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第壱章 アルカトラズ

禍々しい力

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 二回目の光景に圧巻されて、怯えてるいる。

「君は・・・見た覚えがあるな。矢壁のお気に入りか。殺してもいいんだろうか」

 恐らく、僕のことなのだろう。鳥肌が治らない。

「暗黒空間魔法 黒帝の私室」

 部屋の中の景色が全く別物に変わっていく。邪悪な魔力は部屋中に広がり、その正体が目の前の男性であることがわかった。

「・・・その子が、矢壁のお気に入り?」

 そのことを知らない莉皇さんは男性に対して強い敵対心を持っている。

「あれ?まだ喋れるの?殺さない程度って案外難しいんだな」

「うるさい。炎魔法 天凱の爆蓮」

「暗黒魔法 黒帝の爆蓮」

 男性の隙を突こうと魔法を打つけど、黒色の同じような魔法を男性も打つ。結果は男性の魔法が莉皇さんの魔法を飲み込み、彼女の体を黒い炎が包む。

「何で、分からないんだろうね。いい加減理解した方がいいよ。君らの魔法は私には絶対に通じない」

 僕は、その言葉でどうして義政くんたちが倒れているのか理解した。

「まぁ、とにかくこの子の扱い方は矢壁が来てからにするか」

 男性は僕の目の前で腰を下ろし、僕の上に掌を広げ、魔力を集める。

「暗黒魔法 黒帝の重荷」

「アア” ア“ア”~」

 その魔法は僕の体を地面に押し付けるものだった。体が地面にめり込まれそうになる痛みに気が遠くなる。

「永和!雷魔法 雷帝の庭槍豪雨」

「暗黒魔法 黒帝の庭槍豪雨」

 義政くんの魔法は、雷の槍が目標に向かって降り注ぐ魔法。それに対しても男性は同じように、黒くなった同じ魔法で迎え撃つ。

「分からいかな。君らの魔法は私の前じゃ、無意味同然なん・・・」

「植物魔法 外殻の蔦」

 『萩原 剣司』くんが使った魔法は男性の手足を縛り、持ち上げる。

「暗黒魔法 黒帝の外殻の蔦」

 またしても黒い同じ魔法。剣司くんを同じように持ち上げて首を締める。すると、苦しさで魔法の維持が出来ずに、剣司くんの魔法の効果が切れる。
 今思った。普通、二つ同時魔法を使うのはかなりの難易度だ。上級魔法使いでも、簡単な魔法を維持するのに苦労する。なのに彼は僕には負荷をかける魔法を維持したまま、対抗してくる人には同じ魔法で迎え撃っている。

「ボス~、お待たせしました」

 姿が見えない、一度僕らの道を塞いだやつの声がする。

「来たか、案外遅かったんだな」

 すると、いつの間にかその姿が男性の近くに見えていた。

「いや、そんなことを言われても。こう見えて全力で走って来たんですよ?」

「とにかく、あいつは君のお気に入りだったよな?」

「ええ、そうですが・・・」

 二人は僕の話をしているようで、その声は微かに僕のもとに聞こえた。

「あいつはどうしたい?」

 男性の言葉に僕は疑問を持った。彼らは僕に何か特殊なことでもするつもりなのだろうか。

「そうですねぇ。彼一人を別棟で管理して色々いじってみたいですね」

 何勝手に怖いことを言ってるんですか?!僕だけ別棟ということはもう義政くんたちとは会えないのだろうか。

「分かった。なら他のやつは?」

「いいです。その辺のやつはどこにでもいるような雑魚ですので」

 僕らは全員、矢壁の言葉に怒りが湧き、力が漲る。

「「「「「「「「「「合体魔法」」」」」」」」」」」」」
「「白雷神の憤針豪雷天ふんしんごうらいてん」」
「「煉獄風神 未風切みかぜき」」
「「水神龍の氷斬乱回陣ひょうざんらんかいじん」」
「「天体聖槍 満開光桜まんかいこうおう」」
「「虚神の外界暗転死戦がいかいあんてんしせん」」

 大人たちの合体魔法が男性と矢壁と言われる人に向けられる。

「学習能力のない人たちだな。暗黒魔法 黒帝の憤針豪雷天 未風切 氷斬乱回陣 満開光桜 外界暗転死戦」

 また、男性は黒い同じ魔法だけで大人たちに反撃する。さらに言えば、五つの魔法を同時に発動させる。しかし、ようやく僕に対する魔法が解ける。
 改めて、彼の強大な禍々しい魔力と、そこの見えない大量の魔力量、まさしくラスボス感満載と思い、鳥肌が治らない。

「相変わらず、すごい魔法ですね」

 大人全員がまた同じように倒れる。彼ら十人の全力はたった一人の力によってねじ伏せられた。

「何なんだよ、あの化け物。普通ここまでできないだろ」

 晃祐くんが男性の強大さに少し怪しむ。

「当然じゃないか。君らみたいな凡人じゃないんだよこの方は」

 僕らは彼の言葉の今更感に呆れる。そして、僕は彼らが油断している隙に僕と悠夏はこの場から離れようとする。

「風魔法 空風の方舟」

「待て。どこにいくつもりだ」

 彼の言葉の後に僕と悠夏は乗っていた風魔法から落とされ、また地面叩きつけられる。

「ダメだよ、永和くん。君はこの中でも一番大事な人材なんだから」

 矢壁は僕に近寄ってニヤリと笑って、僕にあの短剣を向ける。

「雷魔法 雷装騎」

 雷の鎧のようなものを纏った義政くんが矢壁を蹴り飛ばす。

「痛いなぁ!僕は君に用はないんだよ」

 ここからは二人の戦いが始まりそうな雰囲気があった。でも、どうしてラスボス感のある男性は何もしないのだろう。

「やめろ」

 男性はその言葉で矢壁もろとも義政くんを吹き飛ばした。彼の魔法は一体何なんだ。ここにいる人の全員がそう思った。五つの魔法を同時に使えて、その威力は合体魔法を超える。そんな魔法がこの世界にあっていいはずじゃない、そんなことができる人がこの世界にいてはいけない、そう思った、願った。

「莉皇!あれ使うぞ!」

「ちょ、よっしー。あれはここを出るときの最終手段でしょ?」

「今大事なのは、こいつを倒すこと以外に何があるんだよ!」

 怒りのこもった義政くんの言葉は、莉皇さんの心を動かした。

「分かったよ」

 義政くん、莉皇さんの二人が立ち上がり、互いに魔力を増幅させる。

「何をしようが、私には無意味だというのに」

 増幅した魔力をラスボスを中心とした円状に流し、互いの魔力を共有させた。その流れた魔力からは、熱気と怒り切っている雷の轟音が聞こえる。

「こ、この魔力・・・す、すごいじゃないですか!どんな魔法を繰り出すのか楽しみですねぇ、跳ね返されるでしょうけど」

 矢壁の言葉に、僕はどこか懐かしい気がした。・・・そうだ、僕が物心ついた頃に、母から読んでもらった童話の中に同じようなセリフを言った悪役がいた。そしてその状況は今ととても似ていた。

「あの物語だと・・・」

「何言ってんの永和?今ならあの人から逃げれるよ。みんなのためにも早く逃げよ」

 隣から聞こえてくる悠夏の声。その表情はとても怯えていた。ここにいたら邪魔になる、そう言いたそうにも見えた。
 でも、僕はあの物語の続きを思い出して、この場の解決に挑む。まず、魔法の使用者にバレないように簡易的な魔法を発生させ、それを思いっきり地面に向ける。

「水魔法 天激」

 簡易的な水魔法、これは普通なら特に意味がない攻撃魔法。なのにさっきまで存在していた協力な魔法が消え、暗闇の部屋が元に戻った。

「は?」「え?」「どういうこと?」

「ふん、まぐれが・・・」

「「極天魔法 白雷白炎 轟希剣奏凱ごうきけんそうがい」」

 発動までに時間が掛かった義政くんと莉皇さんの合体魔法の最上級『極天魔法』は気を取られて、無防備なラスボスに当たった。

「ボ、ボス!」
 
 慌てている矢壁の姿に俺は少しほっとした。

「大丈夫だ、問題ない。暗黒空間魔法 黒帝の私室」

 ラスボスは負傷しながらも、最初の魔法で再び空間が元に戻る。でも、仕掛けが分かった僕がする行動はただ一つだ。

「水魔法 天激」

 すると、また同じことが起きる。

「き、貴様ぁ!」

 正気を失ったラスボスは、自身の魔法の正体を暴いた僕に向かって殺意を剥き出す。その殺意は魔力の塊となって僕に向かってくる。

「雷魔法 雷帝の大盾」

 義政くんが、目にも止まらない速さで向かってくる魔力の塊を大きな盾で守ってくれた。

「どけ!このクズが」

「悪いけど、こいつは俺にとっても大事な友人なんでね」

 僕は義政くんの背中越しに見えるラスボスの殺気に、出し抜けるかどうかを考える。

「案外短気なものなんですね。ここのボスって聞いたから、どんだけ冷静なんだろうって思ってましたよ」

 僕の挑発に簡単に乗った、ラスボスの視界には僕以外見えてないだろう。それを逆手に取って僕の背中側で魔力を込める。

「光魔法 凛閃光りんせんこう

 僕を見ていた人は全員、目に短時間ではあるが障害が起きる。その好機を逃すまいと義政くんは、攻めに出る。

「雷魔法 雷帝刃牙じが

 雷できた剣が再び無防備なラスボスに当たる。その予期していなかった攻撃に受け身を取ることもできず、ラスボスは、奥で倒れ込む。

「貴様ら、一度ならず二度までも」

「ボス!ご無事ですか?」

「お前は邪魔すんなよ。炎魔法 炎帝の豪槍」

 炎の大きい槍が出来た途端、一目散に矢壁に向かう。矢壁は簡単なものの中で強力な防御魔法で向い打つが、それで防ぐことは感じる魔力量通り出来なかった。

「暗黒空間魔法 独歩暗躍どっぽあんやく

 僕は突如足元に現れた球状の魔力にとじ込まれる。どこに魔法を放ってもその魔法を解くことはできなかった。そしてその魔力の塊に入っている間は、何も感じることはでず、何も感じなかった。
 そして目の前が魔力の塊じゃなくなった時、周りの景色は一変していた。天井や壁は所々大きな穴が空いていて、まるで別の世界だった。最後に聞こえた声から、僕を魔法で閉じ込めたのはラスボスだろう。そしてあたりは僕が他の子供たちと一緒にいた時にみた光景とほとんど同じ。唯一違ったのは悠夏の姿だった。確か下で見た時はうつ伏せだった気がするが、今は壁にもたれたまま座っている。これはやっぱり、あのラスボスがやったのだろうか。
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