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トライアングルLOVE

揺れ惑う心6

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秀行は井川雅和を叔父の病院に転院させるために動き出していた。井川の社会復帰を佐知同様に願っていた。佐知と彼の関係はいまだ理解できなかったが心からそう思った。二人の関係がどんなものであろうと愛する人佐知の力になりたかった。大切なものを次々と奪われ更なる悲劇に見舞われ傷ついた井川という男そんな彼を医師としてだけでなく個人的にも放っておけない秀行だった。いつの間にか秀行は二人の関係に自ら分け入る形になっていた。

週が明け雅和は秀行が転院許可をとり付けた病院に移っていた。無事に手術を終えた雅和は順調な回復を見せていた。術後医師から死んだ脳の再生はないが働きを休んでいる細胞は復活すると聞かされた雅和は社会復帰に前向きの姿勢を見せた。それ事態は喜ばしいことだったが娘・明日香の安否を悲痛な面持ちで度々聞いてくる雅和に医師と看護師は顔を伏せ閉口していた。たまりかねた医師は手塚を呼び出していた。

「先生、雅和になにか」

「井川さんの体は順調に回復していますから心配いりませんが心配なのは心のほうです お子さんの安否をだれかれ構わず聞いてきます もう一度本人に真実を話されたらどうかと今日来ていただきましたのはお子さんの死をきちんと告げなければならないということです 伝える手塚さん聞かされる井川さんどちらもつらいでしょうが体と心は一体ですから心もしっかりケアしないといけません 暫くは取り乱すでしょうが私たちも万全をつくしますから」

「わかりかした 事故のこと娘の死 あの日起きたすべてをもう一度話聞かせます」

「そうしてください」

手塚は前の病院で幾度も明日香の死を告げてきた。その度ごとに雅和は肩を落とし時に叫びにも似た声を張り上げ取り乱したがその記憶は三日も持たず消えていた。手塚は記憶をなくす雅和にどこかほっとしている自分がいることに気づいていた。しかし今回はあの時とは違っていた。手塚は足取り重く病室にむかった。

「雅和、調子はどうだ 顔色もいいし心配なさそうだな」

「てっちゃんや事務局の皆んなには、本当にすまないと思ってる、ごめん」

「悪いと思うならリハビリ頑張って早く職場に戻ってくれよな」

「そうだね、そうします てっちゃん明日香は今どうしているか教えてくれ医者も看護師も答えてくれないんだ てっちゃんお願いだから明日香がどこで何をしているのか教えてくれ」

「実をいうとそのことでお前に会いに来たんだ 雅和、気をしっかり持ってこれから俺が言うことを聞いてくれ 明日香ちゃんは事故で運ばれたお前と同じ病院で翌日亡くなった お前には何度も明日香ちゃんの死を隠さずに話したが記憶障害を負ったお前にその記憶を留めておくことはできなかった 何度も何度も明日香の所在を聞いてくるお前の姿は痛々しかったよ 雅和よく聞け、今こそ明日香ちゃんの死を告げる最初で最後の時だから」

その時雅和は以前とは全く違う反応を見せた 


「ウオォーッ・・」


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