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魔神の力?
しおりを挟むキキョウはサルビアが来る間ソファーに座り先程のヘリオトロープの発言について考えていた。
マーガレットが聖女だと思うという発言についてだ。
ヘリオトロープがマーガレットを聖女だと思ったのならそう思うだけの何かを感じた筈だ。
そこまではおかしくない。
聖女でも代理人でも最初に会った翼はそう感じたと言っていたという記述が残っている。
でも、翼と会ったら聖女も代理人も力が漲り数日で覚醒し神殿に保管されている聖女石が光る。
聖女なら黄金、代理人なら銀に輝く。
だかヘリオトロープと出会って数日が経っても聖女石が輝く様子はないし、覚醒する気配もない。
神殿が襲撃されてから帰れてないので絶対とは言い切れないが、石が輝いたら何かしら神官である以上何か感じるはず。
それが無いとなると客観的に見てもマーガレットが聖女でも代理人でもないことを示している。
でも、だからといってマーガレットが聖女ではないかと言われたら「そうだ」と断言できない。
何故ならマーガレットが聖女だと思うと言っているのが、歴代最強の神官であり圧倒的な神聖力を持つヘリオトロープ・クラークだからだ。
これを言っているのが普通の神官だったら頭の検査をしろと言って気に病むこともなかった。
会えばわかるというがマーガレットには昔会ったことがある。
そのとき何にも感じなかった。
一度目の時何も感じなかったのに今更会って感じられるとも思わなかった。
自分が翼ではないからそうなのかもしれないが、それでも何か引っかかり頭の中にある引き出しを全て開け何か見落としていることはないかと探す。
記憶を辿り頭の中を整理していとある情報を思い出し、一つの可能性、御伽噺のような夢物語が浮かんだ。
但し、これは本当にマーガレットが聖女だったときの話だ。
すごく馬鹿げた考えで人に言ったら頭は大丈夫かと笑われてしまうようなことだった。
それは……、マーガレットが呪術によって一度死に聖女の力で回帰したことで本来の運命が歪められ翼に会っても覚醒できないでいる。
という馬鹿馬鹿しい妄想に近い願望だった。
キキョウも初めて会った時心優しいマーガレットが聖女だったら、自分が翼になれたらと思ったことがあった。
だが、結果は駄目で数年たった今でも覚醒する気配はなかった。
馬鹿馬鹿しい願望を消そうと頭の中を真っ黒に染め上げていく。
そうしている内に公爵が国王との話を終え自分達の部屋にやってきた。
キキョウは御伽噺のような妄想をしていた少年の顔から神官の顔に一瞬で切り替える。
「公爵様、急なお願いを聞いていただきありがとうございます。そして、神殿の危機を救っていただいたことに心から感謝申し上げます。公爵様がいなければ事態はもっと深刻になっていたことでしょう。神殿に仕える者達を代表してお礼を言わせてください。本当にありがとうございました」
ジェンシャンが代表してお礼を言う。
キキョウとヘリオトロープもジェンシャンが頭を下げると後ろで頭を一緒に下げる。
「いえ、気にしないでください。私は貴族として当然のことをしただけですので、頭を上げてください」
サルビアはこれを当たり前だと思っているがそんなことはない。
貴族として当然のことをした、その言葉を言える貴族がこの国には後何人いるだろうか。
殆どの貴族は自分のことしか考えてい。
もし同じ状況に陥ってもサルビアのように助けることなく見捨てて逃げるだろうと三人は思っていた。
「それで私に事件のときの話を聞きたいと陛下からお聞きしたのですが、何を聞きたいのでしょうか」
全て話したのでこれ以上何も話すことはないが、神官である二人には何か他のことが見えているのかも知れないと思いここまできた。
「正確に言えば聞きたいのではなく、公爵様の記憶を覗かさせて欲しいのです」
「……覗くって、そんなこと可能なのですか?」
「はい。ヘリオの力を使えば可能です」
ジェンシャンがそう言うとサルビアはヘリオトロープを見る。
「そうですか。わかりました。私の記憶が何か役に立つのなら覗いてください」
「ありがとうございます。ヘリオ」
ジェンシャンは記憶を覗くことを許してくれたサルビアに礼を言うとヘリオトロープに力を使うよう指示をする。
「はい。サルビア様、お手を失礼します」
手を差し出しここに手を乗せるよう示す。
サルビアはヘリオトロープの手の上に自分の手を乗せる。
「では、サルビア様当時の記憶を思い出してください」
「わかった」
サルビアが目を閉じ当時の記憶を思い出し始めるとヘリオトロープは神聖力を使いサルビアの記憶を覗く。
暫くジェンシャンとキキョウは二人の様子を眺めていたが、途中から頭の中で会話を始めた。
勿論二人の邪魔をしないよう配慮したのだ。
「(なぁ、ジェンシャン。何か見つかると思うか)」
キキョウが最初に神聖力でジェンシャンの頭の中に直接話しかける。
「(それはわからない。私達は呪術師がいつから神殿に陣を描いていたのかしらわかっていない。そんな相手が何か残すとは思えないが、今回のは突発的にやったようにも感じるし、あとは運次第じゃないかと思う)」
「(運か、確かにそうかもな……それで、あのことはこの二人にも言うのか)」
ジェンシャンはあのことがすぐになんなのかわかった。
セリが報告した赤い力のことだと。
「(わからない。あれは魔神の力だ。私達神官ではどうやっても勝てない。例え歴代最高の力を持つヘリオでも。勝てるのは聖女だけ。二人のことを信用していないわけではないけど、まだ魔神の力だと判明したわけじゃない)」
「(ああ、あくまで可能性の話だ。でも、知っているのと知らないのでは違うぞ。ヘリオはこのことを知らないから聖女を探すのがどれだけ大事なのか本当の意味でわかっていない。せめて、ヘリオだけにでも言うべきだと思うぞ俺は。お前がヘリオに心配はかけたくないと思うのはわかるがな。それに記憶の中で見る可能性もあるぞ。かなり可能性は低いだろうがな)」
ジェンシャンが何故ヘリオトロープに言わないでいるのか長年一緒にいたキキョウには全てお見通しだった。
ジェンシャンはヘリオトロープの師匠だ。
神聖力の使い方、神官としての務め、神殿での過ごし方を教えたのだ。
弟子にいらぬ心配をかけたくないと思うのは師匠としては当然だが、今回は神官ではどうしようもない事態だ。
知っているのと知らないのでは、聖女探しに取り組むのに違いがでる。
どうするかは師匠であるジェンシャンが最終的に決めるべきだが。
「(……わかっている。だが、どうしても心配なんだ。ヘリオは自分が一番力を持っているから、自分が一番頑張らないといけないと思っているところがある)」
確かに、とキキョウはこれまでのヘリオトロープの神聖力の使い方を思い出す。
「(もし、このことを知らせればヘリオはもし聖女が見つからなければ自分が魔神と戦わなければならないと思うはずだ。あの子はまだ子供なのに、そんな重荷を押し付けるわけにはいかない)」
それもそうだ、とジェンシャンの言葉に納得するも、だがあいつは神官でもあると思った。
神官になった以上その責務を果たさなければならない。
「(……なら、こうしよう。魔神の力を教えるかはヘリオの報告を受けた後に決めよう。俺達は神殿にまだ近づけないから調査はできてないだろう。本当にセリが見たのが魔神の力かもわからない。だが、記憶の中だといってもヘリオなら何か感知できるだろう。それで言うか決めよう。もしかしたら違う力かもしれないからな)」
ずるい方法だと思うが、これが一番ジェンシャンを納得させる方法だった。
ヘリオトロープに全て丸投げしている感は否めないが、と心の中で「すまんな」と一応謝ったので許せよ、と未だサルビアの記憶を覗いているヘリオトロープにまたも心の中で伝える。
「(……わかった、そうしよう)」
まだ色々と思うところはあるが、記憶でもし何かヘリオトロープが見つけたのなら言わないわけにはいかない。
どうか勘違いであってほしいと二人の方を見て願う。
魔神が復活したかもしれないなんて笑えない。
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