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悲しみの連鎖

大切なものが6

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「秀行さん・・ですか」

「久しぶりだね」

「二人とも立ってないでお掛けなさい さぁ佐知さんも座って」


院長夫人の貴子が上機嫌で珈琲を運んできた。


「佐知さんの驚き様ったら普通じゃなかったけど秀行も驚いたでしょう」

「驚いたよ すっかり大人の女性になって街ですれ違ってもわからないね」

「大人の女性なんてわたし初めて言われました 私は昔のままでここに来る前も部長に叱られていたんです」

「あ~ぁ、あの部長のことなら気にしないほうがいいよ あの人は人を誉めることが出来ない可哀相な人だから」

「秀行おやめなさい 職員のことを悪く言うのは許しませんよ あなたが口にすることじゃないわ 院長の息子なら少しはわきまえなさい」


母に窘められた秀行は頭を掻き笑って見せた。


「あのぉ、私が呼ばれたのは私になにか」

「あっそうそう、実は急なんだけど秀行がこの病院に帰ってくることになったのよ いま勤務している病院の意向もあるから早くても来月以降かしら それで秀行のお世話をあなたにお願いしたいの」

「お世話?ですか」

「待ってくれ母さん、誰だっておかしいと思うよ、いい大人が自分の病院でお世話する人をつけるなんて 佐知さんいま母が言ったことは聞き流してくれていいよ」

「あなたは少し黙っていて、ねぇ佐知さん暫く受付を離れて秀行をサポートしてほしいの これは院長のお願いと思って受けてくれると嬉しいわ」

「父さんはそんな無理強いはしないよ 母さん、父さんの代わりに言わせてもらうけどあんまり病院の人事や僕の事には口を出さないでほしいな 父さんは母さんに優しいから何も言わないけど僕はこれから言いたいことは言わせて貰うよ」

「まぁ頼もしい随分偉くなったわね でもこの病院に戻ったらあなたは新人なの、だからあなたがなんと言おうが従ってもらいます 秀行専用の部屋に佐知さんのデスクも用意させますから佐知さんお願いしますね」

「佐知さん、母は何でも自分の意のままになると勘違いしている節がある ここまでくるともう何を言っても通用しないお手上げなんだ」

「ねぇ佐知さん、受けてくれるわね」

「でも部長にはどのように報告したらいいのでしょうか」

「心配しないで部長には私から伝えておくわ 部長には事前に秀行のサポートを誰かにお願いしたいと言ってあるの」


「ねっ僕が言った通りだろ 母は思ったことは何が何でもやってしまう怖い人なんだ」

「そうみたいですね あっごめんなさい」

「佐知さんも秀行と一緒になって随分だこと」

「わたし失礼な事をすみません」

顔を赤くして頭を下げた佐知を見つめる秀行の目は優しかった。


 あとがき
院長夫婦が溺愛するひとり息子の秀行が病院に帰ってきた。秀行の存在によって佐知と雅和の関係にも微妙な変化が。雅和を忘れられない佐知に新たな愛の予感が、しかし佐知と雅和に降りかかる苦悩と悲しみの連鎖は終わりを知らず・・・

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