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第11章
第202話 調査依頼完了
しおりを挟む死した存在を幽霊のように見てしまうという、謎の噂を呼ぶ調査依頼が発行された森に、猫の獣人、治癒の女神、黒龍が足を踏み入れた。近くを通った者が行方不明になるという話は、森の1部に化けていた魔物の仕業だった。
死んだはずの者が見えるという噂なので、害がある訳ではないのだろう。幽霊だの化けて出ただの、人の不安や恐怖を煽るだけだ。中には死んでしまった親しい友人を一目見たいと訪れる者さえ居た程だ。当然魔物の餌食となってしまった者達が少なからず居るが、不特定多数の者達が実際に見ているという声があるので、噂は本当なのだろう。
そこで、自分達の場合は誰のことを幻視するのかと興味を抱いているのがリュウデリアとオリヴィアだった。ソフィーは純粋に噂の真偽を確かめ、この場ですぐに解決できるならしておきたいという思いなので、誰を見たとしてもやることは変わらないし、大した驚きもないし感心もしないだろう。
森に足を踏み入れて少しが経つ。100メートルは進んだだろうか。先頭を歩くリュウデリアは、辺りに霧が発生したのを確認した。不自然な霧だ。先程までそれらしいものは無かったのに、忽然と現れて視界を覆おうとしているのだ。翼を使って吹き散らしても良いが、これが噂の死人を見る前兆ならば散らすわけにはいかない。
攻撃的なものを感じないので放置しておくことにして歩みを進めていると、霧が濃くなってくる。濃霧となり、先の光景は見えなくなっている。そろそろか?と待っていると、リュウデリアの視線の先で霧が吸い寄せられて形を作っていく。人の形を作ろうとして……大きさが小さくなり手乗りサイズとなった。
「……なるほどな。彼奴らに化けるのか」
『──────なんで?なんでもっとはやくきてくれなかったの?みんな、しんじゃった……しんじゃったよ……あなたのせいで。わたしもしんじゃった。くるしい。くるしいよぉ……』
リュウデリアがスカイディアから捨てられて地上に落ち、辿り着いた森。その森を見守っていた精霊スリーシャと共に居た小さな精霊達。彼が居ない間に人間に攫われてしまい、魔力を限界以上に吸い出されたことが原因で1匹を残して残らず死んでいった者達。
どんな言葉を残して死んだのかすら知らない彼に、濃霧から生まれた小さな精霊は睨み付け、訴えるように言葉を紡ぐ。何故もっと早く来てくれなかったのか。何故助けてくれなかったのか。助けてくれれば、今も生き長らえる事ができたのにと。救えなかった命から吐き出される言葉は、彼の心に突き刺さる。
全く別の所に居て、命辛々逃げ果せた小さな精霊が来なければ最後まで気がつかず、スリーシャの命すら救えなかったことだろう。救いに行くのが遅すぎた。責められるリュウデリアは目を細めて、化け出た小さな精霊を見つめた。記憶にある彼女達そのままの姿。声色。喋り方。聞いていて辛いものがあるだろう。普通ならば。
「確かに俺は間に合わなかった。襲われていることを教えられた時には既に、お前達は死に絶えていた。オリヴィアが居なければスリーシャすらも死んでいたことは確実だ。だが、彼奴らはお前のようなことを決して言わん」
『どうして?わたしたちしんじゃったんだよ?くるしいんだよ?』
「助けを求めることも悩んだはずだ。俺が尻拭いは自分でやれと言うとでも思っていたのだろう。実際、大した親交もない奴ならばそう言っていた。俺の元に来た小さな精霊も、死にかけてまで来たというのに言いづらそうにしてから懇願してきた。助けてくれと。見放されることを覚悟でやって来るような奴等が、死んだのは俺の所為だと言うとでも思うか?彼奴らならば、『おかあさんをたすけてくれてありがとう』と言っただろう。死んだのが自分達であることに安堵したことだろう。そんな彼奴らの姿で何を言うかと思えば……」
──────俺の中の彼奴らを穢すな。不敬者が。
「今すぐに消えろ。それとも──────俺の手で消してやろうかァ?」
『……………………────────────。』
形を作っていた小さな精霊は、リュウデリアの言葉を聞いて元の霧へと戻っていった。彼の周りを覆っていた濃霧も晴れていき、元の森の光景が広がっている。再び霧が発生する様子は見られない。辺りを見渡して何も無いことを確認すると、はぁ……と溜め息を溢した。
小さな精霊が、リュウデリアのことを責めるはずがない。助けてもらえるかも分からない賭けだと認識していたのだ。それでもと、縋れるものに縋っただけ。結果、小さな精霊達が思っているよりも、リュウデリアは彼女達を大切な存在と認識していたので怒りを露わにし、王都を襲撃して人間を皆殺しにしてスリーシャを助け出した。
スリーシャよりも少ない魔力しか内包していない小さな精霊達は、限界以上に魔力を奪われたことにより衰弱して死んでしまったが、彼女達が生きていれば、きっとリュウデリアに感謝の言葉を贈れこそすれど、責め立てるような真似は一切しない。何せ、彼女達もまた、リュウデリアのことを大切に想っていたのだから。
「……お前達のことは忘れんぞ、小さな精霊達よ。……さて、オリヴィアは何か見たか?」
「……気分が悪い。あの前最高神が出てきた。はぁッ。実に不愉快だ……ッ!!」
「それは……確かに不愉快だな」
「あぁ。だからあの気色悪い顔を殴ってやった。霧に戻ってしまったが」
「やはり見る者によって見える者は違うのだな。おい、ソフィー。お前は何を見た」
「依頼先で関わった女の子……かな?病弱そうな感じの子が見えたよ。喋っててもなんて言ってるのか分からなかったけど……まぁ、気にするほどの事じゃないね。なんかボクのオバケだけあやふやだったなぁ」
「ふむ……明瞭に見えない場合もあるのか。何はともあれ噂は本当であったことが証明されたな。次は原因の解消だ」
「思い当たる節でもあるの?」
「俺を誰だと思っている。原因などもう見つけたわ」
「うわ、やっぱり見つけるの早いね」
霧が晴れた森の中で、リュウデリアは振り返ってオリヴィアに誰を見たのか問い掛けた。すぐ近くに居た筈の彼女すらも見えなくなる程の霧だったので、別のものを見ていると思っての問い掛け。その答えは実に不愉快そうなものだった。
性格の悪い前最高神のデヴィノスが現れたというオリヴィア。苛つきが一瞬でMAXまでいき、なんだったら限界を突破した。何かを言いかけた瞬間には顔を全力で殴り抜いていた。相手は所詮霧から生まれた幻なので、実際に殴れることはなく、霧散して消えたようた。
苛つきからくる刺々しい気配が伝わってくるのを、まあ俺でもそうなると納得した。ついでにソフィーにも何を見たのか聞くと、あまり覚えていない少女を見たらしい。長年冒険者をして人を救っているので、何処かで会った子なのだろう。そういう場合もあるのかと感慨深そうにした。
攻撃ではないので甘んじて幻を見たリュウデリアだが、実のところこの幻が発生する原因について把握していた。並外れた感知領域を持つ彼からしてみれば、森とはいえその範囲内の何処かという条件くらい軽く突破するのだろう。既に突破して原因の元へ向かっているし。
そこまで遠くに行く必要は無さそうだと、歩き出したリュウデリアの後をオリヴィアとソフィーが追い掛ける。オリヴィアはまだ原因が何かを見つける力が無いので仕方ないが、ソフィーは何となく察しているようだ。普通ならば気づかないのだが、流石は『英雄』だろうか。そんな彼女を、リュウデリアは目を細めて見た。
彼等が歩き進めて十数分が経過した頃だろうか。景色は森の中で全く変わりが無いのたが、リュウデリアが立ち止まってその場にしゃがみ込み、過度が削れた丸めの石を拾い上げた。何の変哲もない石。見た目は石だが、オリヴィアに見えるよう差し出すと魔力を注ぎ込み、刻まれていた魔法陣を浮き出させた。複雑な術式に組み上げた機構に、ソフィーは珍しそうな声を漏らす。
「スゴいね。誰がこの魔法陣を構築したのかな。ボクにも難しいよ」
「この距離でも記憶に干渉する魔法だ。手練だな」
「……何故この石に魔法陣が刻まれていると判ったんだ?」
「そこらの石に似たような魔力を付与し、巧妙に隠蔽していたが、この石にだけ魔法陣を構築した際の少し特殊な魔力を感じた。並の人間には判らんだろう」
「ボクも最初はあれ?って思う程度だったけど、近づいて漸く確信したって感じかな」
「私には判らなかった」
「仕方あるまい。まだ経験が浅いからな。その内気配で何となく察せられるようになる」
「これはやっぱり経験を積んだ方がいいね。リュウデリアみたいに鋭い感覚があるならまだしも、そうじゃないなら地道にやっていくしかないよ。あ、その石はボクが預かるね。ギルマスへの報告は任せて」
「面倒だから報告は全部お前がやっておけ。無理矢理ついてきたのた、それくらいやれ」
「報告するって言った手前、別に良いけどさぁ……絶対言わなくてもやらせてたよね」
「察しが良いのはお前の美徳だな」
「それだけじゃないからね!?……それだけじゃないよね?」
取り敢えず調査依頼の報告は全部ソフィーにやらせることにした。便利に使えるものは有効的に使うべきだろう。手にしている魔法陣が刻まれた石を、変な拍子に握り潰してしまう前にソフィーへ手渡した。手の中に渡った石を珍しそうにじっくり見てから、腰に付けた小さなバッグに仕舞った。
これで調査依頼の内容は全て終わった。森の近くを通った者が行方不明になる原因は、森の木に寄生したハイトレントが人間を捕まえて養分にしていたから。死んだ人を見る幻覚は、何者かによる魔法が原因だった。目的は不明だ。もしかしたら単なるイタズラだったのかも知れない。
幻覚の魔法を施した石を、こんなところに放置した理由は不明であり調べる方法が無いので何とも言えないが、原因を調べてくれという依頼なのでこれ以上のことを調べて明るみにする必要は無い。リュウデリアはそもそも、死んだ者を見るとしたら誰のことを見るのか興味があっただけなのだ。目的は達してしまっている。これ以上を知りたいならば、また別の人に頼むしかない。
「犯人はお前達が突き止めろ。俺達はもう興味がない」
「投げるなぁ。まあいいけど。頼むとしたらしっかりと報酬を用意するから受けてよね。君の感知領域の広さなら魔力の残痕で犯人の特定は余裕でしょ?」
「余裕だろうからという理由でリュウデリアを使おうとするな。『英雄』ならばそのくらいやれ」
「たはー。これでも多忙なんだよ?緊急なら受けるけど、原因は判明してるから優先順位はそんなに高くないだろうなぁ」
「犯人捜しなんぞはそこらの冒険者にでもやらせろ。それはそうと、王都の方にそれなりに強い気配が向かっているが良いのか?」
「まあ、このくらいなら他の人達に任せても問題……なんて?」
「ランクで言うならば……SからSS程の魔物だろう。それが王都へ向かっている。地中に魔物が居たことのに気がつかなかったのか?」
「なんで教えてくれなかったのっ!?」
「教えてくれとも言われていないし、教えてやる必要も無いかと思ってな。ついでに義理も無い。そら、早く向かわねば一般人共が死ぬぞ?少し毛色が違う魔物だからな」
「本っ当にボクに対して興味ないよねっ!お願いだから瞬間移動の魔法で送ってっ!」
「その脚で走れ。俺はオリヴィアとゆっくり歩きながら帰る」
「もおぉおおおおおおおおおお……っ!『駆け抜けん為の疾風を』ッ!!」
何でもないようにぶっちゃけたリュウデリアの言葉に、本当だろうかと気配を探ったところ、確かに大きく強い気配がある方向へ向かっていた。その方向にはソフィー達の王都がある。一直線だ。このままなら確実に襲うだろう事が解る。気配の強さから、自身が相手をしないとマズいと悟り顔を青くした。
点と点を繋いだ移動方法である瞬間移動で王都に返してもらおうとするソフィーだったが、あのリュウデリアが善意でそんなことをするわけも無く。仕方ないので自力で帰ることにした。腰に差した二振りの剣を引き抜き、鋒を背後へ向ける。魔力を解放して風を生み出せば推進力が生まれ、ソフィーは大地を駆け抜けた。
走る際に発生した風が木々の葉を揺らした。オリヴィアの着ているローブが煽られてたなびく。フードの部分を押さえてソフィーが居たところを見るが、彼女はもうその場には居らず、米粒のようになる程の距離を走っていた。流石は『英雄』だ。良い速度を出す。あの速度の出し方は参考にさせてもらおうかなと思いながら、オリヴィアはリュウデリアと歩いて王都を目指して帰路についた。
「しかし、何故突然になって『英雄』が動くほどの魔物が動き出し、あまつさえ王都を狙うんだ?特にこれといった刺激は与えていないと思うのだが」
「俺達はな。言ったろう、少し毛色が違うと」
「……?何者かが襲うように仕向けたのか。だが誰が……あ、もしかしてアレか?」
「そうだ。何かとしぶとい奴の仕業だ。今回の標的は俺ではないようだが」
仕留め損なう、逃げ足が早い謎の存在。何度もリュウデリア達に敵を差し向けてくるその存在が関わっていると言う。なので何の予兆も無く、突然強力な魔物が王都に向かって動き出した。冒険者ランクSSSである『英雄』ソフィーでないと太刀打ち出来ないと思われる推定ランクSからSSの魔物。
突然動き出すにしては強すぎる魔物。焦りながら大地を駆け抜けて王都を目指すソフィーに対して、リュウデリアとオリヴィアはゆっくりと帰っていく。王都が滅んでしまおうが、大した痛手は無い。読み終えていない本がいくらかある程度だ。ツァカルが宿屋で働いているのだが、彼等からすれば動く理由にならないだろう。
突然動き出した強力な魔物と、『英雄』ソフィーが対峙する。いつものように圧倒的力で終わらせるつもりだった彼女は、リュウデリアの言う毛色が違う魔物の強さを痛感することになる。
──────────────────
調査依頼
その1。行方不明者が何故出るのか調査。原因はハイトレントによる仕業と判明した。後にリュウデリアの手によって殲滅されたため、その後に行方不明者が出ることは無い。
その2。死んだはずの者を幽霊のように見る。原因は何者かが仕掛けた高度な魔法。石に魔法陣が構築されており、記憶に干渉して思い出の中の人物を見せる。石はソフィーが回収したので、今後森で幽霊を見ることはない。
ソフィー
リュウデリアに言われるまで強い魔物に気がつかなかった。瞬間移動で送ってもらおうとしたが、断られてしまったので自力で走って帰還中。リュウデリアが、毛色が違うと評している意味の重さを理解しきれていない。
リュウデリア
地面から魔物の気配を感じていたが、いきなりその強さ、内包する魔力量等が跳ね上がったのでん?となったが、謎の存在の気配を感じて納得した。いい加減チラつく気配が苛つくので消し飛ばしてやりたいと思っているが、逃げ足が速い。
オリヴィア
ソフィーが居なくなったので、リュウデリアとの2人きり空間を満喫している。恋人繋ぎをしながら腕を抱き込んで、好き好きオーラを飛ばしながらゆっっっくりと帰っている。
ソフィーが負けたら王都が滅んでツァカルも死ぬな……アイツ行く先々で不幸に見舞われているじゃないか可哀想に。としか思っていない。助けないと!と思わないのがオリヴィアらしい。
最近ブックマークや評価が伸びず、モチベが上がらないことを言い訳に1ヶ月くらい休んでいました。コンテストも中間すら通らなかった作品ですが、読んで楽しみにしてくれている人が居るので、自分の尻を蹴り上げて投稿します笑笑
コンテストは次回に期待します。応援してくださった方々、ありがとうございます。これからもよろしくお願いします!
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※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
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