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【女神の空間編】

【7】風邪

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あーすごいおなかが減ってきた。

もうこんな時間か。アニメに夢中になってた。
いつもだったらルナさんがとっく呼びに来てくれてるはずの時間になってる。
そういえば今日はルナさんと顔を合わせていない。

なにかあったのだろうか。
ちょっと様子見に行ってみるか。

キッチンにはいない。
この時間になっても料理をしていないということはやっぱりなんかあったんだ。

ルナさんの部屋の前にやってきた。
そういえばルナさんの部屋の中はまだみたことがない。

コンコン。ノックをした。

「ルナさん。いますか?」

「はい。」

なんだか弱々しい声だ。

「入りますよ。」

ドアを開けて中に入った。

ルナさんの部屋はあまり女の子らしいって感じではなくモノトーンで統一されていた。
ソファ。ラグマットの上にローテーブル。デスク。椅子。そしてベッド。
奥に続くドアもある。家主用の洗面室でもあるのだろうか。あとクローゼットがある。

ルナさんはベッドで布団をかけて横になっていた。

「体調悪そうじゃないですか。大丈夫ですか?」

「ああ。ごめんこんな時間か。」

「いやいやご飯のことは気にしないでください。」

「風邪ひいちゃったみたい。」

「ずいぶんつらそうじゃないですか。かわいそうに。」

この空間にはウイルスはないはずだよな。
でも体調悪くなることはあるみたいだからその中に風邪のような症状もあるのか。

「今日はチンですませて。」

「ルナさんは今日何か食べましたか?」

「食べてない。」

「少し何か食べます?おかゆ持ってきましょうか?」

「お願いしちゃおうかな。そこのテーブルで食べるよ。」

おかゆ二人分と梅干しとたくあんをトレーに乗せて持ってきた。

「持ってきました。立てますか?」

「うん。」

ルナさんはふらふらとしながらラグマットにへたりこんでしまった。

パジャマ姿だった。そしてノーブラ。
少し開いた胸元と突起に目が行ってしまう。
そんな場合じゃないのに欲情が爆発して自我が崩壊しそうだ。

「一人で食べれますか?」

「食べれる。」

「一人で食べれるのか心配でとりあえず自分の分も持ってきちゃいましたよ。」

「好きなの食べてよかったのに。」

「同じのでいいです。」

一緒におかゆを食べたがルナさんは半分残してしまった。

「また横になるね。」

ルナさんはふらふらしながらベッドに戻った。

「はい。片付けは任せてください。」

「困ったな。」

「どうしました?」

「これじゃ明日いいう〇ち出せないや。」

そこ?

「じゃあ。僕はこれで。お大事にしてくださいね。」

「やだ。」

「え。」

「いて。」

「わ、わかりました。」

どうしたんだろうルナさん。

「こういうときだけは一人がさみしくなっちゃうんだよ。」

「そうなんですね。」

しばしの沈黙。

「一緒に寝て。」

「ふぁ!?」

変な声が出た。

「女神命令。」

今までそんなのなかったぞ…。

「わ、わかりました。とりあえず片付けして枕持ってきます…。」

ドキドキドキドキドキドキドキドキ。
鼓動がめちゃくちゃ早くなっている。
とりあえず食器を片付けて自分の部屋に枕を取りに行った。

「枕持ってきました。」

「横に来て。」

「はい…。」

枕を並べて布団に入らせてもらった。

「まぶしいから灯り消す。」

「はい…。」

やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい。
一体何なんだろうこの状況は。無邪気にもほどがあるだろ。
こっちがどれだけ邪な感情を抱いていると思ってるんだ。

しばらくすると寝息が聞こえてきた。

すぐそこに好きな人の体があるのに僕は触れることが出来ずにいる。
感情がめちゃくちゃでおかしくなってしまう。
こんなの眠れるわけがない。

長い時間をもんもんとしてすごした気がする。

気付けば朝になっていた。

目が覚めると横にルナさんはいなかった。

キッチンに行ってみたらルナさんが料理をしていた。
着替えは済ませているようだ。

「おはようございます。」

「おはよ。」

「もう大丈夫なんですか。」

「うん。元気になった。昨日はありがと。」

「元気になってよかったです。」

「朝ご飯一緒に食べよう。」

「はい。」

焼き魚とみそ汁の和風の朝食だ。

「朝だけどしっかり目にしてみた。」

「おいしそうです。」

朝食を一緒に食べるのは始めてだ。

「そういえばここを作るときに体調不良を起こさないようにすることはできなかったんですか?」

「あー。全然できるよ。」

「なんでそうしなかったんですか?」

「考え方は人によると思うんだけど。」

「はい。」

「悪い時もあるからいいことがたくさん楽しく感じられるって私は思っちゃうから。」

「なるほど。わかる気がします。」

「一人がさみしくなるは調整ミスったかも。」

ナイス調整ミス。

「でもそれは元々の私の性格なのかな。」

「僕でよければ頼ってくださいね。」

「うん。ありがと。」

え。もしかしていい感じ?

しばらく沈黙が続いた。

「じゃあ片付けちゃうね。」

「一緒にやります。」

僕は自分の中にある衝動が芽生えるのを感じていた。

「やることあるから部屋に戻るね。また。」

「はい。ごちそうさまでした。」

自分の部屋に戻ってきた。

勇気を出してルナさんに告白したい。
そんな衝動が芽生えていた。

しかし一方でどうしても自分を否定してしまう。

なんの取柄もない僕がルナさんに受け入れてもらえるはずがない。
昨日の状況はルナさんの優しさと無邪気さとちょっとした弱みから生まれただけだ。
それにルナさんは女の子が好きなわけだし。

やはり勘違いするわけにはいかない。

こうして僕の葛藤の日々が始まった。


さて。今は夕食後の団らんタイムだ。

「そだ。神谷さん。例の主人公の話聞きたい?」

「お。ついに。聞きたいです!」

「よし。話してあげよう。」

「やった!」

「主人公は若くして財を成した実力者で。まあ天才だね。」

「ふむふむ。」

「主人公は自分ひとり生きる分には何も不自由なく人生を謳歌してた。」

「で。彼の友達が関わってくるんだけど。まずその友達の話から。」

ごくり。

「その友達は子供の頃にある宗教の矛盾を指摘した結果。拷問を受けた過去があるの。」

「なんと。」

「その宗教はキリスト教の一派。」

「えー。」

そういえば僕の母親の宗教も聖書を元にしていたな。

「彼の動機は親に宗教を辞めてもらって普通に友達と遊びたい。それだけだった。」

「それなのに大人たちのやったことは拷問で。彼は後遺症を抱えて生きることになる。」

「親に助けてもらえず。彼の唯一の望みは大人になって自力で医療を受ける事だった。」

「でももっと残酷な現実が待ち受けていた。」

「彼は自力で医者に通ってもまともな医療を受けられなかったの。」

!!

「なんでですか?」

「彼は知らずの内にキリスト教全体を敵に回してしまっていた。」

「もっと言えばキリスト教利権を握った世界の支配者たちを敵に回していたの。」

「とんでもないですね…。」

「ちなみに医療というのはキリスト教の影響下にあることが多いの。」

「そうなんですか!」

「病院って大体日曜日やってないじゃん?あれも安息日の概念からきてるんだよ。」

「なるほど。」

忙しくてストレスの多い社会人ほど医療を受けにくいシステムなんなんだろうと思ってたけどそういうことだったのか。

「それで彼の話の続きだけど。」

「彼は生かさず殺さず生殺しのように生かされて精神的な病気も患ってしまう。」

「悲惨すぎます…。」

「ただ。主人公と出会った。」

「主人公は友人の周囲に起こることの不可解さを独自の方法で調査した。」

「そして時間をかけて調査した結果。友人を貶めているのが世界の支配構造であるとつきとめるの。」

「とんでもないことできちゃう人ですね…。」

「ま。そのやり方が天才的で面白いところなんだよ。」

「めっちゃ気になります。」

「そこはいつか漫画で見てほしいよ。」

「僕も今、ちょっと生殺しな気分です。」

ルナさんは続ける。

「主人公は友人にこう訪ねる。」

「君を確実に救う手段と全てを根こそぎひっくり返す手段。どっちを選ぶ?」

「それに友人はこう答えたの。」

「僕は僕であることをやめない。そして君も君であることをやめない。それだけだよ。」

ルナさんなんだかセリフに感情がこもっている。

「そして主人公は世界の支配と利権の構造全てを破壊する計画を実行することにしたの。」

「す、すごい展開ですね…!」

「そのやり方がまたすごくて面白いんだよ。」

「気になる…。」

「主人公は目的のために仲間を作るという事はしないの。」

「ふむふむ。」

「真意を隠して利害関係だけ構築していく。」

「そして全ての準備が整い主人公がトリガーを引けばドミノのように全てが覆される。」

「その手段が鮮烈で痛快でなんて言っても言葉が足りないって感じ。」

この話をするルナさんはとんでもなく饒舌だ…!

「いつか漫画を読めるのを楽しみにしてます!」

「つい熱く語っちゃった。そろそろ寝よっか。」

「はい。おやすみなさい。」

「おやすみ。」

あんな話を聞いたら僕も主人公のことが気になっちゃうよ。

でももっと気になるのはルナさんのことだ。
告白したい。でも自信がない。拒絶されるのが怖い。

僕は色々なことをやって葛藤を押し殺すように過ごした。

いつも通りアニメを見たり。
ねこさんと遊んだり。
池で釣りをしてみたり。
島に他に想像生物がいないか探検してみたり。

気付けば僕が女神の空間にきて3週間が経過していた。
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