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12.極甘彼氏
しおりを挟むそっちの荷物持つよ。重いから。
このハンバーグすっごくウマい!やっぱハルの作ったもんが一番だなー。
あれ、髪染めてきたんだ?超似合ってる。
今度の休みどっか行こ。ハルの好きなトコね。どこ行きたい?
お帰りー、お疲れ。バイト遅くまで大変だったね。風呂沸いてるよ。一緒に入ろ。
なんかそろそろ幸せすぎて俺死ぬかも。もーハルほんと可愛い。
好きだよハル。大好き。
ここ一週間で同居人から言われた言葉の数々。正直、いい加減にしてほしい。
俺は大学とバイトとマンションとの間を往復する毎日。同居人は職場とマンションとの間を往復する毎日。
俺達が顔を合わせるのは、朝出かける前と夜帰ってきてからと土日だけ。一つの週の間、限られた時間の中で、こいつは俺に対して飽きもせずにニコニコと言い連ねてくる。
好きだとか。可愛いだとか。なんやかんやと。
これが続いて二年と半年になる。
「でも好きでしょ? ハルも俺とこうしてるの」
「好きじゃないし」
「可愛いなあ。あ、そうだプリン食べる? 帰りに買ってきたの冷蔵庫入れてある」
風呂上がり、俺達には定位置がある。
ゆったりとしたソファーを二人で広々と。ではなくて。隅っこの方で二人くっ付いて。
今もまた、俺の肩に腕を回す同居人にぴったりと体を預けていた。眠くなりそうな体温に包まれるのは心地いい。
その体温の主が買ってきたらしきプリンを取りに行こうとするから、胸元で服を掴んで引き止めた。
「いい。いらない」
「あれ、腹一杯になっちゃった?」
「……後で食べるからまだこうしてろ」
目線を下げたまま言って、控えめに肩口へ顔を埋めた。ちょっとした間を置いて、頭の上からはクスクスと困ったような笑い声が降ってくる。
「またそうやってさあ……。ハルの反則技はきっつい」
「うるさい。優太がやり始めたんだから責任もって続けろ」
「はいはい。いいよーもう、分かっちゃったから。実は眠いんだろ?」
「……ちょっと」
また少し間を置いて、そしてふわっと抱きしめられた。俺も隣から優太に腕を回して抱き合う格好になる。
「その可愛さどうにかなんない? 俺もう駄目っぽいよ。眠いならベッド行く?」
「いい」
「その体勢キツくない?」
「平気」
ポンポンと頭を撫でられ、抱きついたまま静かに目を閉じた。安心するとしか言いようのない体温で、すぐにでも眠りに落ちてしまいそうだけどまだ少し粘る。
「優太……仕事忙しい……?」
「ん? なんで?」
「……最近、少し帰り遅い」
「え、そう? あーでも月末だからちょっとバタバタはしてるかもな。ごめんね、寂しい?」
「…………別に」
平日の昼間に顔を合わせる事はできなくて、土日でも俺にバイトが入っていると一緒にはいられなくて、俺達が同じ時間を共有できるのは本当にごく僅か。
寂しいとか、そんな女の子みたいに可愛い事は言えない。一緒にいてって思うけど、恥ずかしいから言葉にするのは絶対に無理。
だけど多分、優太には全部バレていて、俯きながら答える俺の反応を見ていつでも嬉しそうにしている。
好きだよって、こっちが照れる事を言われるのは苦手だけど、それでも優太は言ってくる。
寂しいけど、寂しくない。
くっ付いている間に全部埋めてくれるから。
「今度……」
「うん」
「土曜……一日……」
「うん」
「シフト入ってない……」
「うーん、そっか。じゃあどっか行こうか」
眠いながらにポツリポツリと伝えていくと、優太はゆっくり聞きながらちゃんと返事をくれる。どこに行きたいと聞かれたけど、俺は緩く首を左右に振った。
「行かない」
「んー? 行かないの?」
「……うん。ずっとこうしてる。一日中」
ぎゅうっと抱きつき、俺が口にするとまたもや間があった。そして今度はしばらくなんの反応も返ってこない。
ダメなのかと思って閉じていた目をゆっくり開き、顔を上げようとするとその前にぐいっと抱きしめ直された。
ちょっと痛い。
「あーもー、ほんっとキツすぎる。俺冗談抜きで死んじゃうよ」
「……嫌?」
「なんなのそれは。素? 天然? 好きすぎて困ってます」
ぎゅうぎゅうに抱きしめられても、苦しいよりあったかいが先に来る。その胸にしっかり埋まって、優太の体温に浸った。
「ハルが言ったんだよ。土曜は一日コレね」
「…………」
こくりと小さく頷いた。嬉しそうな笑い声が優しく降ってくる。
「ゆーた」
「なに? 今のナシってのはナシね」
「眠い」
「うん知ってる。やっぱベッド行く?」
「行かない。ここがいい」
「ベッドでもちゃんと抱っこしてるよ?」
「…………やっぱ行く」
今日一番のギューッが来た。その次には足と腰を手で支えられてふわりと抱き上げられている。優太の首に俺も腕を回した。
「ウチの姫の必殺技は凄いよ」
「姫じゃない」
「姫じゃなくても可愛いけどね」
「うるさい」
「やばい可愛い大好き。どうすればいいの俺」
耳元で穏やかに落とされる言葉の数々。土曜になったら、これが一日中続く。
やめといた方が良かっただろうか。
「好きだよハル」
一緒にベッドに入って、言った通り抱きかかえながら囁かれる。前髪を掻き上げた下で額にちゅっと口づけられ、気恥しさから身じろいで優太の首元に顔を埋めた。
「優太……」
「んー?」
「…………好き」
「えッ」
言い逃げってヤツで、ボソッと呟いたあとは寝たふりを決め込んだ。
なんて言ったのとか、もう一回とか、今のはズルいとか、いろいろ言ってくるけど全部聞こえないふり。
最終的には優太も諦めて、包み込むようにして腕を回しながら俺の頭に顔をくっつけてきた。
「分かったよもう、土曜日覚悟しててね。逃げ出したくなるくらい甘やかすから。すっごいベタベタしてやる」
常日頃から俺に甘い優太の甘やかし攻撃予告。
お菓子業界も真っ青な糖度になること間違いなし。
「おやすみ」
もう一度、今度は髪の上からちゅっとされた。
そのくすぐったさに心地よさを覚えつつ、俺は優太の腕の中でゆっくり眠りに就いた。
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