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第肆章 本番

高揚

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「「魔導剣流 居合 流れ切り」」

 俺と千藤 侑大こいつは同じ魔導剣を使う。ただ、俺と違って常に師匠から剣を教えてもらっている。俺はほんの一時期だけ、これが俺と千藤 侑大こいつの差。その精度はやっぱり俺以上だ。押し返されるとは思ってもみなかった。観客もすごい歓声を上げている。

「そういや、俺の情報ないんだろ?」

「何が言いたい」

「平等性にかけるだろ。先に教えてやる」

 俺は、自分のことを明かすことでさらなる自身の強化を図ろうと、自己開示を始める。

「俺が使うのは二つだ。一つはさっきも使った通りお前と同じ魔導剣、もう一つは式神魔法だ。聞いたことくらいはあるだろ?陰陽魔導師の土御門 晴信、あの人の弟子と思ってもらって構わない」

 陰陽魔導師は有名だとしても、使う魔法はそこまで有名ではない。だからこそ、開示して損はない。特に、式神魔法は誰でもわかる魔法じゃないからな。

「なるほど。か」

「本当にかな?」

 ありゃりゃ、今回は使わないブラフ程度でいいかと思ってたのに。すっかりバレてら。
 互いに一度、剣をさやに収め、もう一度居合の構えを取る。そして魔法の気配、後ろから援護か何かされるな。
 間合いを詰めて魔導剣使いなりの戦いを始める。

「魔導剣流 彼方切り 神速」

 師匠の教えを長い間受けている甲斐があるな。さすがに早い。

「鋼鉄魔法 怒りの重弾」

 鉄壁を誇る鋼鉄魔法。遠距離攻撃二つ、タイミングも微妙にズレている。剣を一振りして魔導剣を流しても、鋼鉄魔法で押しつぶされる。確かにいいコンビネーションだ。でも所詮、その程度、今の俺なら超えられる。

「魔導剣流 彼方切り 流星、魔導剣流 滝登り」

 一撃で決める、と言いたいところだが、さすがに鋼鉄魔法も防いだ上で二人を倒すのに一撃は難しい。
 彼方切り 神速は俺の剣で弾く。そして、バカデカい弾丸は流星で少しづつ削るついでに弾丸の着地点をずらす。俺より左側に落ちた弾丸の横から、次の技で二人を分断させる。

「侑大!俺のことは気にするな、先に行け!」

「分かってる!魔導剣流 獅子連切五撃」

 奥にやった鋼鉄魔法使いはともかく、目の前の侑大の攻撃はやばい。俺でも四撃が限界なのに、俺よりも精度の高いものを五回も連続で打つとは・・・、ちょっと考え直す必要がありそうだな。

「ちょっとだけ本気見せちゃおっかな」

 俺は霊翠眼の力の一端を使う。
 霊魔を視認するのが霊翠眼の使い方。しかし本当の効果は、魔源マナの視認だ。魔導剣流とは元々自身の魔力を利用して、魔源マナを動かし攻撃すること。元々透明な攻撃をする魔導剣流を霊翠眼で視認し、攻撃の弱点となる場所にピンポイントで俺の攻撃を当てる、五か所全ての。

「何!?」「どうして!?」

 その直後俺は二人の間に割り込み、魔導剣使いの間合いを抜ける。二人の間合いのギリギリ外を俺は位置取る。一手で終わらせるには、かなりの難易度のこの状況。でも、長期戦になるのはさすがに聞か引ける。俺の本気もいつまで使えるか、なんて耐久ゲーはしたくない。一度、剣を鞘にしまい速さを得る。

「挟み撃ち、今だ!魔導剣流 大寅狩り」

 人は、極限的集中状態になると『FLOWフロー』と呼ばれる一種の覚醒状態になる。一流のトップアスリートはその状態を自分からなることが出来るときくが、俺は初めての興奮にその状態に陥ることが出来た。
 周りの声が小さな雑音が、その姿を隠し、観客席という興奮たたかいの視界に邪魔な部分が消えた。侑大の剣が抜かれていく、後ろの洋一の魔法陣が完成されていく。今の俺には全てが止まって見える。

「鋼鉄魔法」

 俺はゆっくりと進む時間の中で、逆方向に踏み切り剣を抜く。

「魔導剣流 居合 流れ切り」

 斬撃は侑大の剣技を繰り崩し、洋一の魔法陣を貫く。魔法陣の急所を貫かれたことで、洋一の鋼鉄魔法は発動前に暴発し、その残りで洋一の魔核を壊す。

『これはすごい!一度の抜刀で三つのことをこなして見せた!』

『千藤さんの攻撃を無効化し、野田さんの魔法陣を破壊しての強制脱出ベイルアウト。実にお見事』

 解説と実況の二人が俺の防御をここまで褒めてくれるとは思ってみなかった。でも、これで終わりじゃない。むしろ、ここからが本当の勝負と言っても過言じゃない。
 互いに視線を合わせ、ここからだと認識しなおす。

「ここまでとはな」

「意外か?」

「そうだな。師匠からはもう何年も指導を受けてないと聞いていたかなら」

 確かに、俺が最後に師匠から指導を受けたのはもう四年も前の話。しかも指導を受けた期間はほんの一年。それでここまでの実力を得られることなんてほとんどない。俺もつい最近までは、ここまで上達しなかった。ちょっとしたやる気と開眼したこの#霊翠眼__め__#のお陰だ。

「それじゃあ、そろそろ終わりにするか」

「だな。次の一撃で決める」

 魔力とは違う、互いの覇気が中間地点でぶつかり合い衝撃波が生まれていた。不思議だった。剣だけでの戦いでここまでの興奮を得るなんて思ってもみなかったし、相手とここまで分かり合えるとも思わなかった。今なら侑大と剣を交わすだけで大抵のことが分かりそうだ。

「「魔導剣流」」

 衝撃波の勢いが増し、風が観客席にも伝わってくる。

『これは、すごいですね。今にも吹き飛ばれされそうですね』

『魔力じゃないのにここまでの迫力。常識じゃありえないものですね』

 観客や実況者の言葉はもう、俺たちの耳には聞こえない。聞こえるのは互いの声のみ。

「「大技」」

 振り上げる剣に互いの魂が乗る。そして、衝撃波のもとに一歩、踏み込む。

「「電戒」」

 互いの剣の周りに魔素がつまり、景色に錯覚が起こる。

「「兜割り!」」

 剣ではなく、錯覚が触れ合ったことで衝撃波が爆風に変わる。互いの剣が今までに感じたことのないくらい重く感じる。そして、伝わってくる感情は侑大の興奮そのもの。俺と同じ最高のライバルという確信、かつてない高揚、今が最高であるという自信。これを決めれば勝ちという好奇心、最高すぎる。

『負けてたまるか!』
『やられてたまるか!』
『勝つんだ!』
『勝たなきゃ!』

 互いの感情が剣から伝わってくる。ここで勝つのは思いが強いほう、じゃない。重要なのは、意志だ。ここで勝たなきゃいけない、勝って自分の力を見せたい。あいつのために。
 俺は踏み込んでいた足にさらに体重を乗せて、地面を割る。すると、彼のぼやける剣に俺のぼやける剣が食い込まれていき、砂埃が舞う。

『おぉっと、ここで一人が強制脱出ベイルアウト!ですが、砂埃が舞っているのでどちらが勝者なのか分かりません』

 舞っているものを薙ぎ払い、剣をしまう。

『勝者は、曇天第四!『小さな巨人 千藤』『鉄壁 野田』の二人をたった一人で難なく倒して見せた江神!』

 普通に思っていたんだけど、どうして今回の一年生には全員に二つ名があるのだろう。小さな巨人、鉄壁、貴公子、秀才。二つなってこうも簡単につくものなのだろうか。

「どうした?周りも盛り上がってたぞ」

「だろうな。最高だった」

「だったらもっと何かあるだろ」

 自分でも分かっていた、あっけなかったという顔をしていることは。でもその理由なんて分かりきっている。

「最高だったからこそ、あっけなくてどうしようもなくて悲しいんだろ」

 次もこういう高揚感を得られるかなんて、俺には分かるわけもない。でも、それに期待している自分がいることには気が付いている。

「ほらね、言ったでしょ?曇天が勝つって」

「蒼天第一もここまでとはな」

 男は、そう言って奥の暗闇に消えて行く。しかし、女の声が足を止める。

「それじゃあ、賭けは私の勝ちだね」

「勝手にしろ」

 もう、男の去ろうとする足を止められなかった。女はそんなことを気にせずに勝者のことを見直す。

「俊は冷たいねぇ。久しぶりの再会、どんな風に死よっかなぁ。楽しみだね、永和」
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