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涙
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サルビアが部屋から出ていき何も考えずただボーッと壁の模様を眺めていた。
気がつけば空は真っ暗になっていた。
「アドルフ」
アドルフはマンクスフドが初めて剣を教えた男。
可愛い一番弟子だった。
騎士としてアドルフが成長していく姿を見守るのが幸せだった。
だが、もうそれは叶わない。
アドルフの死をどしても受け止めきれない。
「マクス」
扉を叩く音がした後声をかけられる。
「お嬢様」
扉を開けようと席を立つが「このまま聞いてほしい」と。
マーガレットはサルビアから自分の口から伝えるから黙ってて欲しいと頼まれていたので言うことができなかった。
マーガレットにとってアドルフは頼りになるお兄ちゃん的存在の一人で一緒に過ごせる時間が楽しみて仕方なかった。
アドルフの死を聞かされた時は胸が張り裂けそうなくらい痛く苦しかった。
今でも悲しいし苦しいがアドルフを想って涙を流したお陰かアドルフの死を受け入れることができ前に進もうと決意できた。
アドルフの死を聞いてから一日もたってないのに薄情者と思われるかもしれない。
だが、立ち止まるわけにはいかない。
これ以上大切な人達を失わない為にも。
これは戦争なのだ。
目を背け立ち止まった方は何もできずただ殺されるのを待つしかなくなる。
守ると勝つと決めたのなら立ち止まるなど許されない。
それでも、アドルフを想って泣くくらい許されるだろう。
マーガレット自身がそうだったように。
泣くのは悪い事ではないと。
それを伝えにマーガレットはここにきたのだ。
「マクス……」
泣いていいのよ、そう続けようとしてやめる。
泣いていいと言われて泣くぐらいだったらもう泣いていただろう。
卑怯なやり方かもしれないが一番確実な方法を取ることにした。
「マクス。泣きなさい。これは命令よ」
「……はい、お嬢様」
そう言うと静かに涙を流し始める。
ーー命令なら仕方ない。今は誰も見てない。今だけだ。少しの間だけ全てを忘れて泣くことを許してくれ。
マーガレットは扉を背にして座り込む。
扉の向こうからマンクスフドのすすり泣く声が聞こえた。
ーーよかった。
悲しいのに自分は大丈夫、強いから問題ないと耐えるのはよくない。
それはいつか身を滅ぼす。
二度目の人生で自分自身がそうだった。
泣くのを我慢しひたすら皆が生きて幸せになれるように奮闘したのに結果は変わらない。
寧ろ酷くなり心が壊れた。
一度壊れたものは元どおりになることは絶対にない。
誰よりもそれを身をもって経験しているからマンクスフドにはそうなってほしくなかった。
マンクスフドはブローディア家の騎士副団長兼マーガレットの護衛騎士。
現在国の三本の剣の一人。
勿論、団長のサルビアもその人。
もう一人はアネモネの二度目の人生の夫だった男。
誰もが羨む騎士の称号を手に入れたせいなのか、人に弱みを見せれない。
涙なんてもってのほか。
立場や地位のせいで時に人は自分を偽らないといけなくなる。
マンクスフドもそうだったのだろう。
最初は憧れ理想に近づけるよう努力していたが、いつしかそれが重りとなり自由に動けなくなっていた。
だが今は、マーガレットの命という名目で泣くことができる。
感謝しても仕切れなかった。
自分を押し殺してきた報いからか泣くことができずにいた。
「……お嬢様、本当にありがとうございます」
泣けるよう気を遣って命令してくれたこと、自分が落ち着くまで傍にいてくれたことに感謝する。
扉を開けて言うべきだが、マーガレットもそうしようとしないのでそのまま礼を言った。
「私は何もしてないわ」
ーー何もできない。
「いえ、充分過ぎる程してもらいました。お嬢様、本当にありがとう……ございます」
最後の方は声が震えていた。
止まったと思った涙がまた溢れだしてきた。
「そう、それならよかった」
マーガレット自身はどれだけ自分がマンクスフドの心を救ったかわかっていなかったが、少しでも力になれたのなら来てよかったと思えた。
「なら、私はそろそろ部屋に戻るわ。明日も早いしね。マクス、今日はもらいましたゆっくり休んで。明日からまた頑張ろう」
「……はい」
「おやすみ、マクス」
「はい。おやすみなさい、お嬢様」
お言葉に甘えて寝ることにした。
本来ならマーガレットを部屋まで送り届けないといけないが、どうせ近くでヘリオトロープが護衛しているだろうと、今日だけはその座を譲ることにした。
ヘリオトロープは部屋に入るマーガレットを確認してから自分の部屋に戻ったが、襲われないよう神聖力を部屋の周りに放っていた。
マーガレットが許可しない限り開けられないよう。
だが、少ししてマーガレットが部屋から出ていく気配を感じ何かあってからでは大変だと陰から守ることにした。
こんな時間にどこに行くのかと不思議に思っているとマンクスフドの部屋の前で立ち止まった。
ーーああ、そういうことか。
マーガレットが何故ここに来たのか理解した。
アドルフの死をサルビアから聞かされマーガレットは泣いた。
アドルフは公爵家の騎士。
副団長のマンクスフドは部下の死を聞かされ一人で泣いている。
それが心配できたのだろう。
そう思った。
だが実際は逆で泣けないマンクスフドを泣くよう言いにきたのだった。
泣きたいのに泣けないのは辛い。
子供の頃この容姿のせいで散々な目にあった。
泣けばそれにつけ込まれると思い泣かずに耐え忍んだ。
いつの日か悲しい、辛い、苦しいといった感情は消え去り泣くのを我慢するということもなくなった。
もし、あの頃マーガレットに出会えていれば自分は泣くことが許されたのだろうか。
マーガレットとこれまで一緒に過ごしてきた人達が急にとても羨ましくなった。
もっと早く会いたかった。
会いにいけばよかった。
二人のやり取りを見守りながら静かにそう思った。
気がつけば空は真っ暗になっていた。
「アドルフ」
アドルフはマンクスフドが初めて剣を教えた男。
可愛い一番弟子だった。
騎士としてアドルフが成長していく姿を見守るのが幸せだった。
だが、もうそれは叶わない。
アドルフの死をどしても受け止めきれない。
「マクス」
扉を叩く音がした後声をかけられる。
「お嬢様」
扉を開けようと席を立つが「このまま聞いてほしい」と。
マーガレットはサルビアから自分の口から伝えるから黙ってて欲しいと頼まれていたので言うことができなかった。
マーガレットにとってアドルフは頼りになるお兄ちゃん的存在の一人で一緒に過ごせる時間が楽しみて仕方なかった。
アドルフの死を聞かされた時は胸が張り裂けそうなくらい痛く苦しかった。
今でも悲しいし苦しいがアドルフを想って涙を流したお陰かアドルフの死を受け入れることができ前に進もうと決意できた。
アドルフの死を聞いてから一日もたってないのに薄情者と思われるかもしれない。
だが、立ち止まるわけにはいかない。
これ以上大切な人達を失わない為にも。
これは戦争なのだ。
目を背け立ち止まった方は何もできずただ殺されるのを待つしかなくなる。
守ると勝つと決めたのなら立ち止まるなど許されない。
それでも、アドルフを想って泣くくらい許されるだろう。
マーガレット自身がそうだったように。
泣くのは悪い事ではないと。
それを伝えにマーガレットはここにきたのだ。
「マクス……」
泣いていいのよ、そう続けようとしてやめる。
泣いていいと言われて泣くぐらいだったらもう泣いていただろう。
卑怯なやり方かもしれないが一番確実な方法を取ることにした。
「マクス。泣きなさい。これは命令よ」
「……はい、お嬢様」
そう言うと静かに涙を流し始める。
ーー命令なら仕方ない。今は誰も見てない。今だけだ。少しの間だけ全てを忘れて泣くことを許してくれ。
マーガレットは扉を背にして座り込む。
扉の向こうからマンクスフドのすすり泣く声が聞こえた。
ーーよかった。
悲しいのに自分は大丈夫、強いから問題ないと耐えるのはよくない。
それはいつか身を滅ぼす。
二度目の人生で自分自身がそうだった。
泣くのを我慢しひたすら皆が生きて幸せになれるように奮闘したのに結果は変わらない。
寧ろ酷くなり心が壊れた。
一度壊れたものは元どおりになることは絶対にない。
誰よりもそれを身をもって経験しているからマンクスフドにはそうなってほしくなかった。
マンクスフドはブローディア家の騎士副団長兼マーガレットの護衛騎士。
現在国の三本の剣の一人。
勿論、団長のサルビアもその人。
もう一人はアネモネの二度目の人生の夫だった男。
誰もが羨む騎士の称号を手に入れたせいなのか、人に弱みを見せれない。
涙なんてもってのほか。
立場や地位のせいで時に人は自分を偽らないといけなくなる。
マンクスフドもそうだったのだろう。
最初は憧れ理想に近づけるよう努力していたが、いつしかそれが重りとなり自由に動けなくなっていた。
だが今は、マーガレットの命という名目で泣くことができる。
感謝しても仕切れなかった。
自分を押し殺してきた報いからか泣くことができずにいた。
「……お嬢様、本当にありがとうございます」
泣けるよう気を遣って命令してくれたこと、自分が落ち着くまで傍にいてくれたことに感謝する。
扉を開けて言うべきだが、マーガレットもそうしようとしないのでそのまま礼を言った。
「私は何もしてないわ」
ーー何もできない。
「いえ、充分過ぎる程してもらいました。お嬢様、本当にありがとう……ございます」
最後の方は声が震えていた。
止まったと思った涙がまた溢れだしてきた。
「そう、それならよかった」
マーガレット自身はどれだけ自分がマンクスフドの心を救ったかわかっていなかったが、少しでも力になれたのなら来てよかったと思えた。
「なら、私はそろそろ部屋に戻るわ。明日も早いしね。マクス、今日はもらいましたゆっくり休んで。明日からまた頑張ろう」
「……はい」
「おやすみ、マクス」
「はい。おやすみなさい、お嬢様」
お言葉に甘えて寝ることにした。
本来ならマーガレットを部屋まで送り届けないといけないが、どうせ近くでヘリオトロープが護衛しているだろうと、今日だけはその座を譲ることにした。
ヘリオトロープは部屋に入るマーガレットを確認してから自分の部屋に戻ったが、襲われないよう神聖力を部屋の周りに放っていた。
マーガレットが許可しない限り開けられないよう。
だが、少ししてマーガレットが部屋から出ていく気配を感じ何かあってからでは大変だと陰から守ることにした。
こんな時間にどこに行くのかと不思議に思っているとマンクスフドの部屋の前で立ち止まった。
ーーああ、そういうことか。
マーガレットが何故ここに来たのか理解した。
アドルフの死をサルビアから聞かされマーガレットは泣いた。
アドルフは公爵家の騎士。
副団長のマンクスフドは部下の死を聞かされ一人で泣いている。
それが心配できたのだろう。
そう思った。
だが実際は逆で泣けないマンクスフドを泣くよう言いにきたのだった。
泣きたいのに泣けないのは辛い。
子供の頃この容姿のせいで散々な目にあった。
泣けばそれにつけ込まれると思い泣かずに耐え忍んだ。
いつの日か悲しい、辛い、苦しいといった感情は消え去り泣くのを我慢するということもなくなった。
もし、あの頃マーガレットに出会えていれば自分は泣くことが許されたのだろうか。
マーガレットとこれまで一緒に過ごしてきた人達が急にとても羨ましくなった。
もっと早く会いたかった。
会いにいけばよかった。
二人のやり取りを見守りながら静かにそう思った。
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