純黒なる殲滅龍の戦記物語

キャラメル太郎

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第9章

第145話  隙を突く

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「──────これは……」



 最高神は今自身が見ている光景が何なのか解らなかった。最初は強い気配だと思っていた者が、禍々しいものを持っていると気がついて急いで気配の方へ向かっていった。そして見たのは、破壊され尽くした大地という光景だ。

 そしてそれを作り出しているのが、血のような赤黒い色をした毛並みを持つ、300メートルはある全高を誇る獣だった。足を踏み出せば毒が広がり毒沼を創り、吐く息は生物の穴という穴から血を噴き出させた。明らかな原因であり、禍々しい気配の持ち主である獣。

 こんなものが居たという噂は耳にすれど、深くは追求せずに放って置いてしまったことを今更になって悔やむ。そして鋭い感覚で獣から権能の気配があることに気がついた。何故この獣から権能の気配が……と思っていると、こちらに見向きもせずに神を喰らい散らかしているところを目撃してしまう。

 神は死んでも復活する。故に大丈夫だと高を括った。しかし喰われた神は復活しなかった。死んだのだ。神が。喰われただけで。復活することが無かったところを見て、事の重大さを再確認して、この獣は放置して良いものでは決して無いと決定した。故にやることは1つ。



「貴様はこの神界に居てはならぬ存在だ。早急に消えろ」



 最高神が持つ権能の能力は、触れた相手の権能をそのまま我が物とするというものだった。右手を翳す。集められて集束するのは光の粒だった。掌の前に集められた光の粒は光度を上げて光り輝き、一条のエネルギーとなって獣に向けられた。

 ちょうど獣の姿を丸々呑み込める程の規模となって向かっていった白い光のエネルギーは、照射し続けて10秒が経つ頃に止められた。視界が良好になって最高神は、この一撃で終わったと思った。光の高密度エネルギーだ。触れれば灼き消えるもの。

 しかし獣は健在だった。地が大きく抉れた様子はあれど、効いた様子は見られない。どうなっているのかと驚愕した。最高神の力は確かだ。撃ち込んだものは今までで耐えきれた者は居なかった。文字通り消し飛んだのだ。

 最高神は知らない。獣とは、神を殺す力を持っている一方で、神から与えられる攻撃に耐性を持っているのだ。つまり攻撃が効きづらい。相当な攻撃を撃ち込んだとしても、それが致命傷にはなりうることは無い。結果的に言えば、獣という存在そのものが神の天敵なのだ。

 端末である獣にもその力はコピーされているため、最高神の力……権能は耐性を持たれていて効きづらい状況にある。しかしこの耐性は神にのみ効力を発揮するため、龍であって神ではないリュウデリア達の攻撃は耐性も無くそのままの威力で受けるのだ。故に、プロメスという歴代最強の最高神が戦い、戦闘経験が乏しいと言えど苦戦を強いられたのだ。



「■■■■■■■■■■■■■……………ッ!!」

「──────ッ!!マズいッ!!」



 攻撃を受けた獣が振り向いて最高神を見る。気配を消していたので気づかれなかったが、攻撃を受ければ否が応にも気がつく。そして、一目見られた瞬間から獣は最高神を標的に定めた。バレた途端に殺す気による殺意が飛ばされ、肌が針を突き刺されたように痛む。

 先から神を襲っては喰らってを繰り返している獣だったが、権能持ちが居なかった。しかし、最高神という破格な権能を持っている存在が現れたことで、醸し出す神格から狙いを定めたのだ。これを喰らえば更に強くなる。いや、強大な力が手に入ると悟ったのだろう。

 逃げ惑う神々を放って置いて、最高神の方へ体の向きを変えて、牙を剥き出しにしながら低く響く唸り声を上げ、口を大きく上げながら雄叫びを上げた。雄叫びの音波が飛ばされて風に煽られる。顔を腕で守って飛ばされそうになるのを堪える。そして、音波がやんだ辺りで腕を退けて獣の方を見た。しかし居ない。

 何処へ行った。何処へ消えた。あれ程の巨体でそんな俊敏な動きが出来るというのか。そう考えながら辺りを見渡して獣の姿を探した時だった。自身の上から影が落ちてきて突然暗くなった。最高神は上を確認することもなく、その場から後方へ退避した。

 すぐ目の前を巨大な前脚が通る。振り下ろされた脚は、確実に最高神を一撃の下に潰すつもりだった。前髪を掠るか掠らないかという瀬戸際だったが、受けることも無かったので危ない回避だったが、今度はもう一方の腕を振り下ろされた。次も先と同じように避けたと思ったが、前脚が地面に付いたと同時に、何も無い上から強烈な重さがのし掛かってきて叩き落とされた。

 激しい音を立てて叩き落とされた最高神は、頭を振って打ち込まれた事で少し痛む頭に気付けをした。が、そんなことを獣の前でやっている暇は無かった。再び影が落ちてきたのでその場から前に向かって飛び込むが如く回避した。すると、先まで居たところを獣が噛み付いて、地面を大きく抉り取っていった。

 はらはらと土が口の中から零れ落ちる。巨体なだけあって口も大きく、回避に専念しなければ危なかった。そして最高神を喰らえなかった獣は、口の中に土があることも気にせず、回避した最高神に向かってまたも噛み付きに掛かった。



「く……ッ!!私を喰おうという腹積もりか……ッ!!」

「■■■■■■■■■■──────────ッ!!」



 2度目を後ろに跳んで回避した。3度目が来たので、宙を待っている状態で上下を変えて地面に手を付いてバク転をして器用に回避した。そして足を付けた瞬間に空中へ跳び上がった。しかしそれを見ていた獣が、宙に浮いている最高神に向けて4度目の噛み付きをした。

 両手を前に出す。展開されるのは半透明の超硬度を誇る防御壁だった。噛み付きは防がれて壁にぶつかった獣は、その後何度も噛み付きに掛かるが、防御壁を突破出来ないと判断すると噛み付くのはやめた。だがその代わりに、巨体を生かした突進を決行したのだった。

 半透明の防御壁に叩き付けられる強靭な超重量の肉体。防ぎきれると思っていた最高神はしかし、びしりと罅が入った防御壁に一瞬瞠目した。その数瞬後、展開された防御壁は粉々に打ち砕かれて突進が最高神を襲った。

 体の前面に訪れる衝撃は凄まじいものだった。視界が一瞬白く染まった気がするほどのもので、加えられた力によってその場から吹き飛ばされていった。飛んでいった先には岩があり、叩き付けられた瞬間めり込んでいって貫通し、その後も気をへし折って神物を蹴散らし、山の麓に打ち付けられて漸く止まった。



「ごほッ……がはッ……最高神の権能をあれ程容易に砕くか……ッ!!」

「──────■■■■■■■■■■■■■■ッ!!」

「チッ。どこまでも狙いは私という訳だなッ!!」



 山の麓で体をめり込ませながら嘔吐く最高神は、上に忽然と姿を現して落ちてくる獣に舌打ちをした。権能の気配といい今のように突然姿を現した力といい、嫌でも喰らった神の権能を使うことが出来ると理解させられてしまう。つまり瞬間移動が出来てしまうということだ。これならば逃げ切るのは至難の業だ。逃げるつもりは毛頭無いが。

 上から降ってきた獣が、両前脚を揃えて叩き付けてくる。防御壁は展開しても砕かれる可能性が高い。なのでここは受け止めるのではなく、その場から急いで回避するのが正解なのだ。最高神はめり込んだ状態から弾かれるように出て来て、背中に態と衝撃波を当てて加速してその場から退いた。

 獣のスタンプ攻撃が山の麓に打ち込まれ、地響きを起こしながら亀裂を入れ、山を三等分に砕き割ってしまった。やはり大きさは単純に攻撃力にも加えられてしまう。それに獣そのものの力もあり、非常に強い攻撃が繰り出されてくる。

 なのにこちらの攻撃は効きづらく、喰われれば大変なことになってしまう。実に戦いづらい相手だと思いながら、最高神は人差し指を立てた両手を指揮者のように振るった。すると最高神の動きに反応しているのか、獣の足下にある数々の木々が伸びて蔓のようになり、獣の体を拘束した。

 前脚後ろ脚を揃えて隙間無く縛り上げ、首にも首輪のように巻き付いて気道を潰し、口にも猿轡のように何重にも束ねて太くした木を巻き付けて噛めないようにした。胴回りにも巻き付け、引っ張って転倒させる。少し足下が揺れるくらいの震動と大きな音が鳴り響き、あれだけの動きをしていた獣が捕らえられた。

 首を絞められた状態なので苦しげに嘔吐いている獣を見下ろすように上に向かって飛んでいき、手の平を上に向けて腕を上げた。最高神の頭上に、燃え盛りながら冷気を放つ帯電した太陽が形成された。炎、氷、雷が混ざり合って太陽となっているのだ。大きさは直径1キロにもなる。

 そんな規模のものを叩き付けられれば、いくら神の攻撃に対して耐性を持っている獣といえど無傷とはいくまい。それどころか本体よりも少し弱体化している端末ならば消し飛んでも良いほどだ。勿論、周囲も多大な影響を与えることと、この獣を野放しにした場合の悪影響を天秤に掛けて、獣をこの場で殺すべきだと判断した。故に、多属性を持つ太陽を、獣へ向けて落とした。



「──────これで終わりだ。獣よ」



「──────最高神様ッ!!」



「……ッ!?何故此処に来たッ!!」

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!」

「──────ッ!?しまっ……」

























「……オリヴィアさん」

「何だ」

「……彼等は本当にあの怪物を全て斃せるのでしょうか」

「お前はリュウデリアが、端末とはいえ、あの獣を殺したところを見ただろう。クレアの方も見ろ、端末を出して少し弱くなったといえど、本体を相手に圧倒しているではないか」

「……はい。それはそうなのですが、私は嫌な予感がするんです」

「どんなだ」

「はっきりとは言えませんが、とても……とても嫌な予感がするんです。もしかしたら、今彼等が戦っている怪物ではなく、子を宿した方の怪物達に嫌な予感を感じているのかも知れません」

「姿が見えないからそう思うだけだろう。私達が来て戦い始めてからタイミング良く産まれる……何てことは無いだろう。タイミングが良すぎる」

「そう……ですよね」



 薄黒い魔力障壁の中で、オリヴィアとシモォナは適当に石の上に座って話をしていた。戦う力が全く無いシモォナが戦いの余波に晒されれば忽ち死に、時間跳躍の権能が途切れてしまう。オリヴィアは戦う力を持っているが、相手の神殺しの力を警戒して参戦はしない。そもそも、自身でもあの獣には勝てないと自覚しているのだ。

 護られているだけなのは仕方ないことなので、邪魔だけはしないように大人しくして観戦をしている。視線の先には元の大きさで戦っているリュウデリア達が居る。奪った権能を使われようが、持ち得る戦闘センスで跳ね返していく。瞬間移動をして避けようが、直感と獣の行動パターンから逆算して転移先を割り出して攻撃している。

 この光景を見て彼等が獣に負けると思う方がおかしい。シモォナもオリヴィアに言われなくても解っている。彼等は強い。端末ではあるが、既に獣をその手で殺しているのだから。だが嫌な予感が背中に張り付いているのだ。どうしても安心できない。

 そしてその嫌な予感というのが、リュウデリア、バルガス、クレアが戦っている雄の怪物ではなく、巣に居るだろう子を身籠もっている雌達に向いていると考えている。だが自分達が来た日に、子供が産まれるとは思えない。それどころか、さっさと雄の方を斃して雌の方を狙うだろう。どんな子供なのかと少し残念そうにしながらも、きっちり殺す筈だ。



「心配せずとも、あの強さを持つ獣はリュウデリア達からは逃げられんし、逃がしてもらえんだろう。最後は必ず斃すぞ」

「それならばそれでいいんです。私の考えすぎならば、それに越したことは無いですから」

「うむ。お前はこの場で獣が死ぬのを待っていれば……何だ?」

「あれは……」



 オリヴィアとシモォナは、リュウデリア達3匹が獣と戦っている様子に、何かが混じったのを見逃さなかった。少し離れていて見づらいので、オリヴィアがローブを使って遠くが見えるような魔法を使って混じったものを見た。すると、あぁ……と何か納得というか、感心する声を漏らした。

 その反応に、肉眼では見えていないシモォナが何を見たのかと問うと、武装した戦いの神達がリュウデリア達ごと獣に攻撃し始めたと言った。素直に驚くシモォナ。端から戦闘風景を見ていれば、混ざれるものではないと解るはずだ。なのに何故態々横槍入れるのかと思ったが、ふと思う。神は普通、その他よりも自分達がより優れた、神たらしめる存在だと思い込んでいる。

 神を喰らう獣も神が戦えば討ち取ることができ、神を殺す龍なんぞ所詮は地上の生物であって我々の敵ではないと思い込んでいるのだ。故に、神々はどれだけの戦いを繰り広げていようと、大きく固くなり過ぎた矜持によって、無理矢理参戦したのだ。

 だがそれだと、オリヴィアが感心する声を出した理由が解らない。きっと考えるよりも聞いた方が早いだろうなと思い、シモォナは何故感心したような声を出したのかと問うた。その答えは、獣に関することであった。



「周囲を闇雲に攻撃していたのは、近くに住む神を炙り出すためではない」

「え?では何を……」

「獣はな──────離れたところに居る神々を呼び寄せる為に態と強い攻撃を撒き散らしていたんだ。神という餌を得るためにな」

「えぇ……っ!?」

「つまり……獣は良く考えているということだ」


























「最……高神……様?」



「ぐッ……ぁ゙あ゙あ゙……ッ!!」



「■■■■■■■■■■■■……………ッ!!!!」



 最高神を追い掛けてきた秘書の男神は、目の前に広がる光景を呆然と見ていた。



 蔓のようになった木々に雁字搦めにされて拘束されていた筈の獣は、その拘束から抜け出しており、その口には……自身を押した時に伸ばした腕をこちらに向けたままの最高神が噛み付かれていた。

 右腕と肩、頭を残してそれ以外は全て口の中。牙の間から大量の血が滴っている。最高神のものだ。自身に気がついて拘束を力尽くで引き千切り、襲い掛かってきた獣から遠ざけるために押して助けてくれた最高神が、獣の口に咥えられている。





 秘書の男神は手を伸ばす。長年お世話になった最高神に。何度も迷惑を掛けられた最高神に。自身を助けてくれた最高神に。だがその最高神が死にかけている事実は変わらない。





 ──────────────────


 獣

 神殺しの力がある一方で、神から与えられる攻撃に耐性を持っている。完全ではないので多少のダメージは受けるが、強大な攻撃を受けても致命傷にはならない。

 なのでプロメスが苦戦していたのは、この耐性があって権能がうまく効いていなかったから。

 良く物事を考えている。雌や子供を護るために脅威を遠ざけたり、態と大きな音と破壊をして神々を呼び寄せて食い物にしたり、最高神の反応から親しい神だと察知して意図的に狙って隙を作らせたり。




 秘書の男神

 不用意に戦場の近くへやって来てしまった神。事情を聞くためとはいえ、まだ完全に勝った訳でもないのに近づいたのはマイナスポイント。遠くで待っていれば良かったのに。




 龍ズ

 ちょっと弱くなった獣と戦っている。特にクレアは、全力の獣と戦いたいので不満。

 というか、横から入ってきた神共ぶち殺した\(^o^)/




 オリヴィア&シモォナ

 待機中。シモォナはずっと嫌な予感が付き纏っているので不安になっている。オリヴィアは、まあ大丈夫だろう。むしろ嫌な予感が現実になっても大丈夫だろうとも思っている。



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