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神殿

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ジェンシャンとキキョウが王宮に到着する少し前。



「これはどういうことだ」

神殿に着いたサルビアが目にした光景に絞りだすように呟く。

神殿は崩壊し使徒達が慌ただしく走り回っている。

血と火薬の臭いがここら一体に充満している。

神官がいてどうしてこんなことに何が起きているのか一人の使徒を捕まえて尋ねる。

「おい、何があった」

「ブローディア様」

サルビアだとわかると助けを求める。

サルビアは何度か神殿に訪れているので使徒達の大半は顔を知っている。

「ブローディア様。どうか、お助けください。神官様達が何者かに襲われ意識不明なのです。お願いします。お助けください」

知りたかった情報を知れて良かったが、まさかの最悪の状況に後ろから頭を殴られたみたいな衝撃を受ける。

「神官達が意識不明」

何とか絞りだすような声をだす。

「はい。どうかお助けください」

地面に頭を擦り付けるように懇願する。

サルビアはそんな使徒の姿を見て、助けて欲しいのは自分の方だと言うことはできなかった。

「立ちなさい。詳しい話しは後聞くとしよう。まずは怪我人の手当て、神官達の状態の確認、被害状況の把握。やることは沢山ある」

使徒を立ち上がらせる。

「お前達は私についてこい」

護衛達にそう告げる。

急いで一番危険な神殿の中に入っていく。

まだ中に人がいたら、そう思うと足が勝手に動いていた。

「二手に分かれよう。私はこっちにいく。お前達はそっちを頼む。任せたぞ」

「はい」

三人の護衛を連れて右側に行く。

慎重に足を進める。

何回か神殿に足を運んだことがあるが、周りは厳重に結界が張られていた。

神官に気づかれず侵入するなどできるはずなどない。

なら、どうやって神殿を神官達に攻撃を?

答えは簡単。

神官の天敵、呪術師。

神官を傷つけられるとしたらそれ以外考えられない。

だが、何のためにこんなことを。

呪術師達の目的がわからない。

存在が知られれば殺されるのに、こんな大胆に行動する理由がわからない。

「公爵様。何か声が聞こえませんか」

一人の護衛が声をかける。

サルビアはそう言われ耳を澄ます。

確かに何処から声が聞こえた。

「捜せ」

指示をだすと三人はバラバラに周辺を捜す。

暫くして一人の護衛が「公爵様、ここです」と叫ぶ。

瓦礫の下敷きになっていたのは使徒ではなく、フリージア家の侯爵夫人アメリアだった。

フリージア家とは何度か仕事をしたことがあるので、アメリアのことは当然知っている。

だが何故アメリアがここにいる?

神官に興味があったのか?

まさか知り合いに会うとは思ってもおらず、一瞬余計なことを考えてしまう。

「助けて、ください。誰か、お願い、します」

アメリアは頭から血を流し泣きながら助けを求める。

意識が朦朧としながら繰り返し呟く。

「夫人、もう大丈夫です。今から助けます。もう少し頑張ってください」

護衛達と共に瓦礫を慎重にどかしていく。

護衛の一人がアメリアを抱えて外で怪我人の治療をしているとこまで運ぶ。

サルビア達は更に奥までいって他に怪我人がいないか確認する。

「公爵様。もしかして、これも呪術師の仕業でしょうか」

「多分、そうだろうな。神官相手にこんなことできる奴なんて限られているからな」

護衛二人は呪術師の力が神官より上なのかも知れないと思うと体を強張らせる。

「お前達、油断だけはするなよ」

まだ何か仕掛けがあってもおかしくない。

まだ何処かに人がいないか隅々まで捜す。

全部の部屋を捜し終え外に出る。

もう一つの方はどうだったか尋ねると反対側は結構な人が瓦礫の下敷きになっていると報告を受けた。

急いでサルビア達は反対側に行き、使徒達と手分けして救助にあたる。

今日は貴族と平民の子供達が神殿を見学に来ていたらしく、そのほとんどが瓦礫の下敷きになって死んだ。

助かった者達も何人かいたが、それでも目の前で家族や友達が死んだのをみて心が壊れてしまう。

救助が終わり、被害状況を確認し終えた頃にはすっかり空は赤くなっており太陽が沈みきっていた。

国王に報告しにいかなければならないが、サルビアがここを離れるわけにはいかず部下に行かせようと考えるが夜は呪術師達の領域なので危険と判断し日が昇ってから行くよう指示をする。



「公爵様。今日は本当にありがとうございました」

一番目の使徒セリが代表としてお礼を言いにくる。

「我々だけでは事態を悪化させ被害を拡大させていました。公爵様の的確な指示のお陰で助かりました。本当に何とお礼を言っていいかわかりません。この御恩は一生忘れません。ありがとうございます」

さっきよりも深く頭を下げお礼を述べる。

「頭を上げなさい。私は貴族としてこの国の民として当然のことをしただけだ。神官も使徒もこの国を守る為に身を捧げている。神殿が大変なときに手を貸すのは当然のこと。気にしなくていい」

嫌味でも恩を売る訳でもなく本当に心の底からそう思っている。

この国が平和なのは神殿に仕える者達がその身を捧げ守ってくれているからだと。

セリはゆっくりと頭を上げてもう一度お礼を言う。

「座りなさい。疲れているところ悪いが、何があったのか詳しく教えて欲しい」

「はい、わかりました」

そう返事をすると、今日あったことを順を追って説明する。


今日は神殿見学の月一に開催される日で神聖力が発現したもの、使徒になりたいもの、ただ単に興味があるもの、様々な人が見学する日だった。

セリは使徒の一番目の位を与えられているものとして見学者達に挨拶をし神殿の説明と注意事項をしてから下位の使徒達に案内を任せ神官達がいる本館へと向かう。

見学者達は最初に分館を見た後別館へと移動する。

本館は基本神官達と上位使徒十名しか入れないので見学はできない。

例え神官候補でも神官になるまでは入ることを禁止されている。

その後、セリは本館へと訪れ儀式を務める神官達の補佐をする。

今日は新月の日なので神聖力が少し弱くなる。

そのため儀式を行い神聖力を高めないといけない。

月に一回行われる儀式は交代で行われるが、選ばれると一日中神官達は動くことができない。

それ程大変な務めなのだ。

今はまだ太陽があるから問題はないが、太陽が沈み空が暗くなると神聖力が弱くなる。

そうならないよう神官達は新月の日には必ず儀式をしないといけない。

これは神官と使徒十名しか知らない秘密。

本当は言ってはならない機密事項だが、事態が事態なだけに、サルビアには教えて置いた方がいいと判断した。

「それは私に言っても大丈夫なのか」

「大丈夫ではないですが、公爵様なら言いふらしたりはしないでしょう。それに、何故かこの事を伝えないといけない気がしたのです」

バレたら神殿から追放されるかもしれない程の大罪だが、それでも伝えないといけない気がした。

「そうか。セリ、教えてくれて感謝する。このことは娘のマーガレットだけには伝えていいだろうか」

セリがサルビアにこのことを伝えないといけないと思ったように、サルビアもこのことをマーガレットに伝えなければいけないと思った。

「構いません。公爵様の判断にお任せします」

何故そんなことを聞くか理解できなかったが、何か考えがあるのだろうと了承する。

知る人が多くなればなるほど自分の立場が危うくなるのに、何故かブローディア家の人間は信じられる。

これまでの歴史がそう思わせるのか、サルビアやマーガレット自身がそう思わせるのだろうか。

どっちだろう。

それとも両方なのか。

「ありがとう。約束する。このことはマーガレット以外には誰にも教えない」
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