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悲しみの連鎖

大切なものが37

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病院についた秀行は佐知の手を取りICUに向った。秀行は出てきた看護士を呼び止めた。

「すみません、昨日事故で運ばれた井川さんという患者は中にいますか」

「あなた方は?」 

「僕たちは友人です」

「ご家族以外はご遠慮ください」 

「わかりました お引止めしてすみませんでした」

柔らかな女性の声がして二人は後ろを振り返った。

「あなたたちも雅和ぼっちゃんのお知り合いでいらっしゃいますか」

すらりとした華奢な女性が立っていた。

「驚かせてごめんなさい わたくし泉といいます」

「泉さんって井川君の事務所にお勤めの・・あっ申遅れました。私は皆井です。こちらは西條さんです」

「手塚さんが連絡していた皆井さんってあなたでしたの 突然の電話本当にごめんなさいね」

「いいえ連絡いただいてよかったと思っています」

「ついさっきまで友人だといって大勢みえてたのですがこんな状況ですからみなさんすぐに帰られました」

「その友人の中に伊納さんという人はいませんでしたか」

「代表で私に挨拶してくれたのが確か伊納さんていう方でした」

「彼は誰から井川君の入院を聞いたのでしょうか」

「病院に駆けつけた事務所の者が偶然鳴った雅和さんの携帯電話に出て・・その伊納さんからあなたの連絡先を聞いて貴方にご連絡したそうですよ」

「伊納さんは奥さんと一緒でしたか」

「男の方ばかりでしたけど、そういえば伊納さんの奥様はつわりがひどくて来られなかったとか誰かが話しておられました」

「伊納さんの奥さんと私は友人で彼女も井川君の友人なんです」

「そうでしたか こうして皆さんに心配していただいて有難うございます 雅和さんは素敵なご友人様が沢山いらして幸せ者ですね」

「わたし井川君から泉さんの事は聞いていました 泉さんは俺の家族なんだっていつも言っていました 泉さん井川君を宜しくお願いします」

「元の生活に必ず戻れるってお医者様が言ってくださいました 話せるようになったらまたご連絡差し上げますから申し訳ございませんが今日のところは」

「わかりました 私たちはこれで失礼します これから自宅に伺って明日香ちゃんに手を合わせたいのですがよろしいでしょうか」

「ぜひ会ってあげてください 明日香ちゃんは安らかな顔でまるで眠っているかのようです 今も目を覚まして起きてくるものと明日香ちゃんの死を誰も認めようとしないのです・・・生きている時と同じ可愛い顔で眠っている明日香ちゃんに最後の別れを私からもお願いします」


泉から渡された住所のメモを手に二人は雅和の自宅へと向かっていた。運転中の秀行は繋いだ佐知の手を離そうとしなかった。佐知もその手を強く握り返していた。 

「悲しいのに胸が張り裂けるくらい悲しいのに・・涙が出ない」

「ショックが大きすぎて君の悲しみは凍り付いてしまったんだね」

二人の重苦しい息づかいが静まり返った車中を駆け巡っていた。


雅和の事務所兼自宅に着いた二人を手塚は丁重に出迎えてくれた。

「昨日お電話いただいた皆井です
この度は・・」

「あなたが皆井さんですか さぁどうぞ中へ」


リビングと繋がる奥の和室にミニーちゃんの布団が見えた。その布団の上で明日香は眠っていた。



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