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Dead End ■■■■■儀式 Day 1 (Ⅴ)
しおりを挟む早朝に目を覚まして、身支度を整えいつでも外に出れる様に仕度をしてあるので、荷物を街の玄関口まで運ぶ。
まだ時間もあるので、早朝と言えば、日課としてジョギングしているであろう先輩に声を掛けに行く。
声を掛けると私の身支度が整っている状態を見て直ぐに察してくれたみたいで「気を付けてな、いいか?絶対に約束は守れよ?」ジョギングの影響で汗が溢れ出ているのを拭いながらも真剣な瞳で諭すように、見守ってくれるような暖かい雰囲気を感じた。
去り際に姫様の事をお願いすると心配するなと力強く頷いてくれたので、医療班全員が姫様を支えてくれるだろう。
早朝なので姫様が起きてくることはないので挨拶はしなくてもいいでしょうね、わざわざ起こす必要はない。
玄関口で馬車が来るのを用意されている木製の椅子に座って待っていると農場エリアからゆっくりと荷車を引きながら進んでくる大きな姿が目に留まる
マリンの姿は、遠くでも直ぐにわかる。
マリン・パライバ
愛する騎士様、戦士長の愛弟子の一人、共にあの事件を乗り越えたこの街で最強の一角
粉砕姫という二つ名を持つ彼女の肉体は2メートルを優に超えている、彼女の怪力であれば馬や牛に荷車を引かせるよりか、速くに到着するでしょうね。
馬や牛たちが運べないような重量でも問題なく運びきるだろうしね、その上、速くに運べるだろうし、盗賊なんて怖くないから、彼女が大事な商品を運ぶのが適任じゃないかしら?
そんな、最強の戦士が今では、農業エリアの開拓主であるララ・ストックさんと結婚し幸せな家庭を築いている。
嗚呼、そうよね、名前もパライバからストック姓に変えたんだったわね、この大地では婚姻した際に、特に姓を変える風習はないけれど、姫様が知るとある国では嫁入り、婿入りするときに本当の意味での家族、一族の一員になるという意味として姓を変えると教わったみたいでそれに倣ってマリン・ストックと名乗るようになったのよね。
それにね、パライバっていうのがマリンの育った村では村長の一族って意味合いがあるみたいで特別な意味があるみたい、それを永遠と名乗るわけにはいかなかったのかもしれないわね。
私達の名前に、土地土地での風習が色濃く残っている、ピーカ王子の名前の前にある【 ル 】も確か、たしか…何処かの土地での風習じゃなかったかしら?その土地で生まれ、役割を与えられたものが名前の前に【 ル 】を付けるのだったかしら?
「お?あんだい先生じゃねぇか!朝も早くに珍しいこともあるもんさぁねぇ」
ズンズンっと足音が響き渡りそうな音を出しながら近づいていき、通りすがりに私の姿を見ると声を掛けてくれる、相変わらず先生なんて仰々しい呼び名ね、名前で呼んでくれてもいいのに。
同じ人を愛した間柄でしょう?
「おはよう、マリン、相変わらずの巨躯の肉体美ね、その健康そうな肉体に堅牢そうな状態で何よりよ」
「あんだって?先生は時折、わかりにくい言い回しするからねぇ、あたいみたいに学のない人間にもわかるように話してくれよぉ」
頭をぼりぼりとかきながらぶっきらぼうに答えてくる辺り、変わりは無さそうね。
「長話でもしてぇけどさ、納品しねぇといけねぇから、また後でな!」
ズンズンっと足音を響かせながら前へ前へと足を運び続ける姿を見送る。
音から察するに結構な重量を引いているのだと思うのだけれど、その重さを感じさせないくらい軽々と扱っている、だってその重そうな荷車を片手で押して、片方の手をひらひらと私に向かって振りながら進むんだもの。
化け物ね…愚かで何も持たない、もたざる者からすれば、才能があるだけで、天から与えられたものがある時点で、羨ましいと感じてしまう。
私もあれくらいの特異なる力があれば、騎士様を守れたのに、どうして私には何もないのだろうか?何も持っていないのだろうか?持たざる者が、持ちえる特別な人を愛したのがいけないの?
納品するための場所に向かって進んでいく巨躯の女性、誰からも特質的で特別だと感じる後ろ姿を見送りながら、ゆっくりと沈んでいく月を見ながら、馬車を待つ。
馬車がこの街に到着する時刻なんて決まってもいないし、発進時刻も決まっていない、なので、馬車を利用するときはひたすらに待ち続けないといけない。
この街の玄関口なんて、誰も居ないから馬車が到着したなんて誰も知らせてくれないし、馬車もここから先に足を運べない、運ぶことが出来ない。
理由は単純に、ここから先に行くのを獣である馬が拒むから
特殊な訓練でもしない限り、この玄関口から先に進もうとする生き物は人だけだろう。
嗚呼、気持ちが悪い虫や爬虫類くらいはこの街に向かって進んでいるかもしれないわね?苦手だから視界にいれないようにしているから気が付かない場所でいるかもしれないわね。
先ほどと同じように視線を空に向けると薄っすらと月が見える、そういえば、挨拶がまだでしたわね、おはようございます始祖様、愛する騎士様は活躍なさっておられますか?始祖様と肩を並べられておりますか?…いつか、私も其方に向かいますのでその時は、是非とも所属の方は、是非とも騎士様の傍に配属してくださいましね?こう見えて、毒の扱いには自信があります。
何もすることが無いので、ぼんやりと月の裏側に向けて挨拶をしながら待ち続けていると
「おや、まだいたのかい?っていうか、馬車はもっと遅くに来るだろう?暇なのかい?」
カラカラという車輪が回る音と、共にマリンが声を掛けてきたと思ったら荷車を道から少し離した場所に置きドスンと私の隣、地面に座る。
誰が置いたか知らない、玄関口の椅子は一つしかない、その椅子は朝早くから私が独占しちゃっているから座る場所なんて地面しか無いものね。
まぁ、戦士の時から大地に座るのが当たり前だろうから、汚れるっからっていう概念がないでしょうね。何処に座ろうが個人の自由よ。
そんなことを考えながらじとっと見ていると
「あたいはいいんだよ、お行儀が悪かろうが何だろうがあたいは何処でも座るさ!先生みたいに綺麗なおべべを着ているわけじゃねぇからな」
どうやら、考えていることが伝わってしまったみたいね
「別にいいんじゃないの?貴女は貴女、私は私よ、意味もなく咎めたりする様な心の器が小さい事なんて言わないわ」
この場所であれば礼儀作法なんて意味をなさない、無意味、不必要だものね。知る必要性すら皆無よ。
「それよりも、仕事は良いの?農業エリアは何時だって大忙し、じゃないの?」
財務の管理も私が行っているから農業エリアが常に人手不足なのは知ってるわよ?私なんて構っている時間が惜しいんじゃないの?
「別にいいさぁね、急ぎの仕事は納品だけさ、ここでちょっと座って友達と小鳥のような囁きをするくらい、お天道様も目を覚ましてないんだから見逃してくれるさぁね」
あら、珍しく詩を嗜むじゃない
「そうね、矮小な世界に影響を及ぼさない小鳥が二羽、瞬きをする刹那の間くらい自由奔放に囀るくらい許されるわよね、だってこの大地には捕食者もいないものね、共に小鳥遊とまいりましょう」
「ぁあ、たか、なしがなんだってぇ?あーもう、あたいが悪かった!わかりやすく話してくれよぉ」
項垂れ乍ら頭をボリボリとかきながら降参降参っと、態度で示してくる。
っふ、こういった無駄な学なんて、こういう時くらいしか、使い道がないわね。
「それにしても、ここで馬車を待っているってことさ、王都へ行くんだろ?珍しいねぇ?実家で何かあったのかい?」
ここで座って待っていれば何処に向かうかなんて決まってるわよね、隣町に私が赴く理由なんて皆無だし、考えられる行先の選択肢、考えるまでもなく王都に行く以外ないものね。
「実家はいつも通り、何も変わっていないと思うわよ」
そういえば、王都にも納品している貴女であれば王都で何が起こっているのか事情を把握していそうよね、話を聞いてみても損はないわね。
「あーそうかい、実家がらみじゃねぇってなると…気を付けろよ?今の王都は、想像もつかねぇほど、全部が張り詰めている様にピリピリしてっからよぉ、不穏な空気どころじゃねぇ、色々と後ろ暗いやつらが堂々と表道路を歩いていやがるからなぁ、あぶねぇからな?絶対に危険な区域にいくんじゃねぇぞ?」
…嫌な情報ね、不穏な空気?後ろぐらい?どういうことなの?
詳しく話を聞いてみると、次代の王を決める為に選挙をすると王様が宣言した、その次の日から街の情勢が大きく変化した。
投票期日までに王子たちは民衆と関り、寄り添い、次の王として認められるために指示を得、票を集めよという御触れが出たけれど、王が理想としていた状況とは違って、民衆に寄り添うどころか、力による統一がなされようとしている。
そのため、王都に蔓延る闇が表立って動いていて犯罪が発生しまくってる?
人攫いに、人殺しに、何でもありの状況で王都騎士団も癒着か何かか知らないが機能していない箇所もある?
…そんな危険な話を聞かされちゃったら、ちょっと怖くなってくるじゃない、行きたくないわねぇ。引き返せるのなら引き返したいわよ。
マリンさんと懇意にしている人達も今の状況に怯えていて表に出れないと、色々と困っているみたいで、王都全体が大変みたいなのね、王都にいる闇だけじゃなく、王都周囲にいる盗賊団たちも王都に集まりつつあるの?
その話を聞いて脳裏に過るのがアレの影響…誰もが思っているでしょうね。
アレ、名前を呼ぶことすら恐れられ畏怖される王子…エンコウ・センア・イレブン
11番目の王子でありながら頭角を現し王子の中でも1番の才覚、戦闘技能だけでなく知略も優秀で、人を惹きつける不思議なカリスマがあると言われている…
そのカリスマ性は表も裏にも響き渡り、彼を崇拝する貴族は数多くいて、彼の為なら命を捧げることも厭わない奴らが多い。
お父様から教えてもらっていたけれど、11番目と言っても王族の中で見れば、年齢的に言えば大して差がない、最年長は既に崩御されているので実質彼が一番の最年長となる
っというか、現時点で存命している王位継承権がある王子って何席…ご存命なのかしら?王子の崩御は普通であれば大きく報道されるものであるが、人知れず消えていることが多い。
生きているのか死んでいるのかわからない王子が数名居る。
私、そんな危険な街で手伝いをしないといけないのよね?こんな状況で呼びつける?こんなか弱き乙女を?嗚呼、嫌な予感がする話だけして逃げ帰ろう…
王都からの馬車が到着し、荷車から王都の商人に買い付けしたであろう品々を下ろして、その場に置くのを手伝い、マリンと別れて馬車に乗り込もうとするが馭者に、本当に王都に行くのかと念を押される…
そんなに危険な状況なの?手紙で返事を返せばよかったかしら?でも、何処に手紙を送ればいいのか、わからないのよ…
そうなのよ!最悪、手紙で返事を返せばいいって思ったわよ、でもね、王族にどうやって手紙を送ればいいのよ?届くわけないじゃない、送り先がわからないのに。
私が絶対に赴く様に仕組まれている様な気がしないことも無いわね…
どうしても行かないといけないと伝えると、神妙な顔つきで頷いてくれる。何か事情があるのだと察してくれたのだろう。
王都に向かう最中も無言で送り届けてくれた、普通はこういう時ってね、道中、暇になるから絶対に無駄話が始まるのに、一向に始まる気配が無い、きっと始まらないのも自分は無関係でいたいからでしょうね。
世知辛い世の中になろうとしているのかもしれないわね、迂闊に誰かと縁を結んでしまった結果、不幸になるような…周りの人、全てが敵になるような時代。
嫌な時代になろうとするのは良くないわよね、人間同士で争っている場合では、ないだろうにね。
やっぱり王都に住まう人達は、あの街の先にある大穴から生まれ出る人類鏖という行動思念しかない獣達を軽視しすぎなのよ。
あの大地に、あの奥に住まう、あのような怪物が、他にもいるのだと考えるだけで、背筋が凍り付きそうになる。
騎士様の命を奪った二足歩行…猿とは明らかに一線を画す出で立ち、あの存在が悪魔だと言われたら誰しもが納得するだろう。
その存在を知らない、それだけで幸せだねっと思ってしまう程の絶対的な恐怖。
背筋が寒くなるのを感じながら馬車の揺れを感じ、この先に待ち受ける試練から逃れる方法はないのか考えてしまう、気のせいかもしれないが、王都に近づくにつれ耳鳴りがするような気がする。
王都の入り口である門の前に到着したので、馬車から降りてくれと言われるので降りる、どうせなら、行くべき場所である手紙の指示通り、教会まで乗せて行って欲しいけれど、行き先が違うのよね、しょうがないから歩いていきましょう。
それにしても、周りを見回してみても、一年ぶりの王都は何も変わっていないように感じるわね。
表玄関口である門から見た世界だからかしら?中に入って進んでいけば何か変化を感じるのだろうか?
うーん?何処からどう見ても平和そのものじゃない?マリンが気にし過ぎでは?っと、この瞬間の景色を見て楽観的に考えるのも阿呆よね?あのマリンが真剣に危険だと伝えてくれた話に、馭者の態度からして表面だけでも綺麗ってことかしら?…でも、マリンの言葉通りならこの表通りも危険な人物達がうろついているのよね?
そうであれば、阿呆ではない私がするべきことは、心も体も臨戦態勢にして警戒しながら進みましょう、ここから先は毒の名手として動くのが吉ね。
どんな暗部だろうが、タダでやられる私じゃないわよ?
私だって多少の心得はあるわよ、貴族が通う学院でしっかりと研鑽を積み、愛する騎士様にも手ほどきを受けているのだから、ちょっとやそっとの輩じゃ負ける気はしないわね、油断さえしなければね…
それにしても、王都って
こんなにも耳鳴りがするような土地だったかしら?ヒィィィンっと響く様な音がずっとする煩わしい、鬱陶しい、集中力が削がれるじゃないの。
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