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それは、やっと訪れた、遅い春。
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「遼平、黒髪であれば何でも良いのか? いくらクロの毛皮が黒かったからって...」
怯えた目で此方を見上げた日本人は華奢で小さく、とても愛らしい顔つきをしていた。つい、締め上げた手を緩めてしまうくらいには。
黒髪に映える薄い茶色の目は庇護欲を掻き立てるが、今まで遼平が遊んできた百戦錬磨の美男美女達とは、明らかに毛色が違っている。
(まぁ、ちょっとは可愛かったが。遼平の遊び相手としては上手く立ち回ることも出来なさそうだし、逃げ帰ったなら覚悟がなかったと言うことだ。これで良かったんだろう)
一人で納得し頷いていると、遼平から地の底を這う獣のような、恐ろしく低い声がした。見れば、彼は部屋の出入り口に向かっている。
「ヴィクトー...。それ以上口を開けば、ツアーの写真撮影が出来なくなるくらいお前の顔を殴るが...良いか?」
遼平は、有り得ないほど壮絶に怒っていた。これまでの10年間、1度も見たことのない感情を削ぎ落とした表情なのに、口だけは笑っている。
(こわ....。あれ? 遼平って、遊び相手についてはいつもドライで、今まで、みんなワンナイトじゃなかったか? 関係が2回目まで続いたことは、なかった....ハズ)
「え? ちょっ、遼平? あ、あれ? もしかして.....」
「もしかしなくても、櫻は俺が初めて好きになった人だ」
(マジか!)
先ほど走って出て行った黒髪の彼...【サクラ】を、追うつもりなのだろう。話しながらも遼平の手は、ドアに掛かっていた。
「嘘だろ? 人間を好きになれたのかよ、お前」
言葉とは裏腹に、オレの声色は隠しきれない喜びに染まる。これは、他のメンバーにも情報共有して、祝ってやらねばなるまい。
「余計なお世話だ」
オレの思惑を感じ取ったのだろう。遼平は、先程までのブリザードのような雰囲気から一変、少しだけ皮肉に笑んで、部屋を出て行った。
「な~るほど。だからあんな曲が書けたのか....」
遼平が日本に着いた日に、オレたちInfinityの10周年ツアーのための記念曲が、メンバーそれぞれの携帯電話に送られてきた。それは10周年の集大成に相応しく、同時に胸を打つ感情の発露が節々に感じられる、素晴らしい曲だった。
(...サクラを想って、書いたんだな)
他人を愛したことのない友の、初めての恋。
一人残されたオレは、10年来の友にやってきた遅すぎる春の芽生えを喜びながらも、自分の言動で引っ掻き回した自覚はあるので、(どうか遼平の気持ちが通じますように)と、切実に願った。
怯えた目で此方を見上げた日本人は華奢で小さく、とても愛らしい顔つきをしていた。つい、締め上げた手を緩めてしまうくらいには。
黒髪に映える薄い茶色の目は庇護欲を掻き立てるが、今まで遼平が遊んできた百戦錬磨の美男美女達とは、明らかに毛色が違っている。
(まぁ、ちょっとは可愛かったが。遼平の遊び相手としては上手く立ち回ることも出来なさそうだし、逃げ帰ったなら覚悟がなかったと言うことだ。これで良かったんだろう)
一人で納得し頷いていると、遼平から地の底を這う獣のような、恐ろしく低い声がした。見れば、彼は部屋の出入り口に向かっている。
「ヴィクトー...。それ以上口を開けば、ツアーの写真撮影が出来なくなるくらいお前の顔を殴るが...良いか?」
遼平は、有り得ないほど壮絶に怒っていた。これまでの10年間、1度も見たことのない感情を削ぎ落とした表情なのに、口だけは笑っている。
(こわ....。あれ? 遼平って、遊び相手についてはいつもドライで、今まで、みんなワンナイトじゃなかったか? 関係が2回目まで続いたことは、なかった....ハズ)
「え? ちょっ、遼平? あ、あれ? もしかして.....」
「もしかしなくても、櫻は俺が初めて好きになった人だ」
(マジか!)
先ほど走って出て行った黒髪の彼...【サクラ】を、追うつもりなのだろう。話しながらも遼平の手は、ドアに掛かっていた。
「嘘だろ? 人間を好きになれたのかよ、お前」
言葉とは裏腹に、オレの声色は隠しきれない喜びに染まる。これは、他のメンバーにも情報共有して、祝ってやらねばなるまい。
「余計なお世話だ」
オレの思惑を感じ取ったのだろう。遼平は、先程までのブリザードのような雰囲気から一変、少しだけ皮肉に笑んで、部屋を出て行った。
「な~るほど。だからあんな曲が書けたのか....」
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