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90.瀬名家Ⅳ
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二泊というのはあっという間だった。可愛くて優しいモフモフたちと遊んでいるとすぐに時間が経つ。
十六時前くらいに出よう。夕べ瀬名さんとそう話していた。十六時が来るのは本当にはやくて、賄賂として持ってきたおやつを置き土産にして腰を上げた。それがさっき。
「……ダメだな。遥希、ちょっとここで待ってろ。お前が玄関出たら多分こいつらまで外出ちまう」
「キキ……ココ……二人とも元気でいるんだぞ。また会いに来るからな」
「よせ。お前がしんみりするとこいつら完璧に読み取って離れねえ」
玄関まで来たのはいいがそこから外に出られずにいる。足元にはキキとココ。俺たちを見上げながらずっとついてくる。廊下でストンとしゃがみこんで二匹の頭をもふもふ撫でた。
二匹分のニャアニャアが絶え間なく聞こえてくる。二匹とも頭と体をやたらと擦り付けてくる。
離れがたい。二匹まとめてギュウってしたい。叶うならば本当に連れて帰りたい。
しかしそういう訳にもいかないから、おどかさないように俺の横から瀬名さんがそっと腕を伸ばした。
やんわりと抱き上げられたココの体。キキも片手でポンポンされるが、瀬名さんの呼び声もシカトして俺にニャアニャア言うばかり。
「……こんな懐くか。お前ら俺の見送りのときはもっと淡泊だろ」
瀬名さんもとうとう溜め息だ。ひとまずはココだけリビングに連れて行った。
残された俺はキキと見つめ合う。綺麗なハチワレと前足の靴下模様がとても可愛い黒白の猫。にゃあ、っとまた声を上げたから、両腕でもふっと抱っこしてその場でゆっくり立ち上がった。
肩にヒシッと前足が乗っかる。首元には小さな頭がやわらかくくっついた。
「ありがとな。必ずまた会いに来るよ」
キキの黒い背中をポンポンしながら、俺たちも部屋の方に行った。すると中からガチャリとドアが開き瀬名さんが一人で出てくる。ガラスの嵌まったドアの向こうからはココがこっちをちょこんと見ていた。
「悪いな」
「いえいえ」
「ほら、お前もだキキ。別れは十分惜しんだだろ」
キキのやわらかい体を丁重に受け渡す。瀬名さんが両腕を出して抱き止めようとしたその瞬間、それまでおとなしくしていたキキは急にバッと飛び出した。
「あっ、キキ……」
ザザっとダッシュで逃げていったのは玄関の方。すぐさま瀬名さんが連れ戻しに行くも、トトトッと素早く三和土に下りて扉の前を陣取った。
「キキがこんなに反抗するとは……」
困ったように近くから見下ろす瀬名さんをキキはじっと見上げていた。ドアの前にビシッとお座りをして、何事かを訴えかけるようにニャッと強めの短い鳴き声。
そんなキキの前で腰を屈め、瀬名さんは静かに呼びかけた。
「遥希を帰さねえつもりか?」
もう一回ニャッと鳴き声が上がる。黒い尻尾がぶんっと揺れた。
「駄々こねたって仕方ねえだろ。遥希には帰る場所がある」
ニャッ。
「二泊もして遊んでくれたんだぞ。困らせてねえでちゃんとお別れしろ」
ニャッ。
「いつからそんなお行儀の悪い猫になった」
ニャッ。
「お前がそこを動かなくても俺は遥希を連れて帰るからな」
ギロッと睨みながらニャ゛っと鳴いた。すげえな。ちゃんと会話できてる。
飼い猫に威嚇された飼い主はどことなく寂しそうに項垂れた。
「……キキが猛抗議してくる」
「すっげえ尻尾バンバンやってますよ」
「親の仇みてえな目で見てくんなよ……」
そこを一歩でも動きやがったら命はねえぞって感じの目つきだ。
キキは玄関前から微動だにせず、ココはココでリビングのドアの向こうからニャアニャア言っているのが聞こえてくる。たまにカリカリ音もするから出たくて引っ掻いているのだろう。瀬名さんは完全に困り顔だった。
「……一度でも俺が帰る時にそんな熱心だったことがあったか」
そっちか。ちょっと悔しいんだろうな。俺も実家を出てくる時にガーくんが普段通りゴハンに夢中で若干悲しかった覚えがある。
瀬名さんはその後しばらくキキの説得を試みていた。映画に出てくる連邦捜査局の交渉人みたいにじっくり話し込み、けれどもキキはドアの前を動かずバシバシしっぽを床に叩きつけ。
機嫌が悪そう。ハンパない近寄んなオーラだ。クールな猫目が今はギラギラと威嚇を込めて瀬名さんを睨んでいる。
静かなそのせめぎ合いに割り込んでいいものかどうか分からず廊下に立ち尽くす俺はなんだか無様。帰ろうとしただけでこんなことになるとは全く思っていなかった。
瀬名さんをドアから遠ざけるようにキキは低い声でまたしてもニャッと。しかしその時、黒い耳がピクリと何かを捉えたように動いた。
不動明王のごとくドアの前に構えていたのが嘘みたいに、スクッと足を立て、トトトッと素早くホールに上がってきた黒白の猫。そんなキキを見下ろす瀬名さんを俺も後ろから見ていたが、その次にはガチャッと、開錠の音を聞く。俺達が通過できずにいたドアが外からガチャリと開かれた。
「……あら? 久しぶりじゃないの恭吾」
「…………」
トッと、心臓が脈打ち、止まった。聴覚はしっかりしているはずなのに空気からは音が消えた気がする。顔を合わせるなり呼びかけられた瀬名さんも詰まったように無言。
入ってきたのは一人の女性だ。肩にかかるくらいの黒髪の、化粧っ気はないがかなりの美人。気取った様子のないふんわりした雰囲気で、その人は瀬名さんを、恭吾と呼んだ。
「もういないかと思った」
「……早かったな」
「ええ。お夕飯食べてくるつもりでいたんだけどね、途中で入ったお店に見たことない猫缶があったの。私達ばっかり楽しんできたからキキちゃんとココちゃんにもあげなくちゃと思って」
「そうか……」
その人の視線は下へと向く。ホールに上がったすぐのところにお座りしているキキの顔をやんわり撫でて話しかけた。
「ただいまキキちゃん。どうしたの、そんなところで?」
状況から察するに。いや、推察するまでもなく。
一瞬で冷えた。血管が全部凍った。お母さんだ。この人絶対に瀬名さんのお母さんだ。どうしよう。まずい。硬直して声が出ない。
その人がそっと腕を伸ばすとキキはおとなしく抱き上げられた。さっきまで瀬名さんに反抗していたのが嘘のようにちょこんと収まっている。
瀬名さんの視線はチラリと俺を振り返った。俺も目だけでそれを見返す。無言のままフルフルと首を左右に振って見せたこの人。瀬名さんにとっても現在の状況は予想外の出来事のようだ。
瀬名さんのお母さんはキキの首横を丁寧にモフモフしていた。キキもキキで懐っこく目を細めて繊細な女性の指に甘えている。飼い猫を完全にリラックスさせながら、その人はふふっとやわらかく笑った。
「今年もありがとうねぇ温泉。今回のところもすごく良かった。お部屋も綺麗だしお料理も美味しいしエビがすごかったのよエビが。こーんなに大きくて。こーんなによ。タコなんてまだ動いてたもんだから口の中にね、張り付くの。吸盤が。うふふっ。あ、お饅頭食べる? 水ようかんもあるけど」
「いや、いい」
「そう? ところで、どなた?」
ふわっとした雰囲気のまま喋るだけ喋りきると突如その目が俺に向いた。首をかしげられ、ピシッと固まる。脈は飛んだ。ただでさえ全身カチコチだったのにいよいよ喉もピッタリくっつく。
そりゃ気づかないってことはないだろう。瀬名さんのすぐ後方にいた。思いっきり視界に入っていたはず。にこやかなまま俺を見るその人に、慌ててペコっと頭を下げた。
「あっ、の……はじめまして。お留守中にお邪魔してしまって、その……申し訳ありません」
「いいえ大丈夫、そんなこと気にしないで。うちはいつでも大歓迎だから。恭吾のお友達?」
「あ……」
どうしよう。これはとても、かなり、非常に、まずい。どうしよう。なんだこの状況。ヤバい。ここまで色々間違っている。全部間違った。最初から変だった。
どうしよう。どうしようしか思えない。勝手に上がり込んで寝泊まりした事実がそもそも後ろめたい要素なのにまさか、まさかだ、マジかよ、どうしよう。目の前に恋人のお母さんがいる。鉢合わせた。やばい。どうしよう。
血の気なんてもうほとんどなかった。情けないと思う余裕もないほどパニックに陥っていると、俺とその人の間にいる瀬名さんが助け舟のように口を開いた。
「同じマンションに住んでる。隣の部屋に去年越してきた」
「あら、そうなの」
「俺の食生活が酷いのを気にしてくれてな。普段から何かと世話になってる」
「ほらもう、だから言ったじゃない。またお野菜送る?」
「いらない」
「トマトとキュウリかじるくらいならいつでもできるでしょ?」
「いらない」
瀬名さんは昔ご実家からトマトとキュウリを送られていたのか。
いやいや違うだろ状況見てみろそんなこと考えてる場合じゃない。瀬名さんのお母さんの目はまたすぐにふっと、優しげに俺へと向けられた。
「恭吾の母です。息子がいつもお世話になってます。えっと……」
その言葉は途中で止まった。ハッとさせられる。またしてもピッと脈は飛んだが辛うじて一歩だけ踏み出した。
「っすみません……赤川遥希です」
「ハルキくんね。会えて嬉しい。よろしくね」
「……よろしく、お願いします」
見ず知らずのガキが上がり込んでいたのに気にする様子もなくニコニコしている。そこには嫌味なんてものもない。あたたかなその言葉にも嘘はないのだろうと自然に思えた。
飾らない様子の、おっとりとした、とても優しそうな人。このお母さんに紹介したいと瀬名さんは言ってくれたんだ。驚いたし身構えもしたし逃げ腰になったのも事実だけれど、隙間から覗いた純粋な嬉しさは俺の中にちゃんと残った。
突発的なパニックのあとには急激な冷静さがやって来る。緊張があり、心拍も異様に速いが、思考と感情はあり得ないくらいにはっきりとそこにあった。
今度はうちに来てください。瀬名さんに昨日そう言ったばかり。決意したその順番が少々入れ替わっただけで、いま俺の目の前には好きな人のお母さんがいる。
ちらりと、瀬名さんの方を見た。すぐに気づいてこの人も顔を向けてくれる。この人がそうしたいと思うことは、俺にとってもしたいことだ。
「……いいですか」
目を合わせながらそうとだけ問いかける。それだけでも瀬名さんには通じた。
昨日の田んぼで見たのと同じ、少し意外そうでびっくりした顔。それをここでもまた目にすることとなり、けれどもすぐ後にはゆっくり静かにうなずいて返された。
瀬名さんのお母さんは俺を、自分の息子の年の離れた友達だと思っただろう。その人に向き直り、逃げ出す前に口を開いた。
引っかかったように何も出てこない。絞り出す。ほとんど、無理やりに。
「……突然……こんな形で、本当に……申し訳ないのですが……」
本当にこんな形だ。いいか悪いかで言ったら最悪だ。少しでも気を抜けば声が震えそう。
ここまで怖いことってあるか。瀬名さんは大丈夫って言うけど、これで全部が終わるかもしれない。頭ではそう思っていても、知ってもらいたい。だって、瀬名さんの家族だ。
「瀬名さん……恭吾さん、とは…………お付き合いさせていただいてます」
玄関でするにはあまりにも相応しくない発言のせいでシンとなる。目の前で見せられるのはキョトンとした顔。
仕方がない。場違いで常識もなくて、どういう意味だって当然に思う。俺はだって。だって、こんなだ。
瀬名さんのお母さんは徐々に目を大きくさせた。俺の顔をじっと見ている。ごめんなさいとかすみませんとか喉まで出かかって、しかし出てこなくて、そして直後。バッと激しく開かれた玄関。
ドアに手を付き顔だけ外に出したのは瀬名さんのお母さんだった。この人はその体勢のまま、叫んだ。外に向けて思いっきり。
「ッゆうちゃーん! ゆうちゃーん、ちょっとー! はやくっ! 走って! 走るのッ! 恭吾の恋人が来てる!!」
なにっ。という誰かの声が、扉の向こうから微かに聞こえた。男の人の声だった。ものの数秒で駆け込んでくる。
パチッと目が合った。その男性と。俺はまた全身が固まった。
手ぶらで入ってきた瀬名さんのお母さんとは正反対に大荷物を両手で抱え、重そうな手元を裏切る素早さでスマートに俺の目の前に来た。
両手を塞いでいた荷物はパッと床に下ろされた。俺の手はその人にバッと取られた。なぜ。思う間もなくそのままブンブン上下に激しく振られた両手。盛大な握手を交わしながら、温和そうなこの男性は穏やかな笑顔を俺に向けた。
「恭吾の父です。はじめまして。会えて嬉しいよ、ようこそわが家へ」
「あ……ど、どうも。はじめまして……。赤川遥希と申します……」
「ハルキくんか。実に素晴らしい。この年でもう一人息子ができるなんて」
「え……」
瀬名さんと面影が重なる。お父さんであるのはやっぱりすぐに分かった。
いまだ両手をギュッと握られたまま困惑状態で瀬名さんを見る。瀬名さんは小刻みに首をフルフル。ご両親に俺の存在を一切話していないことはこの様子を見れば明らか。
なのにお父さんはこの反応だ。お母さんもずっとニコニコしている。
「恭吾が恋人をうちに連れて来たのは初めてなの。ねえ、ハグしていい? ハグしちゃダメ? え、だめ? 一回だけ。そうそう、一回。しちゃうね。うふふっ」
ほんわかと笑いながら力強くバッと抱きしめられた。雰囲気も喋り方もおっとりしているのになぜか口を挟む隙がない。
瀬名さんのお母さんはさっき、なんの躊躇いもなく恋人と言った。呼ばれて飛んできた瀬名さんのお父さんもそのつもりで入ってきたはず。だがそこにいたのは俺だ。思いっきり男だ。どう見ても野郎だ。生まれてこのかた女の子に間違えられたためしはない。だけど二人ともこの反応だ。
「来てくれてありがとう。本当に嬉しい」
「……ありがとうございます」
「ならば僕ともぜひ」
「え……」
お母さんに解放されるや否やお父さんにもバッとやられた。同性の恋人のご両親から初対面で熱くハグされた。
「素晴らしい日だよ」
「…………どうも、ありがとうございます」
そうとしか言えない。パンパンと背中を軽くたたかれた。そしてまたギュッとされた。
視線だけ瀬名さんに向けると心なしか呆れたような顔つき。自分の両親の行動を見ながら、混乱で口もきけない俺には落ち着けとでも言いたげな視線を無言のままそっと寄越してきた。
これが冷静でいられるか。こんなフランクな文化を俺は知らない。ご両親のこの反応にほとんど呆然としていると、廊下の奥からココがカリカリドアを引っかくのがわずかに聞こえた。
にゃぁぁぁあっ、という妙に長い鳴き方でご両親もそれに気づいたらしい。瀬名さんのお母さんはドアの方を見て首をかしげた。
「ココちゃんはなんで閉じ込められてるの?」
「人聞き悪いこと言うな。遥希を帰らせたくなくて足下まとわりついてくるんだよ。キキなんかさっきまで玄関の前で座り込みしてた」
「あら珍しい」
お母さんの腕の中でキキはプイッと知らんふりした。
「ネコちゃんたちと遊んでくれてありがとうね」
「いえ、そんな……こちらこそ」
「ねえもうちょっとゆっくりしていったらどう? 水ようかん買ってきたの。それともお饅頭の方が好き?」
「あ……えっと……」
「こしあん派? 粒あん派? どっちもあるからどっちも食べて。水ようかんはすぐに冷やすから二時間くらい待っててちょうだいね」
「え……」
「とにかく中入りましょ。お話聞かせて。恭吾とはいつから付き合ってるの? 告白はどっちから?」
「あの……」
助けて。チラっと瀬名さんに顔を向けると俺の視線にすぐ応えた。
「あんまグイグイ詰めるなよ、困ってんだろ。それにもう帰らねえと」
「ちょっとくらいいいじゃない。まだ五分も話してないんだから」
「今度にしてくれ。俺たちは帰る。明日は朝から遥希の試験だ」
目の前では瀬名さんのお父さんが大量の荷物を持ち直していた。重そうなそれらを軽々手にしながら話にも興味を持ったらしい。顔立ちが非常によく似た自分の息子に問いかけた。
「なんの試験だい?」
「運転免許」
「ああ、なるほどいいね。昔を思い出すよ。僕もマユちゃんを助手席に乗せてドライブすることだけを夢見て頑張った記憶がある。忘れもしないさ、二十五歳の時だ。あの日はとてもよく晴れていて…」
「その話はいい。百五十回は聞いた」
マユちゃんと呼ばれた瀬名さんのお母さんはふふっと嬉しそうな顔をしてその隣に寄り添った。百五十回は聞かされているのもこのご夫婦ならばなんとなくうなずける。
「とにかく今日は早めに帰って休ませる。一昨日に教習明けてそのまま連れてきちまった」
「じゃあちょっとだけ待ってて、お土産詰めてくるから。トマトとキュウリもいる?」
「いらない」
「ナスは?」
「いい」
「今年ピーマンの出来がすごく良くって大きいの沢山なってるんだけど」
「知ってる。見た。いらない」
「なら、そうだ。お米持ってきなさい」
「なんもいらねえから大丈夫だ」
実家のお母さんってどこでもこういう感じだ。
何もいらないという息子を無視して、瀬名さんのお母さんは旦那さんを引き連れ部屋の中に入っていった。ドアが開いたその途端にココはピョコッと丸い顔を覗かせたけれど、キキを抱っこしたお母さんを見上げるとそっちにトトッとついていった。
ココちゃんもただいまー、という声に続き、ドアの向こうからは楽しそうに話すご夫婦のお喋りがお届けされてくる。ほとんど丸聞こえだ。ドアも開け放たれているし。姿こそ見えないものの声をひそめる様子はまるでない。
「早めに帰ってきてよかった」
「僕もそう思うよ。恭吾はネコと仕事にしか興味ないのかと思ってたから」
「本人が満足ならそれでいいけどやっぱりちょっと親としてはね」
「同意見だ。親としてはちょっとね」
「連れてくるなら連れてくるでちゃんと言ってくれればいいのに。せっかく会えたのに全然お喋りできてない」
「連絡先聞いたら?」
「ええ、そうする」
「次はいつ来るのかな。キャッチボールと釣りだったらハルキくんはどっちが好きだろうか」
「どっちもやったら?」
「そうしよう」
「恭吾はそういうの付き合い悪かったからね」
「そうなんだよ。いくら誘っても全然乗ってこなかった。あいつの反抗期を覚えてる?」
「そりゃもう覚えてるに決まってるでしょ、おもしろかったもの!」
瀬名さんの顔をちらっと盗み見た。分かりやすくイラッとしている。
最終的には溜め息までつき、そこでパチリと交わった視線。この人はうんざりした顔で一言。
「な?」
「…………」
これが瀬名家か。
十六時前くらいに出よう。夕べ瀬名さんとそう話していた。十六時が来るのは本当にはやくて、賄賂として持ってきたおやつを置き土産にして腰を上げた。それがさっき。
「……ダメだな。遥希、ちょっとここで待ってろ。お前が玄関出たら多分こいつらまで外出ちまう」
「キキ……ココ……二人とも元気でいるんだぞ。また会いに来るからな」
「よせ。お前がしんみりするとこいつら完璧に読み取って離れねえ」
玄関まで来たのはいいがそこから外に出られずにいる。足元にはキキとココ。俺たちを見上げながらずっとついてくる。廊下でストンとしゃがみこんで二匹の頭をもふもふ撫でた。
二匹分のニャアニャアが絶え間なく聞こえてくる。二匹とも頭と体をやたらと擦り付けてくる。
離れがたい。二匹まとめてギュウってしたい。叶うならば本当に連れて帰りたい。
しかしそういう訳にもいかないから、おどかさないように俺の横から瀬名さんがそっと腕を伸ばした。
やんわりと抱き上げられたココの体。キキも片手でポンポンされるが、瀬名さんの呼び声もシカトして俺にニャアニャア言うばかり。
「……こんな懐くか。お前ら俺の見送りのときはもっと淡泊だろ」
瀬名さんもとうとう溜め息だ。ひとまずはココだけリビングに連れて行った。
残された俺はキキと見つめ合う。綺麗なハチワレと前足の靴下模様がとても可愛い黒白の猫。にゃあ、っとまた声を上げたから、両腕でもふっと抱っこしてその場でゆっくり立ち上がった。
肩にヒシッと前足が乗っかる。首元には小さな頭がやわらかくくっついた。
「ありがとな。必ずまた会いに来るよ」
キキの黒い背中をポンポンしながら、俺たちも部屋の方に行った。すると中からガチャリとドアが開き瀬名さんが一人で出てくる。ガラスの嵌まったドアの向こうからはココがこっちをちょこんと見ていた。
「悪いな」
「いえいえ」
「ほら、お前もだキキ。別れは十分惜しんだだろ」
キキのやわらかい体を丁重に受け渡す。瀬名さんが両腕を出して抱き止めようとしたその瞬間、それまでおとなしくしていたキキは急にバッと飛び出した。
「あっ、キキ……」
ザザっとダッシュで逃げていったのは玄関の方。すぐさま瀬名さんが連れ戻しに行くも、トトトッと素早く三和土に下りて扉の前を陣取った。
「キキがこんなに反抗するとは……」
困ったように近くから見下ろす瀬名さんをキキはじっと見上げていた。ドアの前にビシッとお座りをして、何事かを訴えかけるようにニャッと強めの短い鳴き声。
そんなキキの前で腰を屈め、瀬名さんは静かに呼びかけた。
「遥希を帰さねえつもりか?」
もう一回ニャッと鳴き声が上がる。黒い尻尾がぶんっと揺れた。
「駄々こねたって仕方ねえだろ。遥希には帰る場所がある」
ニャッ。
「二泊もして遊んでくれたんだぞ。困らせてねえでちゃんとお別れしろ」
ニャッ。
「いつからそんなお行儀の悪い猫になった」
ニャッ。
「お前がそこを動かなくても俺は遥希を連れて帰るからな」
ギロッと睨みながらニャ゛っと鳴いた。すげえな。ちゃんと会話できてる。
飼い猫に威嚇された飼い主はどことなく寂しそうに項垂れた。
「……キキが猛抗議してくる」
「すっげえ尻尾バンバンやってますよ」
「親の仇みてえな目で見てくんなよ……」
そこを一歩でも動きやがったら命はねえぞって感じの目つきだ。
キキは玄関前から微動だにせず、ココはココでリビングのドアの向こうからニャアニャア言っているのが聞こえてくる。たまにカリカリ音もするから出たくて引っ掻いているのだろう。瀬名さんは完全に困り顔だった。
「……一度でも俺が帰る時にそんな熱心だったことがあったか」
そっちか。ちょっと悔しいんだろうな。俺も実家を出てくる時にガーくんが普段通りゴハンに夢中で若干悲しかった覚えがある。
瀬名さんはその後しばらくキキの説得を試みていた。映画に出てくる連邦捜査局の交渉人みたいにじっくり話し込み、けれどもキキはドアの前を動かずバシバシしっぽを床に叩きつけ。
機嫌が悪そう。ハンパない近寄んなオーラだ。クールな猫目が今はギラギラと威嚇を込めて瀬名さんを睨んでいる。
静かなそのせめぎ合いに割り込んでいいものかどうか分からず廊下に立ち尽くす俺はなんだか無様。帰ろうとしただけでこんなことになるとは全く思っていなかった。
瀬名さんをドアから遠ざけるようにキキは低い声でまたしてもニャッと。しかしその時、黒い耳がピクリと何かを捉えたように動いた。
不動明王のごとくドアの前に構えていたのが嘘みたいに、スクッと足を立て、トトトッと素早くホールに上がってきた黒白の猫。そんなキキを見下ろす瀬名さんを俺も後ろから見ていたが、その次にはガチャッと、開錠の音を聞く。俺達が通過できずにいたドアが外からガチャリと開かれた。
「……あら? 久しぶりじゃないの恭吾」
「…………」
トッと、心臓が脈打ち、止まった。聴覚はしっかりしているはずなのに空気からは音が消えた気がする。顔を合わせるなり呼びかけられた瀬名さんも詰まったように無言。
入ってきたのは一人の女性だ。肩にかかるくらいの黒髪の、化粧っ気はないがかなりの美人。気取った様子のないふんわりした雰囲気で、その人は瀬名さんを、恭吾と呼んだ。
「もういないかと思った」
「……早かったな」
「ええ。お夕飯食べてくるつもりでいたんだけどね、途中で入ったお店に見たことない猫缶があったの。私達ばっかり楽しんできたからキキちゃんとココちゃんにもあげなくちゃと思って」
「そうか……」
その人の視線は下へと向く。ホールに上がったすぐのところにお座りしているキキの顔をやんわり撫でて話しかけた。
「ただいまキキちゃん。どうしたの、そんなところで?」
状況から察するに。いや、推察するまでもなく。
一瞬で冷えた。血管が全部凍った。お母さんだ。この人絶対に瀬名さんのお母さんだ。どうしよう。まずい。硬直して声が出ない。
その人がそっと腕を伸ばすとキキはおとなしく抱き上げられた。さっきまで瀬名さんに反抗していたのが嘘のようにちょこんと収まっている。
瀬名さんの視線はチラリと俺を振り返った。俺も目だけでそれを見返す。無言のままフルフルと首を左右に振って見せたこの人。瀬名さんにとっても現在の状況は予想外の出来事のようだ。
瀬名さんのお母さんはキキの首横を丁寧にモフモフしていた。キキもキキで懐っこく目を細めて繊細な女性の指に甘えている。飼い猫を完全にリラックスさせながら、その人はふふっとやわらかく笑った。
「今年もありがとうねぇ温泉。今回のところもすごく良かった。お部屋も綺麗だしお料理も美味しいしエビがすごかったのよエビが。こーんなに大きくて。こーんなによ。タコなんてまだ動いてたもんだから口の中にね、張り付くの。吸盤が。うふふっ。あ、お饅頭食べる? 水ようかんもあるけど」
「いや、いい」
「そう? ところで、どなた?」
ふわっとした雰囲気のまま喋るだけ喋りきると突如その目が俺に向いた。首をかしげられ、ピシッと固まる。脈は飛んだ。ただでさえ全身カチコチだったのにいよいよ喉もピッタリくっつく。
そりゃ気づかないってことはないだろう。瀬名さんのすぐ後方にいた。思いっきり視界に入っていたはず。にこやかなまま俺を見るその人に、慌ててペコっと頭を下げた。
「あっ、の……はじめまして。お留守中にお邪魔してしまって、その……申し訳ありません」
「いいえ大丈夫、そんなこと気にしないで。うちはいつでも大歓迎だから。恭吾のお友達?」
「あ……」
どうしよう。これはとても、かなり、非常に、まずい。どうしよう。なんだこの状況。ヤバい。ここまで色々間違っている。全部間違った。最初から変だった。
どうしよう。どうしようしか思えない。勝手に上がり込んで寝泊まりした事実がそもそも後ろめたい要素なのにまさか、まさかだ、マジかよ、どうしよう。目の前に恋人のお母さんがいる。鉢合わせた。やばい。どうしよう。
血の気なんてもうほとんどなかった。情けないと思う余裕もないほどパニックに陥っていると、俺とその人の間にいる瀬名さんが助け舟のように口を開いた。
「同じマンションに住んでる。隣の部屋に去年越してきた」
「あら、そうなの」
「俺の食生活が酷いのを気にしてくれてな。普段から何かと世話になってる」
「ほらもう、だから言ったじゃない。またお野菜送る?」
「いらない」
「トマトとキュウリかじるくらいならいつでもできるでしょ?」
「いらない」
瀬名さんは昔ご実家からトマトとキュウリを送られていたのか。
いやいや違うだろ状況見てみろそんなこと考えてる場合じゃない。瀬名さんのお母さんの目はまたすぐにふっと、優しげに俺へと向けられた。
「恭吾の母です。息子がいつもお世話になってます。えっと……」
その言葉は途中で止まった。ハッとさせられる。またしてもピッと脈は飛んだが辛うじて一歩だけ踏み出した。
「っすみません……赤川遥希です」
「ハルキくんね。会えて嬉しい。よろしくね」
「……よろしく、お願いします」
見ず知らずのガキが上がり込んでいたのに気にする様子もなくニコニコしている。そこには嫌味なんてものもない。あたたかなその言葉にも嘘はないのだろうと自然に思えた。
飾らない様子の、おっとりとした、とても優しそうな人。このお母さんに紹介したいと瀬名さんは言ってくれたんだ。驚いたし身構えもしたし逃げ腰になったのも事実だけれど、隙間から覗いた純粋な嬉しさは俺の中にちゃんと残った。
突発的なパニックのあとには急激な冷静さがやって来る。緊張があり、心拍も異様に速いが、思考と感情はあり得ないくらいにはっきりとそこにあった。
今度はうちに来てください。瀬名さんに昨日そう言ったばかり。決意したその順番が少々入れ替わっただけで、いま俺の目の前には好きな人のお母さんがいる。
ちらりと、瀬名さんの方を見た。すぐに気づいてこの人も顔を向けてくれる。この人がそうしたいと思うことは、俺にとってもしたいことだ。
「……いいですか」
目を合わせながらそうとだけ問いかける。それだけでも瀬名さんには通じた。
昨日の田んぼで見たのと同じ、少し意外そうでびっくりした顔。それをここでもまた目にすることとなり、けれどもすぐ後にはゆっくり静かにうなずいて返された。
瀬名さんのお母さんは俺を、自分の息子の年の離れた友達だと思っただろう。その人に向き直り、逃げ出す前に口を開いた。
引っかかったように何も出てこない。絞り出す。ほとんど、無理やりに。
「……突然……こんな形で、本当に……申し訳ないのですが……」
本当にこんな形だ。いいか悪いかで言ったら最悪だ。少しでも気を抜けば声が震えそう。
ここまで怖いことってあるか。瀬名さんは大丈夫って言うけど、これで全部が終わるかもしれない。頭ではそう思っていても、知ってもらいたい。だって、瀬名さんの家族だ。
「瀬名さん……恭吾さん、とは…………お付き合いさせていただいてます」
玄関でするにはあまりにも相応しくない発言のせいでシンとなる。目の前で見せられるのはキョトンとした顔。
仕方がない。場違いで常識もなくて、どういう意味だって当然に思う。俺はだって。だって、こんなだ。
瀬名さんのお母さんは徐々に目を大きくさせた。俺の顔をじっと見ている。ごめんなさいとかすみませんとか喉まで出かかって、しかし出てこなくて、そして直後。バッと激しく開かれた玄関。
ドアに手を付き顔だけ外に出したのは瀬名さんのお母さんだった。この人はその体勢のまま、叫んだ。外に向けて思いっきり。
「ッゆうちゃーん! ゆうちゃーん、ちょっとー! はやくっ! 走って! 走るのッ! 恭吾の恋人が来てる!!」
なにっ。という誰かの声が、扉の向こうから微かに聞こえた。男の人の声だった。ものの数秒で駆け込んでくる。
パチッと目が合った。その男性と。俺はまた全身が固まった。
手ぶらで入ってきた瀬名さんのお母さんとは正反対に大荷物を両手で抱え、重そうな手元を裏切る素早さでスマートに俺の目の前に来た。
両手を塞いでいた荷物はパッと床に下ろされた。俺の手はその人にバッと取られた。なぜ。思う間もなくそのままブンブン上下に激しく振られた両手。盛大な握手を交わしながら、温和そうなこの男性は穏やかな笑顔を俺に向けた。
「恭吾の父です。はじめまして。会えて嬉しいよ、ようこそわが家へ」
「あ……ど、どうも。はじめまして……。赤川遥希と申します……」
「ハルキくんか。実に素晴らしい。この年でもう一人息子ができるなんて」
「え……」
瀬名さんと面影が重なる。お父さんであるのはやっぱりすぐに分かった。
いまだ両手をギュッと握られたまま困惑状態で瀬名さんを見る。瀬名さんは小刻みに首をフルフル。ご両親に俺の存在を一切話していないことはこの様子を見れば明らか。
なのにお父さんはこの反応だ。お母さんもずっとニコニコしている。
「恭吾が恋人をうちに連れて来たのは初めてなの。ねえ、ハグしていい? ハグしちゃダメ? え、だめ? 一回だけ。そうそう、一回。しちゃうね。うふふっ」
ほんわかと笑いながら力強くバッと抱きしめられた。雰囲気も喋り方もおっとりしているのになぜか口を挟む隙がない。
瀬名さんのお母さんはさっき、なんの躊躇いもなく恋人と言った。呼ばれて飛んできた瀬名さんのお父さんもそのつもりで入ってきたはず。だがそこにいたのは俺だ。思いっきり男だ。どう見ても野郎だ。生まれてこのかた女の子に間違えられたためしはない。だけど二人ともこの反応だ。
「来てくれてありがとう。本当に嬉しい」
「……ありがとうございます」
「ならば僕ともぜひ」
「え……」
お母さんに解放されるや否やお父さんにもバッとやられた。同性の恋人のご両親から初対面で熱くハグされた。
「素晴らしい日だよ」
「…………どうも、ありがとうございます」
そうとしか言えない。パンパンと背中を軽くたたかれた。そしてまたギュッとされた。
視線だけ瀬名さんに向けると心なしか呆れたような顔つき。自分の両親の行動を見ながら、混乱で口もきけない俺には落ち着けとでも言いたげな視線を無言のままそっと寄越してきた。
これが冷静でいられるか。こんなフランクな文化を俺は知らない。ご両親のこの反応にほとんど呆然としていると、廊下の奥からココがカリカリドアを引っかくのがわずかに聞こえた。
にゃぁぁぁあっ、という妙に長い鳴き方でご両親もそれに気づいたらしい。瀬名さんのお母さんはドアの方を見て首をかしげた。
「ココちゃんはなんで閉じ込められてるの?」
「人聞き悪いこと言うな。遥希を帰らせたくなくて足下まとわりついてくるんだよ。キキなんかさっきまで玄関の前で座り込みしてた」
「あら珍しい」
お母さんの腕の中でキキはプイッと知らんふりした。
「ネコちゃんたちと遊んでくれてありがとうね」
「いえ、そんな……こちらこそ」
「ねえもうちょっとゆっくりしていったらどう? 水ようかん買ってきたの。それともお饅頭の方が好き?」
「あ……えっと……」
「こしあん派? 粒あん派? どっちもあるからどっちも食べて。水ようかんはすぐに冷やすから二時間くらい待っててちょうだいね」
「え……」
「とにかく中入りましょ。お話聞かせて。恭吾とはいつから付き合ってるの? 告白はどっちから?」
「あの……」
助けて。チラっと瀬名さんに顔を向けると俺の視線にすぐ応えた。
「あんまグイグイ詰めるなよ、困ってんだろ。それにもう帰らねえと」
「ちょっとくらいいいじゃない。まだ五分も話してないんだから」
「今度にしてくれ。俺たちは帰る。明日は朝から遥希の試験だ」
目の前では瀬名さんのお父さんが大量の荷物を持ち直していた。重そうなそれらを軽々手にしながら話にも興味を持ったらしい。顔立ちが非常によく似た自分の息子に問いかけた。
「なんの試験だい?」
「運転免許」
「ああ、なるほどいいね。昔を思い出すよ。僕もマユちゃんを助手席に乗せてドライブすることだけを夢見て頑張った記憶がある。忘れもしないさ、二十五歳の時だ。あの日はとてもよく晴れていて…」
「その話はいい。百五十回は聞いた」
マユちゃんと呼ばれた瀬名さんのお母さんはふふっと嬉しそうな顔をしてその隣に寄り添った。百五十回は聞かされているのもこのご夫婦ならばなんとなくうなずける。
「とにかく今日は早めに帰って休ませる。一昨日に教習明けてそのまま連れてきちまった」
「じゃあちょっとだけ待ってて、お土産詰めてくるから。トマトとキュウリもいる?」
「いらない」
「ナスは?」
「いい」
「今年ピーマンの出来がすごく良くって大きいの沢山なってるんだけど」
「知ってる。見た。いらない」
「なら、そうだ。お米持ってきなさい」
「なんもいらねえから大丈夫だ」
実家のお母さんってどこでもこういう感じだ。
何もいらないという息子を無視して、瀬名さんのお母さんは旦那さんを引き連れ部屋の中に入っていった。ドアが開いたその途端にココはピョコッと丸い顔を覗かせたけれど、キキを抱っこしたお母さんを見上げるとそっちにトトッとついていった。
ココちゃんもただいまー、という声に続き、ドアの向こうからは楽しそうに話すご夫婦のお喋りがお届けされてくる。ほとんど丸聞こえだ。ドアも開け放たれているし。姿こそ見えないものの声をひそめる様子はまるでない。
「早めに帰ってきてよかった」
「僕もそう思うよ。恭吾はネコと仕事にしか興味ないのかと思ってたから」
「本人が満足ならそれでいいけどやっぱりちょっと親としてはね」
「同意見だ。親としてはちょっとね」
「連れてくるなら連れてくるでちゃんと言ってくれればいいのに。せっかく会えたのに全然お喋りできてない」
「連絡先聞いたら?」
「ええ、そうする」
「次はいつ来るのかな。キャッチボールと釣りだったらハルキくんはどっちが好きだろうか」
「どっちもやったら?」
「そうしよう」
「恭吾はそういうの付き合い悪かったからね」
「そうなんだよ。いくら誘っても全然乗ってこなかった。あいつの反抗期を覚えてる?」
「そりゃもう覚えてるに決まってるでしょ、おもしろかったもの!」
瀬名さんの顔をちらっと盗み見た。分かりやすくイラッとしている。
最終的には溜め息までつき、そこでパチリと交わった視線。この人はうんざりした顔で一言。
「な?」
「…………」
これが瀬名家か。
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