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アドルフの死
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漸く涙がおさまりマーガレットの手紙の内容を確認する。
そこには、神官を手配してくれたことへの感謝、アングレカムの現在の状況と呪術師による呪いに気をつけるよう書かれていた。
そしてどうか無茶なことはせず自分の命を大切にしてほしい、と。
その手紙を読み終わるとカトレアはまた涙が溢れ出した。
自分の無力さに腹が立つ。
サルビアもマーガレットも自分に出来ることを精一杯やっているのに、自分はアドルフを死なせてしまった。
自分の考えが甘かったのだ。
呪術師に殺されたせいで弔うことすらできない。
愚かな主人のせいでアドルフに無残な死に方をさせてしまった。
これから好きな女性ができ、結婚し子供を産んで幸せな家庭を作ったかもしれないのに。
そんな未来を奪うことをしてしまった自分をカトレアは許すことができなかった。
『……聞こえるか、カトレア』
手に持っていた魔法石からサルビアの声が聞こえる。
カトレアからの連絡を待っていたが中々かかってこず自分から連絡する。
「ーーっ、あなた」
助けて、そう言いかけてやめる。
助けを求めている人は自分以外にもいる。
神殿にはサルビアの力が必要だとわかっているのに、今自分が助けを呼べばサルビアは迷うことなく屋敷に帰ってきてしまう。
自分の身勝手な感情で皆んなを振り回す訳にはいかないと押し止どめた。
『カトレア。何があったのだ』
カトレアの声で泣いているとわかる。
傍で抱きしめることができない自分が憎かった。
「ーーアドルフが死にました」
カトレアの発した言葉に息をするのを忘れてしまった。
時間にすると数秒程度だったかもしれないが、その間にアドルフとの過ごした時を思い出した。
稽古をしたとき、馬に乗ったとき、戦で共に戦ったとき、下らない話を皆んなと笑いあったとき、強くなれないと泣いているアドルフを励ましたとき。
共に過ごした日々が頭の中を駆け巡った。
サルビアが何も言えずにいるとカトレアは誰に殺されたのかを言った。
「呪術師によって殺されたのです」
カトレアは自分の口からサルビアに言うことでアドルフの死が嘘でないと真実なのだと思い知らされた。
「……呪術師が、アドルフを、殺した。そう言ったのか」
頭の中が真っ白になり自分が今なんて言ったのか一つも覚えていない。
カトレアは返事はしなかったが、魔法石から泣き声が聞こえてきた。
それが答えなのだとそう思った。
ーー全員殺してやる。
アングレカム、神殿、その二つでの光景が頭をよぎる。
そして、アドルフの顔が浮かぶ。
必ずその報いを受けさせなければ気が済まない。
例えどれほど自分の手が血で染まることになるとしてもこれは到底許すことなどできなかった。
『カトレア』
声をかけるが返事がない。
もう一度名を呼ぶ。
『カトレア。しっかりするのだ。君がそのままでは、皆が不安になる。君はブローディア家の女主人。カトレア・ブローディアなのだ。君の指示を皆が待っている。顔を上げ前を見るのだ』
カトレアは静かに涙を流すだけで返事をしなかった。
『私もマーガレットも君が家を守っていてくれるから必ず生きて帰ってこようと思える。君が待っているとわかるから頑張れる。私もマーガレットも君がいなければきっと何もできない。カトレア。君に一番大変な役割を押し付けて申し訳ないと思っている。でも、君以外にそれをこなすことはできない。どうか、私達の帰る場所を守ってくれないか』
これは励ましでも何でもなくサルビアの本心。
サルビアが外で頑張れるのは家で帰りを待っていてくれているカトレアがいたから。
アドルフの死で憔悴しているカトレアに無理をさせたくは無かったが、それでもカトレアでなければ守ることはできないので何とか頑張ってもらおうと色々考えたが、本心を言うのが一番だと気付いた。
「あなた、ごめんなさい。そして、ありがとう。お陰で目が覚めたわ。私はブローディア家の女主人、カトレア・ブローディア。この家は私が必ず守るわ」
先程までの悲痛の声から少し声に張りが戻った。
「だから、必ず帰ってきてくださいね」
『約束する。マーガレットと共に必ず帰ってくると』
それから毎日サルビアとカトレアは魔法石で報告しあった。
マンクスフドからマーガレットが襲われヘルマンが現れたと報告があったときは心臓が止まるかと思った。
ヘリオトロープがヘルマンを全て倒しマーガレットを守ったと聞いて安心した。
今すぐマーガレットの元に行きたかったが、サルビアがアングレカムに着いたのはヘルマンが現れてから一週間後だった。
使徒達と呪われた神官達を王宮まで運び、神殿の捜査の報告をして漸くサルビアはアングレカムに戻ることができた。
王宮から去るとき使徒達とジェンシャンとキキョウにお礼を言われた。
それと二人の神官の神聖力を纏ったお守りを三つ貰った。
二人の予想では、これからブローディア家の人間を殺そうとするだろうと推測していた。
本当は傍で守るべきだが、それはヘリオトロープに任せ、自分達はせめてものとしてお守りを渡すことにした。
サルビアは心から二人の神官に感謝の気持ちを伝え王宮をたった。
アングレカムに着くまでの間、呪術師達には出会わなかったがそれがまた不気味で何とも言えない気持ち悪さを感じた。
「……これが、向こうで起きたことだ。王が私にこの件を一任したのはブローディア家を信用してくださったのと神殿のこと、呪術師のことで、王自身がこちらにまで手が回らないからでもある」
サルビアが話終わりマーガレットの方見ると声を押し殺し目から大量の涙が溢れ出していた。
「ーーッ、マーガレット」
優しくマーガレットを抱きしめる。
アドルフが死んで悲しくて泣いているのだ。
このことをマーガレットに伝えるのはここに来てからと決めていた。
自分の口から伝える、と。
「~~ッ」
マーガレットは何も言わずただひたすら泣き続けた。
もう二度とアドルフに会えないという寂しさが心にぽっかりと穴を開けた。
誰一人死なせたくなかった。
守りたかったのに。
結局自分はあの女達に負けたのだと思い知らされた。
そこには、神官を手配してくれたことへの感謝、アングレカムの現在の状況と呪術師による呪いに気をつけるよう書かれていた。
そしてどうか無茶なことはせず自分の命を大切にしてほしい、と。
その手紙を読み終わるとカトレアはまた涙が溢れ出した。
自分の無力さに腹が立つ。
サルビアもマーガレットも自分に出来ることを精一杯やっているのに、自分はアドルフを死なせてしまった。
自分の考えが甘かったのだ。
呪術師に殺されたせいで弔うことすらできない。
愚かな主人のせいでアドルフに無残な死に方をさせてしまった。
これから好きな女性ができ、結婚し子供を産んで幸せな家庭を作ったかもしれないのに。
そんな未来を奪うことをしてしまった自分をカトレアは許すことができなかった。
『……聞こえるか、カトレア』
手に持っていた魔法石からサルビアの声が聞こえる。
カトレアからの連絡を待っていたが中々かかってこず自分から連絡する。
「ーーっ、あなた」
助けて、そう言いかけてやめる。
助けを求めている人は自分以外にもいる。
神殿にはサルビアの力が必要だとわかっているのに、今自分が助けを呼べばサルビアは迷うことなく屋敷に帰ってきてしまう。
自分の身勝手な感情で皆んなを振り回す訳にはいかないと押し止どめた。
『カトレア。何があったのだ』
カトレアの声で泣いているとわかる。
傍で抱きしめることができない自分が憎かった。
「ーーアドルフが死にました」
カトレアの発した言葉に息をするのを忘れてしまった。
時間にすると数秒程度だったかもしれないが、その間にアドルフとの過ごした時を思い出した。
稽古をしたとき、馬に乗ったとき、戦で共に戦ったとき、下らない話を皆んなと笑いあったとき、強くなれないと泣いているアドルフを励ましたとき。
共に過ごした日々が頭の中を駆け巡った。
サルビアが何も言えずにいるとカトレアは誰に殺されたのかを言った。
「呪術師によって殺されたのです」
カトレアは自分の口からサルビアに言うことでアドルフの死が嘘でないと真実なのだと思い知らされた。
「……呪術師が、アドルフを、殺した。そう言ったのか」
頭の中が真っ白になり自分が今なんて言ったのか一つも覚えていない。
カトレアは返事はしなかったが、魔法石から泣き声が聞こえてきた。
それが答えなのだとそう思った。
ーー全員殺してやる。
アングレカム、神殿、その二つでの光景が頭をよぎる。
そして、アドルフの顔が浮かぶ。
必ずその報いを受けさせなければ気が済まない。
例えどれほど自分の手が血で染まることになるとしてもこれは到底許すことなどできなかった。
『カトレア』
声をかけるが返事がない。
もう一度名を呼ぶ。
『カトレア。しっかりするのだ。君がそのままでは、皆が不安になる。君はブローディア家の女主人。カトレア・ブローディアなのだ。君の指示を皆が待っている。顔を上げ前を見るのだ』
カトレアは静かに涙を流すだけで返事をしなかった。
『私もマーガレットも君が家を守っていてくれるから必ず生きて帰ってこようと思える。君が待っているとわかるから頑張れる。私もマーガレットも君がいなければきっと何もできない。カトレア。君に一番大変な役割を押し付けて申し訳ないと思っている。でも、君以外にそれをこなすことはできない。どうか、私達の帰る場所を守ってくれないか』
これは励ましでも何でもなくサルビアの本心。
サルビアが外で頑張れるのは家で帰りを待っていてくれているカトレアがいたから。
アドルフの死で憔悴しているカトレアに無理をさせたくは無かったが、それでもカトレアでなければ守ることはできないので何とか頑張ってもらおうと色々考えたが、本心を言うのが一番だと気付いた。
「あなた、ごめんなさい。そして、ありがとう。お陰で目が覚めたわ。私はブローディア家の女主人、カトレア・ブローディア。この家は私が必ず守るわ」
先程までの悲痛の声から少し声に張りが戻った。
「だから、必ず帰ってきてくださいね」
『約束する。マーガレットと共に必ず帰ってくると』
それから毎日サルビアとカトレアは魔法石で報告しあった。
マンクスフドからマーガレットが襲われヘルマンが現れたと報告があったときは心臓が止まるかと思った。
ヘリオトロープがヘルマンを全て倒しマーガレットを守ったと聞いて安心した。
今すぐマーガレットの元に行きたかったが、サルビアがアングレカムに着いたのはヘルマンが現れてから一週間後だった。
使徒達と呪われた神官達を王宮まで運び、神殿の捜査の報告をして漸くサルビアはアングレカムに戻ることができた。
王宮から去るとき使徒達とジェンシャンとキキョウにお礼を言われた。
それと二人の神官の神聖力を纏ったお守りを三つ貰った。
二人の予想では、これからブローディア家の人間を殺そうとするだろうと推測していた。
本当は傍で守るべきだが、それはヘリオトロープに任せ、自分達はせめてものとしてお守りを渡すことにした。
サルビアは心から二人の神官に感謝の気持ちを伝え王宮をたった。
アングレカムに着くまでの間、呪術師達には出会わなかったがそれがまた不気味で何とも言えない気持ち悪さを感じた。
「……これが、向こうで起きたことだ。王が私にこの件を一任したのはブローディア家を信用してくださったのと神殿のこと、呪術師のことで、王自身がこちらにまで手が回らないからでもある」
サルビアが話終わりマーガレットの方見ると声を押し殺し目から大量の涙が溢れ出していた。
「ーーッ、マーガレット」
優しくマーガレットを抱きしめる。
アドルフが死んで悲しくて泣いているのだ。
このことをマーガレットに伝えるのはここに来てからと決めていた。
自分の口から伝える、と。
「~~ッ」
マーガレットは何も言わずただひたすら泣き続けた。
もう二度とアドルフに会えないという寂しさが心にぽっかりと穴を開けた。
誰一人死なせたくなかった。
守りたかったのに。
結局自分はあの女達に負けたのだと思い知らされた。
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