涙が幸せの泉にかわるまで

父の消息

血は水より濃い1

そのころ橘医師は美香の意思を尊重し手術を断念し出産を優先させるべくチーム橘を立ち上げていた。しかしそれは限りなく死に近づく選択でもあり医師として橘の心境は複雑だった。

父の所在を告げられた美香は天にも登る思いだった。

「雅和ありがとう　お父さんが元気でいてくれてよかったわ　わたし本当にお父さんに会えるのね」

「そうだよ、お父さんの体調はいまひとつだったけど美香さんの話になったら顔色が良くなって元気になったんだ　お父さんも美香さんを探していたから本当に嬉しかったんだね」

「私のこと忘れていなかったのね」

「あぁ、お父さんは美香さんの古い写真を大切に持っていた　あどけない顔で笑っている美香さんとても可愛かったな　娘は今もこんな笑顔で笑っているのですか　そう言って写真の君を見つめるその目は父親そのものだった　美香さんの願いを伝えた俺にお父さんは是非とも抱かせてほしいと反対に頭を下げてくれた　おだやかで紳士的なお父さんだったよ　親父とは真逆な美香さんのお父さん俺好きだな」

「お母さんが愛した人なら私も好きになれると信じていたから雅和が好きと言ってくれて嬉しい、ホッとしたわ」

「俺あの人に子供を抱かせてやりたいよ　俺たちの愛する子供、孫の成長をお父さんに見てもらいたいんだ　だから美香さんは元気な赤ちゃんを産むだけじゃ駄目なんだ　産んだ後も君が元気でいなければ・・元気な子をお父さんに見てもらうためにはつらい治療も克服しないと、大変だろうけど俺と一緒に頑張ろう、負けないで病気と闘っていこう美香さん」

「えぇ子供と一緒に元気な姿でお父さんに会わなければ生きていなければ、私負けない」

「そうだ弱気になったら負けなんだ　俺のそばで美香さんはずっと生き続ける　そう信じて何も心配するな　俺と共に生きてゆく君はそれだけを願えばいい」

「お父さんに会って子供を抱いてもらえるまではなんとしても生きたいと思っていた　でも今はあなたと生まれてくる子供とお父さんと皆で生きたい　母が実現できなかった家庭を私はずっと夢見てきたわ　愛する家族がいて毎日笑って暮らす家庭、そんな普通の生活を夢見ていたの　わたし生きたい死にたくない　ねぇわたしは死ぬの
どうしてわたしなの、誰が決めたの
ねぇ雅和教えて・・答えて」


泣かない美香の目に零れんばかりの涙が溢れだしていた。