上 下
63 / 288
予期せぬ巡り合わせ

新旧の恋人3

しおりを挟む
美香が倒れたことをメールで知った雅和は車で病院に駆けつけた。てっちゃんから半ば強引に許可をもらっての上京だった。


「美香さん」


「まー君がどうしてここに」


「美香さんが倒れたってモンキーから聞いて会いに来た こんな一大事の時に仕事にかまけっぱなしじゃ会えないからね」


「ねぇここ触ってみて 心臓がバクバクしているのがわかるでしょ」


美香は雅和の手を胸元に誘っていた。


「驚かせてごめんね 体はどう」


「大丈夫、検査入院だから心配しないで でも勝手知らない場所で入院するって心細いのね」


「やっぱり来てよかったよ 寂しそうな美香さんが毎晩夢に出て心配だったんだ」


「寂しいのはまー君のほうじゃない 私がいないと寂しいのでしょう」


「ひどいよ、まるで子ども扱いだな」


「そんなことない 心配して来てくれて本当に嬉しいのよ ありがとう、まー君」


「俺、美香さんの退院に合わせて帰るよ そのつもりで来たから」


「仕事は平気なの」


「てっちゃんからこっちの仕事をもらってきたんだ あっ遅刻はまずいな、もう行かないと」


「まー君の目じり下がりぱっなしよ 仕事モードに切り替えて行ってらっしゃい」


「うんそうだね、襟を正して行ってきます」


美香は午後の検温に来たナースに退院の日程を尋ねた。


「まだ退院は無理でしょうか」


「木内さんの入院は5日間となっていますね 先生に聞いておきますがご希望はありますか」


「今週末は 聞いていただけますか」


「わかりました 先生に確認してお知らせします」


「宜しくお願いします」


美香の希望通り退院の許可は下りた。しかし条件付きだった。地元の病院で脳の精密検査を受けることを医師は強く薦めた。

雅和は新たな仕事を取り付けていた。手柄なく帰ることだけは避けたかった。出掛けに渋り顔をしていたてっちゃんになんとか報いること出来たと雅和は胸撫で下ろした。

退院の朝、美香は昨晩詰め込んだ荷物をゴソゴソあさっていた。とうとうバッグの中身すべてをベッドに並べ始めた。


「何か探しもの」


「ああぁ、どうしよう」


「大切なもの」


「まー君ごめんね、ほんとにごめん」


「何がごめんなんだかわからないよ」


「まー君から貰ったペンダントを失くしたみたいなの 家から持ってきたのに見つからない」


「探しものってあのペンダントのことか 安月給で買ったペンダントだから気にしないでいいよ もっといいのを買ってあげるから」


「あのペンダントはお気に入りだったのに」


「見つからないものはしょうがないよ 退院祝いに新しいの買うよ だからもうあきらめよう」


「そうね、あきらめるしかないわね あっ帰ったらお見舞いに来てくれたお礼をしなくちゃ、何が欲しい?まー君が欲しいのはわたしかな」


「・・・」



「いやだ、また恥かしがっている」


「俺、意地悪な美香さんなんか放って一人で帰ろうかな」


「いやよ置いていかないで、一緒に帰りましょう」


「だったらまずは荷物をバッグに戻してください さぁ早く支度して一緒に帰ろう」


二人は外で夕食を済ませ美香のマンションに帰った。ベッドに入った雅和は美香の体を気遣っていた。


「どうしたの 今日はほしくないの」


「今日はいいよ 美香さんは病みあがりだからこうして美香さんの側で眠れるだけでそれだけで」


「そんな事いわないで 病院の生活は寂しくてまー君が恋しかった こうして二人の時間が戻ったのよ 二人になれたのよ だからお願い」


その言葉が引きがねになって雅和の熱い思いが満ち溢れてきた。


「心配でいてもたっても居られなかった 美香さんが無事に帰ってきてくれて俺本当にうれしいよ」


二人は激しく重なり合った。動物精気がムクムクと顔をだし情念の炎となって燃え盛った。二人は悶え振るえ狂おしいまでの感情に見舞われていた。色香漂う美香のやけに白いうなじが艶めかしかった。美香の首筋に光る汗の滴はトパースの原石のようだった。背中の窪みさえ彫刻の女像のようでまぶしかった。しなやかな上半身を小刻みに振動させる美香は美しかった。美香の大人の色香に身も心も溶けていた。この夜、愛を確かめるかのように二人は体を重ね続けた。

久しぶりの二人で迎えた朝は爽快だった。鳥たちのさえずりで目を覚ました二人は朝のキスをして微笑んでいた。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ガラスの世代

大西啓太
ライト文芸
日常生活の中で思うがままに書いた詩集。ギタリストがギターのリフやギターソロのフレーズやメロディを思いつくように。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

Last Recrudescence

睡眠者
現代文学
1998年、核兵器への対処法が発明された以来、その故に起こった第三次世界大戦は既に5年も渡った。庶民から大富豪まで、素人か玄人であっても誰もが皆苦しめている中、各国が戦争進行に。平和を自分の手で掴めて届けようとする理想家である村山誠志郎は、辿り着くためのチャンスを得たり失ったりその後、ある事件の仮面をつけた「奇跡」に訪れられた。同時に災厄も生まれ、その以来化け物達と怪獣達が人類を強襲し始めた。それに対して、誠志郎を含めて、「英雄」達が生れて人々を守っている。犠牲が急増しているその惨劇の戦いは人間に「災慝(さいとく)」と呼ばれている。

処理中です...