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報告
しおりを挟む「これは確定ではありません。あくまで推測の域だと思って聞いてください」
「わかりました」
「アネモネ・シルバーライスはアングレカムをあんな状態にした犯人の最重要容疑者なのです」
「……は?」
一瞬何を言っているのか理解できなかった。
「私達は今回の件にジギタリス公爵も絡んでいるのではないかと疑っています」
何故マーガレットがシルバーライス家の説明をしたのか。
ジギタリスの愛人の話をしたのか。
今全て繋がった。
「その話を信じる証拠はありますか」
「いえ、ありません」
首を横に振る。
「では、何故そう思ったのですか」
ヘリオトロープにそう聞かれ本当のことを言えたら良かったが、このことは誰にも言うつもりはないので使用人の事を話すことにした。
「犯人の仲間と接触した使用人の一人がこう証言したのです。自分が話した者は貴族のような格好をした銀髪の女性だった、と。勿論この話を鵜呑みにするわけではないですが、調べない理由にもなりません」
「確かにそれが本当なら一番怪しいのはシルバーライス家かもしれませんが、それだけでは犯人とは言えません」
「はい、わかっています。なので、調べているのです。私が今日パーティーに参加したのもそれが理由です」
国王に命じられた以外の理由もあると思っていたが、まさかそんな理由だとは思ってもみなかった。
「それで何か掴めましたか」
「いえ、何も」
首を横に振り悔しそうな顔をするが、マーガレットは一つだけ重要な事を掴んでいた。
「そうですか」
暫く沈黙が流れる。
「クラーク様。さっき、アネモネと出会ったとき何か感じませんでしたか」
ダメ元で尋ねる。
あの女のことだからバレないよう手を打っていると思うが、神官一の神聖力をもったヘリオトロープならもしかしたらという期待を込めて聞く。
「いえ、何も感じませんでした」
首を横に振り、呪術師の気は感じなかったことを伝える。
「そうですか」
「マーガレット様。その調査私も一緒にさせて貰えませんか」
「どうしてですか。まだ、そうと決まったわけではないですよ」
急にやる気を見せられ戸惑う。
「確かにそうですが、そう思う何かがあったのではありませんか。私はマーガレット様とは数日一緒に過ごしただけですが、その数日でどんな人なのか知りました。知ったからこそ、マーガレット様が疑う人達を徹底的に調べた方がいいと思ったのです」
「クラーク様。ありがとうございます。本当に感謝します」
ヘリオトロープの力を借りられるのなら証拠を見つけるのも楽になる。
呪術師相手は間違いなく神官の方が気づきやすい。
「いえ、気にしないでください。これは私達神官の問題でもあるので」
マーガレットがこれ以上負担に思わないようそう言う。
「本当にありがとうございます」
ヘリオトロープの心遣いに感謝する。
二人の話が終わる頃には一時間経っていて、外を見るとブローディア家の屋敷が見えた。
馬車から降りるとサルビアとカトレアがいた。
何もなかった自分の目で確認するまで心配で馬車が見えた瞬間急いで外まで迎えに行った。
「マーガレット。おかえり」
サルビアが声をかける。
「はい。ただいま帰りました」
「マーガレット、何もなかった?パーティーは楽しめた」
カトレアの質問にマーガレットが少し困った顔をしながら答える。
「そのことなのですが、報告することがあります」
「わかった。とりあえず中に入ろう」
サルビアの言葉で皆中に入る。
マーガレットの話を聞くためサルビアの自室に向かう。
マーガレットがマンクスフドも来てほしいと言うが当の本人は何故呼ばれたかわかっていない。
部屋にはマーガレット、サルビア、カトレア、マンクスフド、ヘリオトロープの計五名。
「で、何があったか教えてくれ」
もしマーガレットに何かしたものがいたら挨拶しにいかなくてはな、と心の中で思う。
「はい。結論から言うとシルバーライス家と決闘することになりました」
「どういうことだ!?」
王国一、大陸でも名を馳せるブローディア家と決闘するなど死を意味する。
相手から決闘を申し込むなどあり得ない。
つまりマーガレットが申し込んだことになる。
一体パーティーで何があったのか。
三人はマーガレットとヘリオトロープを交互に見る。
マーガレットが説明しようとしたがヘリオトロープが先に口を開く。
「そこからは私が見せましょう。その方がいいでしょう」
マーガレットに許可を求める。
見せる、とは何をと思ったが何か考えがあるのだろうと思い許可を出す。
マーガレットの許可が出ると神聖力を使いパーティーの出来事、シレネが話しかけてきたときからの一連の流れを見せた。
「……本当にこんなことがあったのか」
サルビアは信じられないといった様子で怒りで声が震える。
「はい。申し訳ありません。私のせいでブローディアの名に傷をつけてしまいました」
社交界に行ったのが自分ではなく両親だったらこんなことにはならなかっただろう、と。
決闘を申し込んだことに後悔はしていないが、自分のせいで二人に迷惑をかけることになり申し訳なく感じる。
「気にしなくていいわ。貴方は正しいことをしたのだから。マクス、頼まれてくれるわね」
「はい、勿論です。必ず勝利します」
マンクスフドは何故自分が呼ばれたのかやっとわかった。
マーガレットの代理として相手の騎士と戦う為に呼ばれたのだと。
マーガレットを侮辱された怒りを絶対に晴らすべく相手の騎士を殺すと決意する。
これで代理が決まったと安堵したがサルビアが駄目だと声を荒げる。
「いや、駄目だ。マクス、悪いがお前は出さん」
「貴方何をいっているのですか?では、誰を出すつもりですか」
マンクスフドはブローディア家騎士団で一番強い。
そんなマンクスフドではなく他に誰を出すつもりなのかと問う。
これはマーガレットのプライドと名誉をかけた戦いだと言うのに、何を考えているかわからずカトレアは困惑する。
「私が出る。この決闘は私が殺(や)る」
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