タケノコドン

黒騎士

文字の大きさ
上 下
15 / 27
タケノコドンⅡ 〜タケノコドンVSスペースコーン〜

クーデター

しおりを挟む
 ゴビ砂漠を飛び立った宇宙コーンはそのまま超高高度を維持し、中国領空を通過し一路南へと向かっていた。その行く手に在るのは、日本列島。その事実が知れ渡るや国民の緊張状態は極度に高まり、未だ対応の遅れが目立つ政府への不信感を煽り暴動やパニック寸前の状態であった。


――第二次特殊災害緊急対策会議――

「総理、時間が無いのですぞ! 早急に対策を講じねば」

「こういうのは自衛隊の専門でしょ? どうすんの?」

「自衛隊の出動だけでなく、避難指示や様々な対応の認可を頂きませんと」

「認可認可言うけどさぁ、その結果責任取るの僕だって分かってるよね? 世論から非難される様な案出されちゃ困るよ? 大丈夫?」

「どんな政策だろうと必ず何処かから非難は出ます! しかし何も講じなければ最悪の結果も……」

「そもそも日本に来るなんて決まってないだろう? 通り過ぎるだけかもしれないし、進路を変えて……なんならこのまま宇宙に帰ってくれるかもしれんじゃないの」

「そんな楽観視が許されるとお思いですかっ⁉︎」

「口の利き方を知らん人だね。僕総理よ? 僕の意向が理解出来ないなら罷免してもいいんだからね」

「くっ……」

「兎に角、僕のマイナスにならない様な効果的な案を出して。じゃないと認可しないから」

ボソッ「アイツ、何の為に総理になったんだ?」

ボソ「知りませんよ。あんなのが国家元首なんて世も末です」

ボソ「あれなら先代の笠原さんの方が潔くて何百倍もマシだったなぁ。今更不信任案出しても対策が遅れるだけだし……この状況どうにかしてくれる人は居らんのかね」

「たった今報告が入りました! 宇宙スペースコーン、高度を下げ始めました。予測される到着点は……北海道です」

「なんだとおっ⁉︎」


 予測の通り、宇宙コーンは北海道上空に飛来。迎撃に向かった海自の艦隊の攻撃は虚しくも効果は無く、蟲体による反撃を受け大半が撃沈、敗走した。その後宇宙コーンは道内主要都市を破壊し、大雪山国立公園内に着地し沈黙した。生き残った人々は沿岸部の市町村に非難したものの、逃げ場の無い恐怖と絶望感に生きる気力を失いつつあった。これを受け、密かに1人の男が対策会に召集されていた。

「どうなってんの⁉︎ 自衛隊は何やってたんだ、クルージングか⁉︎ 防衛長官、どう責任を取るつもりかねっ⁉︎」

「…………」

「総理、それはあまりにも!」

「僕はっ! 彼にっ! 任せたんだぞっ‼︎ 僕の所為じゃない。国民の前に出て詫びるんなら僕じゃなくてあっちだ! だがその前に、あのデカブツをどうにかしろよ? もう手段を問うてる場合じゃない、何が何でもアレを国内から排除しろ。だが責任は全部お前が持てよっ‼︎ いいなっ⁉︎」

 最早この男の保身と身勝手な言動には場の面々も辟易し、怒りを通り越して呆れるばかりである。今ばかりでなく以前から理不尽な要求を突きつけられる件の防衛長官だけは、目を閉じ神妙な面持ちで黙ってその罵詈雑言を聞き入れている様子に、皆偏に憐憫を向けるばかりだった。だが遂に彼はその重い口を開く。

「……承知しました。御指示の通り、これより全責任を持って対処に努めさせて頂きます。確認しますが、手段は問わぬという御言葉に間違いは有りませんな?」

「ん…… それでいい」

「分かりました。では……入れ!」

 防衛庁長官の発言に皆の視線が扉へと注がれると、ゆっくり開かれた扉の向こうに軍服を着た男が立っていた。

「上條一尉、入ります」

「か、上條⁉︎」「何故ここに?」ザワザワ……

 彼の顔を見た途端、議場が騒つき始める。その場の誰もが、彼が先の怪獣騒動で良くも悪くも先導を切った人物なのはよく知っていた。彼は毅然とした態度で入室すると、長官が手で促すまま登壇に立ち皆の方へと向き直った。

「上條……左遷されたお前が何故この場に?」

「自分も知らされておりません。長官の御命令であります」

「防衛長官、何のつもりかね⁉︎」

「貴方の御指示に従ったまで、手段を問わず全責任は私が取ります。これより、上條一尉を対宇宙コーン作戦司令官に任命し、作戦終了迄自衛隊統括の全権を委任する」

「気でも触れたか⁉︎ あの男は先の一件で事態を悪化させた張本人だぞ?」

「あの采配に問題が在ったとは考えておりません。寧ろ彼の分析力と豪胆な行動力が無ければ、この事態を打開する事は出来ません」

「駄目だ駄目だ! その案は許可出来ん! そんな奴に任せては僕の人生お終いだ」

「許可は求めておりません。これは決定事項です」

「なっ、どういうつもりだ?」

「瀬川総理、貴方……いや、お前の厚顔無恥ぶりにはいい加減反吐が出る。もう暗愚の好き勝手にさせるつもりは無い」

「キサマ……何様のつもりだ」

「私は、我々は日の本を護る為に身命を賭すと誓った防人だ。愚か者の狗になった覚えはない」

 そう言うと長官は手を上げ扉の向こうに合図を送ると、待機していたらしき自衛隊員達が列を成して入室し総理を取り囲んでしまった。

「な、何の真似だ?」

「余計な邪魔をされない様この場に軟禁させて頂く。不自由はさせないが、贅沢もさせるつもりは無いのでそのつもりで」

「ク……クーデターだ! 誰か、通報、通報しろ!」

 総理のその悲痛な叫びに似た求めにも応える者は誰一人として居なかった。それを見て漸く自分が孤立している事実を自覚した総理は愕然とし、膝を折りかけたところを脇に立つ隊員達に支えられ、奥の席へと誘導されて行く。

「何とでも言うがいい。テロリストと罵られようと覚悟の上だ。さて……そういう訳だ上條君。指揮を執ってくれ給え」

「ハッ、いやしかし……」

「君でなければ駄目なのだ。責任は私が取る。自信を持って、思うが儘やってくれ」

「それでは閣下が」

「なに、笠原前総理に倣い私の番が回って来ただけの事だ。名前だけのお飾りの様な役しか熟して来なかった私だが、最後は格好付けさせてくれないか」

「……承知しました。全霊を持って任務を全う致します」

 2人のやり取りが終わると、上條は改めて議場を見渡した。隊員の監視下に置かれ憮然とする総理はさて置き、戸惑いを見せていた政府高官、幕僚長以下列席の面々は打って変わって決意を新たに壇上の彼に眼差しを注いでいた。破滅的な状況を前に、破天荒や型破りと言われる様な常軌を逸した手腕を用いなければこの苦境は開かれない……その一心に一同は纏まりを見せていた。

「先ず状況を整理しましょう。目標宇宙コーンは現在、北海道のほぼ中心地で接地し静止状態。海自戦力の7割を欠損、空自陸自は健在なるも打撃効果はあまり期待出来ない……か」

「目標は現地で再々度増殖を試みていると思われます。しかし何分未知の存在故情報が不足しているのが現状。上條司令の見解を頂けませんか?」

「ふむ……所見ではあるが、アレはかなり高い知能を有している様に思う。眼等の感覚器官は見当たらず脳が有るかも不明だが、その行動からは学習している風な印象を受ける」

「思考の末、北海道を営巣地に選んだと?」

「広い土地では周囲に敵も多く、増援に次ぐ増援による波状攻撃に自身は傷付かずとも増殖した個体が全滅していてはキリが無い。それで程良い広さが有り孤立した地形である北海道を足掛かりに、次は日本列島、そして世界に版図を広げる算段だろうと愚考する。付け加えれば、自然豊かで汚染の少ない北海道にはタケノコドン小型幼体も極めて少ないのもあるだろう。奴らが何故目標に反応するのかは不明だが……地球環境を破壊する存在と認識したか、それとも米国で受けた放射能に引かれたか。何にせよ、期待は出来ない。だが奴に誤算が有るとするならば、我々には地上部隊に海を渡らせる手段が有るという事だ」

「しかし、フェリーによる移送では時間がかかり過ぎます。他に何か代案でも?」

「青函トンネルだ」

「あ、あそこは車輌が通行する様には出来ておりません!」

「線路なんぞ潰して構わん。履帯が擦れようが車体が削れようが、戦車隊と歩兵が戦地に届けばそれでいい。航空部隊も最寄りの各民間飛行場に待機させておく」

「無茶苦茶です! 第一、戦力を送れても効果的な攻撃手段が無ければ……」

「効果的な武器なら有る。先のタケノコドンの件を受け、極秘に開発されていた特殊焼夷弾。ナパームと同等かそれ以上の燃焼効果が有る筈だ」

「ナパームって……違法なのでは⁉︎」

「対人使用は違法だが化け物退治は合法の範疇だろう。核まで使っていて焼夷弾は駄目とは世間も言うまい」

「……ナパームが効果有りとする根拠は?」

「先ず第一に、地球降下時に制動をかけた事。大気との摩擦で燃えるのを危惧したと考えられる。そして奴の最大の攻撃手段は、外殻内で生成される爆発する性質を持った小型蟲体。これは一定の衝撃や損傷によって誘爆する性質が有り、もし高温に晒されれば外殻内部で一斉に起爆する可能性が有る……謂わば諸刃の剣だ。それを裏付ける様に、大部隊による波状攻撃を受けた際には誘爆を恐れ外殻を閉じ守りに徹した」

「しかし米国で核の炎に包まれても動いたじゃないか」

「そうです、逃げたんですよ。直前までアメリカ大陸を横断しながら爆撃を続け、増殖しつつ大部隊と交戦した後でありますから、相当に消耗していた筈。部隊撤退後は蟲体の生成を抑えていた為に内部誘爆のダメージが最小限に抑えられたと推察します」

「では、徹底的な熱攻撃作戦を?」

「勿論それだけではなく、常に弾幕を張り奴の動きを封じる事が肝要だ。僅かにでも外殻に隙間が開けば流れ弾1発で勝負が決まる。現在判明している他の攻撃手段は頂点部から生じる触毛による打撃だが、これは範囲が極めて狭く脅威と考える必要は無いだろう。後は重力操作。ゴビ砂漠の砂を巻き上げたと言われる現象から、奴が飛行に用いるのもこの能力による効果だと推測される。原理は不明だが他に説明が付かない。現状この能力を攻撃に転用した記録は無く、極々狭い範囲にしか及ばないものと見ている」

「仮に熱攻撃が有効だったとして、常に攻め続け反撃を許さない状況になれば目標も逃げ出すのでは?」

「それならそれで構わない。この仮説が有効だという証明になり、世界に共有して奴が倒れるまで続けるだけだ。だが貴様の危惧する通り、攻撃の手が届かぬ様な深い密林や山岳地帯といった極地に行かれると難しくなる。その場合は核攻撃という手段も有るが……なるべくここで勝負を付けるべきだろう。故に米軍にも援軍を要請する」

「米軍ですか⁉︎ それはいくらなんでも」

「先の戦闘で大半を失っているが、日本に残した最低限の戦力は残っている。弔合戦の大義名分を提示すれば参戦してくれる可能性は高い。今は少しでも戦力が必要だ。それに保険にもなる」

「保険……でありますか?」

「彼の国は既に自国で核を使用してしまっている。タケノコドンによる除染が期待出来る今、我が軍に敗北の色が僅かにでも見えたなら、手元の発射スイッチが押される可能性が少なくはない。ならば蚊帳の外にするより、戦況を共有し勝利の確率が上がる選択をするべきだ」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

美しいお母さんだ…担任の教師が家庭訪問に来て私を見つめる…手を握られたその後に

マッキーの世界
大衆娯楽
小学校2年生になる息子の担任の教師が家庭訪問にくることになった。 「はい、では16日の午後13時ですね。了解しました」 電話を切った後、ドキドキする気持ちを静めるために、私は計算した。 息子の担任の教師は、俳優の吉○亮に激似。 そんな教師が

お父さん!義父を介護しに行ったら押し倒されてしまったけど・・・

マッキーの世界
大衆娯楽
今年で64歳になる義父が体調を崩したので、実家へ介護に行くことになりました。 「お父さん、大丈夫ですか?」 「自分ではちょっと起きれそうにないんだ」 「じゃあ私が

妻がエロくて死にそうです

菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。 美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。 こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。 それは…… 限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常

親戚のおじさんに犯された!嫌がる私の姿を見ながら胸を揉み・・・

マッキーの世界
大衆娯楽
親戚のおじさんの家に住み、大学に通うことになった。 「おじさん、卒業するまで、どうぞよろしくお願いします」 「ああ、たっぷりとかわいがってあげるよ・・・」 「・・・?は、はい」 いやらしく私の目を見ながらニヤつく・・・ その夜。

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

処理中です...