甘味、時々錆びた愛を

しろみ

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或ル導入

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「……國弘くんって何でも食べるんだねェ」
「……!!?」

男の真後ろに突然現れたのは博士の姿だった。

「……誰だよアンタ」
「んー……君たちくらいの年齢からしたら通りすがりのお兄さんかな」
「……、」
「まぁ僕が誰かなんてどうでもいいんだよ、その子返してくれないかな?」
「……はぁ?嫌なんだけど、何?返したらアンタが相手してくれるの美人さん」

男は振り向いて博士の方を見る。若干戸惑ったようだが暫くしてから博士を睨み付けた。美人って怖いなと他人事のように見ていたら、博士が突然男に顔を寄せ、耳許で彼に話し始めた。

「正直さァ、青姦なんてこんなところでするもんじゃないよ……おちんちん我慢できなかったの?」
「っ……!アンタには関係ないだろ!」
「あとこうやって一方的に押し付けちゃダメでしょ?……優しく、しなきゃ……ね?」
「……ッ!!!??」

男は目を見開く。何をしたのかと思い、目線を落としたら、博士が有らん限りの力で、先程僕の口に捩じ込まれようとしていたあれを握り締めているではないか。何この人かなり怖い。

「そんなイイ顔しないでよ……勃起する」
「ッ~~……!!!!」
「……何してんですか博士、」
「ほら僕が相手してあげるよ?君が口説いたんだからね?責任取れよドーテーさん」
「……その人僕で童貞喪失してますよ」
「えーそうなの?なら尚更責任取って貰いたいんだけどォ」

口振りこそはおどけているがやっていることが目も当てられない、というか痛そう。
僕は、笑いながら男の急所を苛めている博士を見てほっとする。
彼は僕を助けてくれた。

「もうお婿に行けないんじゃない?あはははは」
「……いろんな意味で酷いです博士」
「あっそうだ、お金貰ってくねェ」

博士は息絶えかけている男のポケットから万札を2枚奪い取った。

「せっかく僕が相手してあげたんだから、これくらいは貰っとかないとね」
「……そんな汚いお金、取らなくてもいいでしょ」
「そお?でもこういう奴にお金持たせておくとろくな事がないからね」

博士は笑って万札をポケットにしまい込む。近場の水道で手を洗ってから、僕を強く抱き締めた。

「……何で叫ばなかったんだよ國弘くん!」
「…………」
「探すの苦労したんだからな……ばか!國弘くんのばか!ばーか!」
「……子供ですか、」
「僕が助けに来なかったらあのまま酷い目に遭ってたんだよ?嫌だったんでしょ?僕は嫌だよ!」
「…………ごめんなさい、」
「もう絶対こんな目に遭わせないから、でも僕のせいなんだよね……本当にごめん」

博士の心音が聞こえる。どきどきと、とても速い。

「……いいです、博士が身体目当てじゃないことが分かりましたから」
「え?身体目当てだと思ってたの?」
「はい」
「酷いなァ國弘くん……じゃあ本当に身体目当てじゃないってこと教えてあげるよ、ちょっと来て」

博士は僕の手を取って茂みから出て、手を繋いだまま道を歩く。僕も手を握り返す。
すっかり日も落ち、街灯やネオンの光が一段と際立つようになった。
しばらく歩くとホテル街らしきところに着いた。ちょっと待て。

「着いた!入ろ!」
「ええええ!博士さっきの発言は何だったんですか!」
「え?身体目当てじゃないってやつ?」
「そうです!だってここラブホテルじゃないですか!」
「あー……そうだったね、でも此処しか予約取れなかったんだよ……」
「何で!」
「僕の知り合いがやってるんだよ此処、いろんなサービスしてもらったからね?大丈夫いやらしいことしないから!」
「超怪しいです……」
「まあまあ」

早速疑わしいが、まあ仕方ない。
博士に連れられてホテルのロビーまで行く。手続きを済ませて、案内人に連れられて、エレベーターで最上階まで行く。

「國弘くん喜んでくれるといいなァ」
「……?」

博士がやたらそわそわしているのが気になるが、着いたようだ。エレベーターから出て、明らかに豪華そうな部屋の扉の前に博士が立った。

「今日は國弘くんと遊べて良かったよ」
「……僕も、いろいろありましたが……楽しかったです」
「では最後に、僕から……僕の家族になる國弘くんにプレゼントを、はい!」

博士は扉を開く。扉の奥に広がっている世界は、あまりにも現実離れしたものだった。

「え……すご、……」

広々とした部屋の中に芸術品のように並べられたスイーツが輝いていた。高級ホテルのファーストクラスの部屋のような、いや僕自身は行ったことないから分からないが、とにかく煌びやかといった表現が正しいだろう。
目の前に広がる光景に吃驚しすぎて言葉が出なくなった。

「國弘くん甘いものが好きって言ってたから、ケーキとかいっぱい用意したんだけど……どう?」
「……え、と……博士、何でこんな……」
「…………好きだからだよ、恥ずかしいんだけど本当に好きだから、でも僕どうやって國弘くんと付き合えばいいか分かんなくて……確かに不快にさせたかもしれない、けど……どうしても、仲良くなりたくて……」

珍しく小さな声で辿々しく喋る博士。耳まで真っ赤だ。

「……仲良くって、本当に子供みたい、博士」
「これでもすごく悩んだんだよ!結局……女の子落とすみたいなやり方になっちゃったんだけど、僕がこんなに悩むの國弘くんだけなんだからな!本当に!しばらく寝てないし!」
「……なら悩まなくてもいいじゃないですか……寝てくださいよ」
「分かってないな國弘くんは!好きな人のためなら寝る間も惜しんで悩めるもんなんだよ」
「そうなんですか……?」

博士は僕を椅子にかけて、優しく微笑みかける。改めて彼の顔をじっくりと見ると本当に綺麗だ。

「僕の力じゃ君の苦しい記憶は消せないけど、思い出させないようにすることはできると思うし、それを越えるしあわせな時間を過ごしていきたいと思ってる……から、」
「……博士、」
「僕の、恋人になってください……」

最後の辺りは尻すぼみになって全く聞こえなかったが、返事は決まっている。

「…………僕で、宜しければ……お願いします、」

初めてかもしれない、本当に人を好きになったのは。僕の目の前で微笑む美人は、時に空気を読まない上に人目も憚らない、さらには現実離れしたようなことばかりするし、終いには僕がいないと何もできないという子供のような人物だが、これだけは言える。僕はそんな彼に惚れてしまったのだ。

「……ありがとう、大好き……國弘、」
「…………呼び捨て、ですか」
「たまにはこうやって愛を囁くのもいいかなって」
「ふふ、あなたらしい……」

博士は机に並べられた皿を一枚取ってから、ケーキを1つ取った。フォークでそっと一口分を取り、僕の口に近づけた。

「此処なら好きなだけイチャイチャできますね」
「そうだね、はい……あーん」

僕はケーキを口に含む。クリームの甘さが口に柔らかく広がっていく。飲み込むのを抑えて、博士の唇にそのまま口づけする。口内のケーキを博士の口に運んで、そのままじっくりとケーキと口づけを堪能する。

「ッ……!」
「……仕返しです、」
「っもう!かわいいな國弘くんはァ!」

博士はケーキをほったらかして僕に抱き着いてくる。あまりにも突然すぎて受け身が取れず、されるがまま強く抱き締められる。

「あぁもう國弘くん可愛すぎてセックスしたい!」
「……」
「僕もうギンギンだからね?なんかもういろんな汁出てる気がするんだよね!」
「下劣だ!……分かりましたよもう、」
「……いいの?」
「…………えぇ、」
「やったァ!ちょっと待ってねズボンとパンツ脱がしたげるから」
「え !? 着たままですか?」
「そりゃあそうだよせっかく國弘くんが選んでくれたんだし國弘くんの服もかわいいし」
「……はいはい、分かりました」

博士の獲物を嗜もうとするギラついた瞳を見て思った。今夜、僕は彼のものになるんだと。それも悪くない、僕は博士の唇に軽く口づけした。愛してます、そう呟いて。





-END-
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