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十一限目
深刻
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「辰矢くんさぁ、無理し過ぎじゃない?もう薬がきれるなんて早すぎるよ」
定期検診、この時間だけはいつまで経っても慣れそうにない。
「あんまり飲み過ぎると抗体出来ちゃうから効かなくなるんだよ?そろそろ無理な運動は避けてね」
俺はただひたすら先生の話を座って聞くだけだった。
「分かりました」
「君からの分かりましたほど、信用出来ないものは無くなってきたよ」
俺はいつものように話を聞き流して、時間を流す。
「そういえば、今度入院してもらってもいい?」
「え?」
「いや、まあいつも通りって言いたいんだけど、製薬関係者が来るから検査とか話とかしたいらしいんだよね。学校への申請書はこっちで準備するから、どの時期がいいか考えといて」
また入院なのかと、面倒臭いという感情が顔まで出てくる。
「そんな面倒臭いって顔しないで。君が無理しすぎなければ、こういうこともなくなるかもしれないから」
「分かりました。なら、来月の十日からでいいですか?」
「大丈夫だよ。それじゃあこの書類、親御さんに渡してサインしてもらって」
「はい」
診察室を後にして、薬局で俺用の薬を受け取る。
「暇だな。一旦帰るとして、土曜に空いてる人とかいるのか」
一件のメッセージが携帯を光らせる。
『私は今日は試合だよ!
明日はオフだから、どこか行こうよ!』
咲楽とのメールのやり取りは、大体一日のスケジュールの言い合いになってきた。
「試合頑張って!ちなみにどこであるの?」
『え?!着てくれるの?総合体育館だよ!』
「いや、この時間にメールくれるからどこか遠いところかなって」
『そうなんだね。今は休憩中だよ』
試合間の待ち時間か、だったら確かにお昼の十一時にもメールができるな。総合体育館、意外と近いな。見に行ってもいいけど、優梨奈に怒られそうだし。
「どうしよう、暇だしな。やることないし」
通院日、毎回念の為で一日空けるのは変わらない。何かあった事がある訳では無いが、他の信用を減らさないためにはこの方が安全で変わることはないだろう。
「行くか」
暇な一日を過ごすよりかは、話のネタとして行ったほうがいいだろう。
バスに乗って十数分、バス停の前に大きな体育館があった。こんなに近いおかげで、迷う余地なんてなかった。
「ナイス!」「お願い!」
大きな声が入口にまで届いて、ここで間違いないと自信が出た。二階に上がり、部活紹介で見たようなユニフォームを探す。
体育館の奥の方に、見たことあるユニフォームが二人、下でバドミントンをしていた。すぐに分かった、優梨奈と咲楽だと。
「稲垣先輩!?」
新しいそうなユニフォームの子から、俺の名前が出た途端に距離を置かれた。理々杏に言われた事はやっぱり違うような気がした。
「どうも」
一応挨拶をして得点を見ると、ゲームの半分を終えていた。あと半分点数を取られたら、負ける勢いだった。相手の応援席を見ると、かなり盛り上がっているから恐らく相手側が有利な状態なのだろう。
俺はお腹に力を入れて、咲楽に声を届ける。
「頑張れ!」
周りの人が少しざわついて、咲楽たちも俺と目が合った。咲楽の顔が少し動いて、真剣な顔になる。
そこからの二人の活躍は凄かった。点を取られることはほとんどなく、二人の圧に相手のペアは圧倒されているように見えた。無事試合に勝って次に駒を進めた咲楽は、応援席に来て俺の姿を見つけると、試合後と思えない勢いで胸元に飛びついてきた。
「来てくれたんだ!ありがとう」
「うん、メールした時意外と近くにいたからね」
喜びの感情いっぱいの顔をする咲楽と、負の感情で満ち溢れそうな優梨奈。
「来たの?」
「悪いかよ。俺の声聞いてから、調子良かったくせに」
咲楽は力が湧いてくるのは分かるが、優梨奈の勢いがつくのは意味が分からない。
「そうね、あんたが来てイラついたおかげで勝てたかもね」
「そんな言い方するなよ」
「うっさい、バーカ」
「ハイハイ。咲楽、次の試合は?」
「多分、三十分くらい時間あると思うよ」
「そっか」
今の時間は十二時前、お昼ご飯を食べるには少し早い気がする。でも、試合の日ってどうなのか俺には分からない。時間が決まっているスポーツなら分かるんだろうけど、ポイント制のスポーツは終了時刻が大幅に前後するなんて当たり前だろうからな。
「私たち、今からお昼なんだけど一緒にどう?」
俺は好機だと思って、左手にある荷物を渡す。
「なら、一緒に食べようかな。これ、差し入れ」
「え?!いいのに」
「別に大したものじゃないよ。何がいいか分からなかったから、コンビニで適当にゼリー買ってきただけだから」
「ええ!めっちゃ嬉しい!」
俺は後ろにもいる同じ高校の子達にも視線を向けて、笑顔を振りまく。少しでも印象を良くするために。
「みんなも食べて。個別のやつじゃなくて、沢山入ってるやつだから」
「「ありがとうございます!」」
これで俺に対する悪印象が少しでも無くなら、八百円なんて安いものだ。
「それじゃ行こ」
咲楽はラケットの代わりに、自分のバッグから花柄の弁当袋を取り出した。
「私はこっちで試合の様子とか見てるよ」
「うん!ありがとう優梨奈」
ペアが一旦バラバラになり、俺と咲楽は外のテーブルのあるベンチに腰を下ろした。この時でさえ、咲楽の顔は曇る気配がなかった。
「「いただきます」」
俺が買ったコンビニの親子丼、普段なら決して買うことの無いから、不格好な開け方をする。
「そう言えばさ、今日休みってことは明日はバイト?」
バイトなんてやっていない。俺の収入は基本的に小説が売れることでの印税。いくつかの賞を受賞したことで、それなりの印税を貰っている。高校生にしては多額すぎてバイトをしようと思えない。
「ううん、今週は両方休みってだけだよ」
さすがに本当のことは言えない。だから、俺はまた嘘をつく。
「そうなんだ。大丈夫?来月からテスト期間だけど」
「大丈夫。勉強はいつもしてるから」
高校生の勉強なんて、小説を書く上で必要知識が多いから既に粗方勉強を終えてる。どの問題も容易に解ける。簡単な話だ。
「そっか、私あんまり自信ないんだよな」
「って言っても、赤点は回避できるでしょ?」
「それは当たり前だけど、高得点は取れないかな」
高得点ってどういうラインなんだろう。八十点でも俺は十分に高得点だと思うんだけど、それほどじゃないんだろう。
「ふーん・・・・・・」
「そんなに興味無い?あ、そういや、めっちゃ頭いいんだよね」
「まあ、高校最初のテスト以来、九十点より下は取ったことないかな」
正直、百点だけにすることは容易にできる。でも、さすがにそれを維持し続けたら、何かしらの不正を疑われても仕方がない。
「本当?!」
「すぐにわかるような嘘つかないよ」
二人とも食べ終わることには話題はテストかられないトークに変わっていた。
「そう言えば、最近は私たちの関係って何か変わってきた?」
初デートの日も似たようなことを聞かれたのはちゃんと覚えている。でもあの時は、答えを出すことができなかった。あの時は、悪い意味で響空のことで頭がいっぱいだった。響空のことを完全に消し去った今、何らかの形で答えを出した方がいい気がする。
「そうだね、そろそろかなとは思ってるよ」
俺自身、そろそろ咲楽との関係値をもっと深めてもいいかもしれないとは思っている。しかし、告白をしたとしてその先を俺はまだ知らない。
「それが聞けただけでもうれしいよ」
「そう言えば、咲楽は彼氏とかいたことあるの?」
「うん、一応ね。でもその人とは何もなかったよ。付き合ってたの中学のころだし」
咲楽は一応恋愛という項目については俺よりも先輩なわけだ。だとしたらこの子に任せてもいいかもしれない。
定期検診、この時間だけはいつまで経っても慣れそうにない。
「あんまり飲み過ぎると抗体出来ちゃうから効かなくなるんだよ?そろそろ無理な運動は避けてね」
俺はただひたすら先生の話を座って聞くだけだった。
「分かりました」
「君からの分かりましたほど、信用出来ないものは無くなってきたよ」
俺はいつものように話を聞き流して、時間を流す。
「そういえば、今度入院してもらってもいい?」
「え?」
「いや、まあいつも通りって言いたいんだけど、製薬関係者が来るから検査とか話とかしたいらしいんだよね。学校への申請書はこっちで準備するから、どの時期がいいか考えといて」
また入院なのかと、面倒臭いという感情が顔まで出てくる。
「そんな面倒臭いって顔しないで。君が無理しすぎなければ、こういうこともなくなるかもしれないから」
「分かりました。なら、来月の十日からでいいですか?」
「大丈夫だよ。それじゃあこの書類、親御さんに渡してサインしてもらって」
「はい」
診察室を後にして、薬局で俺用の薬を受け取る。
「暇だな。一旦帰るとして、土曜に空いてる人とかいるのか」
一件のメッセージが携帯を光らせる。
『私は今日は試合だよ!
明日はオフだから、どこか行こうよ!』
咲楽とのメールのやり取りは、大体一日のスケジュールの言い合いになってきた。
「試合頑張って!ちなみにどこであるの?」
『え?!着てくれるの?総合体育館だよ!』
「いや、この時間にメールくれるからどこか遠いところかなって」
『そうなんだね。今は休憩中だよ』
試合間の待ち時間か、だったら確かにお昼の十一時にもメールができるな。総合体育館、意外と近いな。見に行ってもいいけど、優梨奈に怒られそうだし。
「どうしよう、暇だしな。やることないし」
通院日、毎回念の為で一日空けるのは変わらない。何かあった事がある訳では無いが、他の信用を減らさないためにはこの方が安全で変わることはないだろう。
「行くか」
暇な一日を過ごすよりかは、話のネタとして行ったほうがいいだろう。
バスに乗って十数分、バス停の前に大きな体育館があった。こんなに近いおかげで、迷う余地なんてなかった。
「ナイス!」「お願い!」
大きな声が入口にまで届いて、ここで間違いないと自信が出た。二階に上がり、部活紹介で見たようなユニフォームを探す。
体育館の奥の方に、見たことあるユニフォームが二人、下でバドミントンをしていた。すぐに分かった、優梨奈と咲楽だと。
「稲垣先輩!?」
新しいそうなユニフォームの子から、俺の名前が出た途端に距離を置かれた。理々杏に言われた事はやっぱり違うような気がした。
「どうも」
一応挨拶をして得点を見ると、ゲームの半分を終えていた。あと半分点数を取られたら、負ける勢いだった。相手の応援席を見ると、かなり盛り上がっているから恐らく相手側が有利な状態なのだろう。
俺はお腹に力を入れて、咲楽に声を届ける。
「頑張れ!」
周りの人が少しざわついて、咲楽たちも俺と目が合った。咲楽の顔が少し動いて、真剣な顔になる。
そこからの二人の活躍は凄かった。点を取られることはほとんどなく、二人の圧に相手のペアは圧倒されているように見えた。無事試合に勝って次に駒を進めた咲楽は、応援席に来て俺の姿を見つけると、試合後と思えない勢いで胸元に飛びついてきた。
「来てくれたんだ!ありがとう」
「うん、メールした時意外と近くにいたからね」
喜びの感情いっぱいの顔をする咲楽と、負の感情で満ち溢れそうな優梨奈。
「来たの?」
「悪いかよ。俺の声聞いてから、調子良かったくせに」
咲楽は力が湧いてくるのは分かるが、優梨奈の勢いがつくのは意味が分からない。
「そうね、あんたが来てイラついたおかげで勝てたかもね」
「そんな言い方するなよ」
「うっさい、バーカ」
「ハイハイ。咲楽、次の試合は?」
「多分、三十分くらい時間あると思うよ」
「そっか」
今の時間は十二時前、お昼ご飯を食べるには少し早い気がする。でも、試合の日ってどうなのか俺には分からない。時間が決まっているスポーツなら分かるんだろうけど、ポイント制のスポーツは終了時刻が大幅に前後するなんて当たり前だろうからな。
「私たち、今からお昼なんだけど一緒にどう?」
俺は好機だと思って、左手にある荷物を渡す。
「なら、一緒に食べようかな。これ、差し入れ」
「え?!いいのに」
「別に大したものじゃないよ。何がいいか分からなかったから、コンビニで適当にゼリー買ってきただけだから」
「ええ!めっちゃ嬉しい!」
俺は後ろにもいる同じ高校の子達にも視線を向けて、笑顔を振りまく。少しでも印象を良くするために。
「みんなも食べて。個別のやつじゃなくて、沢山入ってるやつだから」
「「ありがとうございます!」」
これで俺に対する悪印象が少しでも無くなら、八百円なんて安いものだ。
「それじゃ行こ」
咲楽はラケットの代わりに、自分のバッグから花柄の弁当袋を取り出した。
「私はこっちで試合の様子とか見てるよ」
「うん!ありがとう優梨奈」
ペアが一旦バラバラになり、俺と咲楽は外のテーブルのあるベンチに腰を下ろした。この時でさえ、咲楽の顔は曇る気配がなかった。
「「いただきます」」
俺が買ったコンビニの親子丼、普段なら決して買うことの無いから、不格好な開け方をする。
「そう言えばさ、今日休みってことは明日はバイト?」
バイトなんてやっていない。俺の収入は基本的に小説が売れることでの印税。いくつかの賞を受賞したことで、それなりの印税を貰っている。高校生にしては多額すぎてバイトをしようと思えない。
「ううん、今週は両方休みってだけだよ」
さすがに本当のことは言えない。だから、俺はまた嘘をつく。
「そうなんだ。大丈夫?来月からテスト期間だけど」
「大丈夫。勉強はいつもしてるから」
高校生の勉強なんて、小説を書く上で必要知識が多いから既に粗方勉強を終えてる。どの問題も容易に解ける。簡単な話だ。
「そっか、私あんまり自信ないんだよな」
「って言っても、赤点は回避できるでしょ?」
「それは当たり前だけど、高得点は取れないかな」
高得点ってどういうラインなんだろう。八十点でも俺は十分に高得点だと思うんだけど、それほどじゃないんだろう。
「ふーん・・・・・・」
「そんなに興味無い?あ、そういや、めっちゃ頭いいんだよね」
「まあ、高校最初のテスト以来、九十点より下は取ったことないかな」
正直、百点だけにすることは容易にできる。でも、さすがにそれを維持し続けたら、何かしらの不正を疑われても仕方がない。
「本当?!」
「すぐにわかるような嘘つかないよ」
二人とも食べ終わることには話題はテストかられないトークに変わっていた。
「そう言えば、最近は私たちの関係って何か変わってきた?」
初デートの日も似たようなことを聞かれたのはちゃんと覚えている。でもあの時は、答えを出すことができなかった。あの時は、悪い意味で響空のことで頭がいっぱいだった。響空のことを完全に消し去った今、何らかの形で答えを出した方がいい気がする。
「そうだね、そろそろかなとは思ってるよ」
俺自身、そろそろ咲楽との関係値をもっと深めてもいいかもしれないとは思っている。しかし、告白をしたとしてその先を俺はまだ知らない。
「それが聞けただけでもうれしいよ」
「そう言えば、咲楽は彼氏とかいたことあるの?」
「うん、一応ね。でもその人とは何もなかったよ。付き合ってたの中学のころだし」
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