261 / 316
人生の機微
新たな命と共に4
しおりを挟む
夕食後、町内の会合に出かける父を見送った佐知は母に今までの経緯を告白するには今が好都合だと思った。母と並んで食事の後片付けをしながら話すタイミングを探していた。それは洗い物を終えた母が食器を棚に戻そうと佐知に向きを変えた時だった。
「お母さん・・わたし病院をやめたの 黙っていてごめんなさい」
「今の仕事は天職だから楽しいって言っていた佐知だから何かあったのね」
「お母さんわたしね心理カウンセラーという資格を取りたいの でも病院を辞めた一番の理由はそれじゃなくて西條先生」
「西條先生と気まずくなったの」
「そうじゃなくてその逆」
「逆っていうことはうまくいっているのね なら辞める理由なんてないじゃない」
「お母さんごめんなさい、おなかに赤ちゃんがいるの 反対されても産みたい、わたし産む覚悟は出来てるの」
ダイニングテーブルに母と向い合わせに座った佐知は秀行が病気でアメリカにいること、昔お付き合いしていた雅和と秀行二人の関係、事務員だった泉さんと家族同然に暮らしている雅和の家に子供が生まれるまで居候させてもらうこと全てを打ち明けた。しばらく黙りこくっていた母が穏やかな口調で佐知に語りかけてきた。
「ねぇさち、さちはお父さんとお母さんに出会って幸せだった?お母さんは施設であなたを一目見た時、この子と一緒なら幸せになれると思ったのよ 両親を知らないあなたを誰よりも幸せに幸せが服をまとったような子供にしてみせるとあなたの亡き両親に誓ったのが昨日のことのように思えるわ
幸せにしてやりたいと願ったわたしとお父さんはいつからかあなたに幸せをもらっていた お父さんとお母さんの計り知れない幸せは全てさちが運んでくれたものなのよ」
「わたしもお母さんとお父さんの子供になれてよかった出会えてよかったって本当にそう思っている 幸せな子供その通りに育ててもらったわ お母さんが私にしてくれたように今度はおなかの子供を幸せにしてあげたいの お母さんと同じ私もこの子と一緒に幸せになりたい もらった幸せをわが子に繋げることがお父さんとお母さんへの恩返しそう思っているの」
「自分の道を歩き出すさちにエールを送るわ お母さんはさちが決めた選択を信じているから反対はしない でも決めたからにはそこには重い責任が生じるのよ だからどんなことがあっても負けない気持ちだけは持っていなさいね 困ったときは一番の味方であるお父さんとお母さんを思いだすのよ お母さんはいつだってさちの力になるそれだけは忘れないで」
「おかあさんありがとう」
「そうだお父さんにはこのことはしばらく伏せておきましょう 頃合いを見てお母さんがうまく話しておくから任せなさい」
「お父さん卒倒して寝込んじゃうかもね」
「そうよ、さちをまだまだ子供だと思っていたいお父さんにはきついわね お父さんには悪いけど当分はお母さんとさちの秘密にしておきましょう」
「うん」
まもなくして母は妊娠のことを伏せた上で佐知が資格を取るために家を出ることを父に話し承諾を取り付けてくれた。
「さち体に気を付けて頑張るんだぞ ここはお前の家だ、寂しくなったら帰ってくるんだよ」
「うん、わたし頑張るからお父さんお母さんも体に気を付けてね」
施設から佐知を引き取り温かく迎え入れてくれた両親が寂しさを隠して笑顔で見送る姿に万感の思いが込み上げていた。心強い助っ人雅和の力を借り、秀行の子供を産もうとしている佐知の新たな旅立ちが始まろうとしていた。
「お母さん・・わたし病院をやめたの 黙っていてごめんなさい」
「今の仕事は天職だから楽しいって言っていた佐知だから何かあったのね」
「お母さんわたしね心理カウンセラーという資格を取りたいの でも病院を辞めた一番の理由はそれじゃなくて西條先生」
「西條先生と気まずくなったの」
「そうじゃなくてその逆」
「逆っていうことはうまくいっているのね なら辞める理由なんてないじゃない」
「お母さんごめんなさい、おなかに赤ちゃんがいるの 反対されても産みたい、わたし産む覚悟は出来てるの」
ダイニングテーブルに母と向い合わせに座った佐知は秀行が病気でアメリカにいること、昔お付き合いしていた雅和と秀行二人の関係、事務員だった泉さんと家族同然に暮らしている雅和の家に子供が生まれるまで居候させてもらうこと全てを打ち明けた。しばらく黙りこくっていた母が穏やかな口調で佐知に語りかけてきた。
「ねぇさち、さちはお父さんとお母さんに出会って幸せだった?お母さんは施設であなたを一目見た時、この子と一緒なら幸せになれると思ったのよ 両親を知らないあなたを誰よりも幸せに幸せが服をまとったような子供にしてみせるとあなたの亡き両親に誓ったのが昨日のことのように思えるわ
幸せにしてやりたいと願ったわたしとお父さんはいつからかあなたに幸せをもらっていた お父さんとお母さんの計り知れない幸せは全てさちが運んでくれたものなのよ」
「わたしもお母さんとお父さんの子供になれてよかった出会えてよかったって本当にそう思っている 幸せな子供その通りに育ててもらったわ お母さんが私にしてくれたように今度はおなかの子供を幸せにしてあげたいの お母さんと同じ私もこの子と一緒に幸せになりたい もらった幸せをわが子に繋げることがお父さんとお母さんへの恩返しそう思っているの」
「自分の道を歩き出すさちにエールを送るわ お母さんはさちが決めた選択を信じているから反対はしない でも決めたからにはそこには重い責任が生じるのよ だからどんなことがあっても負けない気持ちだけは持っていなさいね 困ったときは一番の味方であるお父さんとお母さんを思いだすのよ お母さんはいつだってさちの力になるそれだけは忘れないで」
「おかあさんありがとう」
「そうだお父さんにはこのことはしばらく伏せておきましょう 頃合いを見てお母さんがうまく話しておくから任せなさい」
「お父さん卒倒して寝込んじゃうかもね」
「そうよ、さちをまだまだ子供だと思っていたいお父さんにはきついわね お父さんには悪いけど当分はお母さんとさちの秘密にしておきましょう」
「うん」
まもなくして母は妊娠のことを伏せた上で佐知が資格を取るために家を出ることを父に話し承諾を取り付けてくれた。
「さち体に気を付けて頑張るんだぞ ここはお前の家だ、寂しくなったら帰ってくるんだよ」
「うん、わたし頑張るからお父さんお母さんも体に気を付けてね」
施設から佐知を引き取り温かく迎え入れてくれた両親が寂しさを隠して笑顔で見送る姿に万感の思いが込み上げていた。心強い助っ人雅和の力を借り、秀行の子供を産もうとしている佐知の新たな旅立ちが始まろうとしていた。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫の親友〜西本匡臣の日記〜
ゆとり理
現代文学
誰にでももう一度会いたい人と思う人がいるだろう。
俺がもう一度会いたいと思うのは親友の妻だ。
そう気がついてから毎日親友の妻が頭の片隅で微笑んでいる気がする。
仕事も順調で金銭的にも困っていない、信頼できる部下もいる。
妻子にも恵まれているし、近隣住人もいい人たちだ。
傍から見たら絵に描いたような幸せな男なのだろう。
だが、俺は本当に幸せなのだろうか。
日記風のフィクションです。
病窓の桜
喜島 塔
現代文学
花曇りの空の下、薄桃色の桜の花が色付く季節になると、私は、千代子(ちよこ)さんと一緒に病室の窓越しに見た桜の花を思い出す。千代子さんは、もう、此岸には存在しない人だ。私が、潰瘍性大腸炎という難病で入退院を繰り返していた頃、ほんの数週間、同じ病室の隣のベッドに入院していた患者同士というだけで、特段、親しい間柄というわけではない。それでも、あの日、千代子さんが病室の窓越しの桜を眺めながら「綺麗ねえ」と紡いだ凡庸な言葉を忘れることができない。
私は、ベッドのカーテン越しに聞き知った情報を元に、退院後、千代子さんが所属している『ウグイス合唱団』の定期演奏会へと足を運んだ。だが、そこに、千代子さんの姿はなかった。
一年ほどの時が過ぎ、私は、アルバイトを始めた。忙しい日々の中、千代子さんと見た病窓の桜の記憶が薄れていった頃、私は、千代子さんの訃報を知ることになる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる