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156.ウェルカムスイーツⅢ
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温かいお湯に身を委ねた。ヒノキはなんかいいらしいって事しか知らない俺たちはおとなしくメシの話で楽しむ。
そのうちに瀬名さんはエビフライ攻略のための計画を真剣に練り始めていた。この人の中では尻尾フサフサのリスは可愛い存在などではなくて、倒すべきライバルのようだ。
エビの話から転じたのかどうなのか、先日俺が作ったエビカツとクリームコロッケのワンプレート晩飯を褒め称えられる流れになったのでここは堂々と胸を張っておく。きめ細かくサクサクな揚げ物の裏技は二条さん直伝なのだが次にまた食わせるまで黙っておこう。
俺が自分で一から作れるのは基本的なレシピ本に載っているようなごく普通の家庭料理だけだ。この人は俺のメシならなんだろうと残さず食うから、素人の手料理を本気で絶賛してくるのは瀬名さんエフェクトというものだろう。
それでも隣人のズタボロだった食生活を人並み程度に矯正できたのは、どうしたって母さんのおかげだ。基本的な家庭料理を一から叩き込んでくれた。
「この前実家帰って思いましたけどやっぱ自分ちのメシって美味いんですよね。豪華でも特徴的でもないしちょいちょい手抜きだったりするのに体が欲してるっていうか」
「あれはもう刷り込みに近いもんがある」
「瀬名さんとこはダディも料理得意なんでしょう?」
「家庭料理とは言いがたい凝った料理を得意気に振舞ってくるからただただムカつく。でも今は俺の方がオムレツは上だ」
「張り合わなくていいから」
美味しいって意味だろうな。
「マユちゃんさんのゴハンはどんな感じなんです?」
「可もなく不可もなく」
「はいはい。美味しいって意味ですね」
「今は遥希のメシが一番だと思ってる」
「あーはいはい。どうも」
「本当だ」
「俺のメシを褒めるってことはうちの母さんのメシが好きってことになりますよ」
「合ってる」
「食ったことないだろ」
余った食材を全部ぶち込んで豚肉と一緒にガツガツ炒める母さんの荒技を見せてやりたい。
小学校の早帰りがあると出てくる昼飯はそういうのが多かった。手抜き十割なゴハンだろうとも美味かった記憶しかないのだから、瀬名さんの言う通りこれはもはや刷り込みだ。
「おかあさんの得意料理は?」
「一般的なのだったらなんでも。リクエスト出すとめんどくさいとか言いつつ大体作ってくれます。材料があれば」
「お前も手持ちの食材だけでなんでも作れるもんな」
「あなたができなさすぎるんですってば。掃除も洗濯も怖いくらい完璧なのになんで料理だけダメなのか謎でしかないんですよ。生きていくうえでの一番の基本じゃん」
「調理は二の次でも生きていける。衛生環境の保全こそ第一だ」
「汚いと奴らの発生確率上がるからでしょ。ゴ、」
「言うな」
瀬名さんの手がパシャッと俺の口を覆った。全力で止められたためにその四文字はモゴッと不発に終わる。
実物は言うまでもないが、この人はそれの名前にすら耐えられない。俺の口元を水浸しにしたその手は慎重に離れていく。
「いいか。冷静に考えてみろ。掃除と洗濯ができなかったら室内はすさんでいく一方だぞ。あれこれ理由をつけて後回しにしまくった結果ゴミ屋敷的な感じの悲惨な状態になってクソ害虫どもと同居なんかしたくない。お片付けこそ現代人が持っておくべき必須スキルだ」
「料理は?」
「今の時代どんな不器用でもメシくらい大体なんとかなる。米を炊けなくても炊いてある米が売ってるからな」
「合理性だけ突き詰めすぎるのも良くないってことが良く分かりました」
しかも衛生面は防衛力重視型だから敵の襲来を受けた後だと自分一人じゃ対処できない。膝を抱えて怯えることになる。この人なんの役に立つんだ。
「そんなんじゃいくつになってもマユちゃんさんに心配されますよ。せめて野菜炒めくらいは教わっとけばよかったのに」
「野菜炒めなんか教わらなくたって俺でもできる」
「ついこの前フライパン爆発させた人が何言ってんです」
「あれはフライパンが壊れてた」
「フライパンは取っ手が取れることはあっても爆発することはありません」
浩太の部屋で鍋を爆発させた前科持ちのミキちゃんといい勝負だ。
瀬名さんのお料理スキルは最初より確実に上がってきたものの時たまとんでもない事をやらかす。フライパン爆発事件も俺がほんのちょっと目を離した三分程度の間に起った。
ボンッとキッチンから凄い音がして慌てて駆けつけてみたところ、そこには死んでしまったフライパンを前に立ち尽くしている成人男性が。何がどうしてそうなったのかは本人にも分からないらしい。とりあえず後始末には二人で苦労することになった。
「あなたの食生活知った時からビックリさせられてばっかりですよ」
「ビックリさせた甲斐がある。俺がもし料理上手な人間だったらお前にメシ作ってもらえることもなかった」
「母さんに基礎訓練されてなければ人様を夕食に誘うなんてとてもできなかったですけどね」
「初期のレベルは?」
「卵焼きが真っ黒焦げでした」
「人のこと言えねえじゃねえか」
「俺はフライパンを殺してないです」
みりんの存在意義は分からなかったが調理道具を再起不能にさせたことはない。
「瀬名さんも普通の卵焼きで基礎を学ぶべきだったんですよ。ふわとろオムレツから始めるよりはすんなり身につくような気がする」
「最初の練習に卵焼きを選んだのはおかあさんか?」
「母さんが卵かき混ぜてんの見てたら急にフライパン渡されて焼いてみろって」
「なら俺達がこうなれたのは大部分がおかあさんのおかげってことになる」
「なんで」
「愛のメモリーとも言うべきあの弁当にはいつも卵焼きが入ってた」
「愛のメモリーにするつもりは全くもってありませんでしたが母さんのおかげって部分を全否定はしにくいです」
卵と言えば完全栄養食。俺がバイトの遅番で夕食を一緒にとれない日でも、昼の弁当に卵を入れておけばお隣さんは死なないだろうと思った。卵が完全栄養食だと最初に俺に教えたのは、家庭科の教科書ではなく卵をかき混ぜていた母さんだ。
「お前がおかあさんの教えを素直に受け入れる子で良かった」
「はいはい」
「あの見事な手際の良さもおかあさんに学んだからだろう」
「はいはい、どうも」
「味とバランスと彩を全てそろえた完璧な料理スキルをおかあさんはお前に与えた」
「はいはいはい」
「その恩恵を俺は受けてる。おかあさんに感謝しなきゃならねえ」
「そのおかあさんって言い方やめてもらえますかね」
「おかあさま?」
「そういうことじゃない」
なんでこんなんときばっか真顔なんだよ。
瀬名さんがうちの母さんのことを所々それとなくおかあさんと呼ぶのを阻止しつつ、話題はすっかり家族のことだ。
小学生時代にやってみて一番怒られたイタズラ選手権ではぶっちぎりで俺の優勝だった。母親の誕生日や母の日を祝って死にかけるほど恥ずかしい思いをした選手権は瀬名さんの圧勝だ。俺は小四で肩叩き券なんぞをあげちゃうようなクソガキだったが、瀬名さんは一日エスコートいたします券を小一であげたいせいで今に至るトラウマだそうだ。
高校時代まで一緒に暮らしていたのだから家族との思い出は腐るほどある。
自分の家族はよそに比べてかなりテンションが高いらしいと初めて認識した小二の瀬名さんが微妙にショックを受けた日のこととか。小三の俺が自由研究のためにじいちゃんと一緒にオタマジャクシをバケツ一杯捕獲して帰ったら、ガーくんに半分くらい食い荒らされて庭にお墓を作った日のこととか。
家族についてのしょうもない思い出の数々。ただしそういうのを話す相手は、親しい誰かに限られる。
ついつい話したくなる相手だ。いくらでも聞きたいと思う相手だ。それが俺にとっては瀬名さんで、幸いにも瀬名さんにとっては俺だった。
最終的には両親をなんて呼ぶべきか問題について、息子同士の立場から真剣に意見を交わすに至った。
俺の場合は中学時代にクラスメイトのうちの誰かが急に親父とかお袋とか言い出し、それを聞いていた他の男子もイキってそんな言い方になっていった。
そして俺もイキったうちの一人だ。友達同士で話すときにはだいたい親父だのお袋だの言う。
しかし当の親を目の前にすると途端に勇気が小さくしぼむのは、決して俺だけではなかったはずだ。
ダチの家に数人で遊びに行ったとき、俺たちの前でお母さんに向かってママって言ってしまったがためにその後しばらく立ち直れなくなった憐れな男を一人だけ知っている。外国人みたいでカッコイイじゃん、などという俺たちのド下手くそなフォローはそいつを余計に落ち込ませた。おふくろデビューは難しい。
「ああいうのっていざとなるとどうしても言えないんですよ。おふくろッッ、て寸前まで勢いで行くつもりでいたのに母さんの顔見ちゃうと一瞬でブレーキかかるっていうか」
「分かる」
「瀬名さんはダディのこと親父って呼んでますよね?」
「そっちはな。お互いにもう定着してる。でもオフクロは面と向かっては言えない」
「マユちゃんさんなら笑って受け止めそうだけど」
「実際笑って受け止められたんだよ。中二の時に一回だけ覚悟を決めてオフクロって呼んでみたら微笑ましそうな顔して頭撫でられた」
「地獄っすね」
「死にたかった」
男にとってはまさしく死活問題。しかも中二だとかなりのダメージ。
俺もその頃に幾度となく母さんに挑もうとしては挫けたが、今になって思えばやらなくて良かった。
「俺は母さんのことオフクロなんて言ったら鼻で笑われるだけだと思います」
「頭撫でられるよりはいいだろ」
「うちの母さんの冷笑を知らないからそんなことが言えるんですよ」
「なるほど。お前のあれはお母さん譲りなのか」
「はい?」
「納得した」
何かを納得された。
夜の森は暗くて静かだけれど時折緩やかに風が流れて木の葉が揺れる音が微かに聞こえる。冬の露天風呂なんて寒いはずなのにそうと感じないのはどうしてだろう。肩から下が温かいと、ただぬくぬくとゆったり過ごせる。
左隣にチラリとだけ目をやって、それからまたすぐ前に戻した。この人の裸なんて見慣れたもんだがこの雰囲気があるとやはり変な気分だ。瀬名さんと温泉。なんなんなだこの状況。前に向けた視線をテラスの角に向け、オレンジの灯りで気を紛らわせた。
「去年ダディとマユちゃんさんが泊まったのは離れ宿だったんですよね?」
「ああ。ゆっくりしたいなんて言うから離れだけの旅館を押さえた」
「瀬名さんの実家で鉢合わせちゃった時にエビが大きかったってマユちゃんさんがしょっぱな言ってたの覚えてます」
「それなりのとこ予約したってそんな感想しか出てきやしねえ。一応はお籠り名目のプランだぞ。まともな客なら部屋に滞在して寛ぎながら休暇を楽しむ。あの両親はじっとしてられるタチじゃねえから方々出回ってたんだろうよ」
「ダディが両手いっぱいにお土産抱えてましたもんね。マユちゃんさんに一言でも何かやりたいって言われたらどこにでも連れていきそう」
「自分の妻だからって甘やかしすぎなんだ」
「あなたこそ人のこと言えませんよ」
俺に対しては行き過ぎなくらい。自分のお母さんにもなんだかんだ弱い。
「今年のプレゼントはもう決めました?」
「いくつか検討してる最中だがグランピングでも予約して送りつけてやろうと思ってる」
それみろ、相変わらずの親孝行精神。アクティブな体験がしたいというマユちゃんさんからの要望も忘れずにきちんと取り入れている。
「喜ぶでしょうね」
「文句が出ねえならそれでいい」
「ダディが張り切ってバーベキューの肉焼いてる想像ができます」
「もしも一緒においでとか言われても絶対に付いていくなよ」
「ちょっと行きたいかも。ダディの手料理気になる」
「やめろ」
本当に嫌そうだ。というか本当に付いていくような奴だと俺は思われているようだ。いくらなんでもご夫婦の休暇に割って入るような真似はしない。
温泉効果かどうか知らないがスベッとする気のする腕をお湯の中で撫でた。たっぷり満たされているお湯は、どちらかが少しでも動けば外へとパシャパシャ気前よく出ていく。
ほんのり揺らめく水面を眺めていれば、瀬名さんの腕が隣で上がった。空気に触れる肩が寒いのか、右手で掬い上げたお湯を控えめに被せるその動作。色気がスゴイ。表紙飾れる。
それとなく目を逸らした俺の肩にも、同じように湯をかけてきた。
「そんなことより、実は家族のことでお前にずっと言いたくても言えずにいたことがある」
「なんです?」
「実の親をなんて呼ぶか以上に極めて重大な問題だ」
「うちの母さんをおかあさんとは呼ばせませんよ」
「それは追い追い」
「なんだ追い追いって」
追い追い呼ぶ気だ。なんて厚かましいんだ。
「お前はなんの疑問もなくあの親父をダディって呼ぶだろ」
「うん」
「あれ幼児語だ」
「はい?」
「父親に対するあの呼び方は基本的に小さい子供が使う」
「……ん?」
「アメリカで大人がそれ言ったら冷ややかに笑われるだろうよ」
「……え?」
「この国でもいい年した男が公共の場で父親をパパって呼んでたらキツいもんがあるだろ」
「…………」
分かりやすい比較対象によってキツいイメージが一瞬で湧いた。
「……マジか」
「残念ながら。良くて極度のファザコンだと思われる。そうじゃなくても最悪の場合は愛人の類だと誤解を受ける」
「愛人……?」
「その手の彼氏をそう呼ぶ場合もカップルによってはなくもない」
「…………」
「いずれにせよハタチ前の男にダディなんて呼ばせて喜んでる親父を見て俺は結構本気でヒいてた」
瀬名さんの顔を見る限り冗談ではなさそうだ。
なんで今このタイミングでこんな話をされたのか。親の呼び方について意見を交わしていたからだ。ダディという呼称は果たしてどういった立ち位置にあるか。日本でいうところのパパだ。
人んちのお父さんを、俺はずっとパパと呼んでいた。
「……うわ。恥ずかしい」
「横で聞いてていつも居たたまれなかった」
「俺めちゃめちゃキツい人じゃん……」
「キツいのはお前じゃなくてあのイカレた親父だ」
「ていうか知ってたなら教えてくださいよ」
「だからやめろと散々言っただろうが」
「やめてほしい真意を知らなかった」
「息子からしてみりゃなるべく言いたくない。気色悪いにも程がある」
それはまあ。
「……えぇ……じゃあ、成人した男はお父さんをなんて呼ぶんもんなんです? 普通にファザー?」
「対面でカジュアルに呼ぶならdad」
「……瀬名さんのお父さんは英語……」
「話せる」
だよな。若い頃は商社勤めであちこち飛び回っていたとマユちゃんさんから話には聞いている。その人にダディと呼んでと明るく言われた。
「なんでダディなんて……」
「安心しろ。安心しろと言うのもあれだがどうせ深い意味はない。純粋で素直で可愛いとかたぶん思われてるだけだ。夫婦そろってな」
「…………」
マユちゃんさんも英語が堪能なのは間違いない。現役の翻訳家さんであることを瀬名さんから話には聞いている。その人の前でその人の旦那さんを平気でダディと呼んでいた。
「……今度からダッドって呼んだ方がいいかな」
「おとうさんでいい」
「いえ、それはちょっと……」
「ついでにマユちゃんさんからも卒業しておかあさんにしろ」
「いえ、だからそれはちょっと」
「俺もお前のお母さんを心おきなくおかあさんと呼ぶ」
「それはダメです」
図々しい。
厚かましい彼氏の価値観と突如知らされた衝撃の事実で気が抜けた。今にものぼせそうだ。いや、物理的な問題かもしれない。
湯に浸かってどれくらいたったか。その辺にも細かそうな瀬名さんがまだ浸かっているのだから問題ないのだろうけれど、適度に温泉を楽しむためにはそろそろ出るにはちょうどいい頃。
しかし瀬名さんは柵側でスッと、ヒノキの角に腕を乗せた。その視線は誘われるように空高くへと上向いていく。極楽そうな様子を目にして、俺も隣でゆったりとヒノキにもたれた。
もうちょっとくらいいいか。あと五分だけ。ほんの少し位置を変えたら上空をさらに見上げやすくなっている。それはもちろん瀬名さんも同じはず。
「遥希……って、いい名前だよな」
ひとり言みたいに、何かを言われた。それを耳にし、顔をしかめる一歩手前で、ひとまずは口を開いている。
「……なんですか急に?」
「お前が美味そうだとぬかしやがった月を見上げたらふと思った」
「いきなり風流なこと言わないでくださいよ、あんたも大概似合わねえんだから」
「なんだってこうも俺の悪口だけはスラスラ出てくるんだお前は」
不満を垂れる態で言ってくるけど瀬名さんは楽しそう。
肩から上の空気に触れている肌は、内側は温かいけど外側はやや冷たい。ぽしゃっと静かに伸びてきたその手は俺の左頬を微かに濡らし、つつっと指先で伝い下りながらまたポチャンと湯に入っていった。
「ハルキって響きがいい」
「……はじめて言われた」
「漢字も可愛い」
「嬉しくないよ」
「気に入ってねえのか?」
「名前は気に入ってます。可愛いとか言われなけりゃ」
「かわいいなお前は」
今度は俺が瀬名さんの顔めがけてお湯から右手を繰り出す番。
バシャッといささか勢いづけて顔面に引っかけてやる。笑って受け流されたどころか、前髪から水を滴らせながら余裕の艶めかしさで返された。くっそ。
可愛いかどうかはともかくとして、この名前は二十年も付き合ってきた相棒だ。漢字の画数が少し多いためテストでは二秒くらい損していそうだが。
小学校で自分の名前を漢字で書くようになった最初の頃には苦戦させられた思い出もある。遥の字だけやたらと大きくなったり、希のバランスが上手く取れなかったり。
漢字を使う国の小学生ならみんな多かれ少なかれ似たような経験談があるだろう。そうやって苦労させられた相棒だとしても、愛着は自然と湧いてくる。
「俺の名前決めるまでに何度も家族会議重ねたって聞いてます。目的地がどんなに遠く離れていても自由にのびのび歩いていける子って意味を込めて付けたらしいです」
「家族の愛を感じる」
「本当はハルカになる予定だったそうですけどね」
「ハルカ?」
瀬名さんが素で首を傾げた。これは親族くらいしか知らない話だ。
「俺は生まれてくるまでずっと女の子だと思われてたんです」
「ほう……?」
「名前も遥希のハルの一字でハルカちゃんって。だけどいざ俺が出てきたら男だったもんだから家族は固まったそうですよ。今じゃ笑い話にされてますけど事あるごとに聞かされてきました」
「男でハルカでもアリだったんじゃねえのか?」
「女の子だと思って決めてた名前をそのまま俺につけんのもなんかちょっとあれだってことでハルカじゃなくてハルキにしたそうです」
「たしかに謎の手抜き感は出るかもな」
「手抜きっぽさを抜くための苦肉の策です。遥希のキは取って付けたような希望の希なんですよ」
「いいじゃねえか。目的地がどんなに遠く離れていても自由にのびのび希望を持って歩いていける子って意味になる」
ポジティブな解釈を返された。この男といると放っておいても自己肯定感が勝手に上がる。ハンドマッサージの腕前は無駄にメキメキ向上しているが瀬名さんはセラピストにも向いていそうだ。
開業も夢じゃないこの人は俺の出生に興味を持ったようだ。そんな大した話でもないのになぜなのか深堀りしてくる。
「検診から生まれるまでずっと病院でみてもらってたのか?」
「ええ、もちろん」
「少なくとも性別の断言はされなかったんだろ?」
「いいえ、百パー女の子って言われたらしいです」
女の子だね間違いないって話だったのよー。だからもうてっきり私たちみんなアンタは女の子だと思ってて。
いつだっけかに母さんがバリバリせんべいかじりながらそう言っていた。たしか中学生くらいだったか。多感な時期にそんな話を聞かされたこっちは屈辱的な気分だった。
それを今そっくり伝えてみたら、瀬名さんの視線は透明なお湯の中に向けてススススッともぐっていく。
「……よっぽど小さかったんだな」
「どこ見てしみじみ言ってんですか」
「何も気にすることはねえよ。俺がちゃんと知ってる。証言もできる。お前は立派な男に育った」
「だからどこ見て言ってんだ」
恋人相手に分かりやすいセクハラかまして何が楽しい。透明なお湯とテラスの明るさが完全に災いした。
瀬名さんの肩をぐいっと横に押して遠ざけようとしたところで無駄だ。この人の体はビクともしない。ヒノキの角部分も瀬名さんに味方している。なので早々に諦めた。
せめてもの足掻きで伸ばした足をサッと組んでみればさらに凝視される。どこの変態だ。もう見飽きてんだろ。
「……瀬名さんは?」
「ご存じの通り立派に育ったが」
「そっちじゃねえよ。つーか自分で言うなよ」
自信満々なのが腹立つ。その自信通りかそれ以上の育ちっぷりだからなおのことムカつく。
隣の変態みたくお湯の中をついつい凝視してしまわないよう視線を斜め上の方に向けた。ちゃぽっと小さく動いて座り直す。
「恭吾って名前はどういう意味なんですか?」
「あ? あぁ……さあ。なんだろうな」
「あなた自分のこととなると本当に興味ないですもんね」
「そんなことはない」
「名前の由来すら知らねえじゃん」
「それを知っても俺には得がない。あの両親ならその場のノリで適当につけた可能性もある」
「そんなバカな」
「じゃあ、あれだ。我をうやまえ?」
「絶対違う」
むしろたぶん真逆だろ。あのご両親が自分の息子に傲慢な意味の名前なんて付けるはずがない。他者を敬うとか尊重するとかそっち側の意味なんじゃないのか。
立派すぎる名前を付けられるのもそれはそれで荷が重い。無粋な誰かから名前負けなんて言われでもすればちょっとは落ち込む。
瀬名恭吾についてはどうだろうか。瀬名さんはどういう人か。
口は悪いがひたすら優しい。態度はデカいくせにやってることは親切。家の中に限った事でなくそれは外でも同様であり、どんな店の店員さん相手にも丁寧で常識的に接する。行きつけの猫カフェではネコ達からも大人気。無礼そうに見せかけておきながら実際のところはすごく礼儀正しい。ゴハン中のテーブルの上に、スマホを出して置くことはあり得ない。
大変だ。またしても衝撃の事実だ。とんでもない事に気づいてしまった。この人は名前通りのとても素敵な大人じゃないか。
現に今も俺は至れり尽くせりな誕生日旅行の真っ最中。ちょっとでも寒いなどと感じる前に、隣からはマメに肩へと湯をチョロチョロかけられている。
給湯口から流れ出てくるお湯の音に紛れて意識していなかった。さっきからずっと世話を焼かれていた。通りでぬくぬくするわけだ。
瀬名さんと俺との距離は十四年分。俺も社会に出るまではもう僅か。ほんの二年でこんなふうになれるだろうか。そうとは到底思えない。
追いつけない。大きすぎる。まだまだ遠い。届かない。開いている距離もそう。頑張って走って置いていかれないようにしながら、後ろから見つめるしかないその背中だって。
「…………」
ぼんやり、と言うほどでもないのだが。
温泉の入りすぎはよくない。たぶんそろそろ出た方がいい。のぼせそう。すでにちょっとおかしい。瀬名さんと温泉。そうか。こういう気分か。
月を見上げる。そこに月がある。空の色って、こんなだったか。
「…………月が……」
「クロワッサンの話はもういい」
「違いますよ」
ボキッと腰を折られた。人が情緒的な気分のときに限ってなんなんだこの男は。これ以上ブッた切られると挫けてしまいそうになるから、強制的に黙らせることにする。
お湯の中でふわりと手を重ねた。感覚は伝わっているはず。けれどお湯の浮力のせいで重さはそう感じないだろう。
一瞬黙らせ、その間に仕切り直して月を見上げた。それからまた隣に目を向けた。
温かさと冷たさが入り混じる。境界が曖昧な空気の中で、交じわる。そっと静かに、目だけを合わせた。
「綺麗ですね」
目に映ったのはキョトンとした顔。意表を突かれたようなその表情。
瀬名さんが何かを言いかけたと気づいたのは、形のいい唇がほんの少しだけ開きかけたから。しかしそれはすぐにふっと、笑った形になっている。
俺の手の下にあった瀬名さんの手が動いた。温かなお湯の中で、丁寧に腰を抱かれる。
「知ってる」
ちゅっと、水っぽく温かい感触。頬にキスされ、すぐに離れていき、間近で見つめれば口にもされる。
知っているそうだ。そうか。知ってたか。
してほしいことも言ってほしいことも、取りこぼされる事はない。しっとりと口づけられて、お湯の底では手を握られた。
その時サッと、風が通った。向こうで微かに木の葉が揺れ動く。カサッと、何かが飛び立ったように感じる俊敏な物音も。
フクロウだろうか。そうかもしれない。餌にするネズミを発見したのかも。
近い距離で顔を見合わせた。フクロウらしき影に邪魔をされた。どうにもたまらず、同時くらいに、くすくすと笑い声が漏れ出た。
「俺らって旅館の人にどう見えてるんですかね」
「宿泊客二名様だ。それ以上どうとも思われちゃいねえよ」
「男二人でこんなとこ普通泊まる?」
「世の中の普通を気にしてたらキリがねえ」
やる事なすこと丁寧で優しいが態度のデカい男の物言いがこれだ。
「パパ活中って思われてるかも」
「なんの心配してんだ」
「俺高校生に見えます?」
「なんでそんなこと聞くんだ」
「万が一十八歳未満の援交と間違われて通報でもされたりしたらあなたが困ったことになります」
「だからなんの心配をしてんだよ」
「もしも警察に引っ張られたら俺がお世話になってる弁護士さん紹介してあげますね。ちゃんとすぐに出てこられますよ」
「なんとしても俺をそっち方面のおっさんに仕立て上げたいようだな」
「黙秘権使ってください。弁護士さん来るまで何も喋っちゃダメです」
「いらねえアドバイスしてくんじゃねえ」
瀬名さんとはよくアメリカのリーガルドラマを見る。良作が勢揃いだ。
「そんなに心配ならお兄ちゃんって呼んでもいいぞ」
「えー、やだ。絶対呼ばない」
「呼んでみろよ」
「嫌です」
「お兄ちゃんなんて呼んでもらえること俺の人生でそうそうない」
「あんた妹さんいるだろ」
「あいつは俺を名前で呼び捨てだ」
「そっか、これだもんな。兄貴としての威厳もクソもねえか」
「真顔でグサッとくること言うな」
瀬名兄妹の力関係ははっきりしているようだ。そうだろうと思っていた。
お兄ちゃんなんて普段呼んでもらえないせいで変に食い下がってくる。
「なあ頼む。一回だけ」
「呼ばれたいだけじゃないですか」
「一回でいい。試しに言ってみろ」
「ヤですって」
「俺の分のウェルカムスイーツと交換だ」
「ズリィよ、くれるって言ってたのに」
「風呂上がりの饅頭にピッタリな美味いお茶も淹れてやる」
「………………お兄ちゃん」
「グッときた」
「通報されちまえ」
綺麗な月の下にいても俺たちには風情のかけらもなかった。どんな場所でどんな話をしていてもなぜなのか最後にはこうなっている。
もしも月にうさぎが住んでいるなら、つきたての餅を地上めがけて思いきり投げつけてきたことだろう。夜空に浮かぶ明るいクロワッサンは、いつにも増して美味そうだ。
そのうちに瀬名さんはエビフライ攻略のための計画を真剣に練り始めていた。この人の中では尻尾フサフサのリスは可愛い存在などではなくて、倒すべきライバルのようだ。
エビの話から転じたのかどうなのか、先日俺が作ったエビカツとクリームコロッケのワンプレート晩飯を褒め称えられる流れになったのでここは堂々と胸を張っておく。きめ細かくサクサクな揚げ物の裏技は二条さん直伝なのだが次にまた食わせるまで黙っておこう。
俺が自分で一から作れるのは基本的なレシピ本に載っているようなごく普通の家庭料理だけだ。この人は俺のメシならなんだろうと残さず食うから、素人の手料理を本気で絶賛してくるのは瀬名さんエフェクトというものだろう。
それでも隣人のズタボロだった食生活を人並み程度に矯正できたのは、どうしたって母さんのおかげだ。基本的な家庭料理を一から叩き込んでくれた。
「この前実家帰って思いましたけどやっぱ自分ちのメシって美味いんですよね。豪華でも特徴的でもないしちょいちょい手抜きだったりするのに体が欲してるっていうか」
「あれはもう刷り込みに近いもんがある」
「瀬名さんとこはダディも料理得意なんでしょう?」
「家庭料理とは言いがたい凝った料理を得意気に振舞ってくるからただただムカつく。でも今は俺の方がオムレツは上だ」
「張り合わなくていいから」
美味しいって意味だろうな。
「マユちゃんさんのゴハンはどんな感じなんです?」
「可もなく不可もなく」
「はいはい。美味しいって意味ですね」
「今は遥希のメシが一番だと思ってる」
「あーはいはい。どうも」
「本当だ」
「俺のメシを褒めるってことはうちの母さんのメシが好きってことになりますよ」
「合ってる」
「食ったことないだろ」
余った食材を全部ぶち込んで豚肉と一緒にガツガツ炒める母さんの荒技を見せてやりたい。
小学校の早帰りがあると出てくる昼飯はそういうのが多かった。手抜き十割なゴハンだろうとも美味かった記憶しかないのだから、瀬名さんの言う通りこれはもはや刷り込みだ。
「おかあさんの得意料理は?」
「一般的なのだったらなんでも。リクエスト出すとめんどくさいとか言いつつ大体作ってくれます。材料があれば」
「お前も手持ちの食材だけでなんでも作れるもんな」
「あなたができなさすぎるんですってば。掃除も洗濯も怖いくらい完璧なのになんで料理だけダメなのか謎でしかないんですよ。生きていくうえでの一番の基本じゃん」
「調理は二の次でも生きていける。衛生環境の保全こそ第一だ」
「汚いと奴らの発生確率上がるからでしょ。ゴ、」
「言うな」
瀬名さんの手がパシャッと俺の口を覆った。全力で止められたためにその四文字はモゴッと不発に終わる。
実物は言うまでもないが、この人はそれの名前にすら耐えられない。俺の口元を水浸しにしたその手は慎重に離れていく。
「いいか。冷静に考えてみろ。掃除と洗濯ができなかったら室内はすさんでいく一方だぞ。あれこれ理由をつけて後回しにしまくった結果ゴミ屋敷的な感じの悲惨な状態になってクソ害虫どもと同居なんかしたくない。お片付けこそ現代人が持っておくべき必須スキルだ」
「料理は?」
「今の時代どんな不器用でもメシくらい大体なんとかなる。米を炊けなくても炊いてある米が売ってるからな」
「合理性だけ突き詰めすぎるのも良くないってことが良く分かりました」
しかも衛生面は防衛力重視型だから敵の襲来を受けた後だと自分一人じゃ対処できない。膝を抱えて怯えることになる。この人なんの役に立つんだ。
「そんなんじゃいくつになってもマユちゃんさんに心配されますよ。せめて野菜炒めくらいは教わっとけばよかったのに」
「野菜炒めなんか教わらなくたって俺でもできる」
「ついこの前フライパン爆発させた人が何言ってんです」
「あれはフライパンが壊れてた」
「フライパンは取っ手が取れることはあっても爆発することはありません」
浩太の部屋で鍋を爆発させた前科持ちのミキちゃんといい勝負だ。
瀬名さんのお料理スキルは最初より確実に上がってきたものの時たまとんでもない事をやらかす。フライパン爆発事件も俺がほんのちょっと目を離した三分程度の間に起った。
ボンッとキッチンから凄い音がして慌てて駆けつけてみたところ、そこには死んでしまったフライパンを前に立ち尽くしている成人男性が。何がどうしてそうなったのかは本人にも分からないらしい。とりあえず後始末には二人で苦労することになった。
「あなたの食生活知った時からビックリさせられてばっかりですよ」
「ビックリさせた甲斐がある。俺がもし料理上手な人間だったらお前にメシ作ってもらえることもなかった」
「母さんに基礎訓練されてなければ人様を夕食に誘うなんてとてもできなかったですけどね」
「初期のレベルは?」
「卵焼きが真っ黒焦げでした」
「人のこと言えねえじゃねえか」
「俺はフライパンを殺してないです」
みりんの存在意義は分からなかったが調理道具を再起不能にさせたことはない。
「瀬名さんも普通の卵焼きで基礎を学ぶべきだったんですよ。ふわとろオムレツから始めるよりはすんなり身につくような気がする」
「最初の練習に卵焼きを選んだのはおかあさんか?」
「母さんが卵かき混ぜてんの見てたら急にフライパン渡されて焼いてみろって」
「なら俺達がこうなれたのは大部分がおかあさんのおかげってことになる」
「なんで」
「愛のメモリーとも言うべきあの弁当にはいつも卵焼きが入ってた」
「愛のメモリーにするつもりは全くもってありませんでしたが母さんのおかげって部分を全否定はしにくいです」
卵と言えば完全栄養食。俺がバイトの遅番で夕食を一緒にとれない日でも、昼の弁当に卵を入れておけばお隣さんは死なないだろうと思った。卵が完全栄養食だと最初に俺に教えたのは、家庭科の教科書ではなく卵をかき混ぜていた母さんだ。
「お前がおかあさんの教えを素直に受け入れる子で良かった」
「はいはい」
「あの見事な手際の良さもおかあさんに学んだからだろう」
「はいはい、どうも」
「味とバランスと彩を全てそろえた完璧な料理スキルをおかあさんはお前に与えた」
「はいはいはい」
「その恩恵を俺は受けてる。おかあさんに感謝しなきゃならねえ」
「そのおかあさんって言い方やめてもらえますかね」
「おかあさま?」
「そういうことじゃない」
なんでこんなんときばっか真顔なんだよ。
瀬名さんがうちの母さんのことを所々それとなくおかあさんと呼ぶのを阻止しつつ、話題はすっかり家族のことだ。
小学生時代にやってみて一番怒られたイタズラ選手権ではぶっちぎりで俺の優勝だった。母親の誕生日や母の日を祝って死にかけるほど恥ずかしい思いをした選手権は瀬名さんの圧勝だ。俺は小四で肩叩き券なんぞをあげちゃうようなクソガキだったが、瀬名さんは一日エスコートいたします券を小一であげたいせいで今に至るトラウマだそうだ。
高校時代まで一緒に暮らしていたのだから家族との思い出は腐るほどある。
自分の家族はよそに比べてかなりテンションが高いらしいと初めて認識した小二の瀬名さんが微妙にショックを受けた日のこととか。小三の俺が自由研究のためにじいちゃんと一緒にオタマジャクシをバケツ一杯捕獲して帰ったら、ガーくんに半分くらい食い荒らされて庭にお墓を作った日のこととか。
家族についてのしょうもない思い出の数々。ただしそういうのを話す相手は、親しい誰かに限られる。
ついつい話したくなる相手だ。いくらでも聞きたいと思う相手だ。それが俺にとっては瀬名さんで、幸いにも瀬名さんにとっては俺だった。
最終的には両親をなんて呼ぶべきか問題について、息子同士の立場から真剣に意見を交わすに至った。
俺の場合は中学時代にクラスメイトのうちの誰かが急に親父とかお袋とか言い出し、それを聞いていた他の男子もイキってそんな言い方になっていった。
そして俺もイキったうちの一人だ。友達同士で話すときにはだいたい親父だのお袋だの言う。
しかし当の親を目の前にすると途端に勇気が小さくしぼむのは、決して俺だけではなかったはずだ。
ダチの家に数人で遊びに行ったとき、俺たちの前でお母さんに向かってママって言ってしまったがためにその後しばらく立ち直れなくなった憐れな男を一人だけ知っている。外国人みたいでカッコイイじゃん、などという俺たちのド下手くそなフォローはそいつを余計に落ち込ませた。おふくろデビューは難しい。
「ああいうのっていざとなるとどうしても言えないんですよ。おふくろッッ、て寸前まで勢いで行くつもりでいたのに母さんの顔見ちゃうと一瞬でブレーキかかるっていうか」
「分かる」
「瀬名さんはダディのこと親父って呼んでますよね?」
「そっちはな。お互いにもう定着してる。でもオフクロは面と向かっては言えない」
「マユちゃんさんなら笑って受け止めそうだけど」
「実際笑って受け止められたんだよ。中二の時に一回だけ覚悟を決めてオフクロって呼んでみたら微笑ましそうな顔して頭撫でられた」
「地獄っすね」
「死にたかった」
男にとってはまさしく死活問題。しかも中二だとかなりのダメージ。
俺もその頃に幾度となく母さんに挑もうとしては挫けたが、今になって思えばやらなくて良かった。
「俺は母さんのことオフクロなんて言ったら鼻で笑われるだけだと思います」
「頭撫でられるよりはいいだろ」
「うちの母さんの冷笑を知らないからそんなことが言えるんですよ」
「なるほど。お前のあれはお母さん譲りなのか」
「はい?」
「納得した」
何かを納得された。
夜の森は暗くて静かだけれど時折緩やかに風が流れて木の葉が揺れる音が微かに聞こえる。冬の露天風呂なんて寒いはずなのにそうと感じないのはどうしてだろう。肩から下が温かいと、ただぬくぬくとゆったり過ごせる。
左隣にチラリとだけ目をやって、それからまたすぐ前に戻した。この人の裸なんて見慣れたもんだがこの雰囲気があるとやはり変な気分だ。瀬名さんと温泉。なんなんなだこの状況。前に向けた視線をテラスの角に向け、オレンジの灯りで気を紛らわせた。
「去年ダディとマユちゃんさんが泊まったのは離れ宿だったんですよね?」
「ああ。ゆっくりしたいなんて言うから離れだけの旅館を押さえた」
「瀬名さんの実家で鉢合わせちゃった時にエビが大きかったってマユちゃんさんがしょっぱな言ってたの覚えてます」
「それなりのとこ予約したってそんな感想しか出てきやしねえ。一応はお籠り名目のプランだぞ。まともな客なら部屋に滞在して寛ぎながら休暇を楽しむ。あの両親はじっとしてられるタチじゃねえから方々出回ってたんだろうよ」
「ダディが両手いっぱいにお土産抱えてましたもんね。マユちゃんさんに一言でも何かやりたいって言われたらどこにでも連れていきそう」
「自分の妻だからって甘やかしすぎなんだ」
「あなたこそ人のこと言えませんよ」
俺に対しては行き過ぎなくらい。自分のお母さんにもなんだかんだ弱い。
「今年のプレゼントはもう決めました?」
「いくつか検討してる最中だがグランピングでも予約して送りつけてやろうと思ってる」
それみろ、相変わらずの親孝行精神。アクティブな体験がしたいというマユちゃんさんからの要望も忘れずにきちんと取り入れている。
「喜ぶでしょうね」
「文句が出ねえならそれでいい」
「ダディが張り切ってバーベキューの肉焼いてる想像ができます」
「もしも一緒においでとか言われても絶対に付いていくなよ」
「ちょっと行きたいかも。ダディの手料理気になる」
「やめろ」
本当に嫌そうだ。というか本当に付いていくような奴だと俺は思われているようだ。いくらなんでもご夫婦の休暇に割って入るような真似はしない。
温泉効果かどうか知らないがスベッとする気のする腕をお湯の中で撫でた。たっぷり満たされているお湯は、どちらかが少しでも動けば外へとパシャパシャ気前よく出ていく。
ほんのり揺らめく水面を眺めていれば、瀬名さんの腕が隣で上がった。空気に触れる肩が寒いのか、右手で掬い上げたお湯を控えめに被せるその動作。色気がスゴイ。表紙飾れる。
それとなく目を逸らした俺の肩にも、同じように湯をかけてきた。
「そんなことより、実は家族のことでお前にずっと言いたくても言えずにいたことがある」
「なんです?」
「実の親をなんて呼ぶか以上に極めて重大な問題だ」
「うちの母さんをおかあさんとは呼ばせませんよ」
「それは追い追い」
「なんだ追い追いって」
追い追い呼ぶ気だ。なんて厚かましいんだ。
「お前はなんの疑問もなくあの親父をダディって呼ぶだろ」
「うん」
「あれ幼児語だ」
「はい?」
「父親に対するあの呼び方は基本的に小さい子供が使う」
「……ん?」
「アメリカで大人がそれ言ったら冷ややかに笑われるだろうよ」
「……え?」
「この国でもいい年した男が公共の場で父親をパパって呼んでたらキツいもんがあるだろ」
「…………」
分かりやすい比較対象によってキツいイメージが一瞬で湧いた。
「……マジか」
「残念ながら。良くて極度のファザコンだと思われる。そうじゃなくても最悪の場合は愛人の類だと誤解を受ける」
「愛人……?」
「その手の彼氏をそう呼ぶ場合もカップルによってはなくもない」
「…………」
「いずれにせよハタチ前の男にダディなんて呼ばせて喜んでる親父を見て俺は結構本気でヒいてた」
瀬名さんの顔を見る限り冗談ではなさそうだ。
なんで今このタイミングでこんな話をされたのか。親の呼び方について意見を交わしていたからだ。ダディという呼称は果たしてどういった立ち位置にあるか。日本でいうところのパパだ。
人んちのお父さんを、俺はずっとパパと呼んでいた。
「……うわ。恥ずかしい」
「横で聞いてていつも居たたまれなかった」
「俺めちゃめちゃキツい人じゃん……」
「キツいのはお前じゃなくてあのイカレた親父だ」
「ていうか知ってたなら教えてくださいよ」
「だからやめろと散々言っただろうが」
「やめてほしい真意を知らなかった」
「息子からしてみりゃなるべく言いたくない。気色悪いにも程がある」
それはまあ。
「……えぇ……じゃあ、成人した男はお父さんをなんて呼ぶんもんなんです? 普通にファザー?」
「対面でカジュアルに呼ぶならdad」
「……瀬名さんのお父さんは英語……」
「話せる」
だよな。若い頃は商社勤めであちこち飛び回っていたとマユちゃんさんから話には聞いている。その人にダディと呼んでと明るく言われた。
「なんでダディなんて……」
「安心しろ。安心しろと言うのもあれだがどうせ深い意味はない。純粋で素直で可愛いとかたぶん思われてるだけだ。夫婦そろってな」
「…………」
マユちゃんさんも英語が堪能なのは間違いない。現役の翻訳家さんであることを瀬名さんから話には聞いている。その人の前でその人の旦那さんを平気でダディと呼んでいた。
「……今度からダッドって呼んだ方がいいかな」
「おとうさんでいい」
「いえ、それはちょっと……」
「ついでにマユちゃんさんからも卒業しておかあさんにしろ」
「いえ、だからそれはちょっと」
「俺もお前のお母さんを心おきなくおかあさんと呼ぶ」
「それはダメです」
図々しい。
厚かましい彼氏の価値観と突如知らされた衝撃の事実で気が抜けた。今にものぼせそうだ。いや、物理的な問題かもしれない。
湯に浸かってどれくらいたったか。その辺にも細かそうな瀬名さんがまだ浸かっているのだから問題ないのだろうけれど、適度に温泉を楽しむためにはそろそろ出るにはちょうどいい頃。
しかし瀬名さんは柵側でスッと、ヒノキの角に腕を乗せた。その視線は誘われるように空高くへと上向いていく。極楽そうな様子を目にして、俺も隣でゆったりとヒノキにもたれた。
もうちょっとくらいいいか。あと五分だけ。ほんの少し位置を変えたら上空をさらに見上げやすくなっている。それはもちろん瀬名さんも同じはず。
「遥希……って、いい名前だよな」
ひとり言みたいに、何かを言われた。それを耳にし、顔をしかめる一歩手前で、ひとまずは口を開いている。
「……なんですか急に?」
「お前が美味そうだとぬかしやがった月を見上げたらふと思った」
「いきなり風流なこと言わないでくださいよ、あんたも大概似合わねえんだから」
「なんだってこうも俺の悪口だけはスラスラ出てくるんだお前は」
不満を垂れる態で言ってくるけど瀬名さんは楽しそう。
肩から上の空気に触れている肌は、内側は温かいけど外側はやや冷たい。ぽしゃっと静かに伸びてきたその手は俺の左頬を微かに濡らし、つつっと指先で伝い下りながらまたポチャンと湯に入っていった。
「ハルキって響きがいい」
「……はじめて言われた」
「漢字も可愛い」
「嬉しくないよ」
「気に入ってねえのか?」
「名前は気に入ってます。可愛いとか言われなけりゃ」
「かわいいなお前は」
今度は俺が瀬名さんの顔めがけてお湯から右手を繰り出す番。
バシャッといささか勢いづけて顔面に引っかけてやる。笑って受け流されたどころか、前髪から水を滴らせながら余裕の艶めかしさで返された。くっそ。
可愛いかどうかはともかくとして、この名前は二十年も付き合ってきた相棒だ。漢字の画数が少し多いためテストでは二秒くらい損していそうだが。
小学校で自分の名前を漢字で書くようになった最初の頃には苦戦させられた思い出もある。遥の字だけやたらと大きくなったり、希のバランスが上手く取れなかったり。
漢字を使う国の小学生ならみんな多かれ少なかれ似たような経験談があるだろう。そうやって苦労させられた相棒だとしても、愛着は自然と湧いてくる。
「俺の名前決めるまでに何度も家族会議重ねたって聞いてます。目的地がどんなに遠く離れていても自由にのびのび歩いていける子って意味を込めて付けたらしいです」
「家族の愛を感じる」
「本当はハルカになる予定だったそうですけどね」
「ハルカ?」
瀬名さんが素で首を傾げた。これは親族くらいしか知らない話だ。
「俺は生まれてくるまでずっと女の子だと思われてたんです」
「ほう……?」
「名前も遥希のハルの一字でハルカちゃんって。だけどいざ俺が出てきたら男だったもんだから家族は固まったそうですよ。今じゃ笑い話にされてますけど事あるごとに聞かされてきました」
「男でハルカでもアリだったんじゃねえのか?」
「女の子だと思って決めてた名前をそのまま俺につけんのもなんかちょっとあれだってことでハルカじゃなくてハルキにしたそうです」
「たしかに謎の手抜き感は出るかもな」
「手抜きっぽさを抜くための苦肉の策です。遥希のキは取って付けたような希望の希なんですよ」
「いいじゃねえか。目的地がどんなに遠く離れていても自由にのびのび希望を持って歩いていける子って意味になる」
ポジティブな解釈を返された。この男といると放っておいても自己肯定感が勝手に上がる。ハンドマッサージの腕前は無駄にメキメキ向上しているが瀬名さんはセラピストにも向いていそうだ。
開業も夢じゃないこの人は俺の出生に興味を持ったようだ。そんな大した話でもないのになぜなのか深堀りしてくる。
「検診から生まれるまでずっと病院でみてもらってたのか?」
「ええ、もちろん」
「少なくとも性別の断言はされなかったんだろ?」
「いいえ、百パー女の子って言われたらしいです」
女の子だね間違いないって話だったのよー。だからもうてっきり私たちみんなアンタは女の子だと思ってて。
いつだっけかに母さんがバリバリせんべいかじりながらそう言っていた。たしか中学生くらいだったか。多感な時期にそんな話を聞かされたこっちは屈辱的な気分だった。
それを今そっくり伝えてみたら、瀬名さんの視線は透明なお湯の中に向けてススススッともぐっていく。
「……よっぽど小さかったんだな」
「どこ見てしみじみ言ってんですか」
「何も気にすることはねえよ。俺がちゃんと知ってる。証言もできる。お前は立派な男に育った」
「だからどこ見て言ってんだ」
恋人相手に分かりやすいセクハラかまして何が楽しい。透明なお湯とテラスの明るさが完全に災いした。
瀬名さんの肩をぐいっと横に押して遠ざけようとしたところで無駄だ。この人の体はビクともしない。ヒノキの角部分も瀬名さんに味方している。なので早々に諦めた。
せめてもの足掻きで伸ばした足をサッと組んでみればさらに凝視される。どこの変態だ。もう見飽きてんだろ。
「……瀬名さんは?」
「ご存じの通り立派に育ったが」
「そっちじゃねえよ。つーか自分で言うなよ」
自信満々なのが腹立つ。その自信通りかそれ以上の育ちっぷりだからなおのことムカつく。
隣の変態みたくお湯の中をついつい凝視してしまわないよう視線を斜め上の方に向けた。ちゃぽっと小さく動いて座り直す。
「恭吾って名前はどういう意味なんですか?」
「あ? あぁ……さあ。なんだろうな」
「あなた自分のこととなると本当に興味ないですもんね」
「そんなことはない」
「名前の由来すら知らねえじゃん」
「それを知っても俺には得がない。あの両親ならその場のノリで適当につけた可能性もある」
「そんなバカな」
「じゃあ、あれだ。我をうやまえ?」
「絶対違う」
むしろたぶん真逆だろ。あのご両親が自分の息子に傲慢な意味の名前なんて付けるはずがない。他者を敬うとか尊重するとかそっち側の意味なんじゃないのか。
立派すぎる名前を付けられるのもそれはそれで荷が重い。無粋な誰かから名前負けなんて言われでもすればちょっとは落ち込む。
瀬名恭吾についてはどうだろうか。瀬名さんはどういう人か。
口は悪いがひたすら優しい。態度はデカいくせにやってることは親切。家の中に限った事でなくそれは外でも同様であり、どんな店の店員さん相手にも丁寧で常識的に接する。行きつけの猫カフェではネコ達からも大人気。無礼そうに見せかけておきながら実際のところはすごく礼儀正しい。ゴハン中のテーブルの上に、スマホを出して置くことはあり得ない。
大変だ。またしても衝撃の事実だ。とんでもない事に気づいてしまった。この人は名前通りのとても素敵な大人じゃないか。
現に今も俺は至れり尽くせりな誕生日旅行の真っ最中。ちょっとでも寒いなどと感じる前に、隣からはマメに肩へと湯をチョロチョロかけられている。
給湯口から流れ出てくるお湯の音に紛れて意識していなかった。さっきからずっと世話を焼かれていた。通りでぬくぬくするわけだ。
瀬名さんと俺との距離は十四年分。俺も社会に出るまではもう僅か。ほんの二年でこんなふうになれるだろうか。そうとは到底思えない。
追いつけない。大きすぎる。まだまだ遠い。届かない。開いている距離もそう。頑張って走って置いていかれないようにしながら、後ろから見つめるしかないその背中だって。
「…………」
ぼんやり、と言うほどでもないのだが。
温泉の入りすぎはよくない。たぶんそろそろ出た方がいい。のぼせそう。すでにちょっとおかしい。瀬名さんと温泉。そうか。こういう気分か。
月を見上げる。そこに月がある。空の色って、こんなだったか。
「…………月が……」
「クロワッサンの話はもういい」
「違いますよ」
ボキッと腰を折られた。人が情緒的な気分のときに限ってなんなんだこの男は。これ以上ブッた切られると挫けてしまいそうになるから、強制的に黙らせることにする。
お湯の中でふわりと手を重ねた。感覚は伝わっているはず。けれどお湯の浮力のせいで重さはそう感じないだろう。
一瞬黙らせ、その間に仕切り直して月を見上げた。それからまた隣に目を向けた。
温かさと冷たさが入り混じる。境界が曖昧な空気の中で、交じわる。そっと静かに、目だけを合わせた。
「綺麗ですね」
目に映ったのはキョトンとした顔。意表を突かれたようなその表情。
瀬名さんが何かを言いかけたと気づいたのは、形のいい唇がほんの少しだけ開きかけたから。しかしそれはすぐにふっと、笑った形になっている。
俺の手の下にあった瀬名さんの手が動いた。温かなお湯の中で、丁寧に腰を抱かれる。
「知ってる」
ちゅっと、水っぽく温かい感触。頬にキスされ、すぐに離れていき、間近で見つめれば口にもされる。
知っているそうだ。そうか。知ってたか。
してほしいことも言ってほしいことも、取りこぼされる事はない。しっとりと口づけられて、お湯の底では手を握られた。
その時サッと、風が通った。向こうで微かに木の葉が揺れ動く。カサッと、何かが飛び立ったように感じる俊敏な物音も。
フクロウだろうか。そうかもしれない。餌にするネズミを発見したのかも。
近い距離で顔を見合わせた。フクロウらしき影に邪魔をされた。どうにもたまらず、同時くらいに、くすくすと笑い声が漏れ出た。
「俺らって旅館の人にどう見えてるんですかね」
「宿泊客二名様だ。それ以上どうとも思われちゃいねえよ」
「男二人でこんなとこ普通泊まる?」
「世の中の普通を気にしてたらキリがねえ」
やる事なすこと丁寧で優しいが態度のデカい男の物言いがこれだ。
「パパ活中って思われてるかも」
「なんの心配してんだ」
「俺高校生に見えます?」
「なんでそんなこと聞くんだ」
「万が一十八歳未満の援交と間違われて通報でもされたりしたらあなたが困ったことになります」
「だからなんの心配をしてんだよ」
「もしも警察に引っ張られたら俺がお世話になってる弁護士さん紹介してあげますね。ちゃんとすぐに出てこられますよ」
「なんとしても俺をそっち方面のおっさんに仕立て上げたいようだな」
「黙秘権使ってください。弁護士さん来るまで何も喋っちゃダメです」
「いらねえアドバイスしてくんじゃねえ」
瀬名さんとはよくアメリカのリーガルドラマを見る。良作が勢揃いだ。
「そんなに心配ならお兄ちゃんって呼んでもいいぞ」
「えー、やだ。絶対呼ばない」
「呼んでみろよ」
「嫌です」
「お兄ちゃんなんて呼んでもらえること俺の人生でそうそうない」
「あんた妹さんいるだろ」
「あいつは俺を名前で呼び捨てだ」
「そっか、これだもんな。兄貴としての威厳もクソもねえか」
「真顔でグサッとくること言うな」
瀬名兄妹の力関係ははっきりしているようだ。そうだろうと思っていた。
お兄ちゃんなんて普段呼んでもらえないせいで変に食い下がってくる。
「なあ頼む。一回だけ」
「呼ばれたいだけじゃないですか」
「一回でいい。試しに言ってみろ」
「ヤですって」
「俺の分のウェルカムスイーツと交換だ」
「ズリィよ、くれるって言ってたのに」
「風呂上がりの饅頭にピッタリな美味いお茶も淹れてやる」
「………………お兄ちゃん」
「グッときた」
「通報されちまえ」
綺麗な月の下にいても俺たちには風情のかけらもなかった。どんな場所でどんな話をしていてもなぜなのか最後にはこうなっている。
もしも月にうさぎが住んでいるなら、つきたての餅を地上めがけて思いきり投げつけてきたことだろう。夜空に浮かぶ明るいクロワッサンは、いつにも増して美味そうだ。
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