両片想い

わこ

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隣のお兄さん

優しいお兄さん

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記憶なんて無いような幼い時代から遊んでもらっていた。気づいたらいつも一緒にいて、気づいたら懐いていて、親よりも近い存在に感じる事さえあった。
家は隣同士。それでも年月は流れに流れた。

今は俺も中学生。さすがにこの年になってまで、隣の家の兄ちゃんにいつまでも懐いているなんて有り得ない。
たぶん、普通なら。



「シュウくんさあ、彼女作んないの?」
「またその話かよ」

隣の家。シュウ君の部屋。宿題を見てもらいがてら遊びに来たここで、今週に入ってから三度目くらいになる質問を投げかけた。
シュウ君はどっからどう見てもウンザリしているのが分かる。でも怒られないと知っているから気にしない。

俺は今年中学に上がり、シュウ君は二年前から大学生をしている。年齢七つ分の差は結構大きくて、シュウ君は頼りになる兄貴みたいな人だ。
生意気だとか、可愛くないとか、冗談みたいな雰囲気でニコニコと言われるのは昔からだった。俺は俺でシュウ君の事をお節介とか口煩いとか言ってきたけど、シュウ君から世話を焼かれるのはやっぱり嫌いじゃない。

今も昔も俺にとってシュウ君は大きい存在。そんな人が二十歳にもなって彼女も作らず、大学の勉強とバイトと俺の遊び相手だけをしていたら心配にもなる。

「シュウ君、休みの日いっつも家にいるよね。たまには出かければいいじゃん」
「出かけてんだろ。お前と」
「俺じゃなくて。大学とかバイト先とかに好きな人いないの?」

シュウ君はモテる。過去に彼女って言う存在だって当然いた。なのに彼女がいようとシュウ君は俺を構うから、結局は愛想を尽かされてフラれるパターン。

昔俺がここにいた時に彼女が押し掛けてきて、「あたしとこの子のどっちが大事なの?!」なんて聞かれていたことがある。
構ってもらえるのは悪い気はしないけど、子供心にちょっとした修羅場はトラウマになりそうだった。当時まだ小学生だった俺にとっては若干の恐怖事件。いたいけな子供を引き合いに出さないでほしい。

背の低いテーブルに向かい合って座りながら、俺の宿題に目を通すシュウ君をこっそり盗み見た。折角カッコいいんだから、このまま一人でいるのは勿体ない。

「……作ればいいのに、彼女」
「手のかかるガキが身近にいるからな」
「っ人のせいにすんな! いいよもうじゃあ帰るッ。宿題も自分でやる……!」

そう言って、シュウ君の手元にあるノートを引っ手繰った。するとシュウ君はすかさず俺の手首を掴んで、立ち上がろうとするのを引き止めてくる。

「ほら、待てよ拗ねんなって。ちゃんと最後まで見てやるからここにいろ。な?」
「…………」

な?って。年上っぽい雰囲気を漂わせて言ってくる。
子ども扱いされているのはムカツクけどその時の様子は優しくて、こうやってシュウ君に宥められるのは割と好きだったりもする。

大人しくシュウ君の手に従い、すごすごと座り直すとポンポンと頭を撫でられた。やっぱムカツクかも。シュウ君にとっての俺はいつまで経っても近所のコドモだ。

「……シュウ君、明日バイト?」
「あ? ああ、夕方からな」
「…………昼間なんか用事ある?」

こんな事を聞くから、子ども扱いされるんだろうな。

明日は土曜日で、俺は一日暇で、学校の友達に遊びに誘われていたのを迷った末に断った。シュウ君が遊んでくれないかなあ、なんて。シュウ君はなんだかんだで暇な訳じゃないから、最近は昔ほど一緒にいる時間も長くはなくなった。
彼女作れって言ったのは俺だし、本当にそう思う。でもそれと同時に、もっと俺と遊んでくれればいいのにとも思う。俺は多分、他の誰かと遊ぶよりもシュウ君に構ってもらっている方が好きだ。

「なんだよ。俺と遊びたい?」
「…………」

意地悪く笑いながら、すかさずそんな事を言ってくるから口に出すことはできない。ブスッとして目線をずらしていると、今度はさっきよりも強引にワシャワシャと頭を撫でられた。

「じゃあどっか行くか。行きたい場所今日のうちに決めとけよ?」

にっこりと、そう言われたから小さく頷いた。またもや髪を掻き乱してくる手は鬱陶しいから振り払う。

「明日早起きだぞ。夕方まで目一杯遊ぼうな?」

ああやっぱ、好きだ。

俺に合わせてくれているのかもしれないけど、そうやって満面の笑みを向けられるとどうしても嬉しくなる。
そのうちまたシュウ君に彼女ができて、今度こそ俺よりその人の事を選んだら、もう今みたいに言ってくれることも無くなるんだろうな。そうなったらどうしよう。なんかちょっと、ていうか実は物凄く、嫌かもしれない。

「シュウ君……」
「んー?」
「……やっぱり彼女とか作らなくていいと思うよ」

ボソッと呟いてみると、シュウ君は一瞬キョトンとした顔つきになった。だけどそれも束の間で、すぐ後にはニコニコしながら言い返される。

「作んねえよ。そう言ってんだろ。寂しいくせにガキが無理して変なこと言うな」
「……無理なんかしてないもん」
「あーはいはい」

ムカツク。

けど、やっぱ、シュウ君だ。

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