10 / 81
罪 3
しおりを挟む「え……」
自室に入りソファーに座ってくださいと言おうとしたら、マーガレットが深く頭を下げていた。
「マーガレット様。頭をあげてください」
何故マーガレットが頭を下げているかわからず戸惑いながらも頭をあげるようお願いする。
マーガレットはその言葉を無視して頭を下げたまま謝罪をする。
「アスターさん。今回の件に我がブローディア家の使用人二名が関わっていたことが昨日判明しました。公爵家の一員として深くお詫びいたします。本当に申し訳ありません」
「……顔を上げてください」
もう一度そう言われマーガレットはゆっくりと顔を上げる。
「マーガレット様。今回の件はマーガレット様のせいではありません。全て私が悪いのです」
サルビアに領主としてこの町を任されたのに、病気は流行り食料は不足し大地は枯れ果てた。
結局最後には公爵家の力を借りなければ何もできないのだと思い知らされた。
この件が無事終わり次第領主の座を降りようとサルビアに会って決意した。
「それは違います。これは、アスターさんのせいでは絶対ありません。これには呪術師が関わっているのです」
「どういうことですか?」
「使用人二人の話しだとフードを被った何者かが、公爵家の手紙を自分に渡して欲しいと頼んできたそうです。手紙は必ず届けるから心配ないと聞かされていたらしく、金と引き換えに毎回アスターさん宛とリュミエールの手紙をフードの遣いに預けていたそうです」
「でも、それだけでは……」
呪術師の仕業とは言えない、と続けようとして止める。
アスターは思い出したのだ。
呪術師は人だけでなく自然も呪うことができる者が存在していたことを。
四百年ほど前にイデアール国という国がまだあった頃、一人の呪術師が国全土を覆うほどの呪術をかけ国を滅したことがある。
それは隣国全ての国を恐怖に陥れた。
国王達は自国にいる呪術師を全て処刑することで恐怖を排除した。
もちろんこの国も例外ではない。
呪術師など二百年前に全て滅ぼしたと言われているが、生き残りがいてもおかしくはないかもしれないと思ったのだ。
「でも、何故この町なのですか。我々が一体何をしたというですか」
アスターは泣き崩れる。
勿論これはまだマーガレットの推測の域だということはわかっている。
それでも心の何処かで薄々感じでいたのだ。
もしかしたらこれは呪いではないかと。
「それは私にもまだわかりません。だから、調べましょう。何故この町が呪われたのか。誰がどんな目的でこんなことをしたのか。必ず私は犯人を見つけます。そして、どんな手をつかっても報いを受けて貰うつもりです」
「私にも手伝わせてください。私もこんなことをした犯人を決して許せません。この手で殺してやりたい!」
「わかりました。共に犯人を見つけ出しましょう」
「はい」
二人は握手を交わす。それは必ず犯人を捕まえるという決意だった。
コンコンコン。
「お嬢様。二人を連れてきました」
ちょうどいいタイミングでマンクスフドが来た。
心の中で’ナイスタイミング'と褒める。
「入りなさい。アスターさん。さっきお話しした二人です」
アスターがきょとんとした顔をしていたので、コソッと教える。
「失礼します」
マンクスフドが二人を連れて部屋の中に入ってくる。
数人の騎士も部屋の中に入り二人を監視する。
アスターの顔を見るにようやく自分達のしでかしたことの重大さをわかったようだ。
ジョンの顔は真っ青で小声で「違う。違う。こんなことになるなんて思わなかった。ただ、親に弟達にいい暮らしをさしたかっただけなのに」と。
シーラは涙で顔がぐちゃぐちゃになっている。
ただ「ごめんなさい。ごめんなさい」と呟いている。
「マーガレット様。この二人が本当に……」
「はい。そうです」
マーガレットはマンクスフドに目で指示する。
それを合図にジョンとシーラを床に座らせる。
「二人共、アスターさんに自分の口でどうしてこの町がこうなったのか説明しなさい」
マンクスフドが二人を連れてくる前に一度アスターに説明はしていたが、自分達の口で自分達がどれほど愚かなことをしたのか言わせてわからせるつもりでそう命令する。
「「…………」」
二人は黙ったまま何も言おうとしない。
「ーーマクス、二人の舌と手を斬り落としなさい」
マーガレットが深いため息を吐き、マンクスフドにそう指示する。
言うつもりがないなら罰を与えるまで。
「はっ」
マンクスフドが剣を抜き斬りかかろうとすると二人は逃げようとするが、他の騎士達におさえつけられ逃げられない。
アスターは急な展開についていけずポカンと口を開けてその光景を眺める。
「お、お嬢様!やめてください!お願いします!」
「なら、話しなさい。それが嫌なら黙って斬られなさい」
二つに一つ。
好きな方を選ばせる。
「時間が勿体から三秒で決めなさい。三、二、い……」
「お話しします!」
一の「ち」を言う直前でジョンが叫ぶ。
「全ては半年前にある者と出会い旦那様がこの町に送る手紙を全て渡して欲しいと提案され、大金に目が眩んだ私はその話を受けてしまったのです。…………」
その日を境に自分が何をしてきたのか事細かく話す。
ジョンは何故そんなことを自分に頼むのか不審に思ったが、大金を見せられどうでもよくなったのだ。
手紙は責任を持って届けてけてくれると約束してくれたので、フードの遣いに預けるのも郵便局に預けるのも大して変わらないと。
そう考え毎回渡してしまった。
その結果がこれである。
あの時ちゃんと聞くべきだったのだ。
何故手紙を欲しがるのか。
貴方は何者なのか。
何が目的で自分にこんなことを頼むのか。
いや、違う。
あの時この話を断るべきだったのだ。
そして、すぐサルビアに相談していればこの町はこんなことにならなかった。
大勢の人が死ぬこともなかった。
たかが手紙だとそう言い聞かせ、知らない人に大事な手紙を渡してしまった。
後悔ばかりが募る。
ジョンは手を床につけ頭を下げる。
「アスター様。本当に申し訳ありません。謝って済むことではないのは重々承知です。私の浅はかな考えで皆様に大変なご迷惑をお掛けしました。本当に申し訳ありません」
「アスター様。私もジョンを止めるどころか賛同し手紙を渡しました。本当に申し訳ありません」
シーラも手を床につき頭を下げ謝罪する。
アスターは二人の謝罪を聞いて怒りが湧き上がってきた。
こんな奴らのせいで、金のせいで自分達はこんな目にあったのかと。
二人は公爵家の使用人。
この町に住む人達よりも多く稼いでいる。
それなのにまだ金が欲しいのか。
金のためなら主を裏切るのか。
謝罪なんて到底受け入れられない。
こんな謝罪で許される段階はとうに過ぎている。
「私は貴方達の謝罪を受け入れるつもりはない」
アスターは目を真っ赤にして怒りが爆発するのを耐えながら、冷たい口調で言い放つ。
1
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説
世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない
猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。
まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。
ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。
財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。
なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。
※このお話は、日常系のギャグです。
※小説家になろう様にも掲載しています。
※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。
前世は婚約者に浮気された挙げ句、殺された子爵令嬢です。ところでお父様、私の顔に見覚えはございませんか?
柚木崎 史乃
ファンタジー
子爵令嬢マージョリー・フローレスは、婚約者である公爵令息ギュスターヴ・クロフォードに婚約破棄を告げられた。
理由は、彼がマージョリーよりも愛する相手を見つけたからだという。
「ならば、仕方がない」と諦めて身を引こうとした矢先。マージョリーは突然、何者かの手によって階段から突き落とされ死んでしまう。
だが、マージョリーは今際の際に見てしまった。
ニヤリとほくそ笑むギュスターヴが、自分に『真実』を告げてその場から立ち去るところを。
マージョリーは、心に誓った。「必ず、生まれ変わってこの無念を晴らしてやる」と。
そして、気づけばマージョリーはクロフォード公爵家の長女アメリアとして転生していたのだった。
「今世は復讐のためだけに生きよう」と決心していたアメリアだったが、ひょんなことから居場所を見つけてしまう。
──もう二度と、自分に幸せなんて訪れないと思っていたのに。
その一方で、アメリアは成長するにつれて自分の顔が段々と前世の自分に近づいてきていることに気づかされる。
けれど、それには思いも寄らない理由があって……?
信頼していた相手に裏切られ殺された令嬢は今世で人の温かさや愛情を知り、過去と決別するために奔走する──。
※本作品は商業化され、小説配信アプリ「Read2N」にて連載配信されております。そのため、配信されているものとは内容が異なるのでご了承下さい。
私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす
放置された公爵令嬢が幸せになるまで
こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。
婚約破棄された公爵令嬢は虐げられた国から出ていくことにしました~国から追い出されたのでよその国で竜騎士を目指します~
ヒンメル
ファンタジー
マグナス王国の公爵令嬢マチルダ・スチュアートは他国出身の母の容姿そっくりなためかこの国でうとまれ一人浮いた存在だった。
そんなマチルダが王家主催の夜会にて婚約者である王太子から婚約破棄を告げられ、国外退去を命じられる。
自分と同じ容姿を持つ者のいるであろう国に行けば、目立つこともなく、穏やかに暮らせるのではないかと思うのだった。
マチルダの母の祖国ドラガニアを目指す旅が今始まる――
※文章を書く練習をしています。誤字脱字や表現のおかしい所などがあったら優しく教えてやってください。
※第二章まで完結してます。現在、最終章について考え中です(第二章が考えていた話から離れてしまいました(^_^;))
書くスピードが亀より遅いので、お待たせしてすみませんm(__)m
※小説家になろう様にも投稿しています。
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います
登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」
「え? いいんですか?」
聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。
聖女となった者が皇太子の妻となる。
そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。
皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。
私の一番嫌いなタイプだった。
ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。
そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。
やった!
これで最悪な責務から解放された!
隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。
そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。
元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす
こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる