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人生の機微
我が子と歩む未来は3
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「佐知さんお帰りなさいませ まぁ~小さかった秀和ぼっちゃんがこんなに丸々と大きくなられて」
「泉さんまた親子でお世話になります よろしくお願いします」
「わたくしのほうこそ宜しくお願い致します 長旅でお疲れでございましょう さぁ中にお入り下さいませ」
「荷物は二階の部屋に運んでおくから早く秀和をベッドに寝かせてやれよ」
「そうね、早くおむつの交換しないと」
リビングにはアメリカから一足先に届いたベッドと紙おむつが並んで置かれていた。
「不思議なものですね 明日香ちゃんが使うはずだったベッドがまたここに置かれて、こんなことがあるなんて思いも致しませんでした あの時の光景がまるで昨日の事のように蘇ってまいりました あっ、わたくし何を言っているのでしょうね もういい加減忘れなければいけませんのに」
「泉さん忘れなくていいと思いますよ 本当なら明日香ちゃんがこのベッドで笑ったり泣いたりしていたのですものね 明日香ちゃんのお世話を心待ちにしていた泉さんの気持ちわかりますから気になさらないで下さい」
「申し訳ございません佐知さんがお帰りになったこんな時に・・雅和さんが苦しんでおられた過去のことなども忘れてしまわないといけませんのに」
「あの事故は雅和を今も苦しめているのかしら・・泉さん、彼はあのときの事をまだ引きずっているのでしょうか」
「二人して何を話しているかとおもいきや、俺は苦しんでも引きずってもいないからご心配なく」
「雅和さんいつからそこに、余計な事を佐知さんに聞かせてしまったわたくしを許しくださいませ」
「泉さんいいんだ 確かに明日香を亡くした時の俺は尋常じゃなかったからね 取り乱しみんなに迷惑をかけた そんな俺を一番まじかで見て世話をしてくれたのが泉さんだった 泉さんはあの時の俺をよく知っているから心配してくれているんだよね でも本当に俺は大丈夫だから心配しないで」
「雅和がずっと仕舞い込んでいた明日香ちゃんのベッドを出したってことは心境の変化があったって事よね 大丈夫といった雅和の言葉は嘘じゃないと思う アメリカでこのベッドを見た時は驚いたけれど同時に雅和が前に進めた証のように思えたの」
「雅和さんそうだったのですか」
「自分のことなのに正直俺自身わからないんだ 気持ちに整理が付いたのか付かないままなのか、俺は美香さんと明日香の遺品を見たり手にすることもいつしか避けるようになっていた。でも遺品を目にするつらさが徐々に薄れてきているような気がするんだ 此処にある明日香のベッドも以前は見るだけで胸が苦しくなって涙が溢れてきたよ だけど今こうして触れるベッドはなぜだか懐かしく感じられる これが佐知が言った前に進めた証ならそうなのかもしれないね」
「思えば私も同じでございました
主人の所有していた品物を捨てられずかといって見ることも触れること出来ずクロゼットの奥底に仕舞い込んでおりました 主人を亡くした悲しみを思いだし張り裂けそうな感情をまた味わうような気がして見ることも処分する事もできなかったのです しかし不思議なもので年月というものは知らず知らず人を変えてくれるのでございますね いつしか遺品を手にして楽しい思い出と重ね合わせている自分に気づいたのです 手元にある主人の遺品は今ではほんのわずかです あんなにあった遺品のほとんどは無用の長物になったのです わたくしは主人に逝かれてから消えることのない目に見える物ばかりにずっと執着しておりましたが流れゆく月日が本当に大切にしてきたものを気づかせてくれました 愛する夫と共に生きていた日々の思い出、それこそが夫が残してくれた大切な遺品だったのでございます」
「泉さんのいまの言葉を聞いて、俺にも美香さんと明日香が残してくれた大切思い出が、笑いに満ちた楽しい日々があったことを思い出したよ 俺はなくしたものや自分の過ちその後悔に囚われていたのかもしれない 償いきれない過去を嘆くのではなく大切なことがなんなのかが少しだけど見えた気がする 泉さんありがとう」
黙った聞いていた佐知の目から大粒の涙が零れ落ちていた。
「泉さんまた親子でお世話になります よろしくお願いします」
「わたくしのほうこそ宜しくお願い致します 長旅でお疲れでございましょう さぁ中にお入り下さいませ」
「荷物は二階の部屋に運んでおくから早く秀和をベッドに寝かせてやれよ」
「そうね、早くおむつの交換しないと」
リビングにはアメリカから一足先に届いたベッドと紙おむつが並んで置かれていた。
「不思議なものですね 明日香ちゃんが使うはずだったベッドがまたここに置かれて、こんなことがあるなんて思いも致しませんでした あの時の光景がまるで昨日の事のように蘇ってまいりました あっ、わたくし何を言っているのでしょうね もういい加減忘れなければいけませんのに」
「泉さん忘れなくていいと思いますよ 本当なら明日香ちゃんがこのベッドで笑ったり泣いたりしていたのですものね 明日香ちゃんのお世話を心待ちにしていた泉さんの気持ちわかりますから気になさらないで下さい」
「申し訳ございません佐知さんがお帰りになったこんな時に・・雅和さんが苦しんでおられた過去のことなども忘れてしまわないといけませんのに」
「あの事故は雅和を今も苦しめているのかしら・・泉さん、彼はあのときの事をまだ引きずっているのでしょうか」
「二人して何を話しているかとおもいきや、俺は苦しんでも引きずってもいないからご心配なく」
「雅和さんいつからそこに、余計な事を佐知さんに聞かせてしまったわたくしを許しくださいませ」
「泉さんいいんだ 確かに明日香を亡くした時の俺は尋常じゃなかったからね 取り乱しみんなに迷惑をかけた そんな俺を一番まじかで見て世話をしてくれたのが泉さんだった 泉さんはあの時の俺をよく知っているから心配してくれているんだよね でも本当に俺は大丈夫だから心配しないで」
「雅和がずっと仕舞い込んでいた明日香ちゃんのベッドを出したってことは心境の変化があったって事よね 大丈夫といった雅和の言葉は嘘じゃないと思う アメリカでこのベッドを見た時は驚いたけれど同時に雅和が前に進めた証のように思えたの」
「雅和さんそうだったのですか」
「自分のことなのに正直俺自身わからないんだ 気持ちに整理が付いたのか付かないままなのか、俺は美香さんと明日香の遺品を見たり手にすることもいつしか避けるようになっていた。でも遺品を目にするつらさが徐々に薄れてきているような気がするんだ 此処にある明日香のベッドも以前は見るだけで胸が苦しくなって涙が溢れてきたよ だけど今こうして触れるベッドはなぜだか懐かしく感じられる これが佐知が言った前に進めた証ならそうなのかもしれないね」
「思えば私も同じでございました
主人の所有していた品物を捨てられずかといって見ることも触れること出来ずクロゼットの奥底に仕舞い込んでおりました 主人を亡くした悲しみを思いだし張り裂けそうな感情をまた味わうような気がして見ることも処分する事もできなかったのです しかし不思議なもので年月というものは知らず知らず人を変えてくれるのでございますね いつしか遺品を手にして楽しい思い出と重ね合わせている自分に気づいたのです 手元にある主人の遺品は今ではほんのわずかです あんなにあった遺品のほとんどは無用の長物になったのです わたくしは主人に逝かれてから消えることのない目に見える物ばかりにずっと執着しておりましたが流れゆく月日が本当に大切にしてきたものを気づかせてくれました 愛する夫と共に生きていた日々の思い出、それこそが夫が残してくれた大切な遺品だったのでございます」
「泉さんのいまの言葉を聞いて、俺にも美香さんと明日香が残してくれた大切思い出が、笑いに満ちた楽しい日々があったことを思い出したよ 俺はなくしたものや自分の過ちその後悔に囚われていたのかもしれない 償いきれない過去を嘆くのではなく大切なことがなんなのかが少しだけど見えた気がする 泉さんありがとう」
黙った聞いていた佐知の目から大粒の涙が零れ落ちていた。
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