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第壱章 アルカトラズ

狼煙

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 僕がここに来て一年半が経とうとしていた。つまりは、僕が十歳になるとし、おそらく六月。ここにはカレンダーのようなものはない。外の景色も見れず、体感でけで日時を把握しなければならない。

「永和、何してんだぁ、飯食わねえのか?」

 一年半、とても長い年月がたった。その間に仲間というべきか友達が出来た。同じ部屋の義政君。幼馴染の悠夏、彼女と同じ部屋の晃祐君、義政君と晃祐君と元々面識のあった九人。それに続々と連れ込まれてくる少年少女たち。ここにいても昔みたいに震えることなく過ごせている。

「義政君まってよ!」

 ご飯を食べ終わると、大人たちは必ず一つに集まってヒソヒソ話をしている。一度悠夏が話に混ざろうとしたのを晃祐君たちがひどく怒っていたらしく、その話を聞いてから子供たちはその話し合いに誰も寄り付かなくなった。その代わりに子供だけで話をするのがここ最近の日課のようなものだ。

「本当、みんなで何話してんだろうね」

 子供の話し合いの始めは大体悠夏がこう言って始まる。

「知らんわ、子供が関わる事やないっちゅうて言いよったさかい、案外しょうもない話かもしれへんで」

 この関西弁は僕たち子供のグループで唯一の関西人の『安藤 伊吹』カッコよくて頼りになりそうな九歳の男子。もうしばらくしたら十歳になるはず・・・。

「そういえば伊吹って今度十歳でしょ?属性は何にするの?」

 悠夏が伊吹に別の話題を振る。

「俺はケンさんと一緒の植物属性にしようと思ってんねん」

 ケンさんとは彼と同室の『萩原 剣司』という男だった。彼も植物属性と言っていたな。無闇に魔法を使うのは禁止されているから見たことはないけど。

「そっか、草か。なんか地味だよね」

「草やのうて植物な!お前、いっつもそう言うて変にケチつけてくんなや、めんどくせぇ」

「あれれ?伊吹、顔赤いよぉ」

「うっせぇっちゅうねん、翡翠」

 伊吹を軽くいじる子この子が『佐々岡 翡翠』僕らと同じ九州出身らしい。

「お前もなんとか言ってくれよ、永和」

「僕に話を振ってくるなよ。僕は関係無いんだから」

 そう言ってると、近くで話し合っていた大人たちがこちらの方へと歩き出していた。

「それじゃあ今回はこれくらいにしてまた今度話そう。各自大変だとは思うけど、今後もよろしくお願いします」

 翡翠の同室人である『城戸 莉皇』、彼女は大人たちのリーダーのような存在。というより、まとめ役のようなものだ。可愛い、綺麗そういった言葉よりも『美しい』その言葉が彼女にはとても似合っている。凛としていて、勇気に満ち溢れている信頼されるような存在以外考えられない。

「翡翠、そろそろ戻ろうか」

「うん。それじゃあみんなまた今度ね」

 そう言って翡翠は莉皇さんと共にこの場を立ち去る。そして、さらに続々ペアで部屋に戻っていく。

「まだ話すか?悠夏」

 僕と悠夏はたまにみんなが帰った後に話している。それに気を使い彼女に同室の晃祐くんは悠夏に聞いた。

「ううん。今日はいいかな、多分もうすぐ私時間だし」

 なぜか僕らと同室の大人たちは『人体実験』という言葉を説明時以外使わない。いや、使わせようとしていない。一年以上同じ部屋で過ごす僕らもそれは何故かうつっていて『人体実験』という単語を使うことはない。僕は彼らのような大人になれるのだろうか、そんなことを言うと彼らは決まってそうしてやるから待ってろよ、それだけ言ってどこか遠くを見つめている。

「僕、そろそろかも」

「もうそんな時間か、永和。大変だとは思うけど、気をつけろよ」

「うん。とりあえず頑張るよ」

 僕はそう言って義政くんと別れて、いつも通りに武装されている大人たちに連れられ、僕はいつも違う部屋へと身を置きにいく。手術台のようなものに乗せられ、僕の視界には強い光で何も見えなくなり、時期に身体中に激痛が走る。大声で叫ぶも何も変化なく、あっという間に僕の意識は消えていく。

 意識が戻った。そこにはいつも通り義政君が隣で待ってくれていた。

「よぉ、お疲れ様。何か変な感じとかある?」

 子供が大人になる過程で必ずある思春期。その時期のどこかで人はそれぞれ魔法の属性が決まる。だからそういう違和感をもっている時があれば、近々その人の分岐点となるということ。

「ううん。何もないかな・・・」

 正直、ここ最近何かと空気の中に多くの魔力を感じることがある。ここに来て、意識が飛ばされていくほどに魔力を多く、そして段々濃く感じてきた。

「起きて早々で申し訳なけど、今から起こることを言うから、覚えといて」

 状態確認の後に義政くんから聞いたことは衝撃だった。

「ここから、抜け出すぞ。その為に協力してほしい」

 義政くんたちがやるのは反乱を起こし、治めようとする敵の攻撃を妨害すること。僕たちがするのは、その反乱を知らない人たちの誘導。その話が終わった途端、地響きが始まり、反乱の狼煙が上がる。

「いきなりで悪いが作戦通りに頼んだぞ」

 話直後だから、理解度は低いまま作戦が始まった。最初に扉が開き、二人揃って逃げ出す。

「お前たち、何かってに外に出てる!早く中に戻れ!」

 近くにいた警備員の台詞に反抗し、義政くんが魔法を放つ。

「雷魔法 雷帝の弓矢」

 空中に黄色い魔法陣が現れ、そこから稲妻状に警備員の姿を貫いていく。

「全員出ろ!ここから抜け出すぞ!」

 義政くんが叫ぶと近くにある同じような部屋から出て来て、僕らの方に向かってくる。

「出口は一階の食堂に行けば分かる。とにかく、食堂に向かえ!」

 僕は食堂から出口まで案内するという役割を与えられた。ここから一番早く出口に向かう為、僕はエレベータの横の壁を破壊し、降りようとする。

「雷魔法 雷光波」

 壁に触ると自分の手を中心に半径七メートル程度の穴が開く。

「ここからも降りられます!皆さん、落下威力を軽減できる魔法を使える人はこっちからも降りてください!」

 僕はそこからさらにいくつかの箇所に穴を開けて、出口を広げる。そして、僕も一階の食堂に向かう。落下速度は落ちていく間は加速していく。よって着地直前の速度は水面をコンクリートのように硬くしそうだった。

「風魔法 空の息吹」

 魔法陣と共に空気が膜のように弾性を持つ。そこには反乱軍のメンバーだろう、義政くんたちと仲のいい女性の一人『飯雲 沙友理』さんがいた。そこには彼女の魔法で空間がねじられていた。

「永和くん!この中にみんなを誘導して!この先は世界のどこかに続いているから」

 そう言って、沙友理さんは僕に誘導を任せて、彼女自身は警備隊の妨害に動く。
 間違いない。今僕たちはこの監獄から脱走して、自由を掴もうとしているのだ。ここからが本当の戦争なのだと、その場でようやく理解した。
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