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或ル苦渋
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「二人とも久し振りね!あら、きりちゃんちょっと男前になったかしら?」
「こんにちは、姉さん……博士は何も変わってな……変態度が増したくらいですよ」
「ちょっと國弘くんってばもう!」
「まぁまぁ上がっていきなさい、お茶持ってくるわね」
僕たちは以前に姉から手紙を貰い、今日は彼女の経営する和菓子店へと足を踏み入れた。博士と二人で向かい合うように座敷にちょこんと座り、お茶を待ちつつ店内をぐるりと眺めた。
「何か落ち着かないです……」
「そう?」
「……向かい合ってるからでしょうか?」
「じゃあ僕の横に来る?」
「それはいいです」
「何で!?別に何もしないよー?」
「何も、って出た時点で何かやる気だったんですね」
「……」
「図星ですか」
「……なにもしないのに……」
「…………この足何ですか?」
「足長いから伸ばさないと痺れちゃうんだよ」
「嫌味ですか殴りますよ」
「うそうそ僕足痺れないし」
「……ッ!?」
博士はへらへらと笑いながら、足を伸ばしたまま机の下から股の間に突っ込んできたのだ。最悪だこの人。どんだけ変態なんだよ。この天パ……もとい陰毛ヘアーが。それらの罵詈雑言を口に出すわけにも行かず、彼の足の動きに堪えるしかなかった。もし姉が来ても足を退けなかったら熱いお茶でもぶっかけるしか……いや効かないのか。厄介だ。なんて考えて彼の動きをあまり感じ取らないようにしていたら、突然グリグリと感じるところを突いてきた。思わず声を詰めると彼は口角を吊り上げ、ニタァと顔に笑みを浮かべる。
「……ココがいいんだ」
「ッ、うるさい……」
博士をキッと睨みつけ、眉間に皺を寄せて彼の足に思いっきり爪を立てる。靴下越しな上に彼には痛覚がないため、効かないのは分かっているが僕自身の気が収まらないためぎりぎりと靴下越しの足に左手の爪を立てた。その間も彼はへらへらと笑い、僕の様子を窺って愉しんでいる。この変態。
「今度こういうプレイしよっか」
「しません!」
「……、あの」
「大体博士はどこかしこでこういうことばっかして!」
「國弘くんが可愛いのがいけないんだろ!」
「知りませんし可愛いとか言われても別に嬉しくないですからね!」
「何、ツンデレ?可愛いなぁ」
「……あのぉ」
「だからもういつもいつも自分の都合のいいように解釈して!そういうところ直した方が」
「……、國弘?」
先程から誰かが声を掛けていたのは薄々気付いていたが、彼を叱っていたためある程度したら何処か行くと思ったがまさか自分の名前を呼ばれるとは。お茶と皿にこぢんまりと盛られた茶菓子を持ってきた、黒髪に赤と白のメッシュを疎らに入れた目つきの悪い男を一瞥する。彼は自分に気づいたのを察知し、小さく微笑んだ。
「、國弘」
「……朱鷺、」
今気づいた。彼は数年前、自分が中学生だった頃の同級生の男だった。自分が虐められていた時代、同じクラスだった彼も虐められていた。一年間ほど仲良くしていたが、彼は急に転校してしまい、それ以来連絡が取れなくなっていた。そんな彼が、今、何故此処に。
「……、覚えてる?」
「うん、覚えてるよ」
「……國弘くん、誰?」
「僕の旧友です、どうしたの?転校して以来全然逢わなかったから遠い場所にいるのかと思ってた」
「一年前くらいに来たんだよ、此処に」
「へぇ……でも偶然だね、僕の姉さんの店でバイトしてるなんて」
「そうだな……久し振りに会えて嬉しいよ」
「何か変な感じだなー……アレかな、喋り方変わった?前までは俺様全開だったのに」
「う、るせーな職業病だよ」
そう言って小さくばーかと呟いた彼は、机へと丁寧にお茶と茶菓子を置いた。そのとき彼はちら、と博士を一瞥してから一礼した。
「こんにちは」
「あぁ……どうも」
「……あの人誰?」
「うーん、僕の……」
「恋人だよ」
「え、」
「國弘くんの、恋人」
博士は朱鷺をただじっと見つめ、冷淡にそう言い放った。まさかまた嫉妬とかしてるんじゃないだろうか。相変わらずめんどくさい男だ。
「ふーん……そうなんだ」
「ま、まぁね……」
「……まぁお前だって男の一人や二人できるよな」
「お前だって……?というかそこは女じゃないの?」
「俺もいるし」
「え!?男の恋人が!?」
「恋人というか……主人だけど」
彼はぼそりと小さく呟き、僕に耳打ちしようとする。何故、と思いながら耳を傾けると、彼はいきなり息を吹き掛けてけらけらと笑った。
「ッ!?」
「んじゃごゆっくり」
「ごゆっくりじゃないよ!何すんだよ!」
「昔っから耳弱かったもんなお前」
「もー……確かにそうだけどさぁ……」
そうやって僕をからかうところも昔から変わってないね、なんて冗談めかして言えばまたふふっと微笑み、踵を返して厨房の方へと消えてしまった。一方、眉間に皺を寄せてギリギリと歯軋りの音を響かせ、尋常じゃない程顔が崩れている(普段の美しく余裕に満ちた顔から悪い意味で一変している)彼に目をやれば、普段より低い声で僕に話し掛けた。
「……國弘くん」
「……、何ですか博士」
「彼……君にはかなり心開いてるみたいだね」
「まぁ……そうですね、彼も僕みたいな感じですから」
嫉妬とやらで彼の心中は穏やかではないのだろう、博士は僕を見て顔を顰めて問うた。
「……、付き合ってたとかあった?」
「まさかぁ、ないですよそんなの」
「ほんとに?」
「ほんとうです」
「ほんとに?」
しつこくそう訊いてくる彼にうんざりとした僕はつい、他の客の接客をしている朱鷺の方を一瞥し、こう言い放った。
「だからないですって、じゃあ本人に訊けばいいじゃないですか」
「……、分かった」
博士を黙らせる冗談のつもりだったが、本気にしたようで、また厨房へと入って行こうとする朱鷺の方まで歩いて行き、彼を呼び止める。何故そんなにムキになっているのか、自分にはまったく分からなかった。
「ねぇ、トイレ何処かな?」
「あぁお手洗いですね、案内します」
博士に微笑みかけ、御手洗いへと連れて行く朱鷺の貼り付けたような笑顔がやたらに脳裏に焼きついていた。
「こんにちは、姉さん……博士は何も変わってな……変態度が増したくらいですよ」
「ちょっと國弘くんってばもう!」
「まぁまぁ上がっていきなさい、お茶持ってくるわね」
僕たちは以前に姉から手紙を貰い、今日は彼女の経営する和菓子店へと足を踏み入れた。博士と二人で向かい合うように座敷にちょこんと座り、お茶を待ちつつ店内をぐるりと眺めた。
「何か落ち着かないです……」
「そう?」
「……向かい合ってるからでしょうか?」
「じゃあ僕の横に来る?」
「それはいいです」
「何で!?別に何もしないよー?」
「何も、って出た時点で何かやる気だったんですね」
「……」
「図星ですか」
「……なにもしないのに……」
「…………この足何ですか?」
「足長いから伸ばさないと痺れちゃうんだよ」
「嫌味ですか殴りますよ」
「うそうそ僕足痺れないし」
「……ッ!?」
博士はへらへらと笑いながら、足を伸ばしたまま机の下から股の間に突っ込んできたのだ。最悪だこの人。どんだけ変態なんだよ。この天パ……もとい陰毛ヘアーが。それらの罵詈雑言を口に出すわけにも行かず、彼の足の動きに堪えるしかなかった。もし姉が来ても足を退けなかったら熱いお茶でもぶっかけるしか……いや効かないのか。厄介だ。なんて考えて彼の動きをあまり感じ取らないようにしていたら、突然グリグリと感じるところを突いてきた。思わず声を詰めると彼は口角を吊り上げ、ニタァと顔に笑みを浮かべる。
「……ココがいいんだ」
「ッ、うるさい……」
博士をキッと睨みつけ、眉間に皺を寄せて彼の足に思いっきり爪を立てる。靴下越しな上に彼には痛覚がないため、効かないのは分かっているが僕自身の気が収まらないためぎりぎりと靴下越しの足に左手の爪を立てた。その間も彼はへらへらと笑い、僕の様子を窺って愉しんでいる。この変態。
「今度こういうプレイしよっか」
「しません!」
「……、あの」
「大体博士はどこかしこでこういうことばっかして!」
「國弘くんが可愛いのがいけないんだろ!」
「知りませんし可愛いとか言われても別に嬉しくないですからね!」
「何、ツンデレ?可愛いなぁ」
「……あのぉ」
「だからもういつもいつも自分の都合のいいように解釈して!そういうところ直した方が」
「……、國弘?」
先程から誰かが声を掛けていたのは薄々気付いていたが、彼を叱っていたためある程度したら何処か行くと思ったがまさか自分の名前を呼ばれるとは。お茶と皿にこぢんまりと盛られた茶菓子を持ってきた、黒髪に赤と白のメッシュを疎らに入れた目つきの悪い男を一瞥する。彼は自分に気づいたのを察知し、小さく微笑んだ。
「、國弘」
「……朱鷺、」
今気づいた。彼は数年前、自分が中学生だった頃の同級生の男だった。自分が虐められていた時代、同じクラスだった彼も虐められていた。一年間ほど仲良くしていたが、彼は急に転校してしまい、それ以来連絡が取れなくなっていた。そんな彼が、今、何故此処に。
「……、覚えてる?」
「うん、覚えてるよ」
「……國弘くん、誰?」
「僕の旧友です、どうしたの?転校して以来全然逢わなかったから遠い場所にいるのかと思ってた」
「一年前くらいに来たんだよ、此処に」
「へぇ……でも偶然だね、僕の姉さんの店でバイトしてるなんて」
「そうだな……久し振りに会えて嬉しいよ」
「何か変な感じだなー……アレかな、喋り方変わった?前までは俺様全開だったのに」
「う、るせーな職業病だよ」
そう言って小さくばーかと呟いた彼は、机へと丁寧にお茶と茶菓子を置いた。そのとき彼はちら、と博士を一瞥してから一礼した。
「こんにちは」
「あぁ……どうも」
「……あの人誰?」
「うーん、僕の……」
「恋人だよ」
「え、」
「國弘くんの、恋人」
博士は朱鷺をただじっと見つめ、冷淡にそう言い放った。まさかまた嫉妬とかしてるんじゃないだろうか。相変わらずめんどくさい男だ。
「ふーん……そうなんだ」
「ま、まぁね……」
「……まぁお前だって男の一人や二人できるよな」
「お前だって……?というかそこは女じゃないの?」
「俺もいるし」
「え!?男の恋人が!?」
「恋人というか……主人だけど」
彼はぼそりと小さく呟き、僕に耳打ちしようとする。何故、と思いながら耳を傾けると、彼はいきなり息を吹き掛けてけらけらと笑った。
「ッ!?」
「んじゃごゆっくり」
「ごゆっくりじゃないよ!何すんだよ!」
「昔っから耳弱かったもんなお前」
「もー……確かにそうだけどさぁ……」
そうやって僕をからかうところも昔から変わってないね、なんて冗談めかして言えばまたふふっと微笑み、踵を返して厨房の方へと消えてしまった。一方、眉間に皺を寄せてギリギリと歯軋りの音を響かせ、尋常じゃない程顔が崩れている(普段の美しく余裕に満ちた顔から悪い意味で一変している)彼に目をやれば、普段より低い声で僕に話し掛けた。
「……國弘くん」
「……、何ですか博士」
「彼……君にはかなり心開いてるみたいだね」
「まぁ……そうですね、彼も僕みたいな感じですから」
嫉妬とやらで彼の心中は穏やかではないのだろう、博士は僕を見て顔を顰めて問うた。
「……、付き合ってたとかあった?」
「まさかぁ、ないですよそんなの」
「ほんとに?」
「ほんとうです」
「ほんとに?」
しつこくそう訊いてくる彼にうんざりとした僕はつい、他の客の接客をしている朱鷺の方を一瞥し、こう言い放った。
「だからないですって、じゃあ本人に訊けばいいじゃないですか」
「……、分かった」
博士を黙らせる冗談のつもりだったが、本気にしたようで、また厨房へと入って行こうとする朱鷺の方まで歩いて行き、彼を呼び止める。何故そんなにムキになっているのか、自分にはまったく分からなかった。
「ねぇ、トイレ何処かな?」
「あぁお手洗いですね、案内します」
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