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タケノコドンⅢ――邪神獄臨――
星に願いを 君に誓いを
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とある静かな夜――赤提灯の屋台で盃を並べて座る男が2人。今宵はトレードマークのロングコートも軍服も置き捨て、ただの友人として約束の祝杯を交わしていた。
「結局……何もかも綺麗サッパリ消えてしまったな」
「そうですねえ。世界中のタケノコドンは疎か、邪神の消滅と共に西日本を覆っていた樹海と霧も消え果てました。あの竹も邪神の一部だったんですね」
「しかし理解らんのは……都市部は荒れ果てていたのに、野山の被害は軽微なうえ動植物に毒の被害が一切無かったという事だ」
「邪神の中核となった奥浪は、世界の破滅と人類への呪いを遺して逝きました。その世界というのは人間社会や文明を指していたという事なのでしょう」
「調べてみたが、奴の提唱する思想は人類の衰退を示唆し誰にも受け入れられず異端視されてはいたが、その根底には自然保護や共存といった地球環境を第一に考えた未来を視ていた様だ」
「簡単に言えば、少し不便な生活を我慢して自然と仲良く共生しましょうって話。彼はよく天才を自称していたらしいですが、実際他人との頭脳と感性の差違の所為で普段からコミュニケーションも難しかった。もしたった1人でも、彼の話に耳を傾け理解を示し慰める友が居れば……悲劇は起こらなかったかもしれません」
「悲劇……か。確かに、首都と国土の半分が壊滅したこの状況は悲劇としか言えんな」
「これからどうなるんですかねえ」
「復興は遅れるだろうな。国外避難民は少なくはないし、労働力に金も食糧も住む場所も何もかもが不足している」
「海外ボランティアも渡航を渋ってる様ですしね。怪獣が何度も出現する危険な国として、良くも悪くも畏れられてしまっている」
「だが逆に各国から多大な資金や資源の支援が贈られる手筈が整ってきている。避難した日本人も各地で手厚い援助を受けているそうだ。神秘の国、タケノコドンの祖国とな」
「タケノコドン……居なくなってもその影響力は暫く続きそうですね」
「……奴が……奴等が居なくなって、世界はまた変化するのか。また以前の様な環境に逆戻りするのか……それとももっと悪く……」
「人間はそこまで愚かでないと信じましょう。折角彼のお陰でエコの精神が色濃く根付いたのですから、平和な未来を信じてやらなきゃ浮かばれません」
「未来……か。そうだな。北を拠点とし復興を機に、自然と共生した新たな未来志向のモデルケースとして日本は生まれ変わる……かもしれんな」
「理想は生きる活力ですよ。いい歳になっても、夢や希望が有る方が人生楽しい」
「夢や希望……ね」
「……乾杯しましょうか。世界を救った英雄に」
「……戦友に」
チンッ ゴクッ ゴッ
「フゥ。そう言えば、あの子達はどうしてるんだ? 子供扱いする歳ではないが」
「彼らなら、今頃星でも眺めているかもしれませんね」
「星?」
「お忘れですか? 今日はあの日ですよ」
「……ああ、今日だったか」
――――――とある竹林
「今夜は星が綺麗ね。日本中の明かりが減った所為か、天の川もよく見える。あの日を思い出すわ」
時は2029年7月7日。今宵はいつぞやの夜以来、カエル園全員が揃って迎えた久方振りの七夕である。あの日の様に一本の竹を彩り豊かに装飾し、それぞれ持ち寄った短冊を枝に吊るしていく。
「クマ兄いつまでこっち居んの?」
「お嫁さんと子供は海外に避難したんだっけ。迎えに行くって約束したんでしょ」
「いや、ここに残る事にしたんだ。2人には迎えに行くって約束ともう一つ、この国を守るって約束もした。復興も落ち着いて、この井戸端町に新居を構えたら改めて迎えに行くよ。それまで偶に会いに行くつもりだけどね」
「ふ~ん。仕事も探さなきゃなんだろ? ならいっそ自分で起業するか……なんならガチで教団でも作ってみたら?」
「冗談はさて置き、先ずは復興事業に携わっていこうと思ってるよ。その後の事は追い追い考えるさ。それよりホラ……あっちが面白い事になってるぞ」
2人居並び天を仰ぎ観るシンと美衣子。天の川に離れ、彼女が好きな月が煌々と輝いて見える。しかし横目で見た彼女の横顔は、かつての無邪気な笑みは無く憂いを帯びて儚げに思えた。
「月が綺麗だね」
「えっ? うん……」
「僕らもう大人になっちゃったけど、この景色はずっと変わらないね」
「そうね」
「………………僕が守るから」
「え?」
「えっと……これからは、僕がミーちゃんを守るから。ねこまじんの代わりに。お父さんの分も……お母さんの分も」
「………………」
「………………」
「……それってプロポーズ?」
「へっ⁉︎ あっ、いやっ‼︎ そのぉ……」
「なぁんだ。漸く言ってくれたのかと思ったのにぃ~」
「へっ……?」
「バレてないとでも思った? こっちはずうっと待ってたんですけど」
「っ~~~~っ」
「ふふっ。約束だからねっ」
「えっ?」
「一生側で守ってね」
「…………うん!」
パチパチパチパチパチパチ
「おめでとう」
「おめでとう」
「やっと言えたなシンちゃん! でもデレ恥ずいパターンやな」
「言わないでよダイちゃあん」
「「「ハハハハハ‼︎」」」
満天の星空に薄っすらと蝉の声。暑さが迫るこの頃、皆に祝福される中、10年越しに訪れた待望の春であった。そして皆一様に短冊に書いた願いとは――
【みんなの願いが叶いますように】
タケノコドン 完
「結局……何もかも綺麗サッパリ消えてしまったな」
「そうですねえ。世界中のタケノコドンは疎か、邪神の消滅と共に西日本を覆っていた樹海と霧も消え果てました。あの竹も邪神の一部だったんですね」
「しかし理解らんのは……都市部は荒れ果てていたのに、野山の被害は軽微なうえ動植物に毒の被害が一切無かったという事だ」
「邪神の中核となった奥浪は、世界の破滅と人類への呪いを遺して逝きました。その世界というのは人間社会や文明を指していたという事なのでしょう」
「調べてみたが、奴の提唱する思想は人類の衰退を示唆し誰にも受け入れられず異端視されてはいたが、その根底には自然保護や共存といった地球環境を第一に考えた未来を視ていた様だ」
「簡単に言えば、少し不便な生活を我慢して自然と仲良く共生しましょうって話。彼はよく天才を自称していたらしいですが、実際他人との頭脳と感性の差違の所為で普段からコミュニケーションも難しかった。もしたった1人でも、彼の話に耳を傾け理解を示し慰める友が居れば……悲劇は起こらなかったかもしれません」
「悲劇……か。確かに、首都と国土の半分が壊滅したこの状況は悲劇としか言えんな」
「これからどうなるんですかねえ」
「復興は遅れるだろうな。国外避難民は少なくはないし、労働力に金も食糧も住む場所も何もかもが不足している」
「海外ボランティアも渡航を渋ってる様ですしね。怪獣が何度も出現する危険な国として、良くも悪くも畏れられてしまっている」
「だが逆に各国から多大な資金や資源の支援が贈られる手筈が整ってきている。避難した日本人も各地で手厚い援助を受けているそうだ。神秘の国、タケノコドンの祖国とな」
「タケノコドン……居なくなってもその影響力は暫く続きそうですね」
「……奴が……奴等が居なくなって、世界はまた変化するのか。また以前の様な環境に逆戻りするのか……それとももっと悪く……」
「人間はそこまで愚かでないと信じましょう。折角彼のお陰でエコの精神が色濃く根付いたのですから、平和な未来を信じてやらなきゃ浮かばれません」
「未来……か。そうだな。北を拠点とし復興を機に、自然と共生した新たな未来志向のモデルケースとして日本は生まれ変わる……かもしれんな」
「理想は生きる活力ですよ。いい歳になっても、夢や希望が有る方が人生楽しい」
「夢や希望……ね」
「……乾杯しましょうか。世界を救った英雄に」
「……戦友に」
チンッ ゴクッ ゴッ
「フゥ。そう言えば、あの子達はどうしてるんだ? 子供扱いする歳ではないが」
「彼らなら、今頃星でも眺めているかもしれませんね」
「星?」
「お忘れですか? 今日はあの日ですよ」
「……ああ、今日だったか」
――――――とある竹林
「今夜は星が綺麗ね。日本中の明かりが減った所為か、天の川もよく見える。あの日を思い出すわ」
時は2029年7月7日。今宵はいつぞやの夜以来、カエル園全員が揃って迎えた久方振りの七夕である。あの日の様に一本の竹を彩り豊かに装飾し、それぞれ持ち寄った短冊を枝に吊るしていく。
「クマ兄いつまでこっち居んの?」
「お嫁さんと子供は海外に避難したんだっけ。迎えに行くって約束したんでしょ」
「いや、ここに残る事にしたんだ。2人には迎えに行くって約束ともう一つ、この国を守るって約束もした。復興も落ち着いて、この井戸端町に新居を構えたら改めて迎えに行くよ。それまで偶に会いに行くつもりだけどね」
「ふ~ん。仕事も探さなきゃなんだろ? ならいっそ自分で起業するか……なんならガチで教団でも作ってみたら?」
「冗談はさて置き、先ずは復興事業に携わっていこうと思ってるよ。その後の事は追い追い考えるさ。それよりホラ……あっちが面白い事になってるぞ」
2人居並び天を仰ぎ観るシンと美衣子。天の川に離れ、彼女が好きな月が煌々と輝いて見える。しかし横目で見た彼女の横顔は、かつての無邪気な笑みは無く憂いを帯びて儚げに思えた。
「月が綺麗だね」
「えっ? うん……」
「僕らもう大人になっちゃったけど、この景色はずっと変わらないね」
「そうね」
「………………僕が守るから」
「え?」
「えっと……これからは、僕がミーちゃんを守るから。ねこまじんの代わりに。お父さんの分も……お母さんの分も」
「………………」
「………………」
「……それってプロポーズ?」
「へっ⁉︎ あっ、いやっ‼︎ そのぉ……」
「なぁんだ。漸く言ってくれたのかと思ったのにぃ~」
「へっ……?」
「バレてないとでも思った? こっちはずうっと待ってたんですけど」
「っ~~~~っ」
「ふふっ。約束だからねっ」
「えっ?」
「一生側で守ってね」
「…………うん!」
パチパチパチパチパチパチ
「おめでとう」
「おめでとう」
「やっと言えたなシンちゃん! でもデレ恥ずいパターンやな」
「言わないでよダイちゃあん」
「「「ハハハハハ‼︎」」」
満天の星空に薄っすらと蝉の声。暑さが迫るこの頃、皆に祝福される中、10年越しに訪れた待望の春であった。そして皆一様に短冊に書いた願いとは――
【みんなの願いが叶いますように】
タケノコドン 完
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