上 下
8 / 81

罪 1

しおりを挟む

「そう。わかったわ。後はよろしくお願いします」

医者からの報告でヴァイオレットはもう大丈夫だと知らされた。

二人きりにさせて欲しいと頼み皆を出ていかす。

昔のマーガレットなら二人の言い分を信じていた。

人を疑うことをしなかった。

今回は二人のことを疑っだからこそ、矛盾に気づきヴァイオレットを助けることができた。

「(ただ信じるだけでは駄目なのね。時には人を疑うことも必要、嘘を見抜けなければ無実の人が最悪の場合死ぬことになるのだから)」

誰よりもそのことを身をもって知っている。

マーガレットは自分が過去を変えてしまったせいでこんな目にあったヴァイオレットに申し訳なく思う。

マーガレットの記憶にあるヴァイオレットは仕事熱心でいつも忙しそうに動き回っていた。

ヴァイオレットはマーガレットに関わる仕事を一つも請け負ってはいないので話したことはないが、可愛い子だと思っていた。

いつも遠くからマーガレットのことを目を輝かせて見つめていた。

ヴァイオレットにとってマーガレットは憧れの存在。

普通なら手を抜いても大丈夫な些細な仕事でも全力で仕事に臨んでいた。

そんなヴァイオレットが自分達を裏切る筈などないと分かっていたのに、疑ってしまい申し訳無く感じていた。

「ごめんなさい。貴方がこんな目にあったのは私のせいなの。許して欲しいなんて言わないわ。もう、二度こんな目に合わないよう必ず守るわ」

眠るヴァイオレットにそう言うと部屋から出て行く。

マーガレットの言葉が聞こえたのか瞳から一筋の涙が溢れ落ちた。



「皆。彼女を見つけ出してくれてありがとう」

マーガレットにお礼を言われ騎士達は「当然のことをしただけですから」と照れながら答える。

「行きましょうか」

待っていた護衛に声をかける。

二人の処分をどうするか決めなければならない。

処刑は確実だが、あの二人には死など生緩い。

生きてその罪を償わせる。

どうやって償わせるかは考え中だが、一つだけ決まっている。

町に連れて行き謝罪をさせる。

二人はそこできっと地獄を味わうだろう。

そして、自分達がどれだけ愚かな過ちを犯したのか知ることになる。



「二人は何か話したかしら」

「いいえ。お嬢様が出て行かれてから一言を声を発していません」

メイナードは首を横に振る。

「そう」

マーガレットは二人に近づく。

「ヴァイオレットは見つかったわ。医者が言うには命に別状はないらしいわ」

マーガレットの言葉に二人はホッとしたのも束の間すぐに自分達の状況がさっきよりも最悪になったことに気づく。

「もう少ししたらここにお父様がくるわ。これからどうなるのかわかっていると思うから私からはもう何も言わないわ」

チャンスは与えた。

それを無限にしたのは二人だ。

チャンスを与えたからと言って今回の事は許される範疇を超えている。

「お、お嬢様。どうかお許しください」

「私達が間違っておりました。どうか、命だけはお助けください」

二人は必死にマーガレットに助けを求めるが、聞こえない振りをしてサルビアがここにくるのを待つ。





「この二人が私の手紙を盗んだのか」

「はい」

部屋に入って二人を見るなりそう尋ねられる。

「何故盗んだ。誰に頼まれた。何のためにこんなことをした。何が目的なのだ」

サルビアが来る前に同じことを聞いたが一切話そうとせずずっと黙っていた。

ただ許して欲しい、と懇願するだけだった。

話せば死刑は免れないからだろう。

話さなくても死刑は確実だが。

「何も話すつもりはないみたいだな。なら、その舌は要らないだろ。人の手紙を盗んでしまうなら、その手は要らないだろ」

サルビアの声と口調は酷く冷たい。

「あの二人の舌と手を斬り落とせ」

「はっ」

部屋の中にいた騎士達はサルビアの命令を実行するため二人を押さえつける。

「お辞めください。どうかお許しください」

シーラは手を斬られそうになるとそう叫ぶ。

サルビアは騎士達に手を斬るのを待てと手で静止する。

「なら、話すか。これ以上謝罪はいらん。話す気がないなら黙って罰を受け入れろ」

温厚なサルビアがここまで怒りを露わにしたのを初めてみた使用人達は驚いた。

自分の宝石を盗まれても笑って「ちゃんと返ってきたからもういい」と許していた。

反省しているのならそれでいいのだ、と。

そんなサルビアだから二人は手紙くらい盗んでも許して貰えると心の何処かで思っていた。

だから、何も話さなくても大丈夫だと。

そう思っていたのに、その思いは勘違いなのだと思い知らされた。

「旦那様。全てお話しします。だから、どうか命だけはお助けください」

ジョンが手を斬られそうなところを見て話さないと自分もそうなると。

「半年前、シーラと一緒に旦那様の手紙を郵便局に出しに行く途中ある者に声をかけられ馬車に乗るよう指示されたのです」

その日のことを思い出し、ポツポツと話し始める。

この時マーガレットただ一人だけが黒幕の正体に気づいていた。

だが、その黒幕は指示をしただけで実際に二人に会ったのは別の者だろうと予想した。



あの日、メイナードから手紙を託されたジョンは郵便局に向かう途中シーラと会う。

行き先が同じだからと別れ道のところまで一緒に歩いていた。

その時、一人の男性が自分達に話しかけ指差した馬車に乗って欲しいと。

最初は仕事中だから無理だと断ったが、袋一杯に入った金を見せられつい乗ってしまっまた。

馬車に乗るとフードを深く被った者がいた。

その者は自分の願いを叶えてくれた、これの三倍の金を毎回報酬で渡すと。

願いは簡単だった。

サルビアがリュミエール救済院宛に書いたものとそこの領主宛に書いた手紙を渡してほしい。

手紙は必ず責任を持って届けるから、と言われそれならと毎回手紙をその者が遣わせた者に渡していた。



「……手紙を盗んだわけではないのです。必ず届けると言って下さったので預けたつもりだったのです。こんなことになるなんて思って無かったんです。本当です。嘘ではおりません」

ジョンは話を終わると自分も騙されたのだ。

こんなことになるならやらなかったと。

なんとも滑稽な姿を晒す。

「貴様。それでも公爵家の使用人か!私が貴様のような人間を信じたせいで……。旦那様本当に申し訳ありません。全ては私の責任です。どんな罰も甘んじて受け入れます」

メイナードは勢いよくサルビアに土下座をする。

確かにメイナードが自分で言ったようにメイナード自身にも責任はある。

自分が大丈夫と思って任せた者達が金に目が眩んでこんなことになったのだから。

「頭を上げろ。今回の罰は全てのことが終わってから決める。今は町を救うことだけ考えろ」

「はい」

メイナードはゆっくり立ち上がり「本当に申し上げありません」とさに謝罪をした。

「一つ貴方達に聞きたいことがあるわ。フードの顔をみたの?」

「いえ、見ておりません」

二人は首を横に振る。

「そう。なら。その者がどんな声で口調だったか、体型は見た感じどんなだったか、わかる範囲でいいから答えなさい」

馬車に乗れてフードで顔を隠す人物。

一体誰なのか。

徹底している。

余程、自分の顔を知られたくないのだろう。

貴族なら自分の紋章が入った馬車は使わない。

平民なら貴族のフリまでして大金を使うのは可能性は低いが絶対ないとは言い切れない。

二人の証言を元に捜し出すのは難しいかもしれないが、情報屋に探し出して貰うには少しでも手掛かりになる情報がいる。

「体型はマントでよく見えませんでしたが、声は女性のものだと思います。それに話し方が貴族の令嬢のものでしたし、何より一つ一つの動作に品がありました。あれは、一朝一夕でできるものではありません」

ジョンの話しを信じるなら、ブローディア家を潰したい貴族がいると言うことになる。

ブローディア家はこの国一の地位と名誉、そして金を持っている。

そして、国王からも民からも信頼されている家。

ブローディア家を潰せばその座を手に入れられる。

甘い蜜に踊らされた者達がどれだけいるのか、考えただけでも頭が痛くなる。

マーガレットは二度の人生でそのことを嫌というほど体験しているからわかる。

でも、まさかこの頃からブローディア家を潰す算段を立てていたとは思いもしなかった。

「わ、私もジョンと同じです。でも、一度だけフードの髪色を見たことがあります」

シーラの発言にジョンが驚く。

当然だ。

フードは自分の正体がバレないよう徹底して目も髪も隠していた。

二人が見えていたのは口元だけ。

それなのに、シーラはフードの髪色を見たと言うのだ。

「髪の長さはフードの下で見えませんでしたが、色は銀でした。白に近い銀でした」

フードの髪色を見た日のことを思い出す。

いつもより早く合流場所に到着し待っていると馬車が近づいてきた。

近寄ろうとしたらフードが降りてきて何故か木の後ろに隠れてしまう。

そーっと覗くとその時強い風が吹きフードが落ちた。

後ろ姿だったので顔は見えなかったが、美しい銀髪ははっきりと目にした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

幼い公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
ファンタジー
公爵家の末娘として生まれた6歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。愛されたいと願い、愛想よく振る舞っていたが一向に興味を示してくれない… そんな中、夢の中の本を読むと、、、

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

公爵令嬢のRe.START

鮨海
ファンタジー
絶大な権力を持ち社交界を牛耳ってきたアドネス公爵家。その一人娘であるフェリシア公爵令嬢は第二王子であるライオルと婚約を結んでいたが、あるとき異世界からの聖女の登場により、フェリシアの生活は一変してしまう。 自分より聖女を優先する家族に婚約者、フェリシアは聖女に嫉妬し傷つきながらも懸命にどうにかこの状況を打破しようとするが、あるとき王子の婚約破棄を聞き、フェリシアは公爵家を出ることを決意した。 捕まってしまわないようにするため、途中王城の宝物庫に入ったフェリシアは運命を変える出会いをする。 契約を交わしたフェリシアによる第二の人生が幕を開ける。 ※ファンタジーがメインの作品です

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

身に覚えがないのに断罪されるつもりはありません

おこめ
恋愛
シャーロット・ノックスは卒業記念パーティーで婚約者のエリオットに婚約破棄を言い渡される。 ゲームの世界に転生した悪役令嬢が婚約破棄後の断罪を回避するお話です。 さらっとハッピーエンド。 ぬるい設定なので生温かい目でお願いします。

婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~

ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。 そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。 シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。 ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。 それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。 それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。 なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた―― ☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆ ☆全文字はだいたい14万文字になっています☆ ☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆

処理中です...