上 下
4 / 75

野菜スープうどん

しおりを挟む
'うわ!ゲロまず……吐きそう'

数分前の期待を返せ。

そう思うほど料理は最悪だった。

パンは硬いしまずい。

スープは味がない。水とたいして変わらない。

そして何よりメインの魚を使った料理だ。

元の世界ではこの料理を食べたことも見たこともないので名前は知らないが、一体どんな風に作ればこんなまずかなるのか知りたくなるほど最悪だ。

食べれば吐きそうになる。

食べなければお腹が空く。

最悪の悪循環に陥り泣きそうになる。

それから一時間かけて全ての料理を平らげたが、その後すぐに吐きそうになり慌てて外へと出て吐く。

そのまま気分が悪くなり一日中、ベッドの上で過ごした。

夜はだいぶ良くなり風呂に入ろうと思い浴室はどこかと侍女に尋ねるとこの家にないことを教えられる。

風呂が自宅にあるのは皇族、公爵、金持ち商人だけだと知る。

そして風呂を所有している者たちも基本一ヶ月に一回しか入らない。

私は侍女から話を聞いて一番最初に思ったことは「私、今日風呂入れないの?」だった。

その次に思ったことは、もしかして、もう一生風呂に入れないかもしれないってこと。

私は目の前が急に真っ黒になりそのまま意識を手放した。


料理はまずい、風呂には入れない。

さすがの私もこれは耐えられなかった。

詐欺で役を演じているときに同じ状況になったことはあるが、それは終わりが見えていたから耐えられただけ。

今はその終わりが見えない。

これでは何を楽しみに頑張ればいいかわからない。

私はこの世界にきて3日目でギブアップした。

元の世界に返してくれ、と一度も神に祈ったことはないのに何度もいるかもわからない神に祈った。

意味はなかったが。

もう何もしたくなくてベッドの上にいると、主人公の二人に無理矢理起こされた。

さすがに今日は扱い酷くない?とは思ったが、そんな気力はなく黙っていた。

「お嬢様。今日はこちらに朝食をお持ちしましょうか?」

オリバーの言葉に私はゾッとして慌てて止める。

「やめて!それだけは絶対にやめて」

またあのゲロまず料理を食べないといけないと思うと気分が悪くなる。

'あー。こんなことなら自分で作った方がマシだね……ん?……そうじゃん!自分で作ればいいじゃん!なんでこんな簡単なことに気づかなかったの。馬鹿じゃん。私'

私はもうあんなまずい料理を食べなくて済むと嬉しくて笑みが浮かぶ。

「お嬢様。とうとうイカれましたね。気持ち悪いです」

「アスター。事実だとしてもそうはっきり言うものではありません。例え事実でも」

私は二人の言葉にイラっとくるも、どうせこのあと私に対しての態度が変わる未来が簡単に想像できるので、そう思うと気分が良くなり心に余裕ができ許せる。

私は何も言わずただ微笑む。

そして調理場へと向かった。

「……」

「……」

二人は黙って見つめ合った。

不気味な笑みを向けられ、全身に鳥肌がたち怖くなったから。



「お嬢様。どうされましたか?」

料理人の一人が私に気づき声をかける。

「気にしないで。ちょっと場所借りるだけだから」

私がそう言うとその場にいた料理人達は顔を真っ青にする。

今度はここをめちゃくちゃにするのかと。

'本当に何をやったらこんな顔をされるわけ……'

ローズの記憶を引き継いでないのでこれまでのことは何も知らない。

小説にも書かれていなかったので知ることはできない。

知れば対処はできるが、知らなければ無理だ。

私はこの件は諦めて、これから名誉挽回するしかないと思った。

「あ、それと食料も少し使うわね」

私がそう言うと全員「あ~。貴重な食料が」と絶対に無駄になると思い項垂れる。

私はそんな料理人達を無視して、今何の食料と調味料があるのかを確認する。


「……まぁ、この時代じゃこんなもんよね」

私は目の前の食材と調味料を見て乾いた笑い声が出る。

キャベツ、にんじん、じゃがいも、小麦粉、塩、醤油。

この家にはこれだけしかない。

冷蔵庫がないから生物を保管できないため、毎日調達するしかないとしてもあまりにもひどい。

ラブロマンの主要人物達とのあまりの差に泣きたくなる。

「泣き言言っても状況は変わんないし、とりあえず作りますか」

私は腕まくりをしてから手を洗う。

最初に野菜達を切って水で洗う。

切ったものを鍋に全部ぶち込み水を入れて火を入れ煮込む。

野菜達がとろとろになるまでの間に小麦粉と塩を使ってうどんの麺を作る。

まずボウルに水と塩を入れて溶けるまで混ぜる。

溶けたらその中に小麦粉を入れまた混ぜる。

生地が滑らかになり耳たぶの柔らかさになるまでこねる。

生地を取り出し20分寝かせる。

その間に野菜スープの方の味を整える。

と言ってもコンソメがないため醤油を入れるだけだが。

入れすぎないよう注意して、ドバドバと鍋に入れていく。

ある程度水の色が濃くなったら入れるのをやめ味見をする。

「……うん。普通」

この世界で口にした中では一番美味しいが、日本で食べていたものと比べるとまずい分類に入る。

飽食の時代に生まれ生きてきた私にとっては正直微妙だが、この世界の基準で言えば美味しい枠に確実に入る。

「さてと、そろそろ続きをやりますか」

時計がないのでわからないが、20分はもう経っただろうと判断しうどん作りを再開する。

いたを用意して生地をのせる。

本当は打ち粉か片栗粉があればいいんだけど、ないのでそのままやる。

かなりやりにくかったが、なんとか綿棒で3mmの厚さまで伸ばせた。

生地を三つ折りにして5mm程度の間隔で切っていく。

鍋に水を入れ沸かし、切った麺を入れ茹でていく。

10~15分程度したらザルに入れる水で洗う。

ぬめりがなくなると水気をきる。

打ち粉を使わなかったので麺同士がところどころくっついている。

'まぁ、味は変わんないし。食べれば一緒か'

見た目はアレだが頑張った。

私は自分を褒める。

そこからお椀に野菜スープをいれその中に麺を入れれば完成だ。

野菜スープうどんの出来上がり!

「では早速いただきますか」

この世界には箸がないのでフォークとスプーンを使って食べる。

「うん。普通!」

可もなく不可もなくって感じの味だ。

だがあのゲロまず料理を食べないでいいと思うと、なぜか物凄く美味しく感じた。

私はあっという間に完食しおかわりをする。

二杯目を食べようとしたとき、すぐ近くに一人の料理人がいることに気づく。

私の料理に釘付けだ。

「食べたいの?」

「はい!あ、いえ……」

男は勢いよく返事したが、すぐに無礼を働いたと思いどんな罰を下されるのかと顔を青くする。

「なら、お椀を持ってきなさい」

「え……よろしいのですか?」

男の顔は一気に輝く。

「ええ」

「ありがとうございます!」

男は腰を直角に曲げる。

私は席を立ち男の持ってきたお椀に野菜スープとうどんを入れる。

「はい」

「お嬢様。ありがとうございます」

男は嬉しそうに受け取る。

今の私達のやり取りを見ていた者たち全員がこれでもかというくらい目を見開いた。

信じられなかった。

問題ばかり起こすローズが、貴族以外を馬鹿にして見下すローズが、たかが料理人のために料理を装うなど。

夢でもみているのか?

現実を受け止めきれず、そう疑ってしまう。

「では、いただきます」

「どうぞ」

男はまずフォークでうどんを食べる。

「っ!美味しい!お嬢様とても美味しいです!」

「そりゃあ、どうも」

男の反応を少し大袈裟だと感じるも、褒められるのは嬉しい。

私も食事の続きをする。

私達の様子を、特に男の様子を見ていた二人の主人公と料理人達は私が作った料理を食べてみたくなった。

暫く私達の食べる姿を黙って見ていたが、我慢できなくなった一人の料理人が自分にも食べさせてほしいと頼み、それを機に料理人達全員が食べさせてほしいと言った。

もちろん。私は快く承諾した。

ローズのイメージを払拭するために、全員にスープうどんを装った。

彼らは一口食べると感動したのか私、を称賛する言葉を言い始めた。

私は嬉しくなり主人公二人を見て「どうだ?」と言わんばかりに鼻でフッと笑う。

二人は私の表情を見て「あの顔、物凄く腹立つな」と殺意が湧いた。

暫く見つめ合っていたが、私はもう一度フッと笑い料理を指差して「あなた達も食べる?とっーても美味しいわよ」と表情とジェスチャーで語りかける。

二人は「さっきよりもムカつく顔だな」と思うも実際気になっていたので食べさせてもらおうと足を踏み出そうとしたそのとき、料理人の言葉を聞いて足を止める。

「お嬢様。とても美味しかったです。そのもしよければもう一杯だけ食べてもいいでしょうか」

「ええ。構わないわよ」

私が許可を出すと他の者たちもおかわりしたいと言う。

これ以上はいらないので許可を出したが、料理人達が全員おかわりしたので二人が食べる分がなくなった。

私はそのことに気づいた二人の呆然とした表情が面白くてつい吹き出してしまう。

'バトル主人公でもあんな表情するのね'

私は必死に笑い声を出さないよう気をつけるが面白すぎてお腹が痛くなる。

私が笑っていることに気づいた二人は目で殺せるくらいの視線を送ってくる。

'やばい。腹痛いわ~。死ぬ!死ぬ!'

ここに料理人達ぎいなければ大声で笑い、机をバンバン叩いていた。

それくらい二人の顔は面白かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

処理中です...