涙が幸せの泉にかわるまで

寿佳穏 kotobuki kanon

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美香のルーツ

私は父なし子9

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東京に戻る母早苗を友人の珠美が駅まで送ってくれた。


「専称寺に寄ってから帰るって言ってたでしょ だから此処で早苗ちゃんを待ってたの 駅まで送っていくから乗って」


「お店は大丈夫、雄哉君に叱られない」


「雄哉がね見送って来いって だから遠慮しないでさぁ乗って」


「ありがとう」


駅に着くと次の列車の時刻までの時間はたっぷりあった。


「早苗ちゃんサンドイッチ作ってきたんだ まだ時間あるからここで一緒に食べよう、はい」


「うっ・・」



「どうしたの?玉子サンドイッチ早苗ちゃん好きだったでしょ、大丈夫」


「ごめんね 気分がすぐれなくて」


「疲れが溜まったのね 無理しないでお茶だけでも飲んで」


「ありがとう 最近ずっとこの辺りがムカムカして味噌汁の蓋を開けただけでウッて」


「なんだかそれって私が妊娠した時のつわりみたい」


「つわりってこんな感じなの」


「そうよ 胃に違和感を感じて吐きそうになったりするの そのくせ無性に何かが食べたくなってね 私はラーメンだっだ 朝から晩までラーメンばかり食べていたのよ 気がつけば私そこのラーメン屋の常連になって毎度~って声かけられていつものだよねって座っただけでラーメンが出てきた」


「笑えるぅ~」


「笑顔が戻ってよかったぁ 早苗ちゃんは心労だと思うけど無理しちゃだめだよ 一度病院で見てもらったほうがいいよ」


「いろんな事が有り過ぎたからバランスを崩しているのね」


「困った時はお互い様だから遠慮は無し 何かあったらいつでも電話して約束よ」


「うん珠美ありがとう」


珠美は母早苗のクラスメートだった。お互いに群れて行動するのを嫌う一匹狼的存在だった。体育のダンスの授業をさかいに仲良くなった。二人一組の創作ダンスの課題で次々とペアが決まっていくそんな中で最後に残ったのが早苗と珠美だった。それからの二人は一匹狼どころか一卵性双生児のように親しくなった。

成人式を終えた珠実は高校時代からのBFと結婚しその両親と酒屋を切り盛りしていた。若女将として酒屋の店番や住み込み従業員家族の賄いと何役もこなす負けん気の強い頑張り屋さんだった。人扱いも上手で愛嬌のある珠美は酒屋の看板娘になった。誰からも可愛がられ何もかも手中にした珠美が妬ましかったと母早苗は正直に話してくれた。後に珠美さんは子宮全摘手術をうけたことを母に打ち明けた。


私はもう子供が産めない体なの 弟妹を作ってやれないそれが一番つらい 私ずっと一人っ子で寂しかったから


早苗は珠美を妬んだ自分を恥じた。母早苗には忘れられない珠美の言葉があった。



「いつも優しく支えてくれる人のために自分が幸せであること、それこそが皆への恩返し感謝に繋がると思っているのよ 自分が幸せなら周りの人もきっと幸せになる、そう信じたいの」


早苗の脳裏に理想とする結婚・家庭が鮮明に映し出されていた。しかし現実は理想とはかけ離れた遠いものだった。


「これがつわりで妊娠なら4週め 妊娠2ヶ月くらい・・」


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