチにある彼の温もりが消えてもいないというのに!
尾を引かれながらもベンチから離れ、夜空の星々に見守られながら自身の部屋に向かってふらふらっと足元が暗いにもかかわらず地面を見る事も無く天空ばかりをみつめ、覚束ない足取りで帰路に就く。
夜の涼しい風が、全身を過ぎ去っていくのだけれど…体の芯から湧き上がる火照りは冷めることが無かった。
遠い遠い目をしている…西の方でそういった食文化があるなんて、聞いたことが無い。
単純に伝わっていないだけだろうか?それに、西の海って漁に適していないと思うんだけど?
浜辺なんて殆ど無いし、海に面している箇所の殆どが、断崖絶壁となっているし、漁をしようにも海は荒れている、大きな船を停留させる場所がない…
小さな浜辺があることはあるから、そこで、投網とかで地引網に近い形で漁をすれば出来ない事も無い?…うーん、どうなんだろう?
「畑作もしていたぞ?主に日持ちする加工が出来る作物がメインでな、暖かい時期に収穫しては干したり、潰して粉にしたりしていたよ。そうやってマメに働いて働いて…来る寒い時期に向けて皆で手を取り合って、子供も大人も頑張って寒くなる時期に備えて、保存食を作って倉庫に備蓄もしていた。そうしないとな、寒い時期は海なんて入れたものじゃないから漁獲量が大きく減ってしまうんだよ」
海に入るっとうことは、素潜り漁ってことだろうか?あの大荒れの海を?
大荒れの海の中に飛び込み海中を泳いで漁をする人達を想像してみるが、溺れて死ぬイメージしか湧いてこない。
…どうやってだろうか?卓越した泳ぎの技術があるのだろうか?それとも、私が知らない波が穏やかな場所があるのかもしれない。
「寒い時期は寒い時期で仕事が山積みだったりするんだよ、そうだな、例えば、俺の国から少し…そうだな、此方側だな、北側に移動すると寒い時期は雪がたくさん積もるんだ。その雪を蓄えないといけないんだよ、暖かい時期に備えてな。雪が積もる場所に雪を保存する為に掘った大きな洞窟?地下?なんて表現したらいいのだろうか?とにかく、俺たちの手で掘った穴、氷室に雪を詰め込んで暖かい季節に向かて雪や氷を備えたりするために寒い時期は寒い時期で大忙し、いつだって仕事は山積み…だったなぁ、あの作業は、指先が痛くて辛かったのを覚えているよ」
手をすりすりと擦り合わせた後、じっと手を見つめている…
悲しいのか、当時を懐かしんでいるのか、不思議な表情をしながらじっと、自身の手を眺めるように傍観するような感じで見つめている…
「この手は、本当に、綺麗だ…当時と大違いだ。俺の手はな、力仕事が主だったし、国を守るために暇があれば剣を振っていたから…ゴツゴツと岩のように硬くて、手のひらはマメだらけだった…それなのに、この手はとても、ツルツルとしていてすべすべとしていて、綺麗だ、女性でもこんなに綺麗な手はいなかった…そういうモノとは縁が遠いっということになる、良い時代になったものだ…」
王様なのに、力仕事ばっかりしていたの?当時は、人の数が少なかったとか?
「そうだぞ、王様っていってもな、俺の村には150人しかいなかったからな…人手が常に足らなかったさ、王って言ってもな、他所の国、今の時代からすれば集落って呼ばれても差しさわりのない規模の村だな…でな、当時は一つ所に人が集まり、合計で100人を越えたらその人たちを統べる人ってのが自然と生まれるんだよ、統べるという事は国が生まれたってことになる。そして、その村に名前が生まれるって流れさ、そんな小さな集落が山ほどあったんだよ、当時はな」
私の知らない歴史の話、考古学とか、歴史学に興味が薄かったから知らないだけかもしれない…
王都に保管されている書物にはもっと詳しく書かれているかもしれない、それを期待するとしよう。誰に期待するのかって?宰相に一応、頼んでいるんだよね。
頼んでいることは、いるんだけど、未だに宰相からは調べてみますからの返事は無いんだよね、本当に調べているのかな?
それにね、私だって王都から見て西の街には取引で出向くことって、あるから、その周囲をある程度は知ってるんだけど、どうしても、彼が語るイメージと私が抱く西の街々が繋がらない…時の流れで変化したってことだよね…考えられるのが死の50年と言われる時代のせいかも。
「俺のような特に何かに秀でた才能があるわけでもないのに王と言う立場になったのも世襲制だからで特に他の意味は無いんだよ、何度も考えたことがあったよ、俺が王様にならずに、近隣諸国に統合されて王の座を明け渡していればってね、俺の祖先が開拓した場所ってだけで、病で亡くなった父上から王の椅子を受け継いだ、受け継いだときは、何も変わらない日々の仕事に追われて平和に何事も無く次の世代へと繋げていくのだと思っていたのに…運悪く、戦争が始まってしまってな…」
戦争?…確か、初代聖女様が王たちと共に戦争を止めて、人類をまとめ上げこの大陸の中央に王都を築いたっていうのが私の知ってる歴史だけど…
もしかして、王たちっていうのは、各地の小さな国々の王ってことだったの?私はてっきり、今の王都を築いた王族の一族たちが武力をもって各地を制圧して、大陸の中央に現王都を建国したのかと思っていたんだけど、史実は、違うっぽい?歴史に興味が無いからうろ覚えなんだよなぁ…
そんな事を考えていると、彼の目にはうっすらと涙が滲み出ていた…
「…やめよう、当時の戦争の話は思い出すのは辛い…違う質問はないのか、姫様」
今にも、声に出して泣きだしそうな程、張り詰めた表情で此方を見つめられる、瞳から涙が零れ落ちそう…
涙が零れ落ちそうな、その瞳から様々な感情が伝わってきて、私も悲しい気持ちになってしまう。
私も、数多くの絶望を…愛する人々が蹂躙されていく世界を見てきたから…彼の悲しみが嫌と言う程に理解、できてしまう…
…私と同じ苦しみを…彼も…背負っているのだという部分が、より強く共感を生み、似た者同士という部分が彼に親近感を抱き、更に、彼に惹かれていくのを、うっすらと感じてはいるが、見ないようにして、次の質問を思い出そうとする。
「どうして、ユキの体を扱えれるのかって?…うーん、これまた、説明が難しいな…扱えれているっていう部分も引っかかるな…」
次の質問として、②どうして、ユキさんの体を操作できるのかっ、それをダイレクトに質問してみたけれど、普通に考えれば如何様にも誤魔化しが聞いてしまう質問ではないかと今更になって気が付いてしまう。
この質問に対して彼は、言葉を選んでいるのか、時折、口を開けるが、声は出ず、顎を触ったり、額をトントンっと親指で叩いて考えを巡らせている
コロコロと表情が変わるっと言う部分ではユキさんと同じ、雰囲気も似ていると言われたら似ているのかもしれない。彼の話を全て鵜呑みにすれば、血筋が同じだからだろうか?ユキの遠い先祖だからだろうか?
「そう、だな、うん、そう、しないと良くない、な。うん、この質問に対してこれを言わない限り、進まないっか…前提としてまず間違っている気がするが、それはさておき」
悩み悩んだ結果、答えというか、結論がでたのか、迷いが消えたような表情で此方を真っすぐに瞳を向けてくるので、目と目が合った瞬間、ちょっと眩暈がしたような気がした。
「姫様、質問に対して質問を返すのは良くないのは重々承知だ、だけど、こればっかりは、先に質問をさせてくれ」
質問を質問で返すのは確かに良くないけれど、何か意図があるのだというのが伝わってくるので、こくりと頷く。恐らく、彼なりにわかりやすくするために、私を気遣ってのことだと思われるから、断る理由が無いよね。
「こういった質問がくるっということは、姫様が何を俺に聞きたいのかってことだよな?俺の考えた正しければ、恐らく、質問の順番を間違えていないか?」
質問の順番?…じゅんばん?どういう意味だろうか?
「先に、俺が一体何をしにこの場に現れたのかっという質問を聞くべきじゃないのか?それとも、俺がこの場にいるという部分は聞かなくてもよい部分なのか?」
鋭い指摘だと、思う、っていうか、うん、痛い部分を突かれた、気がする。
そうだよね、まずは、どうしてこの場に居るのかという疑問を解消する、つまりは目的を知ってから手段を知るべきじゃないかな?
確かに順番を間違えている気がする。私は、先に手段を聞いて、目的を後回しにしてしまった。確かに質問する流れとしては正しくない。
ユキさんの体を操って何をしているのか。
それを知ってからの方が答えに辿り着きやすいって事、だよね。そこに全てが内包されているってことか。
「納得してくれた感じみたいだな、質問内容がまさか、一足飛びの質問が出てくるとは思ってもいなかったよ。君は賢過ぎるから答えを先に求めてしまったのかな?っというか、目的なんかよりも、手段の方が好奇心が勝ってしまったのかな?自身が求める不可思議に対して、一刻も早く答えが知りたい!待ち遠しい!という感じで、己の欲求が勝るってことだ、良い事ではあるのだがな、そういう人が世界を開拓していくものだ、素晴らしい才能だよ」
優しく微笑みながら頭を撫でてくる、何時もの様に、ぽんぽんっと叩く様に撫でるのではなく、子供を指導する親や先生の様に、褒めながら撫でてくれる。
「では、まずは、前提として、俺がどうして新月の夜にこの様な、他からの干渉を防ぐための空間を作り出しているのか…その目的を教えよう」
撫でられた腕が離れ、自身の胸に向かって親指を当て
「ユキを守るためだ」
…自分自身を守る為?…違う、この人は柳、ユキっていうのは昼間にいる人格のことを指している?ややこしい…
「ユキはな、特殊な魂なんだ、その魂を守るために俺は新月の夜にありとあらゆる干渉を防ぎ、ユキの魂に平穏を与えているんだよ…特にこの街に来てから干渉が強くなってしまってね、この経緯を考えれば致し方ないさ…ユキの魂はここから遠い遠い場所に居る、この大陸を我が物にしようと企んでいる存在が用意した魂なのだからな」
…これを真だと捉えるべきなのか、偽だと捉えるべきなのか…私は柳という人格が敵が用意した魂だと思っていた。
だけど、真実は違うということ?柳が言うにはユキさんの魂が敵が用意した魂だと言っている…
どちらを信じるべきなのだろうか?判断材料が少なすぎる。
私の勘は間違っている可能性も勿論ある。柳という人物が正しい事を言っている可能性もあるのだけれど・・・
だめだ、今の私は何処か遠い世界にいるような感じで、ぼんやりとしている?ふわふわとしている?心と考えが一致しない・・・
唐突に自分が考えていた前提が崩れてしまったことに、突如知ってしまった新事実、嘘か真か…想定外の内容にどう向き合えばいいのか、瞬時に答えを見つけ出せずにいると
「…む、すまない、どうやらここ迄のようだ、ユキの魂が目を覚まそうとしている。続きは、また新月の夜に頼むよ」
すっと、立ち上がると微笑みながら私の頭を撫でてから、ゆっくりと広場から離れていく…
離れていく後姿から視線を外すことが出来ず、固唾を見守る様に、ただただ、彼の後姿を眺め続けてしまった。
彼が去った後も、思考が定まらず、ぼんやりとベンチに座ってしまう。
理性的な私が、また風邪をひくから早く部屋に戻って布団の中で呆けろっと言ってくる。
情熱的な私が、撫でられた頭の感触を反芻するかのように何度も何度も、思い出しては照れて笑っている。
冷静的な私が、彼の言葉を何度も何度も矛盾が無かったのか粗が無いのか探りだす。
乙女的な私が、次の新月の夜にまた会おうと約束を取り付けてくれたことに大喜びでジャンプし転げ回っている。
冷酷的な私が、彼がいう西の大地に赴いて現地の人に歴史を聞くのはどうだろうかと提案してくる。嘘で在れば処せと…
初心的な私が、お尻に敷かれているハンカチがまた増えてしまった、彼にはどうやってこの礼儀を返すべきなのだろうかと、頬を染めている。
…様々な湧き上がる感情をどうやって統一すればいいのか、判断が出来ない。こんなことは初めてだったから。
取り合えず、現時点でわかっていることは一つ、身の安全を考えるべき。
冷静で理性的な私が言うように、まだベンチにある彼の温もりが消えてもいないというのに!
尾を引かれながらもベンチから離れ、夜空の星々に見守られながら自身の部屋に向かってふらふらっと足元が暗いにもかかわらず地面を見る事も無く天空ばかりをみつめ、覚束ない足取りで帰路に就く。
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