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婚約破棄

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私、蘇芳楓(すおうかえで)には婚約者がいた。

いた、と過去形なのはたった今婚約破棄をしたからだ。

これは家同士が決めたことで別に相手のことなんて好きではなかった。

嫌いでもなかった。

正確に言うならなんとも思っていなかった。

結婚などしたくなかったが、大人の事情というものがあり私の気持ちだけで無かったことにすることはできなかった。

そんなときに、妹が婚約者と深い関係なのことを知り(妹がわざとバレるように行動してくれたことで)、それを理由に婚約破棄をすることができた。

そのまま二人を結婚させる方向で今現在話しを進めようとしている。

元々、今日は両家で結婚話を進める予定だったのに、私の暴露でそれどころではなくなった。

両親は妹を溺愛しているが、さすがに今回のことは許せなかったのか父親は妹の頬を打つ。

妹は母親に助けを求めるが顔を背けられ絶望した顔をする。

楓はそんな妹を見て、いい気味だわ、とほくそ笑む。

婚約者の両親も息子の愚かな行為に腹を立て、父親が殴る。

'おぉ、痛そう'

父親に殴られて吹っ飛んだ婚約者を可哀想に思う。

せっかく御三家としての地位を復活させるチャンスだったのに、己の欲のせいでその夢は二度と叶わなくなった。

楓は現陰陽師達の中で最強であり、安倍晴明の再来と言われるほどの強さを誇っている。

そんな私と結婚すれば地位も権力も手に入れられる。

現に我が家はしがない下級貴族として何百年も生きていたが、10年前からは上級貴族と同等の扱いを受けていた。

相手の家も元は御三家の一つとして、日本の最上級貴族として君臨していたが、ここ数年何の成果もあげられず落ちぶれていた。

そんなとき藁にも縋る思いで婚約を申し込むと了承され最上級貴族として返り咲けた。

それなのに、息子が妹と愚かな行為をしたことで全てを失う羽目になる。

馬鹿にされ、悔しい思いをしてようやく戻れたのに……

またあんな惨めな思いをするのかと狂ったように暴れ出す。

'うわぁ、カオスだわ'

楓は自分以外の人の狂った言動に嫌気がさす。

ーー勝手に人を使っていい思いをしてたのに、裏切るからこんなことになるのよ。馬鹿な人たちね。

これ以上、ここにいたくなくて部屋から出る。

裏切られた以上、契約は無効となり結婚する必要はなくなった。

楓は最高に気分が良くてスキップしながら婚約者の屋敷から出ていき、自分の屋敷へと戻る。

帰宅してから3時間後に家族は帰ってきた。

両親はなんとか説得しようと話しかけてくるが、全部無視してテレビをみた。

途中父親が楓の態度にキレ、殴ろうとしたので、風を発生させ吹き飛ばし、庭の池へと落とした。

母親はまさか娘がこんなことをするなんてと悲しそうな顔をして被害者ぶるので、イラっときて父親と同じ目に合わす。

散々人を利用していい思いをしてきたくせに、感謝するどころか嫌っていたくせに、それができなくなるとわかった瞬間、機嫌を取ろうとする二人に吐き気がする。

今日は二人の顔を見たくないのでホテルにでも泊まるかとサイフを持って外に出る。

玄関からだとバレるから、秘密の抜け道から行こうとすると、何故かそこに妹がいた。

髪はボサボサで目は赤く充血している。

いつもの男を手玉に取るため可愛くしている姿ではなく、山姥みたいなボサボサな姿についプッと吹き出してしまう。

そんな楓の態度に腹を立てた妹は鋭い目つきで睨みつけてくる。

'馬鹿ね。その程度の殺気で私が怯むわけないでしょう。あんたと私では勝負にもならないの。そんなこともわからないなんて、本当にアホね'

楓は自分を殺そうとする妹を憐れむ。

どうやって殺そうとするのか、少し興味がありもう少しだけ相手をすることにした。

「私に何かよう?」

「……」

妹は睨みつけるだけで口を開こうとはしない。

「ないなら退いてくれる?邪魔だから」

「……し……こ……る」

「なんて?もう一回言ってくれる。今度は大きい声で」

「……やる」

「……?だからさ、大きい声でっ……」

「殺してやる!」

楓が最後まで言い終わる前に妹は後ろに隠していたナイフを振り上げ殺そうと向かってくる。

'まさか、ナイフで私を殺すつもりなの?はぁ。呆れた。ここまでお馬鹿ちゃんだったとは。ナイフこどきで死ねるなら、とっくの昔に私は死んでるわよ'

楓はナイフを払い落としてから妹の顔面をぶん殴る。

勢いあまって、そのまま地面に叩きつけてしまう。

「あ……やりすぎた?」

妹の鼻が変な方向に向いているのを見て力加減間違えたなと思う。

反省も申し訳なさも1ミリ程度もない。

寧ろ自業自得だから仕方ないと開き直る。

殺そうとしなければこんなことにならなかったのにな、と。

そう思いながら妹の顔を眺めているとある疑問が浮かぶ。

自慢の顔が台無しになったいま、取り巻きの男達がどんな態度を取るか物凄く気になる。

鼻以外は無事だ……し。

前歯が折れて歯なしになっていた。

プッ。

我慢できずに吹き出してしまう。

このままここにいては大笑いしてしまう。

そうしたら両親にここにいるのがバレてつかまってしまう。

それは嫌なので、妹をそのままにしたまま抜け道を使って屋敷から抜け出しホテルへと向かう。


※※※


「……はい。どちら様?」

屋敷から抜け出しホテルの部屋に入ると、疲れがドッと押し寄せてきてそのまま寝てしまった。

気持ちよく寝ていたのに着信音に起こされ、不機嫌になりそのまま電話する。

「俺だ。楓。もういっ……」

プツン。

話の途中で電話を切る。

'テメェかよ。ふざけんなよ。朝からキモい声聞かせんな'

着信拒否しようとするが、何度も電話がきて操作できないため、マナモードにしてスマホを枕の下に隠してからもう一度眠りにつこうとするが、朝から気持ち悪い声を聞いたせいで苛立ちが治らず寝るに寝れない。

「……シャワー浴びるか」

寝るのは諦め浴室へと向かう。

ジャアー。

温かい水を頭からかけることで、少しだけ苛立ちがおさまる。

暫くそのまま温かい水を浴び続けた。

満足すると体を洗ってから浴室から出る。

ガウンを着て出ると髪をかわしてから鞄から下着と服を取り出し着替える。

「……今日は任務あったっけな」

スマホで予定を確認しようと枕の下から取り出し画面を開こうとすると、着信の通知が247件、メッセージが582件と表示された。

「……キッモ!ストーカーかよ!」

あのとき何としてでも着信拒否とブロックすればよかったと後悔する。

このままスマホ見るのやめようかなと思ったそのとき、携帯が震えた。

またかよ。

そう思い画面を見ると「クソ陰陽連伊織」と表示された。

「ああー、今度はこっちからよ」

昨日からの苛立ちが電話相手のせいでマックスを超える。

任務だったらいけないので、嫌だが通話ボタンを押す。

「なに」

「任務だ」

'出てよかった'

任務という言葉を聞いた瞬間、出なかったときのことを想像して、3秒前の自分の選択を褒める。

「わかった。内容は?」

「それより、お前婚約破棄したん……」

私は最後まで聞く前に通話を切る。

だが、すぐにまたかかってくる。

「余計な話しはしないで。ぶん殴りたくなるから。それで任務の内容は?」

「ああ……」

伊織は電話越しから感じる殺気に調子に乗ったこと後悔する。

「山の浄化だ。主が何者かに呪われたせいで、山がひどい状態になった。このままだと主を殺すしかなくなる。時間がない。今すぐ向かってくれ。場所は今送った」

「わかったわ」

そう言うと通話を切り、ラインを確認する。

「案外遠いわね」

私は屋上に上がり、水を使って竜の式神を作り目的地の場所まで飛んでいく。
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