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勝者の特権
しおりを挟む「ちょっと、聞こえてないの。早く手を貸しなさい」
無視されたことでシレネのプライドに傷がつき声を荒げる。
だが、騎士達はその声が聞こえていない振りをしてシレネの方を向こうとしない。
シレネはもう一度怒鳴りつけようと口を開こうとしたが、貴族達の声が聞こえ慌てて閉じる。
シレネは肝心な事を忘れていたのだ。
彼らは国王に仕えている騎士。
国王の命しかきかない存在。
そんな彼らに命令すると言う事は自分は国王と同等だと言っているような者。
「一体何様のつもりなのかしら。国王陛下に仕える騎士に許可も取らずに命令するなんて」
「嘆かわしいな。あんな女が社交界に出ていたなんて。我々の品位が落ちてしまうではないか」
「何て厚顔無恥な態度なのかしら。敗者のくせに信じられないわ。敗者なら敗者らしく振る舞うべきでは」
「仕方ないさ。所詮愛人で元は底辺貴族何だ。自分の価値すらきちんと測れないような女だ。身の程を弁えるということを知らないのさ」
貴族はこぞってシレネのことを悪く言い始めた。
今まではジギタリスの愛人だからといって怒りを買わないよう接していたが、決闘に負けた瞬間手のひらを返して攻撃され始める。
自業自得。
愛人だからといってシレネは調子に乗りすぎた。
例え公爵の愛人だとしてもここから社交界に戻ることは難しいだろうと思った貴族達はシレネを見捨てることにした。
このままではまずいと思ったアネモネが国王に謝罪しようと跪こうとするが、その前にマーガレットが口を開いた。
「国王陛下。私に発言する許可を頂けませんでしょうか」
マーガレットがそう言うと皆口を閉じた。
会場が一瞬で静寂になる。
「許す。何だ」
優しい口調で言う。
「デルフィニウム・シルバーライス侯爵令息を医務室で休ませてあげて欲しいのです」
マーガレットのその発言に両親もシルバーライス家もその場にいた全員が驚きすぎて何も言えずに固まってしまう。
皆がそうなっている間に話を続ける。
「侯爵令息は我が父の一撃を思いっきり受けました。一人で立つのは難しいはずです。それに、令息を連れて帰ろうにも夫人と令嬢では抱えるのは難しいと思うのです。どうか、動けるようになるまでの間休ませてあげることはできないでしょうか」
マーガレットがこんな発言をしたのには理由がある。
一つは今までの自分なら間違いなくそう頼んでいたはず。
少しでも違うことをすれば誰かにバレてしまう恐れがある。
完璧に演じるにはそう言うしかなかった。
もう一つは、ターゲットであるゴンフレナとルドベキアがいる為なるべく普通の貴族ではないという印象を与えておきたかった。
二人は共通していることがあり、貴族の女性が苦手ということ。
特に体に触ってくる女性や色目を使ったりしてくる女性が苦手だった。
マーガレットは元々社交界にはここ数年出ていないので苦手な女性には入らない。
寧ろマーガレットのことをもっと知りたいと思っていた。
今の発言で更に知りたくなっていた。
「マーガレット。其方はそれでいいのか」
国王は言われたときは驚いたがマーガレットならそう言うだろうとすぐに納得した。
だが、本当にそれでいいのかと気になる。
プライドとブローディア家の名に泥を塗った相手を許せるのかと。
「はい。私は既に全てを取り戻しました」
たった一言だが国王は納得した。
サルビアが勝利した瞬間マーガレットは全てを取り戻せたのだと。
「そうか、わかった」
国王はそう呟くと騎士達にデルフィニウムを医務室に運ぶよう命じる。
但しこれはマーガレットの顔をたてるため許可しただけで、先程のシレネの事を許したわけではない。
後日、この事をシレネに対し責任を問うつもりだった。
「ありがとうございます、国王陛下」
自分の願いを聞き届けてくれた国王に礼を言う。
「良い。顔を上げなさい」
国王の言葉でマーガレットは顔を上げる。
「今回の決闘はブローディア家の勝利だ。今ここにシルバーライス家はいないが宣言する。今回の決闘では決まり事が一つあったな。公爵令嬢は勝利した暁に侯爵夫人の謝罪を要求していた。国王の名の下必ず謝罪をさせると誓おう。その機会は後日必ず設けよう。それで良いか」
「はい。国王陛下の寛大なお心遣いに感謝します」
マーガレットは家の名誉と誇り、そしてヘリオトロープへの謝罪を賭けこの決闘に挑んだ。
その内一つは達成されたが、もう一つはまだ達成されていない。
本来ならこの場で謝罪を要求できるところだが、生憎シレネは今いない。
マーガレットはこの謝罪を見世物にする気はなかったので、わざと先程シレネをここから追い出すことでそれを回避した。
国王もそれをわかっていたから、マーガレットの頼みを聞いてくれたのだ。
マーガレットはこの人がこの国の王で良かったと本当に心の底から思った。
「今回のブローディア家とシルバーライス家の決闘はブローディア家の勝利で幕を下ろさせていただきます。これにて終了の宣言をさせていただきます」
臣下の一人がそう宣言すると貴族達から歓喜の声が漏れブローディア家を褒め称える。
当の本人達はあからさまな手の平返しにため息をつきたくなる。
今すぐこの場から離れたかったが、王族より先に出るわけにはいかず退出するのを待つ。
勿論他の貴族達も誰一人退出することなく王族の退出を見送る。
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