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十一限目
急降下
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「あ、優梨奈からメール来た」
「そろそろ始まる?」
「うん、アップしようって」
「そっか、行ってらっしゃい」
そう言うと、咲楽の声はどこか悲しそうな気がした。
「もう帰る?」
「ううん、今日はずっと暇だから最後まで応援してるよ」
「ほんと!頑張る!」
咲楽は本当、感情が素直に出ているから、一緒にいて楽しい。それにこういうことを言ってもらえると俺自身、そこまでいろんなことを考えなくて済むから気楽でいいのかもしれない。
そこから咲楽と優梨奈で食べたものをエネルギーに変えるために運動していた。俺は始めだけ見て学校の子がいる場所を探す。
「あ、稲垣先輩」
一年生の子が俺をちゃんと認識して、挨拶してくれた。もしかして、差し入れにそれほどの即効性があったのかもしれない。
「お疲れ様」
俺は何か話のネタにならないかあたりを探っていると、後ろからさっき挨拶した一年生が俺の後ろについてきた。
「先輩、少しいいですか?」
「うん?どうかしたの?」
「テスト期間のとき、勉強教えてくれるって聞いたんですけど、本当ですか?」
俺はこの子のことをよく知らないけど、この話が出てくるってことはきっと理々杏と同じクラスの子なんだろう。まさかこんな前から話しているとは思ってもみなかった。
「うん。理々杏から頼まれたからね」
雑談をしていると、目の前の試合が始まった。咲楽と優梨奈のペアは、準決勝まで進んだ。ただ、その相手が三年生で優勝候補と言われるペアだったから、二人はその日の優勝の美を飾ることは出来なかった。
「惜しかったな」
帰りを待つ優梨奈と咲楽に声をかけた。彼女たちは敗北のせいで疲れが余計に感じているように見えた。
「そうだね、もう少しだった」
「でも最後の人が優勝したからまだマシやったね」
「うん、そうだね」
「辰矢!お母さんが送っていくって」
少し離れてた優梨奈の母親が、俺のことに気がついて気を使ってくれた。俺はそれに甘えて、咲楽と離れた。
「辰矢くんがいるなんて驚いたよ」
運転をしていても、大人になれば話しながらの運転も余裕なのだろう。
「丁度、近くに用事で来てたのでついでに」
「そうなのね、でもどうしてバド部の応援は?」
「優梨奈には、以前救われましたので」
「らしいわね。良かったわ、優梨奈が力になれて」
あの時の件といい、響空の件といい本当に優梨奈には感謝しきれない。
「いえ、いつも助けられてますよ」
「辰矢くんは口が上手ね」
「それほどでもないです」
「そういえば、辰矢くんは彼女できた?」
俺は答え方に迷いが出た。出来てはいないが出来たと言っても過言では無いだろう。でも、まだ正式に告白したわけでもないから、出来たという訳には行かない。
「出来てないですね。出来たら女友達の応援なんて出来れませんから」
「あら、咲楽ちゃんと付き合ってるのかと、ついうっかり」
以前泊まったみたいだし、話が出てても仕方ないだろう。
「ちょっと」
優梨奈が止めに入ることでもないだろうと思ったけど、優梨奈なりに何かあるのだろう。
「あら。だめだった?」
「別に大丈夫ですよ」
「辰矢くんもああ言ってるじゃない」
「あのねぇ・・・・・・」
「大丈夫。あとは、俺から言うだけだから」
「そうなのね」
優梨奈の心配は何を指していたのか分からなかったけど、この話はちゃんと終わりを迎えた。
「咲楽ちゃんなら、安心よね。病気のことも知ってるし」
「ちょっと!」
優梨奈が止めようとしていたのが理解出来た。二人の間で交わしたであろう約束、俺が人を選ぶきっかけの一つを隠そうとしていたのにバレる可能性があったのか。
「辰矢?」
俺は優梨奈の母親のことも考えて、これからの事を考えるのをやめた。
「何?」
「これはさ・・・・・・」
「何かあった?俺は別にないけど」
俺の家に着いたことで、別の話は難なく終わった。晩御飯も終わり、あとは寝るだけ。俺は一つ気になったことがその眠りを妨げた。
『もしもし、久しぶり』
「そうか?そうでもないだろ」
『そうだね、でどうしたの?』
「響空に聞きたいことあってさ」
『何?』
「あの時の告白どうだったかなって思って」
『そんなこと?』
告白を受けた側からすると、大したことないのかもしれない。でも、次がある俺からすればとても大きな問題とも言いかねない。
「そんなって言うなよ」
『ごめんって。嬉しかったよ。もし、あの時フリー待ったら、いや侑也と付き合っていなかったら、答えは違ったと思う。それぐらい嬉しかったよ』
「そっか」
俺もそう言われたら、あの時のことをまだ明るく見える。
『何よ。誰かにまた告白するの?』
「うん」
『大丈夫。辰矢は文才あると思うよ。あの時の私の感情に寄り添って、安心する為の言葉を選んでくれた』
「そこまで考えてた訳じゃ」
『無意識なら余計にすごいじゃん』
「ありがと」
まさか、そこまで言ってくれるとは思ってもみなかった。文才があるって言われると、小説家という俺の仮面のおかげかもしれない。
『こちらこそだよ』
「なんで?」
『今私が侑也と何き合えてるのは、辰矢のおかげだから』
そんなことはない。
「別に。あの選択をしたのは、侑也と、響空だから」
『辰矢がいなかったら、あんな機会すらなかったからね』
あの時のことを俺は悔やんではいない。その必要も無いからな。
「あんな形ではなかっただろうな。ごめんな。本当に」
『ううん、私の希望、全部叶えてくれたんでしょ?』
そこをバレるとは思ってもみなかった。だとしても俺はそれを言う必要性を感じない。
「さあ?どうだろ」
『そっか。とにかく、私は辰矢に感謝してる』
「あの後、俺の知り合いの二人にはめっちゃ怒られたけどな」
『人道的ではなかったからね』
「まあな」
『頑張ってね、私も応援してるから』
「うん、ありがとう」
互いの件を済ませたらすぐに電話が終わった。携帯に来ている何件ものメッセージ、今日のことを謝りたいのだろう。
「もしもし」
『やっと電話してくれた。遅いよ』
「悪い、友だちと電話してたからね」
優梨奈からの電話は、俺の予想通りだった。
『病気のこと、本当にごめん。咲楽にも今日みたいにお母さんが突然』
「だと思ったよ」
『そっか。咲楽はそれを知っても辰矢のこと好きだったよ』
そんなこと、俺も何となく感じている。でも、それは華巳先輩も変わらなかった。それでも先輩を選ばなかったのは確かに他にも理由はある。それが決め手ではない。だから、俺は今も考え続けている。
『だから・・・・・・』
「だからって何も変わらない。一応、明日また遊ぶ予定があるからその時探るよ」
明日、本来であれば単なるデートの予定だったけど、俺の病気を知ったとなるとそれを探る以外が難しくなる。
『ごめん・・・・・・』
「別に謝らなくていいよ。それより、気になったから聞くけどさ、咲楽は何で俺のこと好きなの?」
『私も詳しくは知らない。いつの間にか目で追ってるって言ってた』
いつの間にか目で追ってた。その言葉はすでに好きということでしかない。俺の何かを好きになったということにはつながらない。やっぱり、俺が自分で探るしかないのか。
「そっか。なら聞きたいんだけどさ」
『何?』
「何で好きになったかってどうやって聞いたらいい?」
ここは俺よりは恋愛経験のある人に聞いた方がいいのだろう、でも友だちにも話さなかったことを俺に話してくれるだろうか。
『まあ、直接はダメだろうね』
「それならどうしたらいいと思う?」
『一番いいのはタイプを聞くとかかな。あと、今までの恋愛トークから探るのがいいかもね』
「分かった」
俺にとって明日はある意味勝負時になりそうだ。
「そろそろ始まる?」
「うん、アップしようって」
「そっか、行ってらっしゃい」
そう言うと、咲楽の声はどこか悲しそうな気がした。
「もう帰る?」
「ううん、今日はずっと暇だから最後まで応援してるよ」
「ほんと!頑張る!」
咲楽は本当、感情が素直に出ているから、一緒にいて楽しい。それにこういうことを言ってもらえると俺自身、そこまでいろんなことを考えなくて済むから気楽でいいのかもしれない。
そこから咲楽と優梨奈で食べたものをエネルギーに変えるために運動していた。俺は始めだけ見て学校の子がいる場所を探す。
「あ、稲垣先輩」
一年生の子が俺をちゃんと認識して、挨拶してくれた。もしかして、差し入れにそれほどの即効性があったのかもしれない。
「お疲れ様」
俺は何か話のネタにならないかあたりを探っていると、後ろからさっき挨拶した一年生が俺の後ろについてきた。
「先輩、少しいいですか?」
「うん?どうかしたの?」
「テスト期間のとき、勉強教えてくれるって聞いたんですけど、本当ですか?」
俺はこの子のことをよく知らないけど、この話が出てくるってことはきっと理々杏と同じクラスの子なんだろう。まさかこんな前から話しているとは思ってもみなかった。
「うん。理々杏から頼まれたからね」
雑談をしていると、目の前の試合が始まった。咲楽と優梨奈のペアは、準決勝まで進んだ。ただ、その相手が三年生で優勝候補と言われるペアだったから、二人はその日の優勝の美を飾ることは出来なかった。
「惜しかったな」
帰りを待つ優梨奈と咲楽に声をかけた。彼女たちは敗北のせいで疲れが余計に感じているように見えた。
「そうだね、もう少しだった」
「でも最後の人が優勝したからまだマシやったね」
「うん、そうだね」
「辰矢!お母さんが送っていくって」
少し離れてた優梨奈の母親が、俺のことに気がついて気を使ってくれた。俺はそれに甘えて、咲楽と離れた。
「辰矢くんがいるなんて驚いたよ」
運転をしていても、大人になれば話しながらの運転も余裕なのだろう。
「丁度、近くに用事で来てたのでついでに」
「そうなのね、でもどうしてバド部の応援は?」
「優梨奈には、以前救われましたので」
「らしいわね。良かったわ、優梨奈が力になれて」
あの時の件といい、響空の件といい本当に優梨奈には感謝しきれない。
「いえ、いつも助けられてますよ」
「辰矢くんは口が上手ね」
「それほどでもないです」
「そういえば、辰矢くんは彼女できた?」
俺は答え方に迷いが出た。出来てはいないが出来たと言っても過言では無いだろう。でも、まだ正式に告白したわけでもないから、出来たという訳には行かない。
「出来てないですね。出来たら女友達の応援なんて出来れませんから」
「あら、咲楽ちゃんと付き合ってるのかと、ついうっかり」
以前泊まったみたいだし、話が出てても仕方ないだろう。
「ちょっと」
優梨奈が止めに入ることでもないだろうと思ったけど、優梨奈なりに何かあるのだろう。
「あら。だめだった?」
「別に大丈夫ですよ」
「辰矢くんもああ言ってるじゃない」
「あのねぇ・・・・・・」
「大丈夫。あとは、俺から言うだけだから」
「そうなのね」
優梨奈の心配は何を指していたのか分からなかったけど、この話はちゃんと終わりを迎えた。
「咲楽ちゃんなら、安心よね。病気のことも知ってるし」
「ちょっと!」
優梨奈が止めようとしていたのが理解出来た。二人の間で交わしたであろう約束、俺が人を選ぶきっかけの一つを隠そうとしていたのにバレる可能性があったのか。
「辰矢?」
俺は優梨奈の母親のことも考えて、これからの事を考えるのをやめた。
「何?」
「これはさ・・・・・・」
「何かあった?俺は別にないけど」
俺の家に着いたことで、別の話は難なく終わった。晩御飯も終わり、あとは寝るだけ。俺は一つ気になったことがその眠りを妨げた。
『もしもし、久しぶり』
「そうか?そうでもないだろ」
『そうだね、でどうしたの?』
「響空に聞きたいことあってさ」
『何?』
「あの時の告白どうだったかなって思って」
『そんなこと?』
告白を受けた側からすると、大したことないのかもしれない。でも、次がある俺からすればとても大きな問題とも言いかねない。
「そんなって言うなよ」
『ごめんって。嬉しかったよ。もし、あの時フリー待ったら、いや侑也と付き合っていなかったら、答えは違ったと思う。それぐらい嬉しかったよ』
「そっか」
俺もそう言われたら、あの時のことをまだ明るく見える。
『何よ。誰かにまた告白するの?』
「うん」
『大丈夫。辰矢は文才あると思うよ。あの時の私の感情に寄り添って、安心する為の言葉を選んでくれた』
「そこまで考えてた訳じゃ」
『無意識なら余計にすごいじゃん』
「ありがと」
まさか、そこまで言ってくれるとは思ってもみなかった。文才があるって言われると、小説家という俺の仮面のおかげかもしれない。
『こちらこそだよ』
「なんで?」
『今私が侑也と何き合えてるのは、辰矢のおかげだから』
そんなことはない。
「別に。あの選択をしたのは、侑也と、響空だから」
『辰矢がいなかったら、あんな機会すらなかったからね』
あの時のことを俺は悔やんではいない。その必要も無いからな。
「あんな形ではなかっただろうな。ごめんな。本当に」
『ううん、私の希望、全部叶えてくれたんでしょ?』
そこをバレるとは思ってもみなかった。だとしても俺はそれを言う必要性を感じない。
「さあ?どうだろ」
『そっか。とにかく、私は辰矢に感謝してる』
「あの後、俺の知り合いの二人にはめっちゃ怒られたけどな」
『人道的ではなかったからね』
「まあな」
『頑張ってね、私も応援してるから』
「うん、ありがとう」
互いの件を済ませたらすぐに電話が終わった。携帯に来ている何件ものメッセージ、今日のことを謝りたいのだろう。
「もしもし」
『やっと電話してくれた。遅いよ』
「悪い、友だちと電話してたからね」
優梨奈からの電話は、俺の予想通りだった。
『病気のこと、本当にごめん。咲楽にも今日みたいにお母さんが突然』
「だと思ったよ」
『そっか。咲楽はそれを知っても辰矢のこと好きだったよ』
そんなこと、俺も何となく感じている。でも、それは華巳先輩も変わらなかった。それでも先輩を選ばなかったのは確かに他にも理由はある。それが決め手ではない。だから、俺は今も考え続けている。
『だから・・・・・・』
「だからって何も変わらない。一応、明日また遊ぶ予定があるからその時探るよ」
明日、本来であれば単なるデートの予定だったけど、俺の病気を知ったとなるとそれを探る以外が難しくなる。
『ごめん・・・・・・』
「別に謝らなくていいよ。それより、気になったから聞くけどさ、咲楽は何で俺のこと好きなの?」
『私も詳しくは知らない。いつの間にか目で追ってるって言ってた』
いつの間にか目で追ってた。その言葉はすでに好きということでしかない。俺の何かを好きになったということにはつながらない。やっぱり、俺が自分で探るしかないのか。
「そっか。なら聞きたいんだけどさ」
『何?』
「何で好きになったかってどうやって聞いたらいい?」
ここは俺よりは恋愛経験のある人に聞いた方がいいのだろう、でも友だちにも話さなかったことを俺に話してくれるだろうか。
『まあ、直接はダメだろうね』
「それならどうしたらいいと思う?」
『一番いいのはタイプを聞くとかかな。あと、今までの恋愛トークから探るのがいいかもね』
「分かった」
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