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とある人物達が歩んできた道 ~ 脅威を取り除く③ ~

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全員が感じていることは一つ。

そんな、危険なこと尚更、許せるわけがない!!

なので、止めようと声を出そうとした、その瞬間
「ぁ、その、私は一緒に行けないよ?だって、魔道具を起動して座標を固定する役割は私しか出来ないもの…それに、さっきも言った通り一人しか送れないよ」
全員が胸に宿した心の憤りが一瞬で鳴りを潜める、なら、何を言い淀んでいたの?

「その、認識阻害の術式を刻印するための道具が無いの…」
あ!それも・・・そうよね、ペンも何もないじゃない!なら、どうやって術式を刻むのよ!!
…ん?刻印?ってことは、鎧にでも書くつもりだったのかしら?
…坊やの鎧って王族御用達の意匠が創った逸品よ?めちゃくちゃ高いわよ?
…ぁ、そういう意味で言い淀んでいたのね!!

「ないけれど、刻印するための道具は、ここで作り出せる、けれど、けど、その、材料がその…」服をぎゅっと握りしめ、しわしわになりながらも、言葉が出てこない。
歯切れが悪いわね?あれかしら、道具を作る際に音がする、だから、その音を聞いて敵が寄ってくる、とか、かしら?全員がそれくらいなら何とかするけど?っという顔で姫ちゃんを見守っていると

この先が言い淀む内容みたいで、姫ちゃんから、ごくりと喉を唾が流れる音がした、一際俯いて、服を更に力強くぎゅっと握りながら小さな声で
「…刻印する材料は血、血が必要で、血なら、こくいん、が、かのう…な、の」
嗚呼、そういうことね、誰かの血が必要ってことね、それは確かに言い淀むわね
「血を…その、剣先とかを少し変形させてペン先の構造に変えてから、血を剣先に…漬けて、血をインク代わりにして鎧の内側に刻印して、魔力を通せば発動するように…できるけど、かなりの量の…血が、ちが…必要なの…」
野外での出血はリスクを伴うことが多い、純粋に衛生面でもよくないし、敵が獣という特性上、血の匂いに敏感なのよね、血の匂いに誘われて、更に、敵が寄ってくることが多くなる、確かに言い淀むだけの理由ね。

全員が姫ちゃんが言い淀む内容にそれは、言いにくいよなっと、頷きあっている。
そうよね~、血が必要という事態に確かにリスクわよね。でも…それくらいのリスク、気にしないわよ。私達ならね。

「いやだよね、誰だって自分の体を傷つけたくないよね…」
俯いきながらも零れるように出てきた言葉で、姫ちゃんが言い淀んでいた理由が私達が考えていた理由では、ないと気が付く、血を取り出す過程、痛みを強制するという人が傷つくということに、言い淀んでいたのね。

人の痛みがわかる優しい子ね、ここに注射器が複数あれば、たぶん、ここまで言い淀む事は、無かったでしょうね、この場で血を出すということは腕とかをナイフで切らないといけないものね。それを、強制するような提案は避けたかったのね。

「姫様、血は穢れても良いのか?」
騎士一号が、俯いている姫ちゃんに優しく声を掛ける、膝をついて目線を姫ちゃんに合わせ、優しく、子供に問う様に声を掛けると、俯いてた姫ちゃんも顔を上げて答える
「うん、穢れてても大丈夫、治療の為に誰かに輸血するとか、そういうのじゃない、血がベストなのは粘性に、魔力が溶け込みやすいっという特性があるから、尚且つ、色的に暗闇でも文字を描きやすいから、書き間違いっていうリスクも減らせれるの」
ぶっつけ本番で、こんな月明りだけの状況で文字を書くのですから、そりゃ、書き間違いが発生する可能性もあるわよね、今は勿論、灯りなんて消してるわよ?
「敵の体液でも可能かもしれない、けれど、あいつらの体液って透明に近いから…それに、粘性も低い、それだけじゃなく、触媒としての作用って、試したことが無いから魔力の伝達力っていうのが未知数なの。現状、私の経験と知識から、考えると、人の血の方が最も魔力を込めやすく、術を安定させれると…思う」
そうね、研究が未熟な触媒よりも、経験的に自信がある方がいいわよね。認識阻害の術式を発動するために血の方が触媒として魔力を込めやすいのと、坊やが術式を発動させる陣に魔力を込めやすくするため、人の魔力と親和性の高い、人の体液という触媒の方が人が持つ魔力が馴染みやすいってことね。

封印術式で血を使った、という経験が、こういったところで生きてくるものなのね、何処でどの様に得た知識や経験が生かされるなんて、ほんっとわからないものね。

話を聞いていた騎士一号は、唐突にガッガッっと音を出しながら地面を、つま先を使って蹴るようにして穴を掘り始め、一定の深さまで掘ったと思ったら、手早く自身が身に着けている兜を脱ぎ、掘った穴に兜の天辺から、力強く嵌め込み転がらないのを確認する
「であれば、血を貯める器が必要だな…血を入れたところで倒れることはあるまい」
腕をまくり躊躇ずに携帯しているナイフで前腕を切る、前腕から血が流れ、指先から血が滴り落ちていき、兜の中に血を注いでいく。

その光景を、姫ちゃんは、青ざめたような表情で呆然と眺めている…敵は解体できるけれど、こうやって誰かが血を出すのは苦手なのかしら?年相応な部分もあるのね。

腕を切った、とはいえ、血が永遠と流れるほど深くは切れていない、どうしても人類が持つ血を止めるという構造の為、少し時間がたつと血が止まる、当然、再度、血を注ぐためには何度も何度も腕を切らないといけない、騎士一号はぐっと眉間に力を入れ、ギリっと歯を食いしばり、ナイフで腕を切ろうとしたときに他のメンバーが制止する
「姫様、血は混ざっても問題ないか?」
その言葉に、青ざめた状態で声が出せないのか、ゆっくりと頷いて返事をすると
「なれば、俺の番だな」
騎士一号を制止した人も躊躇わずに腕を自身が携帯しているナイフで切り、兜の中に血を注いでいく。

その流れに沿って、メンバー全員が、兜の中を満たす為に、次々と腕を切り血を注いでいく。

現場に包帯なんて上等なものは持ちえていないので、医療班として私が出来ることは何があるのか、考える、手始めに、医療行為をするために何か持ってきていないかと持ち物を思い返す、手で手持ちで何か無いかと探っていると、ポケットの中にある紙のことを思い出す。

最近、筋肉の疲労が溜まりすぎているので、何処かのタイミングで少しでも筋肉を回復するために、常に携帯するようにしている回復の陣が描かれている紙を取り出し、治療行為をするために動き始める。

腕を切った戦士の方達を回復させるために、切った傷を回復させようと、まずは、いの一番に腕を切った騎士一号に近寄り声を掛けると
「それは、魔力が必要なのだろう?使い方だけ教えてくれて、話を聞いている限り、あんたは、魔力を消耗しているのだろう?」
手に持っている紙を渡す様に手を出される、本来であれば医療班である私の仕事だけれど、彼の意志を優しさを尊重するために使い方を教えると
「なんとまぁ、便利なものだな…これに、俺は救われたのだな、姫様には感謝を…」使い方も魔力を通すだけという簡単な方法に驚き、受け取った紙を目の前に掲げ、目を瞑り感謝を捧げている。

感謝が終わった後は、さっそく手に取った陣に魔力を通すと腕の傷が癒えていく、傷が癒える速さに驚いている。
そうなのよね、大怪我をした貴方を、今までの常識っというか、医療班の持てる技術だけでは、正直にいうと、命を救えるかどうかは、ギリギリだったのよ。
内臓を縫合して血を止めたとしても、術の内容的に体を切りすぎているのよね、だから、予後不良になる可能性が物凄く高くなってしまう、賭けに近い治療方法なのよ、まぁ、それをしないと死んでしまう程の大怪我だった、術後の回復過程を飛ばすことが出来るほどの回復力、生命力を高める、そんな画期的な術式がこの世界に存在するなんて、信じられないわよね。

騎士一号が回復を終えると、他の戦士達にも回復の陣が描かれた紙の使い方を説明する、全員が騎士一号と同じように陣を使って切った腕を治していく。
全員が同じような反応をしている、戦士達は長い経験によって知っている。怪我をするという苦痛や、治るまでの過程、現場に復帰するまでの心苦しさを経験しているからこそ、怪我をするということは全てにおいてマイナスであると知っている。その常識を覆すことが出来る新しい技術に涙する人もいた。

姫ちゃんは、血が注がれ、回復の陣によって驚きの回復を体験し感動する姿を見て、皆の意志を汲み取ったのか、感じ取ったのか、目に力が宿っていた。
皆の血が注がれた兜を手に取る前に両手を合わせて祈りを捧げるように目を瞑る、祈りを捧げ終わったら兜の横に坊やの鎧を置いてもらい、坊やの鎧の内側に陣を描き始めている。
何時の間にペンを用意したのだろうかと、ペンも無いのにどうやって描いているのか、作業している姿を覗き込んでみると、何時の間にか木の棒を器用にペンと同じような構造に削ってある木でできたペンを握って刻印を施していく。

何時の間に用意したのだろうか?

不思議そうに眺めていると「弓兵が自分の矢から矢じりを外して、弓矢の木で出来ている部分を器用にナイフで削ってこさえてくれたんですよ」いつの間にか隣に居る、坊やが状況を説明してくれる。

不思議も解決されたことだし、姫ちゃんの邪魔にならないように少し離れると、坊やも一緒についてくる、それもそうね、今、この周りは姫ちゃんを守るように戦士の一団が輪になって周囲を警戒してくれている、鎧を着ていない坊やは安全な場所で待機するのが当然よね。

少し距離を取ると、ポツリと呟く様に坊やが話しかけてくる
「あの子は、凄いですよね、12歳…でしたよね?」
ええ、そうよっと頷きながら返答する
月明りで見えにくいから表情が読めにくいけれど、驚いているのは確かね。

「僕が、12歳の時なんて、どうやって孤児院から飛び出て英雄譚に描かれているような冒険に出るのか、そんなことしか…考えたことが無かったですよ」
わんぱく坊主だったのね、12歳の男の子って、考えると年相応って感じよ。
私も12の時なんて…何をしていたかしら?虚ろに、何も考えずに生きていたようなイメージしか湧いてこないわね…
明日がどうなるのか、明日をどうやって生きるのか、どうして生きているのか、何も考えていなかったわね、漠然と側室として生きるしかないのだろうなぁって自分の人生に色が無く山もなく、谷すらなさそうな、何処にでもいるような何処にでもあるような生き方しかないって虚ろな日々を送っていた…そんなイメージしか残っていないわ。

「あの子が来てから…街が少しずつ、変化していくのが、凄く肌で感じるんですよね…」
お互い、あの街では苦労したものね、生きることに必死だった。それが、姫ちゃんが来てから、
財務状況も良くなっているし、気が付くと、街を機能させている設備とかでも、些細な部分で変化していることがあって、これどうしたの?っと、確認すると、誰かが設備を整えたと教えてくれる、一体誰が便利なものに変えたのか色んな人に聞いて追っていくと、最終的に姫ちゃんに辿り着くのよね、改良案を発案して、それを出来る人に頼んで、改良してもらったりね、奥様が言っていたわ、「研究塔の長は彼女よ」って…来てたったの2ヶ月で世代交代宣言する程の大活躍だものね。そりゃ、席を譲りたくもなるわね。

今まで、街の中にある道なんて、土だった、でも、今は違う。
昔は、舗装なんて概念がないから、でこぼこしているし、雨が降ればぬかるんで動きにくい、そういった理由もあって街中まで馬車を走らせたくないみたいで、行商の人も街の入り口付近までしか来てくれなかった、けれど、今は、街の中も綺麗に道が舗装されているから、行商の人も、畜産の旦那も、街の奥まで馬車で入ってきてくれるので資材や、食材の運搬が凄く楽になったのよね。

「僕では絶対に出来ない方法で、彼女は街に希望を与えてくれている、敵の動きを読みきり、敵の力を利用して、あんなにあっさりと2足歩行を仕留めれるなんて…考えたことも無かった、今までとは違う戦闘方法、戦力的っというか、機能的っというか、今思い返しても凄いとしか表現できない、あれが、知略というものでしょうか?」
坊やは、騎士様とチームを組んでずっとずっと、長いこと…2足歩行と闘い続けてきたものね…だからこそ、前回倒した敵が、強大で危険な存在であると経験でも知っているし、簡単に倒せる相手ではないと骨の髄まで理解しているものね。

「正直言うとですね、前回の2本足と闘うことになったときに、僕は…感じていたんです、死を…ここで、死ぬのかと、愛する我が子を抱き上げることもなく死ぬのだと…闘いの最中に死を悟って、戦士としてあるまじき考えに至ってしまったんです、死を、甘い死の誘惑を受け入れてしまっていたんですよ、少しでも楽に死ねるといいなぁって…」
珍しく坊やからの口から出てくる弱気の言葉に驚きなんて感じないわよ、騎士様という存在がどれだけ、坊やにも希望を与えいたのか、考えるまでも無いわよ。
弱音を吐く坊やの体は、小さく震えている、仕方がないわねっと、心の中でため息をつきながら、まだまだ成長途中の坊やの心を支える様に肩を抱き寄せて
「それでも、貴方は立派に戦ったじゃないの、貴方が前に居たからこそ多くの命が救われたのよ、自身を持ちなさい…騎士様も貴方の闘う姿を見て誇りに思っているわよ」
「・・・・はい」
静かに涙を流している坊やの肩を力強く抱きしめる。
不安でしょうがなかったのよね、頑張ろうと立ち上がろうと必死になっていたのね、今までは騎士様がいて、乙女ちゃんがいて、巨躯の女性がいて、そのみんなと連携を組むために何度も何度も切磋琢磨し、練度を磨いてきた、同胞ともいえる程に、常に一緒に行動して来た仲間がいた…

前回の戦いでは、その殆どが命がけの現場から失われていたもの…不安で仕方がないわよね、そして、これからの事を考えるとより深く心がまいってくるわよね。
そりゃ、弱気にもなるわよ、坊やは命がけの任務に旅立つ、今の状況で、やっぱり怖いので無理です、なんて言えないものね、今のうちに不安や恐怖は吐き出しなさい、騎士様を愛した女として、騎士様が愛を持って育ててきた愛弟子のケアくらいしてあげるわよ。

「俺…今回、生き延びれたら、したいことがあるんです」
あら?突然、何よ?珍しいわね、自分語りなんて、したいことが出来るのは良いことよ?心の支えに繋がるもの、少しでも自分を支えてくれる柱は増やしておくべきよ

「何がしたいの?」
抱き寄せている肩をポンポンっと叩くと
「色街にいきたいですっ!…」
条件反射で頭を叩くと、ぇ?っという、何で?っという、感情が伝わってくるほどの、驚いた表情でこっちを見るんじゃないわよ!こいつ!優しく、抱き寄せてあげてたら、人の優しさにつけこみやがって!目の前にある胸に欲情してしまったんでしょ!!はぁ、もう、こいつはぁ!!
「乙女ちゃんにも、あいつにも黙っててあげるから、戦士の一団に許可を取ってこっそりと、遊んできな!!」
「ありがとうございます、実はもう、前回教えてもらってから、もう、好奇心が抑えきれなくて…孤児院に居た時から、噂には聞いていたんですけど、何処の街なのか知らなくて、へへ…」
へへっと、だらしなく鼻の下を伸ばしながら照れるんじゃないわよ、まったく、はぁ~もう、私も、恥ずかしくなってきたじゃないの。
今する話題じゃないわね~もう、不謹慎な話題のせいで、頬が熱くなってくるじゃないのよ!恥ずかしいったら、もう、姫ちゃんに聞かれていたら、どーするのよ…
これだから、男は、まったく…

あ~もう、連鎖的に思い出したわ!乙女ちゃんが泣きついてきた話題を!こいつが王都にある色街にしけこもうとしてたって話を、思い出しちゃったわよ!!!どうでもいいから、完全に忘れてたわ!こいつを育てたであろう人も、そういうのが好きなんじゃないかって話をね!!

うん、こいつはもう、どうしようもねぇ、好きに生きろ、その湧き上がる性欲をもって生きて帰って来いとしか言えないわね…
今度、乙女ちゃんに一夫多妻はありなのか、確認しておいた方が良いわね、嫉妬深い乙女ちゃんが良しという可能性は極めて低いだろうけどね!!…
文を認めて、確認するのもありだけど、その文が届いて読んだ瞬間に勘の鋭い乙女ちゃんだったら確実にブチ切れて街にすっ飛んできそうだから、文を認めるのは…色んな意味で危険ね。

うん!よそ様のご家庭に首を突っ込んで、内情を搔き乱すのは止めましょう!良くないわ、息を潜めている獣を挑発する行為は少なからず、此方も被害を被ることになるからね。

どうしようもない、やり取りをした成果、坊やの体から震えも消え去り、恐怖という感情が消えているのが伝わってくる、表情も暗くないし、良い感じに吹っ切れたって、感じね。これなら、無事、生きて帰ってくることでしょうね。

「終わったよ!」
声を掛けられたので視線を移すと、血液という名のインクを使って一仕事を終えた後だから、指先も赤黒くなっているし、汗を拭った影響もあって顔も血がこびりついているわね。その姿を見て心臓が止まりそうになるから、良くないわね、私の心の平穏を保つためにも血を拭ってあげたいけれど、水が無いのよね…

ちらりと、坊やに向けて視線を移す…いい顔してるじゃない、漢の顔ね、腹も決まって、胆も座っている、冷静に日常を過ごすかの如く、平穏と平静を勝ち得ている。
こういった人は、どんな状況でも冷静に立ち回って任務を完遂するわ、安心して送り出せるわね。

坊やは、ゆっくりと姫ちゃんに近づき、術式の説明を受けながら、装備を整えていく。

戦士の一団からも非常食である丸薬や、水を受け取っている、栄養面だけで見れば三日は活動しながら生きれるほどの物資ね。
装備を、整えた後は作戦の最終確認を行う。

凡その転送先から街へと帰還する為の比較的、事前に持ちえている長年の経験から予測されるであろう情報をもとに、敵の分布を話し合い、現状で考えられる最も、安全で尚且つ、会敵しないルートを構築していく。
此方側としても坊やがどのルートを通ってくるのか、凡その情報があれば、此方側も準備を整え次第に坊やを救出するために必要な遠征ルートを組める。

ルートの話し合いも終わり、坊やの荷物にしっかりと地図を入れると、坊やはゆっくりと深呼吸を繰り返し集中力を高めていく。

私達も手早く、敵から奪った陣を広げて、その中央に坊やを招き入れる。
全装備、全準備を万全とは言えないが現時点で最良の装備を身に着け、坊やは心穏やかに陣の中央に鎮座する。

誰も、集中する彼に声を掛けることなく、姫ちゃんの指示通りに陣に魔力を注いでいく。
膨大な魔力が必要みたいで、戦士の一団が一人、また一人と膝をついていく、相当な魔力量が必要みたいで全員の魔力で足りるのか不安ではあったが、最後の一人が膝をつく前に
「行くよ、生きて帰ってきてね」
姫ちゃんが送る為の言葉を伝えると坊やは静かに頷き得物を天に掲げる…きっと、彼の中では…出撃するときに謡う、あの呪いの唄を歌っているのだろう…

陣の上から突如坊やの姿が消える、陣が光り輝くとかそういうのもなく、忽然と姿が唐突に消える…
その瞬間を見ていた戦士の一団が奇跡の瞬間を見たと小さく呟いていた。

この場に留まるのは危険なので、急ぎ足で街に戻り、脅威が去ったことを伝える。
やっぱり、あの鐘が鳴ると街にいる全員が覚悟を決めるみたいで、決死の表情で出迎えてくれた。

事の経緯を説明するために幹部会を開始するので、幹部達を招集するのだが…
王都から派遣されているこの街を監視する為の人がいない、まぁ、騎士様がいた時は殆ど、会議に参加する人じゃないし、別段気にする内容ではないけれど、騎士様が居なくなってから、彼も過度に接触してくれる、その気持ちは、凄くありがたいのよね、いざって時に頼りにしてもいい人だから、気になるので、所在を確認すると、どうやら、この間の鐘が鳴るという状況を報告するために王都に向かっているので、席を外している、居なくてよかったと思う部分もあるが、居て欲しいと思う部分もある。

基本的に監視すると言っても、悪い意味じゃない、監視というよりも見守ってくれているに近い、彼の肩書上、監視と言わないといけないだけ。
ずっとずっと、昔から共に歩んでくれた御仁なので此方の落ち度を報告とか、王都から見て、此方の評価が下がるとか、政治的に不利になるようなことは一切しない、この街があるからこそ王都が存続できているのだと、人類を存続する為に命を賭すことも厭わない、己の使命は人類を守る盾であると誓いを立てて、信念をもって動いてくれている。

…騎士様の一族と古く長い付き合いのある歴史と伝統のある一族の人

だから、あの時も相談することが出来なかった、王族と関りのある人だからこそ、言えなかった。

もし、再度、鐘が鳴り、街の人達が命を賭けてまで戦うと決死の突撃をしようとしたら、己に課せられた王族からの勅命である監視という立場を捨てて闘いに参戦する可能性が高い…

もしも、彼がその戦いで命を落とすようなことがあれば、この街で謀反が発生したと思われ粛清の対象になる…

彼の命を持って助かったとしても、結局、人類から私達の命は刈り取られる結果になるでしょうね。

それに、連続とした危機なんて、騎士様がいた事態に無かった出来事だもの、お年を重ねられたその身では心も体も、堪えると思うのよね…なので、それらが、居なくてよかったと感じる部分ね。

居て欲しいと思うのは…正直に言うと、結果論なのよね、結果的に難なく撃破し、敵がこちらを攻める為に必要な、次の一手を防ぐために此方も最良の一手を選び、相手に打撃を与えれたという吉報とも呼べる報告をすれば、最近の緊迫した状況から多少は平穏になる可能性に、心労で辛かった胸を撫でおろしてくれたと思う。
騎士様も、乙女ちゃんも、巨躯の女性もいないという戦士達の層が薄い状況を憂いてるから、心配をかけたくないのよね…確認はしていないけれど、きっと彼なら、今の戦士達の現状を憂いてくれているだろう、

老骨の身で、何度も、何度も、心労をかけ続けてきたものだから、これ以上、心を乱すような思いを、してほしくないわね。
騎士様がいた時は左程、幹部会とかもきっちりと参加とかしないで、後から内容を確認していたりと穏やかに過ごしていたものね、殆どが王都で過ごしていて、王都とこの街を繋ぐ橋渡し的な立ち位置だったけれど、騎士様が亡くなった報を受けてから、この街にいることが増えたのよね…王都から帰ってきたら珍しく長いこと滞在するものだから、驚いちゃったわ。

今現在、王都に帰っているのも、この街に騎士や兵士を補填してくれるように頼みこむ為だと思うのよね、戦士達の現状が頼りないって言うのを肌で感じ取ったから、王都に帰って打診する為じゃないかなって、思うのよね、定期連絡にしてはちょっと気持ち…早いもの。

さぁ、ノンビリとしてられないわね、街に帰ってきて会議もささっと終わらせて、私達がやることはただ一つ!寝ることよ!
坊やには申し訳ないけれど、お風呂に入って直ぐに寝たわ、明日、朝早くから行動するために。

坊やを、死の大地から救出するために!!

幸いにも、壁で遠くを監視している人達から死の大地で何かが燃え上がるような光は確認されていない。

つまり、坊やは無事転送された後、魔道具を燃やすことなく持ち帰るために死の大地を独りで帰還するために動き続けている、筈なのよ。

それと、当然、魔力切れで項垂れている戦士の一団に魔力回復促進剤を強引に飲ませたわよ?
あの丸薬をゴリゴリと食べ馴れている戦士の一団でもこの液体が苦手なのは、変わらないのよね…全員が意を決して飲んだ後、その辺りを転げまわるように苦しんでいたわね。
騎士一号も飲んだ後は表情を崩さないように必死に姫ちゃんにカッコいい処を見せようとしていたけれど、表情が苦悶していたわね。

そして、その姿を見た姫ちゃんが「偉いね」って、いいながら笑顔で手を握って褒めている辺り、たらしの才能を持っているわね、この子…いや、賢いこの子なら…狙ってやっている可能性が高い!!
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