上 下
246 / 288
愛は陽炎(あいはかげろう)

ここにある愛6

しおりを挟む
秀行は20分遅れて待ち合わせたお店に駆け込んできた。

「待たせてごめん」

「お疲れ様でした お腹すいたでしょう」

「佐知さんもペコペコだろ おかみに食事お願いしてきたからもう少し我慢して」


秀行から彼女の名前がでたのは食後のコーヒーが運ばれた時だった。


「佐知さん君にも五十嵐杏子という人から手紙が届いているよね」

「えぇ・・」

「君はその話をしようと僕を誘った、そうだよね」

「・・はい」

持ってきた手紙をテーブルに置いた佐知は姿勢を正し座りなおした。

「わたし秀行さんを信じています」

「結婚しようと約束した君ではなく、他の人を選ぼうとした男を・・そんな僕をどうして信じられる」

「わたし達は何も変わっていないわ
あなたが誰よりもわたしを愛し、わたしもあなたを・・今も私達は愛しあっているのに何かが変わったというのならそれを私に分かるように教えて」

「確かに・・・僕は君を愛している、その気持ちに嘘はない」

「秀行さん前に話してくれましたね 大切にしたい思いが行動になったときそれが支えだったり色んな形になっていくのかもしれないって 大切な友人を一度は愛し合った彼女を放っておけなかった秀行さんの気持ち私にはわかるような気がします 私が井川君に抱いた気持ちと同じだと思うから 秀行さんが彼女のためにしたその行動がどんな形になったのか、それだけはどうしても知りたいの 私に聞かせてほしいの」

「彼女を支えることが僕の人生に組み込まれた選択のような気がしたんだ」

「秀行さんは自分の心に逆らうことが出来ない人だから一人で先走りしてしまうんだわ 相手が望むそれ以上のことを彼女の気持ちもお構いなしに ごめんなさい言過ぎました」

「いやその通りなのかもしれない
僕は彼女のすべてを理解していると過信しすぎたようだ もっと慎重に洞察すべきだった 僕が良かれと思ってした事は彼女に負担を課すことになってしまった 今思うと僕は自分の気持ちを彼女に押し付けていただけ・・・ 彼女にとって何が最善で何を望んでいるのかを僕はもっと考えるべきだった」

「でも秀行さんは彼女を救った だから秀行さんの役目はもう終わったわ 五十嵐杏子さんは明るい未来を見いだせたのは秀行さんのおかげだと手紙で感謝しています 彼女が望んでいた事がなにかを本当は秀行さんわかっていたんじゃないですか 彼女が人生を共にするのは秀行さんではなく亡くなった親友の彼だけだという事も彼の代わりは誰にも出来ない事も何もかも全部わかっていた、そうなのでしょう秀行さん」

「亡き親友と彼女が僕に願う事それはただ一つ愛する君と幸せになること 夫婦生活を笑いながら話してくれた生前の親友に僕は二人の幸せを確信できた 僕から奪いさらうほど心底愛した彼女と結ばれた彼は彼女を誰より大切に愛おしんで生きていた そんな二人だから確かな幸せを手に出来たのだと思った 僕と一緒になっていたら彼女はその幸せを掴めはしなかった 佐知さんが言うように僕はすべてを承知して彼女を引き受けようとした でも僕は愛する君の存在を会いに行った日に彼女に話した 君の存在と君への気持ちを知っていた彼女にこれからの人生を共に生きてゆくなど口にしてしまった自分を恥じると同時に彼女には申し訳ないと思っている 僕が彼女にしたことは自尊心の押し売りだった」


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ガラスの世代

大西啓太
ライト文芸
日常生活の中で思うがままに書いた詩集。ギタリストがギターのリフやギターソロのフレーズやメロディを思いつくように。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

Last Recrudescence

睡眠者
現代文学
1998年、核兵器への対処法が発明された以来、その故に起こった第三次世界大戦は既に5年も渡った。庶民から大富豪まで、素人か玄人であっても誰もが皆苦しめている中、各国が戦争進行に。平和を自分の手で掴めて届けようとする理想家である村山誠志郎は、辿り着くためのチャンスを得たり失ったりその後、ある事件の仮面をつけた「奇跡」に訪れられた。同時に災厄も生まれ、その以来化け物達と怪獣達が人類を強襲し始めた。それに対して、誠志郎を含めて、「英雄」達が生れて人々を守っている。犠牲が急増しているその惨劇の戦いは人間に「災慝(さいとく)」と呼ばれている。

処理中です...