タケノコドン

黒騎士

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大怪獣タケノコドン

増殖

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――数日後 特殊災害対策本部 兼研究室――

「もうすぐ1週間経つが、アレは眠ったままか……寝ていると言っていい状態なのかどうかも分からんそうだが」

「ともかく、アレを処理するか静観するか早急に決めねば復興作業も進められん。そのうち消えるかもという話だが、確かな事でもないのだろう」

「ずっと動かんのなら観光地化してもいいんだがね~」

「また動き出すかもしれんのだろう? 解体しようにも硬過ぎるというし……どっかに捨てるとか出来ないの?」

「捨てるって、何処にどうやってですか」

「火山に放り込むとか海に流すとかさ……運ぶくらいなら平気でしょ」

「火山は無理でしょ。都合良く噴火してくれる訳でなし、火口までどうやって上げんのよ」

「海に捨てたとして……アレって沈むの?」

「竹は浮くだろうけど、アレは流石に沈むでしょう」

「しかし、もし海流に乗って他国に流れ着いたりしては国際問題になるのでは?」

「じゃどうすんのよ」

「霊能者は放置を推奨したんでしょう?」

「そんな胡散臭い連中信用するのかね」

「しかし現に、目標を沈黙させるに至ったのは彼等の功績に依るものです。それにもし刺激して活動再開すればどうするのですか」

「放っておいても起きるかもしれんのだろう!」

「いつまで同じ議論を繰り返すのかね……時間の無駄だ」

――と、この様に、政府高官や識者の老人達が円卓を囲んで連日議論を交わしているが平行線のまま遅々として何一つ纏まらない。それも仕方ない。全く未知の領域の話で何一つ確証が無いのでは、そのリスクも計り知れないのだ。

「現場より入電! ……は? …………り、了解」

「何があった?」

「えーその……花が、咲きました」

「花? 向日葵でも咲いたとでもいうのか」

「いえあの……目標が、花を咲かせました」

「なっ……」「「なんだとおおっ⁉︎」」


――某テレビ局空撮用ヘリ内――

『こちら現場上空、怪獣の真上です。ご覧下さい。花。タケノコドンが花を咲かせております! 色取り取り多種多様、中には見た事も無い様な種類の花弁がまるで怪獣を覆い隠す様に咲き乱れております! えー現在、自衛隊は怪獣の周囲を取り囲みその様子を伺っている模様です。この異変は何かの前触れなのでしょうか? そしてこれを受けて攻撃命令が下されるのでしょうか? 再び注目度が高まっております』

――再び特殊災害対策室――

「竹の花ってあんなだったか?」

「どう見たって違うでしょ、知らんけど。向日葵や薔薇、チューリップまで付いてるじゃない。青い桜なんて初めて見たよ」

「出鱈目にも程がある。まあ大元からだが」

「でどうすんのコレ、放置でいいの?」

「花ですからね……和む印象から安易に連想するのですが、例の魂の浄化が完了したサインなのでは?」

「確か竹って花が咲いた後枯れるんだっけ? 知らんけど」

「だが花というのは本来、実を付けて種を蒔く謂わば繁殖の一肯定ではないのかね?」

「化け物が増えるというのか⁉︎」

「上條、どう対処するつもりだ⁉︎ 対応が遅れたのはお前の責任だぞ!」

「一応、準備は整えてあります」

「準備?」

「目標には熱攻撃が一定の効果が有ると確認されておりますので、燃料、焼夷弾、火炎放射器等、現場に待機させてあります」

「待て、現場は山林地帯だぞ。以前は消化準備を整えたうえで敢えて市街地を作戦区域に選んだ筈だ」

「そんな事を言っていられる状況ではなくなったという事です」

『対策室、対策室! こちら現地観察班!』

「どうした⁉︎ また何か異変が有ったのか⁉︎ 送れ」

『たっ……たけのこ……』

「タケノコドンがどうした?」

『タケノコです。目標周辺から無数の筍が生えてきましたっ‼︎』

「「はああああっっ⁉︎」」

「奴め! 花で目を惹いてるうちに根を張り増殖しておったのかっ⁉︎」

「クッ、攻撃準備‼︎ 総員直ちに配置転換、プランBを発動。全火力を目標に集中、全て焼き払え!」

『しっしかし……』

「命令だ! 手遅れになるぞ‼︎」


 攻撃命令を受けた現場隊員達は即座に攻撃態勢に移行。タケノコドン周囲に配置された発火装置に点火、大量の燃料が一斉に炎上、巨大な花の塊は一本の火柱と成って燃え上がった。更に、遠隔操作された燃料満載のタンクローリーが何台も突っ込み、焼夷弾頭の砲撃が撃ち込まれ続け炎は燃え広がり遂には火焔山を彷彿させる巨大な炎の塊となって周囲は灼熱の地獄と化した。その光景を目撃する対策室の面々は驚きと戸惑いを隠せない。

「こ……ここまでする必要があったのかね?」

「前は火を付けたから変異したんじゃなかったのか? 本当に大丈夫なのか?」

「自分にもどうなるかなんて判りません! しかしやるからには、今度こそ灰になるまで焼き尽くします」

『燃焼範囲外に新たな筍現出‼︎ 直径1メートル以上、どんどん増えています! えっ? ……筍群、地中から離脱、地上を移動し始めました! その姿は……変態前の目標と酷似しています』

「なんてこった……」

『ぇ、ぁ……小型個体群、四方八方に散って行きます!』

「1匹も逃すなっ‼︎」

『あ、火が動いて…………もっ、目標が活動を再開! タケノコドンが動いていますっ‼︎』

 炎の中心部、大きな影が揺らめき地鳴りが響き渡る。激しい炎の音の中からズシン、ズシンと砲撃の物とは違う振動が地面から伝わって来る。そしてやがて炎の中から黒く炭化した巨体がゆっくりと抜け出した。パキパキと割れる様な音が響き、炭化した表皮が剥がれ落ち光沢の有る緑の内皮が露出するが、すぐ様新たな赤茶けた表皮が伸び全身を覆い始める。瞬く間に元の姿を取り戻したタケノコドンは、灼熱の炎も見に降りかかる砲弾も意に介さず歩み始めた。

「周辺一帯に火を掛け封じ込めろ! 何としてでもこの場から逃すな‼︎」

「正気か上條⁉︎」

『し、しかしっ、大規模な山林火災に発展する恐れが!』

「好都合だ。燃え続ければそれだけ駆除率も上がる」

「周辺区域に避難勧告も出しておらんのだぞっ⁉︎ 東北一帯を火の海にする気か⁉︎」

「このままアレが全国に散って増殖を続ければ国民生活は失われ、世界中からICBM大陸間弾道ミサイルが飛んできて焦土になりますよ‼︎ ここで食い止めねばこの国は死にます」

「うぅっ……」

 上條の気迫に圧され誰も言葉を口にする事が出来なかった。彼は覚悟を決めていた。誹りを受け裁かれようとも、身命を賭してこの災厄を終わらせなくてはならないと。その覚悟と現実を前に、打開案を出せない面々はただ沈黙を守る事しか出来なかったのだ。焦りと絶望感に支配されたその時、扉を開けてとある人物が現れる。

「その命令は撤回だ」

「総理⁉︎」

「何故でありますか……」

「まあ落ち着きなさい。さっきの君の意見は正しい。このままでは日本は滅びるかもしれない。だが……そうじゃないかもしれない」

「根拠の無い希望的観測を論じている余裕は有りません」

「否定はしないよ。だがね、僕は霊能者の見解も間違ってるとは思えないんだ。アレは今、本当に危険な存在なのか」

「そんな事、判りませんよ」

「そう、判らないんだ。上條君。君はもしかして、この状況は自分の所為だと自分を追い詰めてやしないかね?」

「…………」

「この件に関しては誰一人、一切合切理解る者は居やしないんだ。この対策会議でも結論を出せず終い。君の責任ではないのだよ? この前も言った通り、全ての責めを受けるのはこの僕だ。だから一旦肩の力を抜きなさい」

「しかし……」

「先程から米軍から圧力がかかってる。このまま戦闘行為を続ければ強制介入も有り得る。市街地に空爆や艦砲射撃が飛んで来る可能性も有るんだぞ。今はどうにか押さえているが、これ以上油を注ぐのはよし給え」

「……では……このまま怪獣が日本中に散らばるのを静観しろと?」

「不安な気持ちは皆同じだ。だがアレに危険性が無いと証明されれば、これ以上無意味な破壊行動は取らなくて済む。あんな綺麗な花を付けたんだ、希望を持ってみても良いんじゃないかな?」

「……毒の花だってありますよ。笠原総理……ヤケになってはおられませんか? 御自分が終わりだから日本毎道連れにするおつもりじゃ……」

「そこまで腐ってはおらんよ。最後は善い顔してたいだけさ」

「上空偵察機から入電! 小型個体は全方位に拡散。タケノコドン及び小型の三割は南東へ向け移動する模様。進路予測は……福島県、大……熊」

「まさか……原発を襲う気か⁉︎」

「本格的に日本を敵として認識したというのか……」

「総理、これでも手を出すなと?」

「あ~うん……まあ敵視してるとは限らないし……原発の場所なんて知る筈も無いでしょ?」

「核となった人間は知識を持っています。それにここまで攻撃されれば流石に……」

「あのぅ……宜しいですか?」

「何だ?」

「その敵対意思の有無に関してですが、現場から気になる報告が入ってまして」

「言ってみろ」

「熱攻撃は小型個体には効果有り。燃焼し続けると体が焼け落ち、完全に沈黙したのを確認。中まで炭化し衝撃を加えると崩壊したそうです。ですが、有効打を受けながらも敵は此方に反撃の意思を見せず無視し素通りしたとの事。大型目標も同様だそうです」

「敵意は見られないと?」

「現場の見解は一致してます」

「ふむ……上條君、判断は?」

「…………攻撃中止。消化班と消防に作業開始を要請。周辺地域の避難誘導を開始せよ。総理、東北地方に非常事態宣言をお願いします」

「分かった」


 今回の事件は直前にカメラが映していたのもあり、リアルタイムで世界に知れ渡った。続いて攻撃が加えられた事、怪獣の増殖と拡散、火災の消化も報じられたが、国内の不安は高まりの一途を辿った。一方――北野刑事は、本来の管轄に戻り署内のテレビでそのニュースを観ながら困惑の色を隠せずにいた。

(どういう事だ? 確かに怨霊は沈静化している筈なのに何故動く? 何か他の要素が内在している……落ち着け、最初から整理しよう。アレは、あの山に居た怨霊の集合体を核として龍穴と結合し実体化した存在だ。その結合の触媒となったのは霊力を持った少女の念が込められた短冊だった。短冊……願い……彼女は“皆の願いが叶う”よう願った。怨霊の望みである復讐を叶える為に行動し、結果それを達成し活動を停止した。怨霊にまだ他に未練が? ……いや、全ての念が絶たれ沈静化したのは皆で確認した。ではやはり他に意思を持たせる要因が。奴の行動原理は内包した願いを叶える事。願い……そうだ! あの時――「俺は怪獣が見たいって書いたぞ」――あの怪獣は少年の願いによって具現化したものだというのか⁉︎ という事はつまり――)

「……そういう事だったのか。この事件の鍵は全て、あそこに在る」

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